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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第四章:中年三日通わざれば腹肉も増える

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293:無事帰還


「なんか途中で急に余裕が出てきた感じになってましたが、心境の変化でもあったんですか? 」


 九層に上がった階段で恒例行事となりつつある休憩を取る。前回に比べて消耗は少ない。これは俺の精神的成長と言えるのではないか。雑談しつつ水分を取る。ここでは結構水分を消費する。無理やり前へ進もうと体を動かすからだが、そもそも体感温度が高いので汗をかきやすい。


「酸以外気にするところは無いのでは? と漸く気がついた。そう思ったら多少噛まれても問題ないかもって噛まれてみたけど、ダメージはほぼ無かった。つまり、ワイルドボアと同じだ。そう考えたら何とも気分が向上して……そうだ。ブーストON/OFFしとこう」


 文月さんと話しながらスイッチを点滅させる。切った瞬間感覚が一瞬鈍く周りが早く動いてるように感じる。一瞬オエッてなったが、スイッチを入れるとまた元に戻る。


「ふむ……おかしなところなし、と。十層で戦いながら九層の中央へ行ってみるのも面白いかも、と感じ始めたのでまたハイになってるのかもしれないと思ったが、とりあえず元には戻ったみたい。全身動くし感覚もいつも通りだ」

「それは良かったですね。十層の真ん中行きたいとか言い出したら殴ってでも止める所でした」

「自制がきく範囲でハイになるのはアドレナリンの出すぎって奴かもしれないな。割と気持ちよかった。でもどうせなら十三層で出てほしかったかも。そしたら十四層への階段も見つけられたかも」

「その時は寒い床で仮眠することになったでしょうから、かえって良かったのでは? 」

「それはそうだな。とりあえず十層突破は今後はそこまで構えなくても行ける気がしてきた。いや、行ける。心理的障壁が三つぐらい一気に吹き飛んだ気分だ。とても気分がいい」

「やっぱりまだハイになってません? 念のためもう少しスイッチ切っておいたらどうですか? どうせ後は帰るだけですし」


 う~ん……一理あるな、そうしとくか。脳内スイッチを切って再び周りが加速したような感覚に陥る。これが通常、これが通常……休憩というぐらいだし、その間はモンスターがこなければ問題ないだろう。


 行きに比べて短めの休憩だが、どうせこの後七層へ帰って仮眠して戻るだけだ、そう時間は必要ないだろう。今日は十三層で戦闘を体験するだけでも充分な成果だと言える。次回は装備をきっちり持ち込んで十四層まで行きたいな。十三層の地図は未完成でもあるし、十四層への道筋がはっきりしている訳でもない。ギルドに報告するのは後日潜ってからでも問題なかろう。


 ゆっくり伸びをして全身を解し、そろそろ大丈夫かな、というところだ。


「さて、七層へ帰るか。最後の稼ぎをしながら行っても問題ないよね? 」

「今日はどのくらいの稼ぎになりそうですか? いつもより儲かってますか? 」

「時間かけて潜った分多いと思う。また指がちぎれそうな思いをしなきゃいけないのが辛いところだが……その辺はちょっとギルドに交渉してみようと思う」


 メモ帳に搬出器具伺いとしっかり書いておく。書いておいて確認するかどうかはともかくとして、記入する際に頭に記憶されている分がちゃんと思い出せるかが勝負だ。そろそろ記憶力も昔に比べて怪しくなり始めた。ダンジョンを出たらメモ帳を見る癖をつけておいても良いだろう。


 九層のそこそこモンスターの湧くゾーンを半周かけて帰る。しかし、十層の階段が比較的近くて助かったな。あの物量でまた反対側まで歩かなきゃいけないとなると十一層が本当に高難易度ゾーンになる所だった。そこだけはダンジョンの構成に感謝だな。


 さっきまでと比べて少ないジャイアントアントの群れとワイルドボアの群れをいつものこなれた手順で倒しつつ、八層へ向かう。十層が楽に感じるようになった分、九層は更に楽だ。相手の行動パターンが変化するわけでもないのでやる事は同じで歩く時間がその分多いだけだと感じる。


 三十分歩き続けて、行きとほぼ同じぐらいの狩りペースでのんびりと八層の階段までたどり着くと、そのまま八層へ上がる。八層はいつも通りのさびしい沸き具合。十層と九層の落差より更に激しいモンスターの少なさだ。


 いっその事ここも自転車で駆け抜けたいが、道中のダーククロウとワイルドボアにはスキルオーブの夢が詰まっているはずだ。その夢にかけてきっちり処理していくのは効率の悪い話ではない。


 モンスターが目一杯ポップしている状態で後何回ぐらい倒し切ればスキルオーブが出るか、までは正直解らない。ただ、毎回通っていればそのうち出るだろうぐらいの気持ちで行く。もしかしたら普段行かない方向に既にスキルオーブを腹に抱えたモンスターがいるのかもしれないが、サバンナマップでそれをやると遭難しそうだからな。大金のためとはいえ無茶はしないに限る。


 五層とそう変わりないモンスターたちを倒してスキルオーブが出ないかどうか確認し、そのまま七層へ上がる。自転車は無かった。今日は人が少ない日のようだ。そういえばスレ民以外誰とも出会ってない気がする。


 シェルターまで戻ってきてノートの書き込みを見るが、潜る前との差は無いように見えた。今日はダンジョン探索の安息日にでもあてられているのだろうか?


 ともかく休憩だ、仮眠だ、食事だ。今日はレトルトと肉以外食ってないのもあるが、ちょっと気の効いた一品を作りたい。何種類かある肉に振りかけるだけでそれっぽさがでるお手軽シーズニングから適当に選ぼう。


 テントに着いて休憩中といった空間を演出すると、早速何を作るか悩み始める。俺の胃袋はなにを求めているのか。 ここで食わないという選択肢もあるが、胃袋はとりあえず何でもいいから詰めてくれと騒ぎ始めている。


 選択肢で迷った結果、焼くだけ簡単スパイスシーズニングとかいうのがあるのでこれにしようと決めた。もしかしたらスパイスのおかげで余計に腹が減るかもしれないが、何も入れないよりは胃袋も不満は無いはずだ。早速調理を開始。ボア肉を適当に切って振りかけて混ぜ合わせて十五分ほど置き、焼きを入れて完了だ。


 うん、焼いただけで胡椒やクミン等の香辛料の良い匂いが漂う。これは間違いなくイける奴だ。ご飯は無しで肉だけ食べて眠ろう。眠って戻ったら俺が作るより美味しい中華も食べられる。


 丁度二人分の分量だったので皿に盛ると文月さんを呼んで飯にする。


「今日はお肉だけなんですね。ご飯は抜きですか」

「時間的にな。小腹を満たして眠って帰ったら丁度昼に良い時間だろう? それなら中華屋でたっぷり食べるほうが多分満足すると思ってな」

「なるほど、納得しました。ではいただきます……美味しい」

「……やっぱりご飯、食べる? それともトーストが良い? 」

「トースト半分こしましょう。あったほうが食が進むのは間違いないと思います」


 肉にかじりついて思った。やはり炭水化物が欲しい。少なくても良いから補充したい。これはそういう気分にさせる食べ物だ。スキレットを隅なく撫でるようにトーストを押し付け、味を染み込ませる。


 その間に多少肉が冷めてしまったが、文月さんはカリカリトーストが出来上がるのを待っていた。お互いの皿に半分ずつ分けると、再び食事を開始。シーズニングのスパイシーさがトーストをより美味しく引き立たせる。ボア肉の脂がちょっとだけ残っていたおかげで香りが移り、肉の噛み応えもあって奥歯の奥まで味を楽しむ。


 小腹を満たす、という表現にちょうどいい具合の腹の膨れ具合を感じる。ここから昼寝したらさぞ気持ちいいだろうな。スキレットに水を張ってもらい油を流し終えるとそのまま保管庫へ。細かい掃除は家に帰ってからでいいだろう。今は保管庫でいい。


 お食事セットをテント内に片付けて仮眠タイムに入る。今は六時だから……四時間寝て十時。起きて身支度して十時半。そこから真っ直ぐ帰って午後一時半。そこでお昼ご飯食べて……そういえば鬼ころしへ行きたがっていたな。予定が空いてるならそのまま付き合おう。


 その後は……あぁ、買い出しに行くんだったな。寝袋とエアマットと机と椅子とそれから細やかなものを少しずつ。さっき食べたシーズニングは中々良いものだった。アレも買い足そう。色々やる事はある。


 明日は完全な休みにしてしまおう。今日は一杯稼いだしな。等と考えていると自然と眠気が訪れてくる。このまま頭を回転させておくのはもったいない。眠気に全神経を注ごう。


作者からのお願い


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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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