295:査定とリヤカー
気合で建物内まで荷物を運ぶと、査定カウンターで今日の成果物を出す。昼なので人はぶっちゃけ居ない、出すなら今だ。今しかない。
「相変わらず一日潜ると大量に持ってきますねー。おかげで仕事のやりがいがあっていいですねー」
「それはなにより。一つ宜しくお願いしますよ」
「ちょっと待っててくださいねー……と、十三層まで潜ってきたんですかー。地図はどうしましたかー? 」
ネクロ真珠(略称)を見て査定嬢が気づく。多分ここでは査定にかけられたことが無いんだろうな。やはり一番乗りは我々だったか。やったぜ。
「まだ埋めきってないので今日は提出せずに、後日十四層の地図と一緒にお渡しする形になると思います」
「解りましたー。ではその時またお願いしますねー」
相変わらず間延びする口調だが、話ながらもてきぱきと種類と重さと数を数えてはパソコンに入力し、金額をはじき出していく。プロの仕事を横で観察しながら金額を待つ。
十分ほどして二等分の金額が計上される。七十八万八千百五十円。過去最高金額をまた更新した。
「安村さんは物品毎に仕分けしてから持ってきてくれるので助かりますねー。おかげで早く済みますー」
「その辺は七層で仕分けしてから持ってこないと重すぎて持ってこれないんですよ」
「なるほどー。いつも助かってますー」
御礼を言われた。悪い気はしない。それにこの収入もいつもより時間をかけて潜ったので当然と言えば当然だ。それに何より、小西で最先端を探索しているという確認も出来た。そのつもりは無かったが、嬉しいと言えば嬉しい。だが違和感もある。
実際は相当嬉しいはずなんだが、文月さんみたいに金銭感覚がマヒしてきつつあるような気がする。ほぼ丸一日かけて七十八万円。時給にして三万ほど。俺がこんなに稼いでいていいのか? そう考える頭が正常なのか、それともこの業界では今はこれが普通なのか。
よし、考えるのを辞めよう。とりあえず文月さんにレシートを渡して振り込みを依頼。順番にタスクをこなしていこう。
待ってる文月さんにレシートを渡すと、すごくいい笑顔になった後悩み始めた。
「どうしたの、また金銭感覚が~とか? 」
「いえ、これから買い物に行くのでこのまま実弾を持ち歩くかどうか悩んでいるところです」
七十八万だもんな。普通の女子大生が持ち歩く金額ではない。でもこの後大きい買い物をする予定がある。確かに道中が不安よな。
「預けておいて途中のコンビニで下ろせばいいのでは」
「コンビニだと引き落とし手数料とられるじゃないですか。少額ですけど出来れば使いたくないんですよ」
「じゃあとりあえず持ち歩いて、俺が預かっておいて現地でお返しするというのはどうだろう? 」
「鬼ころしまで付いてきてくれるんですか? 」
「ちょうど買い物の予定もあるしついていくよ。それに新しい槍買ったら古い槍は俺の保管庫の中だろ? どうせ渡されるなら早いほうが良いかと思って」
「そんな先まで考えてくれていたとは思いませんでした。ではお言葉に甘えさせていただきます。そのついでに、ダーククロウの代金も預かっておいてください」
文月さんは全額現金で受け取り、そしてそのままダーククロウの取り分と一緒に俺に渡す。小銭は面倒くさいので本人に持ってもらった。ダーククロウの代金を渡した封筒の中にそのまま支払われた紙幣を放り込む。都合八十五万ほど入っている事になる。俺は振り込みを選んだ。財布の中は既に札で埋まっているからな。
「と、ちょっとギルマスに用事があるんですが。居ます? 」
振り込みついでに支払い嬢に尋ねる。居れば話は早いんだが。
「いつもならお昼ご飯食べてる時間だと思いますけど、どんな御用です? 」
「いえね、ダンジョンを出てから地上で査定受けるまでの間、ドロップ品が重すぎて運ぶのが大変なんですよ。それを緩和するためにネコ車とかリヤカーみたいなものを一つ受付周辺に置かせてもらえないかと思いまして」
「なるほど、そういう話なら直接出向いたほうが良いかもしれませんね。安村さんの頼みなら聞いてくれるかもしれませんし。行ってみていいと思いますよ」
「わかりました、どうも」
早速二階へ上がると扉を三回ノックする。
「安村ですが、ギルマス居ますか? 」
「ふぁい、ひょっとまってね……どうぞ」
扉を開けると昼飯を食っていたらしい。俺も昼飯食わないとな。中華屋へ行くかそれとも鬼ころし付近で何か見繕うか。話が終わるまでに考えておこう。
「ちょっと今日はギルドにお願いしたいことがありまして」
「駐車場ならまだ予定は無いよ。朝と帰りのバスの本数を増やしてもらったのが精々だった」
やっぱりバスの本数が一つ増えてたのはギルドの働きかけのおかげだったのか。感謝しよう。
「えっとですね、時間もアレですのでざっくりと話します。我々のパーティーが毎回結構な量をダンジョンから持ち帰ってるのは調べて頂ければわかるのですが、ダンジョンの内外では重さの感じ方が変わってくるんですよ。で、地上に戻った瞬間から重量を直接体で感じることになりますので……ぶっちゃけると重すぎて査定カウンターに行くまでが辛いんです。その短い間の距離だけでいいので、ネコ車的な物というか運搬するものを何か置いてもらえないかと思いまして」
「その費用を捻出してほしいと? そのぐらいならすぐに用意しよう。それで君らは更に儲けて帰ってこれるんだろう? ちょっとの投資でそれ以上のリターンが見込めるならそこは商売をするものとして見逃すわけには行かんからな」
その辺を見抜くのはさすがギルマス、という所だろうか。思った以上にとんとん拍子で話が進んでいくぞ。しかし、ダンジョン管理をはっきり商売と言い切ってしまって良いのか不安は残る。
「……置き場所をお願いするだけだったんですが、ギルドで持ってくれるならややこしい事は抜きに出来るので助かります。よろしくお願いします」
「わかった、そのぐらいの探索者協力はさせてもらおう。駐車場がないお詫びという訳ではないが近日中、出来るだけ早い時間に手配できるようにしておこう。置き場所はダンジョン出たすぐ横が良いかな? 」
「近ければ近いほど助かる、というところですね。その辺はお任せします。邪魔にならない近いところで一つ」
「解った。確約しよう。お昼を食べ終わったら早速近所のホームセンターにでも掛け合って配達してもらおう。店が暇なら今日中には手配が完了するはずだ」
即断即決、私の好きな言葉です。このギルマスは良いギルマスだ。自分の出来る範囲で儲けられることに気づいてすぐ実行できる。
「お気遣い感謝します」
「しっかり稼いで帰ってきてくれる小西の探索者も増え始めた。手荷物が重くなるから探索を途中で切り上げるような事はこっちにとってもマイナスだ。そして何より、今月ようやく黒字が見え始めているんだ。ここで追加投資する事でより儲かるならこれ以上の事は無いよね」
お茶を飲みながらギルマスがお仕事モードに入った。昼食中になんだか悪い事をしてしまった気分だが、それでも助力になれたならまぁ良かった。
「用事はそれだけです。では期待して待ってますので、失礼します」
「期待して待っててちょうだい。何なら私の自腹ででも仕入れて見せるさ」
本当は俺が自腹を切るつもりだったのだが、他人の財布でできるならそれに越したことは無い。お任せしよう。一階に戻り文月さんと再合流。置いてもらえるようになりそうという事を伝える。
「じゃあ、安村さんが指が痛い思いをしなくても良くなるという事ですが、小さいですが大事なことですね」
「これでまた大量にドロップ品を持って帰ってこれるな。次回はもっと安心して稼げる」
「そのための投資として新しい武器は有用ですよね。早速行きましょ……お昼ご飯どうします? 」
「中華屋か、それとも道中で適当に何か食べるか。バスの時間次第だな」
天気は回復し晴れ間が見えていた。若干の湿度は残って水たまりはあるものの、もう傘は要らない。安心してこれからいろいろ動けるな。雨が降ったままなら車を取りに行って鬼ころしへ向かうという手段があったがそうする必要は無さそうだ。
ギルドを離れバス停へ。バスは……ちょうど来る。これはお昼は他所で食べる事になるな。鬼ころしへ行く間なら選択肢はいくらでもある。適当に見繕うのでもいいし、文月さんが食べたいものに合わせるでもいい。最寄り駅まで行ってそれから探すか。そのほうが選択肢は確実に多い。さあ何を食べようかな。
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