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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第四章:中年三日通わざれば腹肉も増える

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284:慌てず騒がずスマートに



 六層はいつもと少し様子が違っていた。いつもその辺を爆走しているワイルドボアはいるが、奥のほうが何だかざわついている気がする。よく目を凝らすと遠くの空でダーククロウが空を飛び回っているようなそんな感じだ。五層から下りてくるまでに誰かとすれ違ったことも無いので、先に七層へ歩いていった人が戻ってきているのかな。


「これは、誰かが茂君にちょっかいかけて失敗したかな? 」

「そんな感じですね。遠目に黒い点が空を飛んでいるのが見えます」

「まず近寄ってみるか。ダーククロウの警戒範囲まで近づいてから対処する」


 ワイルドボアを斬り飛ばしつつひたすら歩く。誰かが居ることは確実だろうなので、エコバッグは持ったままだ。両手がふさがっていても【雷魔法】は使えるので戦闘力には問題ない。むしろ、空中待機しているダーククロウ相手ならそのほうが確実に倒せる。


 歩いて一本目の木にたどり着く。ここまでのワイルドボアは処理してきたが、問題はその先だ。茂君周辺がどうなっているか。ワイルドボアの影は少し見えて、茂君が茂っていない。ダーククロウがいくらか飛び去って頭部のさびしい茂君だったものがたたずんでいる。


 奥のほうで、ワイルドボアとダーククロウに囲まれながら戦っているらしき姿が見える。どうやら七層へ来て帰りに茂君に手を出したらしい。ダーククロウから逃げる間にワイルドボアもひっかけた。そういう可能性が高いな。やっちまったなぁ。


 戦闘の真っ最中らしい彼らを先に見ながら、上空に居るダーククロウをちょっとずつ削り茂君への道を切り開いていく。身軽な文月さんにドロップの回収と背中のバッグへのダーククロウの羽根の収納をお任せする。


 バツッ、バツッと雷撃で空中のダーククロウを一羽ずつ焼く。届けばいいので出力はそれほど大きくなくていい。高いところに居るため空中を羽根がいつもよりゆっくりとした速度で舞い散っていく。舞い散る光景は美しいが拾いに行くのが面倒なのでまとめてこっちへ来てほしいのが本音だ。


 そう思っていると五羽ぐらいの編隊がまとめて向かってきた。そのほうが効率が良くてありがたい。五羽を全て巻き込む形でサンダーウェブを放ち、一気に黒い粒子へ還す。全部が全部こう来てくれたら一発なんだが、思うようになってくれないのが人生というものだ。


「一羽一羽対応するのは面倒ですね。さっきみたいにまとめてかかってきてくれませんかね」

「茂君に手を出して初手で決められない時点でそれは諦めるしかないな」

「手を出したって事はあんまり潜りなれないパーティーなんでしょうかね」

「もしかしたら六層を通り抜けて七層に来るのに慣れてないかもしれん。それなら帰りにうっかり手を出してしまっても説明がつく」

「なるほど。怪我人出てなければいいでしょうが」

「出てても出てなくてもあまり近寄りたくは無いな。あの様子だと相当爆撃を受けてるはずだ」


 茂君にたどり着いた。茂君には五羽ほどのダーククロウが残って止まっていたのでまとめて雷撃で吹き飛ばし、ドロップを拾う。茂君から先を見ると、ダーククロウがパラパラと先に居るパーティーに向かって攻撃を繰り出している。


 手助けする事は一応模範的探索者としては助けるべきなのだろうが、フンまみれであることを考えると……うん、南無三。ちょっと離れて様子を見ることにしよう。


 どうやらワイルドボアは無事殲滅できているらしく、ダーククロウに突かれてはいるが肉体的には無事らしい。やはりスキルが無いとダーククロウ相手には苦戦するな。


 パーティーに近寄りながらパーティーに向かっているダーククロウを端っこから雷撃し、徐々に数を減らしていく。向こうのパーティーに追いつくころには茂らない君に追いつき、ダーククロウも処理が終わっていた。


 フン濡れであちこちをつつかれ、痛手を受けた探索者に追いつくことになった。


「ダーククロウに襲われてたみたいだけど大丈夫か? 」

「まさか全部来るとは思わなくて……ワイルドボアは先に倒しておいたので、ダーククロウは一匹ずつ倒そうとしてみたんですが、まさか全部まとめてくるとは。し慣れない事はするもんじゃなかったですね」

「六層の敵は基本的に一匹釣ると周辺まとめてリンクするんだよ」


 どうやら本当に六層のダーククロウの動きを理解してなかったらしい。彼だけだったら今頃ダーククロウまみれになっていただろう。フンの匂いがこちらにも伝わってくる。臭いが、ほんのりと枕と同じ香りもするような気がする。


 そういえば人間のう〇こもジャスミンの香りに近いものだと聞いたことがある。それと似たようなものなのだろうか。


「お騒がせして申し訳ありません。そっちに被害はありませんでしたか? 」

「こっちは大丈夫ですよ。こっちが被弾は……してないよね? 」

「私は大丈夫でーす。アイテム拾う係だったので」

「……だ、そうだ。そっちは災難だったな」

「ダーククロウどうやって倒してたんですか? 動き回ってるようには見えませんでしたが」

「それは……こうやって? 」


 両手の間に雷を発生させて見せる。文月さんも指先から水を出して見せる。


「スキル……やっぱりスキルが必要なんですか。あの数をスキル無しに倒す方法は何かないんでしょうか」


 失敗はしたものの、リベンジしたいらしい。その意気はよしだが俺も解決策は思い浮かばない。


「あの数はちょっと思い浮かばないな。五羽ぐらいずつなら、相手の軌道を読んで急降下してくる先に武器を置いておくことで勝手に斬られていってくれることで地上で戦うことは出来るが」


 こっちはスキルでなんとかなるからな。そこは装備の差……いやスキルの差か。


「しかし、酷い目にあいました。これでスキルに関する情報が無かったらくたびれ儲けでした」

「スキル? スキルがどうしたの」

「いえ、実は個人的……そう、個人的な興味でスキルが前にドロップしたのがいつか、何からどれが出たかってのを調査してるんです。それで、小西の七層には情報交換の場が有ると聞いて、そこなら情報があるかもしれないと思ってここまで来てみたんですが……」


 なるほど、つまりドロップ検証スレの人間か。確かに小西の七層には紙皿でやり取りしてるって内容はスレでも公開されてるからその情報を宛てにしてきたんだろう。


「あー、ドロップ検証スレの人ですか。お疲れ様です」

「……はっきり言ってしまうとそうです。ノートに書きこまれている内容を確認しに来たんですけど、何か情報が有ったりしませんか? 」

「個人情報は伏せておいてくれる……んだよね? 」

「ええ、それはもう、しっかりと。我々ドロップ以外には興味ないですから」


 純粋にドロップ情報を記録しているつもりなんだろう。なら何故ダーククロウに手を出した? と思わなくもないが、俺もダーククロウに初めて会った時はどうだったろうか。いきなり叩き落せるだけ叩き落そうとしてた覚えがある。人のことは言えないな。


「とりあえず、この飛び散ったドロップ品どうするね」

「助けてもらったのにドロップ権を主張するのはおこがましいので、よければお二人で持って帰ってください」

「そっか。じゃあ有り難くいただいておくよ。気を付けて帰ってね」


 そのまますれ違ってお別れをすることにする。あたりに散らばったダーククロウの羽根を素手で回収しながら、バッグに入れるふりをして保管庫。魔結晶もバラバラに散らばっているので拾いに行く作業が大変だ。


 五分ぐらいかかって周りを掃除し終わる。ゴミではなく貴重なドロップ品だ。ここも細かく稼いで行こうな。チリも積もれば何とやらだ。


「今更ですけど武器変えたんですね。ちゃんとレシートは取ってありますか? 」

「領収書は頭の中ってな。十八万もかかったし、ちゃんと保管してあるよ」

「そりゃまた豪勢な買い物しましたね。決め手は何だったんです? 」

「試し切りさせてもらってあまり違和感なく使えそうだったのが一つ、それから長くなったわりに重心があまりブレなかったのが一つ、それとこれがモンスター素材を利用してるらしい事だな」

「モンスター素材製の武器ですか。使い心地はどんな感じですか? 前より切れ味とか振り回しっぷりとか」

「気持ちよくスルリと斬れる感じかな。明らかに切れ味は上がってる。それと前よりちょっとだけ細身になったけど耐久力は十分ぽい。良い買い物をしたと思ってる」

「そうですか……私も新しいモンスター素材を使った武器とかに変えるべきなんですかね」

「モノがあればそれもアリじゃないかな。財布の中身はそこまでカツカツではないでしょ? 」


 駆け寄ってきたワイルドボアを試しに斬ってみる。うん、ワイルドボアの頭がい骨ごとスパッと切れる感触が伝わる。試し切りにはちょうどいい感じだ。


「前はグラディウスでドスッと無理やり捻じ込んでいた感じが、そのまま刃を向けるだけで相手から切れて行ってくれるような感触だ。これはやはり良い買い物だったと思う」

「じゃあ今日はオーク相手に試してみる感じですか」

「そうできるといいね。今日は十二層か十一層で試し切りの時間になると思う」

「一発でスパッといけたらいいですね」


 そんな会話をしながら七層への階段に着いた。この移動時間も短縮できれば……いや、そうなると茂君を倒してダーククロウの羽根を回収するという大事な換金作業が出来なくなってしまうな。せめて帰り道でも楽できると良いんだが、そんな都合のいい仕組みが果たしてあるのかどうか。


 もしあるならダンジョン探索はもっと奥深くまで進んでいるんだろうな。探索者トップ層はどういう兵站を敷いて挑んでいるんだろう。興味はあるが、ついていこうとは思わない。自分のできる範囲で探索をする、これは変えるつもりはない基本スタンスだ。


 何より二泊三泊となるような行程では文月さんの時間を拘束してしまう。長休みに入ってしまえばそれも出来るようになるだろう。彼女の頭の出来の良さと夏季休暇によるかな。さすがに一人で十層を突破するのはまだ自信がない。徐々に【雷魔法】の練度は上がってきているのは実感できているが、それでも手数を増やすにはまだまだ修行が必要だな。


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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 兵站というか、極地法で進むんでしょうね。 そのための七層十四層でしょう・・・
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