289:メガ〇ンのほうがお世話になった方眼紙
小西ダンジョン十三層。確認が取れる限りでは踏み込んだ探索者は俺達の他には居ない。過去にダンジョン内で死者が出たという話も聞かないので、今度こそ最初に十三層に踏み込んだのは我々だろう。
森のほんのり湿っとしたマップに比べると気温も少し低い。十五度ぐらいだろうか? 湿度も一気に下がったせいで少し肌寒さを感じるぐらいだ。
中々立派な石造りの一辺が四メートルほどの広さの四角い通路に、壁におしゃれなランプのついた階層が待ち受けてくれていた。階段下りてすぐにエンカウントという事が無いのを確認すると、マップの出来具合を確認する。石の壁をカリカリとこすってみるが崩れる気配は無い。やはりダンジョンオブジェクト。
試しにパチンコ玉を飛ばして照明を破壊しようと試みたが、パチンコ玉はランプめいた照明に弾き飛ばされ何処かへ弾んでいった。……何で出来てるんだこのランプ。【採掘】スキルが有ったら掘り出して持ち帰ると研究対象になりそうだな。
ともかく、この四角い……そう、四角い整然と掃除されたような石造りの通路が左右に広がる。いきなり二択を迫られるらしい。よく目を凝らすと物陰にスライムが居る。もしかして、各エリアの足元がやたらと綺麗なのもお前らのおかげなのか? とりあえず潮干狩りすると文月さんが選択を迫る。
「いきなり選択肢ですか。これはどっちに行きましょうね? 」
「俺が選ぶと最近ろくなことが無いような気がする。任せた」
「じゃー……こっちで」
階段から降りて右手を選ぶ。四メートルおきにこう、なんだ、通路をドンドンっと並べたような道を歩く。数を数えていないとループしていても気づかないかもしれないな。とりあえず曲がり角までまっすぐ移動した事だけは解る。数を数えて記録し、方眼紙に書き写す。
三叉路に来て曲がり角の先を見ようとすると、カタッという音がする。そっちを振り向く。モンスターとのファーストコンタクト、スケルトンだ。二体居る。これは色々と助かる。いきなり三体だった場合どう戦えばいいか解らなくなってしまうからな。とりあえずまずは一対一からだ。
スケルトンは細長いタイプらしく、横にでっぷりとしたスケルトンは……もしかしたら出るかもしれないが、とりあえずこのスケルトンはスリムだ。動画でも見た。多分全世界共通のデファクトスタンダードスケルトンなのだろう。
頬の辺りもシュッとしている。肉がついていたらさぞナイスガイだっただろう。こんな姿になりやがって……可哀想に、今楽にしてやるからな。いや、すでに死んでいるから楽になるも何もないのか。せめて成仏してくれ。
スケルトンが盾を構えながら剣を振り上げてまっすぐに突っ込んでくる。とりあえずぶっつけ本番の耐久試験からだ。剣を直刀で受け止める。スケルトン素材を使用しているおかげか、欠けることなくスケルトンの剣を受け止める。
スケルトンは剣が防がれたのを確認するともう片方の手に持っている盾をこちらへ向けてくる。シールドバッシュを狙ってくるか。確かに今までのモンスターとは知能指数が違うみたいだな。これは複数来た時手間だぞ。
シールドバッシュをステータスブーストをかけた頭、というかヘルメットで受ける。それほど威力は無い。近すぎて邪魔になる程度の威力にしかならなかった、脳が揺れたような感じも無い。スケルトンの剣を直刀に添わせるように受け流し、スケルトンが一瞬体勢を崩す。その間に……あった、ここだな。スケルトンの心臓辺りにある核を狙いに行く。
骨はそれほど硬いという訳ではないが装甲の代わりにはなっているようだ。こちらの攻撃を肋骨で防ぐ代わりに肋骨がパージされた。そんな防御の仕方が……骨だから出来る芸当か。これは一発ではなく二発で勝負を決めるタイプのモンスターだな。
一旦後ろに下がりこちらも体勢を整える。スケルトンは……こちらが離れたのを見ると肋骨を拾い、元の場所にはめ込む。それ狡くないか?
スケルトンの攻撃パターンはとりあえず二種類は確認できた。剣による攻撃と盾でのバッシュ。防御は二段階、骨と核。二発連続で当てれば勝ち、という感じだ。これは先手を取ったほうが勝ち、そういう戦いだろう。
二発……二発か。連続で突いて骨を崩した後すぐさま核を狙うか。まずはそれでやってみよう。
「大丈夫ですか? 苦戦してません? 」
文月さんはもう戦闘を終えたようだ。はやくない? こっちは戦術絶賛組み立て中なのに。
「今色々相手の攻撃パターンを見てる最中。若干賢い事は解った。後はどう崩すかだけだ。せっかくの一対一だしもうちょっと情報を引き出したい」
スケルトンが再びこっちへ向かってくる。そのタイミングでこちらがダッシュで駆け寄る。剣の打点をずらして懐に入り、盾で剣を受け止める。盾は……よし、受け止められているぞ。これで懐が空いた。直刀で素早く二発、一発目で肋骨を弾き飛ばしそのまま連続で二撃目を繰り出す。今度は核に当たったぞ。核はそれほど強度のあるものではないらしく、直刀がそのまま核を貫く。
核を貫かれたスケルトンはそのままの姿勢で黒い粒子に還っていく。後には魔結晶が残った。とりあえずこいつは召喚されたものではないらしい。
「ふむ……確かに百パーセントドロップか。そこそこ重たいが収入としては悪くないな。ドロップに気を揉まなくても済む」
「もっと気楽に倒せばよかったのに。相変わらず細かいところを気にしますね」
「そっちはえらく早く終わったみたいだけど、早速必勝法でも見つけた? 」
「いえ、シンプルイズベストを貫いただけですよ。そんなに悩む事ない相手でしたね」
「じゃあもし一体でスケルトンが来たらお手本を見せてもらおう」
ドロップの魔結晶をうけとり、さてどっちへ行くか。とりあえず真っ直ぐ行ってみようかな。聞き耳を立てると……どうやらどちらに行ってもモンスターは居るらしいな。せっかくだし曲がっておくか。方眼紙に三叉路を記入するとここから先はまだ続いてますよー……という感じに書いて、曲がり角を今度こそ曲がる。
しばらく歩くと横道からカタカタと足音が鳴る。またスケルトンだろうな。今度はスケルトンが三体だ。戦術を練らなければ。
「じゃあまず一体飛ばしますね」
と、文月さんが率先して前へ出ると、スケルトンが構えだす前に自分の射程範囲まで近寄って思いっきり槍でぶん殴る。スケルトンは頭から肋骨までぐしゃっと潰されると、そのまま黒い粒子に還っていく。おそらく自分の骨で核を貫いてしまったのだろうか。そういう力技で倒すのもありなのか。
「これで一対一ですね……ってなんで若干引いてるんですか? 」
「乙女のか弱い細腕に想像以上のものが詰まっていただけだよ。ヒイテナンカナイヨ」
スケルトンはぶっ叩くだけでも倒せる。これは予想外の手段だった。もっと細かい動きとかを考えていたんだが、今の戦い方が出来るなら俺でもなんとかなりそうだ。
相手するスケルトンの剣を受けるでなく躱す。そして肩から一気にズバンと切り崩しにかかる。骨自体はそう硬くないのは学んでいる。バキバキバキ……といい音をさせつつ右肩から左腰にかけて一気に振りぬく。そういえば全力で殴ろうとしたのは久しぶりかもしれない。
核ごと一気にぶち抜いたおかげでスケルトンはそのまま黒い粒子に還っていく。毎回は疲れるかもしれないが楽な攻撃方法なことは確かだ。盾さえ何とかすれば難しくは無いな。
こいつらも魔結晶が落ちた。つまり召喚されたスケルトンではない。スケルトンネクロマンサーにはいつ会えるのか。いやまだ二回目の戦闘だ、そう焦る必要は無い。それに十四層への階段が見つかってからでも全然遅くは無いんだ。落ち着いて、確実にスケルトンを労なくして倒せる戦術を……いや、全力でぶんなぐるのでいいか。途中でスタミナ切れそうになるまでそれで行こう。
十三層のマッピングをしながら二人歩く。曲がり角があるたびに方眼紙を埋め、どっちへ行くか適当に決める。方角がはっきりとしている訳ではないので特に深く考えずに進む。行き止まりに階段がある可能性だってある。今は地図を埋める事を優先していこうかな。
曲がり角があるたびにスケルトンが出る、という訳ではないが曲がり角でぶつかる事は多い。多分視線が切れているかどうかが大事なんだろう。後ろを振り返っても急に後ろに湧くことは無い。ポップ数が少ないのか、どこかにまとめて湧いているのか。予想よりも戦闘は少なめで進んでいる。
このスケルトンだが、【雷魔法】がほぼ効かないようだ。試しに数発撃ちこんでみはしたが、ん? なんかした? という感じで素通りしてくる。俺にはちょっと相性が悪いらしい。
やがて何度目かの行き止まりに差し掛かった時、行き止まりの奥で骨の音がする。一体居る。ただの骨ではなく、何かしら衣をまとっているところを視認できたところで一気に駆けだす。
「ネクロマンサーだ。召喚される前に潰すぞ」
「了解」
ネクロマンサーがなにやら怪しげなポーズをとりだしカタカタと顎の関節を鳴らす。地面に魔法陣が描かれ、徐々に頭骨が地面から見え始める。スケルトンの召喚だ。あれが足先まで出たら召喚完了というわけだ。
その前に肉薄して叩く。試しに走りながらパチンコ玉を飛ばすが骨に弾かれて有効打ならず。やっぱり近づいて殴らないとダメか。試しに【雷魔法】も打ち込んでみるが、効いたそぶりを見せない。もしかしたらローブに魔法耐性的なものがあるのかもしれない。
腰まで出てきた。後三歩。肉薄してスケルトンネクロマンサーに思いっきり直刀を叩きつける。召喚は途中で解除されたらしく、スケルトンと魔法陣はそのまま消え去りスケルトンネクロマンサーも黒い粒子に還る。後には真珠みたいなものが残った。軽くて小さくてこれでお高いらしい。毎回ダッシュせねばならんのがあれだが、稼ぎとしては悪くない。
十三層で出会える敵全種類と戦えたところで、地図は……どれだけ埋まったんだろう? マップ一辺の大きさが解らない以上、全体の大きさが解らないぞ? 最初の曲がり角で曲がらずにまっすぐ行ってみるべきだったか……今更悩んでも仕方ないか。経験上、まだ行ったことないところをしらみつぶしに探すしかないな。
「階段は何処でしょうね? さすがに方向感覚が無くなってきました」
「帰り道が解らないわけじゃないから迷ってないだけマシかな」
「それ、ちゃんとマッピングされてるんですよね」
「少なくとも曲がり角来るたびに確認してるから逆にたどれば十二層へは戻れる。多少の距離誤差はあるかもしれないが」
「なら大丈夫そうですね」
帰り道を引き返すのが先か、十四層への階段を見つけるのが先か、それとも二人そろってスケルトンになるのが先か。十三層のマップはまだ、ちょっと先が見えない。
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