298:キャンプ用品と天丼
無事家にたどり着き、少し休憩する。時間は午後五時。これは夕食も一緒に買い物に行く流れだな。何喰おうかな。いま横になると確実に仮眠に入ってしまうのでその前に必要な物は先に買い出しに行ってしまおう。時間的にレジが混む事になるが致し方あるまい。
今日は仮眠以外休憩を取っていないのでお疲れ度は普段より高い。昨日の朝十時半から二十四時間以上ダンジョン潜ってそのまま食事、買い物とはしごしたので実質仮眠以外休憩を取っていない。ここでちょっと仮眠しておくべきか? とも思うが、疲労困憊で倒れそう、というほどでもない。
車の運転ぐらいなら大丈夫だろう……いや、そういう時こそ事故を起こす可能性があるからな。ここは一時間キッチリ仮眠をとって、それから行動に移そう。そのほうが色々と健康にも良いはずだ。今布団に入るのはあまりよろしくない。枕だけ使って確実な仮眠を取る。布団に入るとそのまま明日の朝まで眠ってしまいそうだ。それに夕飯も胃に入れてないからな。
若干の空腹を覚えつつも枕と毛布だけで横になる。ちょっとだけちょっとだけ……ぐぅ。
やがて一時間のアラームが鳴った。たかが一時間だがされど一時間、疲れはさっきより取れていると感じる。やはり仮眠の効果は大事だな。ここから一気に買い物と食事とを済ませて明日一日を伸び伸びと過ごせるようにしよう。
さぁ、今からは行動の時間だ。メモ帳に書いてある寝具一式と机、椅子をそろえにホムセンへ行こう。車に乗るが眠気はきっちりとれた。疲れも大丈夫。安全運転で向かおう。
車でゆっくり十五分、到着したるはいつものホームセンター兼地元スーパー。まずはダンジョン用品からだ。ホームセンター側に車を停めるとアウトドアコーナーへ。使ってる奴と同じエアマットを二つカートに放り込み、寝袋を物色し始める。
耐寒性能はそこまで求めなくて良いだろう。外気温を考えて……最低使用温度、つまり寝袋の外の温度がどのくらいかでグレードがある程度決まるのかな。いつもの店員は早く来ないだろうか。さすがに十度を下回る肌寒さではなかったので、そこまで暖かい寝袋というのは必要ないだろう。
そうなると……この辺かしら。五千円前後でいくつかの種類がある。封筒型とマミー型……ミイラが入っている棺桶のような形のものとが主にあるんだな。足元がある程度自由に動くほうが都合がいいので封筒型で良いかな。サイズは大人用だから千八百ミリもあればいいだろう。文月さんには大きすぎるかもしれないが、小さくて寒い思いをするよりはマシなはずだ。
色は別にしたほうが良いかな。オレンジと……この濃い緑の奴にしよう。好きなほうを選んでもらえばいい。七層で思ったが、寝具類は共有物になると他人の体臭とかが気になって眠れなくなりそうだからな。色のセンスが無いと言われそうではあるが、区別がつくだけマシだと思っておこう。
後はこのインナーシュラフとかいうのを二つ仕入れておこう。いざ寝袋でも寒いという時に役に立つかもしれない。準備は大事だ。それに文月さんは寝るとき脱ぐ癖があるからな。毛布代わりにもなるだろう。
メモ帳を確認し、机と椅子……前のと同じものがあった。特に不満が無いのでそのまま買い足す。必須なものはこれぐらいか。後は……タイヤか。
シティサイクルのコーナーに行き、前に買った商品と同じ車輪サイズのタイヤを見繕う。オフロードでも色々あるな。とりあえずそこそこの値段の物を買っておこう。後、七層に置きっぱなしにしても良いようなお安めのモンキースパナを一つ。
手慣れた人ならこれ一つで自転車のタイヤを変えることぐらいはできるはずだ。タイヤはあるけど工具が無くてバラせない、では何の意味もないからな。このぐらいはまぁ変なものを置いた犯人の責任として購入しておこう。
タイヤ六本とスパナで二万五千円。いたずら分の利益はありそうだからちょっとした楽しみとしてはそこそこのお値段……いや、結構な出費のはずだ。麻痺してきているのは間違いないな。でもまぁいいや、買おう。これはレシート別にしておかないとな。
一旦タイヤとスパナ以外を会計し、別会計でタイヤとスパナを買う。寝袋たちは必要経費、タイヤは不必要経費だ。寝袋とエアマットと机と椅子で合計約四万円。いたずら合わせて六万五千円。昨日の稼ぎに比べれば安いもんだ。これで自転車の走破性が上がるな。上がったところで長距離を乗るわけでもないのだが、多少乗り心地が改善されるだろう。
ホームセンターでの買い物を終え、俺の夕食と明日の朝食のつまみを買うために隣のスーパーへ行こうとしているが、正直そろそろ別の店でその店にしか見当たらないような一品を探してみるのも良いかもしれないと思っている。飽きた訳ではない、変化が欲しいのだ。
とりあえず今日もここのスーパーの総菜で夕飯を済ませようと思う。スーパーの総菜なんてどこでも同じじゃね? と思われるかもしれないが、スーパーの総菜コーナーはその系列に依って力を入れている商品がそれぞれ違ったりする。
一方に唐揚げが美味いスーパーがあれば他の系列ではコロッケが美味いスーパーと、それぞれ値段も違えば味も違う。なんなら系列店内でもちょっと違ったりもする。その辺は店長や総菜担当の好みによるんだろうが、とにかくそれぞれ違いはあるのだ。
ちなみにここの系列では俺は天ぷらが結構好みだったりする。油を吸い過ぎない内にパックされるのか、細かい事は解らないが結構パリッとしているのだ。多少時間が経ってもレンジで温めなおせば出来立てに近い味わいをもう一度楽しませてくれる。そして今の俺には保管庫がある。出来立てをそのまま放り込めばしばらくの間揚げたてを楽しめるって寸法だ。
そんなわけで今日は天丼にしようと思う。総菜と同じ天ぷらを使用しているようで、天つゆの量も多めでご飯までしっかりしみ込んでいる。当然大盛だ、後はいつもの唐揚げがあれば……あれば……無かった。仕方ないので代わりにイカリングとタコの素揚げをチョイス。なんだか揚げ物ばかりだな、サラダ盛りも買っていこう。
最近夕食は手抜きが多いな。そろそろなんか作るか。思いついたらメモに書いてメモを見返して思い出せるようにしておこう。食いたいものは大体作らなくても何とでもなってしまうからな。カレーぐらいか、俺のお好みの味わいを出したいと思うようなのは。
買い足すものは……特にないな。食パンだってまだ保管庫の中に……あるな。なんなら卵も放り込んでしまおうか。何時でも何処でもご機嫌な朝食が食べられるようになる。冷蔵庫に入るものはともかく、卵は常温保存してもある程度気温差が無いところなら問題ないと聞く。ならいっその事保管庫に入れてしまうか。これでダンジョンでもトーストと目玉焼きが食べられるようになるな。
どうして今まで考えなかったのだろう。食パンにしろ卵にしろ、もっと早く気付いても良かっただろう。そういう細かい気付きに達しなくなったのは脳の劣化だろうか。認めたくないものだ……
っと、思い出した。この間消費したシーズニング。あれのシリーズをもっと買い足しておこう。全種類買いそろえて全部試すぐらいの勢いで買ってしまうんだ。どうせ肉は現地調達だし、今なら三種類の肉が選べる。現地で悩んで試行錯誤して楽しい食事にしよう。後は明日の朝用のサラダがあればいいな。
買い物を終えて家に帰る。今日はたい焼きは無しだ。家に帰ればホカホカサクサク天丼が食えると思うと胸が躍る。腹が鳴り始めた。もう少し待ってろよ、家に着いたらまず飯にするからな。ゴミ処理とか洗い物はその後だ。まず飯を食う。本能には逆らいたくない。好きな時に飯を食って好きな時に寝る。贅沢な時間を過ごせるな。
家に着くと荷物を下ろし、保管庫に入れるべき物はすべて保管庫にいれ、早速飯だ。ホカホカ天丼だ。ここでちょっとレンジで温めるかどうか悩むが、ホカホカサクサクの天丼が食べたいと胃袋が叫んでいる。温めずにサクサク感を楽しむことにしよう。しまった、漬物を買って来ればよかったな。箸休めにちょうど良かったかもしれない。
ここの天丼は天つゆが別袋で用意されているので、サクサクのまま味わうことが出来るのが強みだ。そして天丼というよりはかき揚げ丼に近い。大き目のエビが二匹、そしてごぼう・人参・椎茸・三つ葉あたりが彩られているかき揚げが乗っている。エビが二匹入っているのは嬉しい。食事の初めに一匹、そして終わり掛けにもう一匹楽しむことが出来る。
さぁ、サクサクさが消えてしまう前にいただいてしまおう。保管庫に入れていたおかげでサクサクさがあまり失われていない。まずエビを一匹。尻尾まできっちりいただく。その後米を掻き込み口の中でしっかりかき混ぜ、米のモチモチ感とエビのサクサク感を同時に楽しむ。その後ゴボウの噛み応えで顎を楽しませる。
天ぷらを味わったところで天ぷらの陰から顔を出した米に天つゆをかける。ご飯に天つゆがしみこんだと思われるタイミングで米を喰らう。程よく硬めに炊かれた米に天つゆが絡んで口の中で溶け合う。
うん、天ぷらはいい。酒は呑まないが、居酒屋で天ぷらを注文しながら待っている時間は嫌いではない。ウーロン茶をちびちびとやりつつ、揚げたてを次々に胃袋に染み渡らせていくのも好きだ。今回はお手軽さとすぐ食べられるという事を優先したが、また行ったことのない店を開拓するのも良いだろう。
レンジでアツアツに温めたイカリングとタコの素揚げをつまみつつ、天つゆがかかって少ししなっとした天ぷらをつつき、米をかき込む。サラダで時々胃袋を労わりつつ、気づけば平らげてしまっていた。最後にたっぷり天つゆを吸いきったエビを食べて終了だ。
今度は別のスーパーの総菜に挑戦していこう。たかが総菜、されど総菜。万人向けに味を調えてあるとはいえ、俺も万人の中の一人として気に入った味として記憶していく。
腹も膨れたところで片づけだ。仮眠と飯を終わらせたことで心に余裕が出来た。その間にスキレットを洗ったりバーナーを掃除したり、買いたてのキャンプセットを梱包から出してから再収納する。タイヤも包装をはいでしまってそのまま保管庫に入れる。
寝袋の使い心地を試してみようかな。いざ使って寒いようなら無駄な買い物をしてしまったことになりかねないし、試しておいても問題ないだろう。肌触りとか、気になると言えば気になる。
とりあえず風呂に入ろう。ササっと風呂を沸かし、洗濯機に洗濯物を放り込むと全身をきれいに洗う。耳の後ろを指でこすって匂いを嗅ぐ。自分の体臭だ。加齢臭みたいな臭いはまだしていないと思う。適度に体を動かしていい汗をかいているせいかもしれないな。まだ大丈夫。大丈夫だ。
湯に肩まで浸かって温まる。今日は考え事をするような事は無い。考え事をして行動をするよりも、今は行動を優先する時期だ。十三層の地図の完成と十四層への階段の発見、そして十四層でのキャンプポイントを探す。明日は探索は一日休みにするつもりだ。ダーククロウの羽根も溜まっている。卸しに行くのもいいだろう。よし、そのぐらいだな。
風呂から出て、今日の寝床は寝袋とインナーシュラフだ。枕はいつもの特注だが、ちゃんと眠れるだろうか。極上の布団に体が慣れすぎて眠れないという事は無いだろうか。自宅という環境である以上その可能性はある。
インナーシュラフを入れて寝袋に入ってみる。結構温かいな。これならダンジョンでも寒い思いをせずに済むだろう。洗い物が増えるのは一つ手間だが、これもダンジョンでの生活水準を下げないためには必要だ。悪い選択をしたわけでは無さそうだな。
シュラフで自分の体温が跳ね返ってくるような感覚がある、ちゃんと熱を保ってくれているという所だろう。インナーシュラフで更に暖かい。汗をかいてもインナーシュラフは洗濯できる。寝袋は使う場所の都合上あまり汚れないと思われるので、干す代わりにテントの中に放り込んでおいても良さそうだ。
うん、これなら十四層でも体調に不安無く過ごせそうだ。封筒型で足元に自由があるのも良い。やはり試してみるのは大事だな。
ここはダンジョンと思って眠ろう。そうすれば違和感なく眠れるに違いない。ここはダンジョン、自宅じゃない、ここはダンジョン、自宅じゃない、自宅じゃないから布団がいつもと違っても仕方がない……
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