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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第四章:中年三日通わざれば腹肉も増える

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303/1224

303:グレイウルフのドロップ検証(後編)

評価・ブックマークありがとうございます。励みになってます。

 

「あれ? 出ませんでしたよ? 一撃で倒さないと出ないとかですかね? 」


 田中君が不思議がっている。確かに今の流れは出る流れだったな。次を探しながら考えられる事をとりあえず口に出してみる。


「多分だけど、スライムのドロップ確定と同じ現象が起きてるんじゃないかな。スライムも食事に夢中になってる間に倒さないとドロップが確定しないだろ? さっきの一撃目でグレイウルフは食事モードから戦闘モードに移行したんだと思う。だからウルフ肉は出なかった。そんなところじゃないかな」

「なるほど、口にくわえてたらOKという訳でもないという事が今解りかけていると。どのくらいまでが食事中と判断されるかの閾値を確かめたいんですね。で、他にどんな実験をやる予定なんですか? 」


 理解が早くて助かる。やることは骨自体の耐久試験とグレイウルフの意識の閾値だ。


「この骨一本でどのくらいまでグレイウルフの肉を回収できるかを確認したい。たとえば百回目で骨が折れたとか、折れた時に骨は折れてしまっても効果があるのかとか」

「じゃあ今から数を数えたほうが良さそうですね。とりあえず今ので一、ですかね」

「いや、二十七だな。二十六回ほど既に試してはいる」

「じゃあ残り何回試せるか実験ですね。どうします? 二人で一人が観察しながら実験してもう一人が観察・計測する事にします? 」


 どうしようかな。骨はまだあるんだからそれぞれで実験したほうが稼ぎも効率的に行えるはずだ。ここは分かれて行動しよう。二人でダラダラやってると途中で俺が飽きてしまう可能性だってある。


「いや、分かれてやろう。田中君はそのまま何回まで使用できるか回数だけ数えててほしい。とりあえず一撃で倒せば出るらしいことは今ので解ったからね。それに一発で倒せないならそもそもこのドロップ率向上以前に確実に一撃で倒せる手段を講じるほうが大事だと思うし。本当に一撃で必ず出るかどうかもついでに確かめておいて欲しい」

「それもそうですね。これ一本いくらするか解りませんがあんまり回数持たないようでは使って肉を集める意味もそんなにないでしょうから」

「これが出来るようになれば田中君的にもうま味はあるだろ? だからちょうどいいタイミングで適任が来たって言ったのよ」

「なるほど。確かに僕以上の適任はここには居ませんね。なんせそれが仕事ですから。僕の仕事の為にもお肉の為にもこれは頑張らせてもらいます。とりあえず一時間後に二層の三層側の階段で合流で良いですか? 進捗を確かめるためにも必要でしょうし」

「では、そういうことで。耐久試験よろしく」

「解りました。頑張って長持ちさせてみます」


 田中君と別れ、俺はもう一本の骨を取り出すと閾値について調べ始めることにした。見当はついている、グレイウルフの目だ。奴が骨に夢中になっている時、奴の目はとろんとして骨に骨抜きになっている。いわゆるパッシブモードだ。


 何処までダメージを加えたらアクティブモンスターに戻るか。目つきがアクティブ状態に戻った後、もう一度骨を与えて再びパッシブ状態に戻るかどうか。無理やり口に突っ込んだらその際に変化はするのか。その辺の際どいところを攻めていこう。


 早速二層をウロチョロし始める。普段人の多いところでは狩りをしないので人とすれ違う可能性は結構高い。エンカウントは少なめだろうと思うが、グレイウルフ以外に興味は無いので……いや、三層でゴブリンを紛れ込ませながらグレイウルフを狩るほうが効率良いのか? その辺はこの階層を巡っている人のほうがきっと詳しいだろう。


 最近一層と四層でしかまともな探索をしないため二層三層についての最新情報が不足している。この際情報を仕入れておくのも悪くないだろう。


 三分ほどうろついてグレイウルフ二匹と出会った。とりあえず、さっと近づいて無理やり口に骨を突っ込んでみる。反応は……変化なしか。一匹だけで判断するのはまだ早計だが、どうも口に無理やり突っ込むだけでは変化はないようだ。


 やはり転がして反応を見るべきか。グレイウルフの目を見つめ続ける。その間骨をガジガジしているが、目つきに変化はないようだ。これはダメだな。ササっと首を落としてしまう。ドロップは無かった。もう一匹のグレイウルフにも無理やり骨を突っ込ませてみるが反応に変化なし。これも首を落として倒す。肉がドロップされたがこれは確定の肉では無さそうだな。


 とりあえず、無理やり口に突っ込んでもダメ、という仮説を立てておこう。次のグレイウルフに出会ったら骨を転がして反応を見よう。また五分ほど歩く。グレイウルフ三匹が出た。三匹に囲まれたところで受けるダメージはもはやないに等しい。足にかじりつくグレイウルフを放置し落ち着いて骨を転がすと、一番近くにいたグレイウルフは骨に向かって一直線に走り込み、骨を咥える。


 目元を見るとなんだが穏やかな目をしている、これは食事モードに入ったな。横に素早く駆け寄り首を落とす。ウルフ肉が落ちた。やはり無理やり口に突っ込むのではヘイト管理がうまくいかないのだろう。毎回骨を転がすのは手間だが、ウルフ肉確定という部分については確実性が増す。


 グレイウルフの期待値は確か百二十五円だった。ウルフ肉が必ず落ちるという事は二百五十円確定で三百円ほどの期待値になる。グレイウルフを探して彷徨い続けて一喜一憂するよりは確実に収入を得られる。これはこれで探索にも稼ぎにも改革というまでは行かないが随分と稼げるようになるのではないか。


 一分一匹狩れたとしても一万八千円。八時間お仕事して十四万四千円。二層で稼ぐについては破格の収入になるな。ただ問題はスケルトンの骨の入手だ。無理をしてDランクが取りに行かないように注意しなければならないぐらいか。これでまたスケルトンの骨の価値が一つ上がるな。さて、骨の耐久試験も兼ねて使った回数をカウントしていこう。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 骨を放り投げてはグレイウルフに噛みつかせ、横に回ってグッと頭を抑えて首を刎ねる。一撃で倒せるなら確実にグレイウルフからウルフ肉を手に入れられる。毎回ドロップが増えていくというのは精神的にも懐が温まる。


 骨が出回るようになればみんな骨を片手に二層を巡るようになるだろう。スライムドロップと兼ねてやれば相当の収入になるだろうな。


 コロッ、ガブッ、グッ、スパッ。 コロッ、ガブッ、グッ、スパッ。


 グレイウルフは二匹か三匹連れでリポップしやすいのでその個数分ウルフ肉を稼いでいく。田中君と離れたコンビ狩りをしているのでウルフ肉は背中のバッグに放り込んでいく事になる。多少の重さは覚悟の上だ。今のところ重さが気になるほどの量ではないが、一時間でどのくらいの収入を得ることが出来るかはちょっと計測してみたい。


 骨を使う回数は五十回を超えて来た。まだまだ骨はボロボロになる気配を見せない。結構持つな。五十回という事は一万五千円ぐらいの稼ぎは出た。これで黒字にはなっているな。どんどん行こう。


 暫くウルフとじゃれついたところでそろそろ一時間経つだろうという頃になった。階段のほうへ歩きつつ、道中のグレイウルフを狩り続けていく。階段にたどり着くまでにさらに五匹ほどグレイウルフを処理していく。この一時間で六十匹ほどという理想的な狩りを行うことが出来た。


 階段へたどり着くと田中君は既に待っていて休憩をしていた。


「あ、お帰りなさい安村さん。とりあえず今のところ骨は無事みたいです。結構硬いですねこれ」

「つまり、骨一本で何時もより余計にウルフ肉と魔結晶を稼げる分効果はあるみたいだね」

「とりあえずカウントしてましたが八十回ほど噛みつかせても骨のほうにまだダメージは無い感じですね」

「なるほど。つまりこの狩り方は儲かる狩り方って事だな。魔結晶のドロップも含めればかなりの収入……と言っても二層にしてはと但し書きが付くが、みんなが稼げるようになるって事だな」

「後はどうやって骨を供給してもらうかですね。さすがに大量に持ち帰ることは難しいんでしょう?」

「まぁ、見ての通り嵩張るドロップだからね。一回潜って五本取れれば御の字じゃないかな」


 実際のドロップ率は五パーセントぐらいだという体感だ。意外とドロップしにくい。それに建材としても需要があるので買い取って供給するにしても難しいだろう。


「つまり、偶然見つけたわりに自分自身で使うにはちょっと収入面で少なすぎるからどうしようか悩んでる感じですか? 」

「そうだねぇ……十三層まで潜り込めるなら二層で一時間狩るより何倍か多く稼げるからね。ただ、せっかく見つけた法則をそのまま黙っておくというのももったいない……という事で田中君に相談したわけなんだが」

「もしよければこの骨、買い取らせてください。ウルフ肉の需要が最近増えているんです。ボア肉に比べて収入は少ないとは思いますが、七層まで行って戻って来るよりも二層で狩りしてるほうが移動時間が短い分集中して狩りに没頭できますし、悪くない収入にはなりそうなんですよね」


 ふむ……田中君にいくらで売りつけようかな。ギルド買い取り価格の一万円でも充分だ。むしろ検証を手伝ってくれたお礼にこの一本は安く譲って見ても良い。そのまま使い続けて何時になったら壊れるかも勝手に調べてくれるだろう。悪くない取引になると思う。


「その骨、使いかけだし五千円ぐらいで買い取らない?ギルド買い取りより安いのは検証手伝ってくれたお礼という事で」

「良いんですか? 骨を定期的に取ってこれるならそれも収入源として十分なものになると思いますよ? 」

「あんまりそっちで儲けようとは思ってないんだよね。他にやりたいことが今はあるし、こっちは……探索の箸休めみたいなものかな」


 素材の別口売りという点ではダーククロウの羽根だけで十分だ。販路というにはちまちまとしすぎているし、そっちの需要ばかり増えても困る。


「しかし、良く気付きましたね。まずドロップ品を食わせてみるという考えにたどり着きませんよ普通」

「いやぁ、犬と言えば骨だなーって。試しに転がしてみたらアクティブモンスターのはずのグレイウルフが俺そっちのけで骨に集中し始めたから楽しそうだなーと思ってズバッと斬ったら出たのよ」

「その発想はどうかと思いますがとにかくそれで気づいた訳ですね」


 何故か田中君が若干引き気味にこっちをみている。何故なんだろう。


「そういえば肉が落ちるための大事な要素だけど、グレイウルフの目が大事なことが分かったよ」

「目ですか。そういえば骨を咥えてる間は優しい目をしているような気がしましたが、その状態に陥っていると食事中という判定になるって事ですか」

「多分。スライムと違って解りやす……くはないが判別する点が目で追えるのは良い事だな。調べた限りではこんな感じだろう」

「これ、もっと多くの人に広めるんですか? みんな骨を片手にうろつくようになるかもしれませんが」


 確かに、黙っておくのはもったいない狩り方ではある。出来るだけ多くの人に広めるほうが探索者のためになる。しかし、そのために教えて回るというのも何か違う気がする。


「黙っててやってていいんじゃないかな。聞かれたら答えるって感じで。骨だって入手しようとしてもそうそう入手できる代物でもないし、特にここでは」

「なるほど……じゃあこの骨は有り難く買わせてもらいます。むしろ、一本一万円で二本買わせてください。折れた時の予備としてほしいです」

「田中君がそれでいいならそれで。ただ、骨の入手先が俺だという事は伏せておいて欲しい。骨の商売をするつもりは無いのでそれで本業がおろそかになるのは避けたい」


 骨はもう三本ある。気が向いてグレイウルフ狩りをやりたくなるような事になっても三人分は確保できているという事だ。ウルフ肉が大量に必要になるような事はまず無いとは思うが、そんな事も有るかもしれないので持っている事は黙っておこう。


「じゃあ僕ギリギリまでこの骨ウルフという儀式を楽しんでから帰る事にします。時間まで狩ってればバッグも良い感じに膨れ上がると思うんで」

「俺は今日は帰ろうかな……俺が取った分のウルフ肉、要る? ギルド価格で卸すけど」

「それは助かります。とりあえずウルフ肉は魔結晶と一対一で交換して、残りは現金で良いですか? 」

「ボア肉も結構あるからそれももってくといい。七層まで行く手間が省けたろ」


 田中君との交渉も成立した。俺の荷物が軽くなる。俺の手持ちはグレイウルフの魔結晶が三十個に現金四万円ほどとなった。一日の稼ぎとしては相当少ない。だが、メインイベントたるウルフ肉のドロップ確定作業は消化したので十分だろう。


「……思ったより量ありますね。もしかして、七層往復してここまで帰ってきてます? 」

「そういうこと。今日は昼食キャンプを楽しんで帰って来たってとこかな」

「エンジョイしてますね。じゃ僕はここでもう一稼ぎしていきますよ」

「あぁ、じゃあまたダンジョンで、ご安全に」



作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言]  潮干狩りならぬ首刈りの安村……。
[良い点] 【ほねっこ】オオカミ、イヌになる【た〜べ〜て〜】 そのうち躾や芸を仕込んだりw
[一言] この調子でウルフ肉集めるなら 出入り口の荷台の存在も教えてあげた方がよいのでは? 嵩張るわりに値段はそこまで高くないみたいだし 買い取りカウンターまで頻繁に往復するなら あったほうが楽でしょ…
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