291:地図回す派、回さない派
「どうしたの? なんかスケルトンの剣じっと見て。思ったより使えるとか? 」
「もしかしたらこの剣……スケ剣、スキルと相性がいいんではないかと。モンスター素材にスキル乗せると攻撃力というか切れ味が増すんだが、一部がモンスター素材の直刀よりもこっちのスケ剣のほうがスキルの乗りが良い気がする」
「やっぱり私もモンスター素材の武器買います。なんか羨ましくなってきました」
謎の意地の張り合いが始まった。まぁ何でもいいんだが、火力が上がる事に問題は無いと思う。
「今度鬼ころしいくか。槍を落としそうなモンスターに心当たり無いしな。剣があるんだから槍もきっとモンスター素材のものがあるだろ」
ついでに見ておけばよかったかな。手間が省けたかもしれん。いずれにせよ今から真っ直ぐ帰ったら……そこそこ良い時間になるかもしれん。そのまま直行して今日は上がりになるかな。
「何にせよ、まずは元の階段に……ダッシュ! 」
先に見えた骨ネクロと目が合った。骨ネクロがダッシュをし始めたこちらに気づきカタカタと何かをしゃべろうと試みている。すまん骨語は未履修なんだ。とりあえずその召喚しようとしているスケルトンを止めてこっちのお話(物理)を聞いて欲しい。
会話(物理)が無事に伝わり、召喚される前に骨ネクロは成仏してくれた。真珠を拾い先へ……見える範囲にスケルトン三体だ。連続エンカウントは珍しい。
文月さんが率先して前に出てスケルトンをぶちのめす。……ストレスでも溜まってるのかな。十三層に来てから力任せにぶん殴っている印象だ。その分楽させてもらっているので贅沢をいうのはやめよう。
スケルトンの攻撃パターンは二種類。切りかかってくるか、盾を構えてくるか。さらにそこから二パターン、盾で殴って来るかどうか間合いを取るかだ。切りかかってきてくれるほうがこっちとしては行動を読みやすい。
スケルトンの攻撃も筋肉や神経が無いせいなのか、大振りの攻撃ばかりしてくる。多分関節がそこまで素早く動かないんだろう。剣を振り回した後のスキを狙って肋骨をはがし、そのまま核を突き崩すというパターン化まではできた。もっと楽にできれば……具体的にいえば肋骨をひっかける動作があれば……引っ掛ける?
腰に手をやる。いつものところにぶら下がっている熊手に手が触れた。……試してみるか。スケルトンの剣を振りまわし始める前に近寄り、おもいっきり弾く。懐が空いた、今だ。
盾を腕だけで保持して握った熊手を肋骨に引っ掛けると、そのまま下に引っ張る。すると面白いようにぽろぽろと肋骨が取れ始める。これはスケルトンの接着力不足だな。そのまま剣で核を突き刺すと思ったよりも楽にスケルトンを黒い粒子に還すことが出来た。
熊手は十三層でも活躍のしどころがある。さすが万能熊手だ、やはりこの選択は正解だった。その間に二体倒し終わった文月さんがまた呆れた顔をしている。
「また潮干狩りですか……いや、意外と理にかなっている戦闘方法かも? 」
「万能熊手なんだから万能なんだ、俺は知ってた。きっとこの先も活躍してくれるに違いない」
「はいはい、そろそろ階段じゃないんですかねえ」
地図は見てなくてもある程度感覚で把握していたらしく、文月さんの言う通り後二回曲がれば階段が見えてくる。その間にモンスターがこなければ、だが。
しかし、文月さん大活躍の十三層だな。剣術三倍段とは言うが、人型相手だとそれが顕著に出るんだろう。スケルトンの得物が槍じゃなくて本当に良かった。もし槍だったら懐に飛び込むのも一苦労だっただろう。今後は射程距離と相性も考えて行かないといけないのか。
もうすぐ階段が見えるというあたりのまっすぐな廊下で最後のエンカウントスケルトン三体。今度はこっちが手早さを見せる番だ。スケルトンが大振りの上段攻撃の準備をしてる間に懐に素早く潜りこむと熊手で肋骨を掻き出して核を露出させ、そのまま核をスケ剣で突く。
核を破壊されてスケルトンが黒い粒子に還り始めるのを確認すると、すぐさま次のスケルトンへ。これは移動も行動も楽でいいな。動きをより最適化できた。
全て魔結晶を落としたのを確認して、十三層から十二層へ戻る。気温と湿度が急に上がり、生い茂る森へ戻ってきたことを感じる。とりあえずここで一旦休憩だ。
「さて、結局地図はどれだけ埋められたんだろうな。マップ端が解らん以上広さも解らん」
方眼紙をプラプラさせながら文月さんに問うてみる。
「半分ぐらいは埋められたんじゃないですかね。次回のトライでもうちょい準備していけば十四層で休憩して帰って来られると思いますよ」
「そういえば十四層にたどり着いても、どの辺にテント立てるかすら決まってなかったな。実質二階層分方眼紙片手に彷徨う事になったのか」
「一旦戻って正解、ですかね。次回また十三層を探索して十四層への階段を見つけられたら十四層を探索する、でいいんじゃないですか」
「そうするか……ってあ、どちらにしろ七層から十四層で休憩する用具を回収してくるのを忘れて来てた。テントしかない」
「さすがに床は冷たいですからね。エアマットも十四層分買います? 」
今手元にある余分はテントだけ。バーナーもエアマットも七層に置いてきてしまった。やはり宿泊セットはもう一つ欲しいな。十四層に置きっぱなしのテントとエアマットとバーナーと机と椅子と……結構かかるな。
毎回七層で保管庫に入れて十四層まで運ぶということで一応の解決は見込めるな。とりあえず次回はそうしてみよう。せっかく買った事だし、次回たどり着いたときは少なくともテントだけは立てっぱなしにしておこう。
「エアマットは嵩張るから十四層分を別で用意しておいた方が良いな。バーナーとスキレットは……どうしようねえ。一応調理用品だから長い時間放置するのは止めておきたい。そうすると机と椅子か。このぐらいは持ち込んで置きっぱなしでも問題ないな」
口に出しながらメモ帳に書いていく。いつもの休憩セットぐらいは無いと十四層の居心地に関わる。居心地の良さはその後の探索の成功具合に関わる。
「後は毛布あたりがあったほうがいいな。十四層はこれだと結構寒く感じると思うぞ」
「それこそ寝袋で良いんじゃないですかね。安いものでも良いので気持ちよく眠れる奴を」
「ここに来て寝袋が必要になるか。まあ無理して風邪ひくよりはいいな」
エアマット、机、椅子、寝袋……買い足しの品物が増えていく。実質的に拠点が一つ増えることになるので仕方がない買い物だと言えるか。これは確実に必要経費だな。後で文月さんにもちゃんと半分請求しよう。
「とりあえず七層まで戻るか。稼ぎは……九層で狩りらしい狩りをしたぐらいだからそんなに多くは無いが全額換金したらそれなりの儲けにはなってる」
「じゃあここから七層まで戻ればいい稼ぎになるという事でもありますね。買い物行く内容を詰めるにしても真っ直ぐ撤収しましょうか」
「そうしよう。落ち着いて考えたほうが大事なものがまとまるはずだ」
十二層を十一層へ抜けていく。道中襲い来るオークでスケ剣の切れ味もしっかり試しておくが、切れ味のほうは若干直刀のほうが上かな? という感覚がする。ただし、【雷魔法】を纏わせるとスケ剣のほうがすぱすぱ切れていくように感じた。やはりモンスター素材の密度か何かが関係しているのだろうか。
文月さんは十三層のテンションのままオークを殴り倒しているかと思ったが、きっちり一体ずつ片付けている。また変なテンションになってなくて良かった。オークが四体来てもきっちり一体目を倒してから二体目に向かっている。十二層の狩りも安定してきたな。
そのまま何事も無く十一層の階段を上ると、真っ直ぐ十層手前の階段までオークとジャイアントアントでドロップ素材を積み上げていく。この量、持ち帰ったとして査定カウンターまで運べるかな……覚えてたら小西ダンジョンに掛け合って、地上から査定カウンターまでの間にネコ車みたいなものを設置させてもらえるよう交渉しよう。
十層の階段の手前で何時もの休憩だ。ここから先はまだ慣れない。慣れたとしても油断したくないという所が本音だ。十層の厄介さのメインは酸だ。正直酸さえ飛んでこなければもっと余裕を持って通過できる。酸ダメージは直接肌を焼く。もしかしたらもっと強くなれば酸すら効かないような肌を手に入れることが出来るのかもしれないが、それはそれであんまり想像したくない。
十二層から十一層まで駆け抜けてきたおかげでそれなりの消耗をしている。ここでたっぷり休憩を取るのだ。十層を通るのは手数の問題で十一層や十二層、何なら十三層よりも通過しづらくそして儲けは時間なりにそこそこといった所。初めて六層にたどり着いた時よりも苦戦している気がする。
「十層三回目復路……いや清州も含めれば四回目か。さすがに心が落ち着いてきた気がする」
「心の余裕は大事ですね。もうちょい腕前が上がれば楽に突破できてると感じるようになるかもしれません」
精神的余裕か……まだちょっと腰が引けてるといえばそうかもしれない。その点文月さんは肝が据わってる。見習わなければいけないな。
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