302:グレイウルフのドロップ検証(中編)
コーヒーを淹れて一息つく。午前中はしっかりと運動をした。パックライスを喰うのは確定として、付け合わせに何を食べようかな。ボア肉は一応さっきも拾ったが、大量に拾ったウルフ肉を素焼きにしてごまだれと和えるので十分美味しい気がする。それでいこう。
まず肉を焼く。脂が少しだけ出るが、脂は今日はそんなに要らない、肉だけあればいいや。染み出た脂はパックライスに吸わせよう。ステータスブーストを使っていれば熱さにも多少耐性がつくらしい。以前新浜さんが飯を作る時にやっていたが、多少袖をまくって本当に熱くないのかどうか試してみる。
……熱いというより暖かいな、ぬるま湯が当たっている程度の感覚しかない。感覚がマヒしてるのか本当にぬるま湯程度に体が反応しているかは解らないが、熱くは無いぞ。現実で使えたらさぞ揚げ物が楽になるだろうに。ダンジョンで揚げ物というのも……いや、油の処理が大変だからな。そこまで食に執着心があるわけでもないから無しだな。
ボアカツか……今度気が向いたら作ろうっと。今日はウルフ肉のごまだれ和えとパックライスだ。しっかり火が通ったことを確認するとスキレットから上げて皿に盛る。その後少量の水を足してパックライスを温める。
パックライスが程よく温まり、米も水を吸い、ふっくらしてきたところでパックに戻し、もう一度肉を加熱して温める。パックライスを作る間に冷めてしまったからな。二度焼きして少し焦げ目をつけておこう。さぁ、できあがりだ。今日は普段に比べれば質素な食事だが、腹は膨れるし今日はおやつもある。
頂きます。ウルフ肉をまず何も付けずにそのまま食べる。淡白な肉の味わいが口に広がる。これはこれで素朴な感じがして悪くない。続いてごまだれを取り出すとウルフ肉にかける。そしてごまだれでウルフ肉を頂く。うん、油が少ないまま焼いてごまだれで和えたので割としゃぶしゃぶに近い感覚だ。
ウルフしゃぶもいいな……しゃぶしゃぶならここでもできない事は無いか。水が勿体なく感じるが、俺の場合は水道水をペットボトルに入れてくればいいだけなので奇異の目線で見られることを除けばここでしゃぶしゃぶというのも面白そうではある。
ウルフ肉のごまだれ、いい。シンプルでさっぱりとしたウルフ肉にとてもあう。休憩して帰るだけのこの七層で味わうにはちょうどいい。時間も手間もかからず食欲も満足できる。足りなかったらもう一つ焼こう。今日から暫くはウルフ肉には困らないだろうからな。
結局もう一パック開けてしまった。充分腹が満ちたところでおやつのチョコレートを口に含む。なんだか遠足に来た気分だ、心がウキウキする。こういうのも悪くない。ゆっくりした気分が周りを流れている気がする。
二粒ほど食べたところで片付け開始だ。スキレットを食パンで掃除したあと焼き目をつけてサクサクといただいて、食事終了。食後にもう一杯コーヒーを飲むか。そのまま仮眠したいような気分だが、今日の予定をこなさないといけないから休憩だけだ、しっかり今の内に体を休めよう。
今日は骨が折れるまで……もちろん俺のじゃない、どこかのスケルトンのだ。いや折れても効果があるかどうかまで試したい。二人でやれば手早く回数をこなせるとは思うんだが、今日は一人で来てしまったからな。仕方なく一人で回すことにしよう。
食事含め三十分ほどの休憩をして、六層に戻る準備をする。と言っても特に広げたものは無いので三分ほどで撤収準備は終わった。午後一時手前という所。六層から三層まで抜けて帰って二時間。三時半ってとこだ。そこから二時間ひたすらグレイウルフを相手にする。
おそらく誰も居ないであろう七層を後にする。田中君でも居たら一緒に検証をすることで手間が省けるんだがどうやら彼すら留守らしい。多分地上に用事があるなり風呂に入るなりしてまた帰ってくるんだろう、タイミングが悪いな。
いや、でもここから田中君を連れて行くとなると帰りの茂君のドロップが拾えなくなるからそれはもったいないな。居なくてよかった田中君。
再び自転車に乗り六層へ戻る。ここから先は修羅の道。目に入るモンスターは全て叩き切って雷で焼いてすべてのドロップを懐に納めていく。
六層のリポップはもう終えていた。また大量のワイルドボアとダーククロウが俺を待ち受けているだろう。歩くだけよりも帰りの荷物が増えることは純粋に嬉しい。
ワイルドボアとのハグ会を二回ササっと終わらせ、茂君に来た。行き程は茂っていないものの、狩るには十分値する茂り具合だ。こっちもササっと終わらせてドロップを拾う。
再びハグ会をして、一本目の木の処理を終えてまたハグ会。最近は俺も人気者だな。そんなにハグをしたがるなんてワイルドボアは人肌のぬくもりに飢えているのだろうか。
五層に来た。六層から生息数を抜いただけのような相変わらずの寂しいマップだ。木の間は走って抜けよう、休憩した分体力は回復したからな。その辺にいたワイルドボア三匹を普通に狩り取ると木までマラソン。ダーククロウを見かけたらきっちり落とし、羽根を余すことなく拾っていく。
どうしようもないのだが、ボア革が溜まっていく。五層六層往復でおよそ百匹のワイルドボアと戦う計算になる。ボア革は大体一割ぐらいの確率でドロップするので八枚から十枚のドロップが出てしまう。一枚当たりの買い取り額がそこそこなので、無下に扱う事も出来なければ嵩があるのでアリバイ作りの都合上、保管庫に入れる事も出来ない。歯がゆい。
五層を走り終えると四層だ。いつもなら一パーティーか二パーティーが真剣にソードゴブリンと戦い合っている時間帯だろう。もしくは階段で飯兼休憩でも取っているのかもしれない。とりあえず今日の狩場はここじゃない、三層まで一気に駆け抜けよう。道中のゴブリン達を肩ポン爆破しつつ、ヒールポーションもしっかり拾いながら行く。
道中人と会った。頭を下げ合いながらすれ違う。このまま五層か六層へ行くのかな。すまん、さっき通る時に狩り尽くしてしまったよ。沸いてなかったらゴメンね。
人とすれ違ったおかげでこの先は暫くモンスターは居ないだろう。楽に移動が出来ていい事だ。ペースをさらに上げる。おそらく最短ペースで四層を歩き切った。三層に上がった階段のところで人とまた会う。
「あれ、安村さんじゃないですか。もうお帰りですか? 」
田中君だった。グッドタイミングでベストピープルと出会えたぞ。
「見つけた! 適任! 」
「え、え、何すか? 突然人の顔を見るなり」
突然指さし確認をされた田中君は軽めのパニックを起こしている。そりゃそうだろう、まだ何も説明もしてないんだから。
「田中君、肉に興味ない? ちょっと実験したいことあるんだけどさ、付き合ってくれない? お礼は肉で払うから」
「は、はぁ。実験ですか? お肉の量によりますけどなんか試すことがあって手伝えることがあるなら安村さんにお願いされると断りにくいですね」
「よし、早速やろう。やるのは二層と三層ね」
「ってことはウルフ狩りですか。……ウルフ肉のドロップ率を向上させられる手段でも見つけたんですか? 」
「それを今から確かめに行くんだよ。さぁ、まずはこれをもって」
バッグから出したふりをしつつスケルトンの骨を見せる。
「骨ですね。これもモンスタードロップですか? 」
「十三層以降で出るスケルトンのレアドロップだ。まずはそれを持ってグレイウルフが出てくるまで歩こうか」
「解りました。そうですか、Cランクのドロップ物は初めて手にしますが……これ結構硬そうですね。ん、骨? もしかして、グレイウルフに餌付けでもしようと考えてます? 」
そこまで解ってくれたなら後はもう説明しなくていいだろう。
「とりあえずグレイウルフを見つけたらお互いやる事を言おう。お供のゴブリンが居たら真っ先に倒して、グレイウルフは後回しにしようね」
「わかりました、善処してみます」
二人で二層へ向かって歩く。ゴブリンという邪魔が出ない分グレイウルフだけを相手に出来る二層のほうが検証場所としては向いているが人がちょっとだけ多いのがネックだ。階層を独占して実験という訳には行かないからな。
しばらく歩くと、ゴブリン一匹がグレイウルフ二匹を散歩させている。真っ先に雷撃でゴブリンを焼きゴブリンにすると、グレイウルフだけが相手になる。
「とりあえず、グレイウルフの前に転がしてみて」
「はい、やってみます……食いつきましたよ」
「今だ、骨に夢中になっている間に倒してみて、出来れば一撃で」
「解りました……よっと」
グレイウルフは骨に夢中で田中君が横に回っている事に気づいていない様子。横から田中君が一発で首を落とすと、グレイウルフは魔結晶と肉を残して黒い粒子に還った。
「でましたね、肉……ってなにやってるんですか安村さん」
「え、いや。そっちに夢中になれるようにもう一匹にキャメルクラッチかけてるだけだけど」
「グレイウルフ相手にキャメルクラッチかけてる人初めて見ましたよ。で、そっちもやるんですか? 」
「そうそう、こっちもほら、口元に咥えさせてみて」
田中君が恐る恐る口元に骨を持っていく。すると骨に目が行ったのか、グレイウルフの俺への怒りに満ちた目が優しくなり、骨に夢中になり始める。俺はキャメルクラッチを解いた。グレイウルフは骨にかぶりつき、楽しそうにガジガジと噛み始める。俺より骨のほうが好きなのか……
「次、試しに二撃で倒せるようにしてみてくれない? 」
「なかなか難しい事を言いますね。でもやってみます」
田中君は急所を外して尻の当たりに一撃を加える。すると驚いたグレイウルフは骨を咥えたまま田中君のほうへ向きなおした。怒りで唸ってはいるものの、その口から骨を離そうとはしないようだ。田中君は落ち着いた調子でそのままグレイウルフに近づくと今度こそトドメの一撃を加える。グレイウルフは黒い粒子に還り、そしてドロップを……落とさなかった。
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