300:蒸しミルフィーユオーク
三百話ですってよ奥さん
家に帰ると昼食を食べるにはいい時間になっていた。さて、今日のお昼はどうするかな。なんでも食えるしなんでも飲める。いや酒以外はだが。酒が飲めない体質のおかげで外食するにも車でささっといけるのは飲めなくてよかったと思える点はあるかもしれない。その分胃袋を食欲に回せるしな。
さて……何か食べたいとは思うが特にこれと言って思い浮かばないな。そういう時は何らかの料理のレシピを研究するか、それともレトルトで済ませてしまうか、だ。
カレーはこの間作ったからな。だとするとシチュー……いやカレー粉の有無しか変わらないだろ。ビーフシチューも同じだな。だとすると……趣向を変えよう。ルー系の煮込みは外す。
そして急激に狭まっていく俺の料理レパートリー。なんかもうちょっと作れたはずなんだが。せっかくへそくりの肉が有るんだし、肉を生かした料理を作ってみよう。ステーキは安直すぎるので却下だな。揚げ物、焼き物、蒸し物……蒸し物と言えば、オーク肉蒸したらどうなるんだろう? 適度に脂が抜けてどんなものが残るのか、気になるといえば気になる。
確か鍋用の蒸し器が……あった、まだ残ってた。これを利用できるな。蒸し物の良いところは水が尽きない限り焦げない。蒸しすぎてボソボソになって美味しくなくなってしまうという事はあるが、火事になる心配は少ない。そこは安心できる。オーク肉の蒸しものか、やってみるのもいいな。
そうなると付け合わせの野菜を考えないとな。もやしとキャベツはある。人参も……あるな、後はじゃがいもとかカボチャとかブロッコリーが欲しいな。ちょっと買ってくるか。凝っているとまでは行かないが、俺の中で高級っぽい蒸し料理を堪能するのも良いだろう。
お、思いついたぞ。オーク肉を薄切りにしてキャベツで挟んでミルフィーユ状にして積み上げたものを蒸す。油がキャベツに移るし程よく油が抜けていくだろうし、野菜の蒸しものの後に残った湯と麺つゆがあればうどんも食える。この路線で行ってみよう。
まずうどん、そしてブロッコリー・カボチャ・それから……ごまだれは冷蔵庫の中で賞味期限が切れていた。これも新しいのを買おう。そうと決まれば買い出しだ、いつものスーパーへ……昨日も来たが今日は明確に買いたいものだけを買って帰るぞ。ごまだれ、野菜、以上だ。レジ横に並んでいるお菓子は……そういえばダンジョンに潜ってお菓子を食べるという実績はまだ解除してないな。
歯にくっついたりしない物……チョコレートとか飴とかか。塩飴は入れておいて良いな。チョコレートの甘めの奴も入れておこう。そういう余裕を入れていっても良い気がしてきた。ダンジョンはいわば極地。七層のビールなんかと一緒で嗜好品をここで味わうことが出来るかどうかはメンタル的に大事なんじゃないかな。
俺もそういう気が回せるようになって来たって事か。よし、小袋のパックを適当に二つ三つ入れておくか。ついでの買い物も終えて早速家に帰る。買い忘れがあったとしてもそれは今度にしよう。とにかく飯を作って喰う。それに全集中することにしよう。
早速昼食の準備だ。まず鍋に湯を沸かす。蒸し器は事前に濡らしておく。その後で適当な大きさに野菜を切っては耐熱皿に乗せ蒸し器に入れていく。キャベツは切らずに葉のまま使う。オーク肉を薄切りにし、キャベツの葉とオーク肉を同じぐらいの大きさに切ると、何重かに重ねていく。メイン食材はこれだ。あまり重ねすぎると蒸し器に入らなくなるから適度なところで止めよう。
かぼちゃを薄切りにしてじゃがいもは芽を取って適度な大きさに、ニンジンの皮をむき輪切りにして並べる。ブロッコリーは洗った後一口サイズに割る。具材を入れ終わると、鍋に沸かした湯の中へ蒸し器をそっと乗せ、後は蒸し上がるのを待つ。
待っている間にパックライスをレンチンして、ごまだれを開けて待つ。やがて若干いい匂いが漂い始めた。甘い油の香りだ。多分オーク肉が蒸されつつあるのだろう。蒸された脂が鍋に滴り落ち、加熱されて蒸発しそしてまた野菜全体に脂の香りをつけながら鍋の外に漏れている。
この辺でブロッコリーは鍋からあげてしまおう。一旦蒸し器のふたを開けぶわっと湯気が広がる。箸を突き刺してみると、ブロッコリーは完全に柔らかくなっている。これでいいだろう。残りの具の様子も確認する。あと五分ほどでいいかな。
早速出来立てのブロッコリーにごまだれをかけて頂くことにする。フニフニのふにゃふにゃだ。形が崩れる前に引き上げたので見た目も栄養も失われる前に食べることが出来る。
これならブロッコリーがあまり好きでもない俺でも食える。うん、いける、いけるぞ。独特の臭みもオーク肉の脂の香りが移ったことで困難を乗り越えてくれる。というかごまだれのおかげだ。ごまだれは宇宙、生命、すべての答えだ。
ブロッコリーを喰い終えるとまた少し待つ。前菜としてはちょうど良い感じだったな。米を少しずつ胃袋に詰めながら次を待つ。そろそろかな。
また蒸し器を開け、食材の出来具合を確認する。人参やカボチャに箸を差し込んで、きちんと中まで蒸されて柔らかくなっているかを確認する。全部良いな。キャベツをめくり、オーク肉の出来上がり具合いを確認。よし、ちゃんと火が、いや熱が通っている。生でもいける肉だからキャベツが柔らかくなっていればそれでいいんだが、やはり肉もきちんといただきたい。
蒸し器を火から下し、水を見るとオーク肉から出たらしい油が油膜を張っている。おそらくこの水には野菜の旨味とかも落とし込まれているはずだ。うどんを茹でる湯に使いまわすことでSDGsにも貢献していくぞ。
うどんをササっとくぐらせて温めると、茹でた湯も使いまわしてそのまま麺つゆで割る。これで素うどんの完成だ。なんなら今蒸した野菜をうどんに漬けても良い。さぁ、今日の昼飯を楽しもう。洗い物は食事が終わってからだ。冷める前にいただこう。
ニンジンをまず食べる。茹でるよりも味が濃く甘い。素材の味を引き出すことに成功したな。米もうどんも進む。カボチャを一欠片うどん汁にくぐらせて啜る様にして食う。うん、うまい。
事前に下味をつけたら染み込んでもっとうまくなったかもしれないな。次に活かそう。蒸し上がったじゃがいもにバターを垂らしじゃがバターにして食べる。ほくほく、うまうま。やはりじゃがバターはいい。レンジで手軽にやってしまうがこうやって一手間かけてやるのも悪くない。
さて、メインディッシュのキャベツとオーク肉のミルフィーユにかかろうと思う。まずはごまだれを使わずにそのまま頂く。しっかり蒸されているおかげで柔らかくほぐれていく。押して口に入れるとキャベツの甘味とオーク肉の脂の甘い香りが鼻腔をくすぐり、柔らかくなって歯ごたえを感じない。ふわっとした感触だ。
これはオーク肉の新しい喰い方として考えておこう。オーク肉はしゃぶしゃぶでもいけそうだな。高級豚肉のしゃぶしゃぶ。かんがえるだけで目の前のオーク肉も更に美味くなる。しかし後に残る脂の掃除が問題だな。
あっという間に全品平らげてしまった。一人分としてはちょうどいい量だった。また気が向いたらやろう。さぁ片づけだ。オーク肉の脂が蒸し器全体にまとわりついているおかげで少々洗い物が手間だったが、これもまた美味しい料理を食べるために必要な工程と言えよう。お腹も心も幸せのまま後片付けを終わらせる。ごまだれは保管庫に常備しておこう。これは七層でも充分使いまわせる調味料だ。
うどんが少し残ってしまったが、冷蔵庫に入れて冷ましておこう。保管庫に入れておいても良いが、汁を吸って伸びたうどんも中々美味いと俺は思っている。ここはしっかりと汁を吸わせておくべきだろう。なんなら後でウルフ肉を軽く焼いて肉うどんにするのも良い。夕飯も決まった。
さて、後片付けも終わったところで暇な時間が出来た。何をするにも自由だ。夕食は用意されているのでその間に何をするかな……
豪華な昼食を終えた後は調べものだ。何を調べるか……早速Cランク以上がアクセスできるサーバーにアクセスし、他のダンジョンの十四層の構造について知識をつけておこう。
十四層は十三層に比べると簡単な構造になっているらしい。必ずという訳ではないが、ちょっとした広場が存在し、探索者のテントはそこに集まっているらしい。人によっては面倒くさいので階段すぐにテントを立てたりしたりするらしいのだが、邪魔だという事でどけられる事も有るようだ。
地図があれば広場までアクセスするのは容易だろう。ただ、小西ダンジョンの十四層はどうなっているか解らない。とりあえず広間を探してそこにテントを張り、その後で二人で別れて階段を探す、というほうが効率的だろう。モンスターが出ないので十四層の地図は十五層への階段を探すだけでも十分だと思う。次回はそういう路線で行くか。
十六層の情報もついでに調べておこう。最近攻略のペースが速い。なんで俺が小西ダンジョンをどんどん攻略していっているのか自分でもよくわからないが、鬼殺しの称号を得るためにはやはり十分な強さを手に入れてから余裕のある状態で挑みたい。
死ぬか生きるかギリギリの状態で戦うというのは危険が危ない。余裕を持って戦うにはどのくらいの戦闘力が必要になるかは解らないが、十六層を軽々と突破できるようになればきっとそれなりの強さにさらに磨きをかけることが出来るだろう。ただ、骨ネクロダッシュは勘弁願いたいところだが。
いまのところ十三層で戦う事に大きな問題は無い。しかし、十六層にはスケルトンアーチャーというものが出てくるらしい。遠距離攻撃を仕掛けてくるのは苦手だな。おそらくこいつも心臓の辺りに核があってそいつを破壊しないと倒せないんだろう。如何にして近寄っていくかがポイントだな。スケルトンアーチャー……骨弓と骨ネクロが同時に出てきたらどっちを優先するかは考えどころだろうな。
何にせよまずは十三層の地図の完成と十四層の探索だ。十四層へたどり着きさえすればいつでも休むことが出来る。疲れに関してはある程度無視できるな。ゆったりと巡ることが出来そうだ。方眼紙の在庫はある。十四層のテントのところに置いておくノートとペンは七層から一冊拝借していけばいいだろう。
七層ほどやり取りがあるとは思えないし、どうせ最初に書くことは「安村一番乗り」ぐらいの事だろうからな。あまり深く考えなくても良いだろう。ただ有ると無いとでは探索者間の情報共有に関わってくるので机と一緒にテントの前に出しておくのは大事なところだ。
そういえば文月さんはテントどうするんだろう? もう一個同じテントを買い足しておけばいいのかな。確認しておけばよかった。最悪同じテントで寝ることになるが、テント内で脱ぎだしたりはしないだろう。あそこ寒いし。
調べ物をしてる内に夕食の時間になった。さっき食べずに残しておいた素うどんにウルフ肉を足して食べる。昼食に比べて寂しい夕食だが、味に自信はある。ズルズルとうどんを食べ終えると、今日はもう寝てしまおう。
よし、明日もダンジョンだ。何層まで潜ろうかな。九層までならソロで潜れることは解っている。だがウルフ肉のドロップ確定を確かめたい。七層で昼食にしてそのまま上がって茂君二回のウルフ肉祭り。これだ。そう決めたら早めに寝て体力を回復させよう。今日も快眠が俺を待っている。さぁダーククロウの布団と枕で寝て極上の気分を味わおう。
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