283:雨天でもダンジョン内なら関係ない
朝だ。今日は朝から雨だ。今日一杯続くらしいがダンジョン内なら天候の影響も受ける事は無い。こんな天気の悪さでも目覚めは抜群に良い。ありがとうダーククロウ。
昨日の残りのおでんとご飯を温める。今日はトーストと目玉焼きは無しだ。キャベツは刻んだ。おでんと米とキャベツの千切りという色々と間違った気がしないでもない組み合わせだが胃腸には良さそうな朝ごはんになった。
昨日の鬱屈とした考えは何処かへ吹き飛んでしまった。そもそもずっと一人だったんだからこれからも一人だったとしても何の問題も無いな。探索者なんてしてると出会いの場も無いだろう。探索者限定婚活なんてものがあれば……いや、そんなところにオッサンが参加しても浮いて誰にも話しかけられずに終わるのが関の山だろう。
そもそも婚活が成立するほど探索者居るのか? 調べたところで、そして婚活があったところで参加するつもりは一切ないが、同業者がどのくらい居るのかは知っておいたほうが良いだろう。ダンジョン庁のサイトとか見に行けばあるかもしれん、調べてみよう。
昨日の残りを全て食べ終えた後おでんの汁を飲み干す。これで塩分もうまみ成分も体内に取り込んだ。栄養バランスはばっちりだ。
さて、早速ダンジョン庁のサイトにアクセスして探索者の数を調べる。去年のデータだが、登録者数換算で五十万人ほどは居るらしい。今はもうちょい増えてるか。
日本の人口が一億三千万人だとして、二百六十人に一人は探索者になろうとしたことがある。そう考えると多いな。俺が通っていたころの高校だと学年で一人という所だ。その内探索者として仕事を続けている人が何人いるかを考えると、さらに少ない数字になるだろう。少ないほうの数字に入っている俺としてはこの登録者数はあんまりあてにならないなと感じる。
小西ダンジョンの周辺人口でも三十万人ほど居るわけで、その中で換算すると探索者は千百人ほどいる計算になる。とてもじゃないがそうはみえない。多分資格だけ手に入れてそのまま一回も潜らなかった人やいざ潜って怪我してすぐ辞めた人、ゴブリンが倒せなくて諦めた人、思ったより稼ぎが少なくて辞めた人、色々と理由があるだろう。
小西ダンジョンではなく清州ダンジョンに潜っている可能性もあるが、清州ダンジョンの人口カバー範囲はさらに広い。それでも何千人もの探索者が同時に潜っているという様子は無かった。五パーセントぐらいしか探索者として生き残ってる人は居ないと考えていいだろうな。そのぐらいなら大分納得できる数字だ。
後はダンジョン庁預かりになっている自衛隊員は全員探索者証を持っているだろうから、そこで結構人数を稼いでいる気がしないでもない。定員が何名かは解らないが、結構な人数が専属ダンジョン探索者として日々ダンジョンに通っているだろう。
先遣部隊はどの辺を走っているんだろう。ちょっと興味あるな。たしか二ヶ月ぐらい前に高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンの階層を一つ掘り下げたというニュースが流れていたのを思い出す。何層なんだろう。二十一層まで民間開放されてるという事を考えると、Bランク以上の部隊でもっと深い階層を潜っているんだろうなぁ。
DランクからCランクに上がるまでにそこそこな時間を使った。CランクからBランクに上がるにはもっと厳しい基準があるんだろう。もしかしたらスキルを持っていることが前提だとか、多大な貢献……たとえば小西ダンジョンを黒字に持っていく助力をするとか、そういう条件があるかもしれない。
ランクを上げる条件はまた機密事項なんだろうけど、小西のギルマスがうっかり漏らしたりしないかな。それとも小西のギルマスでも知らされてない条件かもしれない。カマをかける相手としては少々物足りないかもしれないな。
んー……まて、そこまで急いでBランクになる必要はあるか? 無いよな。しばらくの間Cランクとして活動をしていく事を念頭に置いたほうが良いな。焦ってまた怪我する事を考えれば落ち着いて日常をダラダラと探索者している分で十分な稼ぎが出ている。
ふと、時計を見る。調べ物をして考え事をしていたら九時前になってしまった。開場から乗り込むつもりだったのに……文月さんに連絡を入れる。
「今日来るんだっけ? 寝坊ではないけど出遅れた」レインで連絡を送っておく。
その間に着替えて洗い物を片付け戦闘服に着替えながら、昼食にする予定のレトルトシチューとご飯をレンジで熱くして保管庫に投入。小走り気味に家を出る。忘れ物は……ナシ!あったとしたらその時は日帰りで帰ろう。
小西ダンジョンに到着したのは十時半だった。一時間半のロス。もったいない事をしたかな。スマホを確認。
「先に四層でポーション集めてる」よし、じゃあ先に着いてるな。急いで追いかけよう。
入ダン手続きを済ませるとスライムちゃんたちに目もくれず二層まで走る。遅刻の分は何らかしないといけないな。覚悟しておこう。二層に入ると先に入った人たちが綺麗に片づけてくれているのか、モンスターと出会わずに潜ることが出来た。今日はとてもありがたい。
三層のゴブリンも四層までの道には居ない。何パーティー居るかまでは解らないが人の気配は感じる。側道から一パーティー探索者が出てきたので、会釈をして通り過ぎる。向こうもこっちの顔を覚えているのか、会釈してくれた。
三層の階段を下りてここまで一時間。四層に着いた。いつもなら六層で茂君をシバキ倒している時間だな。トランシーバーで連絡を入れる。
「こちら安村、お待たせ どうぞ」
「こちら文月、五層側階段で待つ どうぞ」
四層にちゃんと居たようだ。早速階段に向かうが、やはり三層と違い四層は人気が無いのだろう、そこそこの数のゴブリンとソードゴブリンが行く手をふさぐ。
これも直刀の慣らし運転の続きという事でスルスルと切り飛ばしてはドロップ品に変えていく。装備を変えると気持ちが良いな。次に変えるとしたら防具か。機動性を重視しているのでゴテゴテとした装備は致命的になるだろうから、熟慮しないといけないな。
防刃ツナギではシールドバッシュなんかの鈍器攻撃には弱い。頭だけはヘルメットでカバーしてるがそれでは対応できなくなる日も来るか。鈍器といえば棍棒、棍棒といえばオークだ。
オークにぶん殴られた時に主にどうするかだな。青あざが出来る程度なら問題ないと言えば問題ないんだが、うっかりすると骨が折れたりするかもしれないし……でも正面から受け止めて問題ないなら今のままでもいいかな。問題が出た時に解決を図る事にしよう。
お、ヒールポーション出た。ここまででようやくまともな収入にありつくことが……まぁいいや。とにかく合流を急ごう。
階段まで三十分近く消費し、たどり着くと暇そうに休憩している文月さんを発見する。
「何してたの? 安村さんにしては珍しい遅刻だけど」
咎める口調ではなく、柔らかい感じの、なんかあったか? ぐらいの口調で文月さんが訊ねてくる。
「ちょっと探索者がどのくらい居るのかとか、そういうのを調べて考え事してたら時間を忘れてた、ごめん」
「まあいいけど。今日は泊まり? それとも帰る? 私はどっちでも行けるよ」
「とりあえずどっちでも行けるようにはしてきた。忘れ物はない……はず。あ、後布団屋行ってきたからそっちの取り分があるけど何時渡す? 」
「帰り際でお願いします。探索中にうっかり落としたりするかもしれないので」
「解った。覚えておく……つもり」
指さし確認をしなかったので忘れ物はあるかもしれない。とりあえず飯だけは確実に入れてきた。飲料水はある。後は現地調達でなんとかなりそうだな。
「まずは七層へ行こう。何事も無ければそのまま仮眠して下層へ、何事かあったら今日は日帰りで」
「おっけー。じゃあそういう感じで」
無事合流出来た。先に七層で待っていてくれても良かったんだが、五層六層でフラフラしてるよりも四層でみっちりソロ活動をしたほうが効率が良いと判断したんだろう。俺でも同じ判断をすると思う。
「で、ポーションのほどは? 」
「三本ほど回収できたよ。予備の予備として持っとく? 」
「えっとね……今予備が六本あるかな」
「じゃぁ要らないかな? 」
「念のため予備を八本にしておこう。俺もさっき一本拾ったんだ」
「じゃあ私が予備として二本預かっておきます。離れたところで負傷するとかそういう可能性もあるだろうし」
予備はあるに越したことは無い。俺が行動不能にならない限りは保管庫の中身を渡して治療することが出来る。本当は二人とも使えればいいんだが、そこまで贅沢は言えないからな。俺が六本、文月さんが二本ヒールポーションを持ち合う事になった。
五層に降りるといつもの光景。さっさと飛ばしていこうと目で訴えると文月さんも頷く。駆け足でワイルドボアにこちらから接近し処理するとそのまま走り抜けて十分ほどで六層の階段にたどり着いた。ステータスブーストをかけていると持久力にもブーストがかかっているんだと思う。このお肉を抱えながら地上で走れるかといえば多分無理だろうからだ。ステータス万歳。
思えば三時間も歩き続けて七層までたどり着くのも相当体力を使っているはずなんだがダンジョン内ではそれほどの感覚がない。これもステータスの影響なんだろうか。
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