281:買い物・ぶらつき・おでん
仮眠を取った。仮眠であってもダーククロウの布団は俺に気持ちいい目覚めと体調の良さを自覚させてくれる。素晴らしい。ダーククロウありがとう。アラームを掛けなかったので自然な目覚めだった。
時刻は午後四時。どうやら五時間ほど眠っていたらしい。最近五時間ワンセットで眠る事が多くなった気がする。本当は七時間ぐらい眠っているほうが体には良いらしいが、目覚めがばっちりならきっと大丈夫なんだろう。
やる気があるうちに細々とした家事を済ませ、部屋の掃除、トイレの掃除、風呂の掃除を済ませる。毎日掃除するという訳ではないが、数日放置すると徐々に埃が蓄積していく。埃だけを範囲収納できないかな……と試してみたら埃だけは収納できた。ただ、髪の毛とか床に染み込んだシミなんかはさすがに収納できないらしい。閾値はどの辺にあるんだろう。
家事にも応用できることが分かった上で髪の毛も収納範囲に入らないか試行錯誤する。結果的に上手くいったが、結構いろんなところにいろんな毛が動き回っている事が確認された。思わず頭髪を気にするが、縮れ毛がほとんどなので多分脇とかそういうところからコッソリ逃げ出した奴を確保しただけだったようだ。
家事が一息ついたところで、買い出しのメモを見る。インスタントコーヒー。やはりこれが無いとダンジョンで力が入らない。優先的に購入しなければならない一品だ。後、十四層に行く事を考えてあのテントをもう一つ買っておこう。準備は早いほうが良い。
という訳で何時ものホームセンターに買い出しに来た。隣のスーパーでコーヒーは買おう。アウトドアコーナーへ行き、前回のテントを見つけ購入する。
「お客様、間違いでなければ以前も同じテントを購入しておられませんでしたか? 」
どうやら店員に顔を覚えられていたらしい。なじみの客になってしまったか、それともこのテントを買うのは珍しいのか。どちらにせよロックオンされてしまったことは事実か。
「ダンジョンで使うのにもう一つ欲しくなったんですよ」
「なるほど、探索者の方でしたか。ダンジョンの中ではペグが打てないらしいと聞いたのですが本当ですか? 」
「本当ですね、地面に穴をあける事すらできないので、自立式テントじゃないと使えないんですよ」
「なるほど……だったらこのテントは猶更いい選択だと思います。ちなみにこれはお一人でお使いに? 」
「基本的にはそうですがたまにテントの中で談笑したり荷物置き場にしたりもするので、そこそこのスペースが必要になってきまして」
店員は中々余所へ行かない。暇なのか? しばし談笑する時間が無い訳ではないが、俺的にはとっとと買って帰りたい。あ、ついでにバーナーの燃料タンクの予備買っとこ。
「他にキャンプ用品で足りない物はありませんか? 具体的な内容があれば必要な商品をご紹介できると思うのですが」
「そうですねぇ……今のところは大丈夫だと思います。細々とした補充品はありますが……エコバッグとかインスタントコーヒーとか」
「インスタントコーヒーでしたら今日の特売品になりますのでお好みのメーカーさんのものがあればそちらへどうぞ。エコバッグは……色々あります。お好きなデザインのものをいくらでもどうぞ。容量や色合いや素材で用意してございます」
「そうですか。ちょっと色々回ってみようと思います」
「ありがとうございます、今後ともごひいきに」
やっとどっかへ行ってくれた。正直なところを言えば邪魔だったが、コーヒー特売の情報は有り難い。早速見に行こう。嗜好品コーナーへ行くと確かに特売していた。俺の愛飲するメーカーの奴だ。余所で買うより二十円ぐらい安い。ちょっと余分に買い込んでおこう。
後はエコバッグだが……二十枚ぐらい一気に同じメーカーで揃えたいな。そのほうが保管庫の中が片付くし、一々品物にあうエコバッグを探す必要もなくなる。丈夫で大きめの奴を選んでおこう。多少かかるがこの費用は経費にしてしまえるだろう。
後、今思いだしたが方眼紙だ。十三層の地図を作る時役に立ちそうな気がする。十三層の構造を考える限り迷路になっているだろう。その際、進んだ量と進んだ向きを記録するには多分必要そうな気がする。念のために用意しておくことは、やっぱりほしかったと思うよりは無駄になっても良いから購入しておいてしかるべきではなかろうか。
まずコーヒーは私物だからレシートを別にして会計。その後テントを含めて会計。でこっちは仕事用と。私物レシートはそのままゴミとして捨てられるが経費レシートは保管庫へ収納。これでよし。
ホームセンターを後にすると隣のスーパーへ。コーヒーは買ってしまったのでそれ以外の消耗品を補充する。たまにはココアを飲みたくなるかもしれないな。これも保管庫に放り込んでおこう。後今日の夕飯何にしようかな……たまには自分で作るか。
何作ろう。最近肉が多いから……おでんとか作るか。おでん汁の素買って適当に具材を買って煮込んで……卵も入れよう。大根、ちくわ、こんにゃく、はんぺん。はんぺんは二種類ぐらい入れよう。煮崩れするのでがんもは抜きだ。餅入り巾着をいれておけば炭水化物は取れる。後はウィンナーを入れればコクがでるかもしれん。
たまには米も炊くか……小さい袋の米を買ってそれを炊飯器で炊こう。さすがにカビていることはないだろうが、使う前に掃除しないといけないな。
よし、そうと決めたら行動だ。野菜は大根と……人参も輪切りにして入れてしまおう。そういえば牛乳を飲み切っていたな。賞味期限をチェックして長持ちしそうな奴を一本だけ買い物籠に入れておく。ココアが飲みたくなった時に要るからな。ササっと買うものを決めたら後は真っ直ぐ帰るだけ。
今日はたい焼きの誘惑に負けることは無いだろう。なんせ作るものも決まってしまっているからだ。おでんにたい焼きはさすがに合わない。おでんにお好み焼きは量が多すぎる。明日の朝もおでんの残りで行ける。これで完璧だ。パーフェクトといっていい。
無事誘惑にも負けず家に帰りつき、買った荷物を整理すると早速仕込みを始める。おでんの素があるとおでん作りの手間の半分ぐらいはもう終わってしまうから今日はお手軽おでんだ。
まず、久しぶりに米を炊く。炊き立てご飯はいつだって美味しい。おでんをおかずに米を食える人種である俺は幸せであると思う。米をさっと洗い炊飯器に入れて、水を投入して炊飯ボタン。たったこれだけで美味い米が食える日本人は幸せだと思う。
続いておでんの仕込みに入る。まず大根を下ゆでして柔らかくする。下茹でした汁は多分勿体ないんだろうが、アクが出ているし捨ててしまう。その後でおでん汁に投入。ゆっくり味しみ大根になってもらおう。つづいてこんにゃくだ。こいつも早めに茹で始めないと味を吸ってくれない。
適当に具材を一口大にしてしまうと煮込み具合に応じて随時投入。崩れやすいものは後に。ウィンナーは煮崩れしにくいのでを早めに入れて、おでん汁に更に味を加えてたっぷりうま味を吸ったおでんになるだろう。
卵は別で茹でてから投入。多少固ゆでになるが卵でたんぱく質をきちんととる。はんぺんでもタンパク質は十分取れるが、今日は肉の代わりだ。今考えればさつま揚げでも良かったか。
もち巾着も入れておでんの味に変化を促してもらう。後は時間をかけて弱火でゆっくり煮込みながら順次投入していく。
ご飯が炊ける頃に火から下そう。それまでは超弱火でぐつぐつと煮ておく。しかし、朝食に残ってはいいとは言ったが思ったよりも量が多くなってしまった。これは頑張って胃に詰めないと朝食通り越して昼食にまでいきそうだな。
米が炊けたので茶碗に盛る。おでんの具合は……よし、卵の表面にも出汁の色が付いている。十分味がしみているだろうな。火から下し、鍋ごと食卓へ。
今日はおでんと米だけのシンプルな夕食だ。シンプルだが量はあるし、炊き立ての米もある。胃袋は良い感じにそろそろ何かくれと警告音を鳴らしてくれている。
早速食べよう。まずは味しみ大根を二つ食べる。胃の中の消化酵素に働きかけてこの後ワシワシと食べるためにだ。うん、しっかり出汁の味がしみこんでいる。しっかり煮込んで正解だった。形は徐々に崩れつつあるが問題ない。
どんどん行こう。次は人参だ。これも柔らかく煮え切っている。続いてはんぺんを口に入れ、咀嚼し終わったところで米だ。事前に米でワンクッションしてからおでんを喰う事でおでん汁が米に若干垂らされ、その味で米を喰う。炊き立ての米に更に出汁がきいてうまい。
もち巾着もちゃんと米でワンクッションを置いて出汁を落としてから口に運ぶ。アチチ……味のしみたお揚げともちのバランスがまたいい。半分ほど食べ終わったところで卵へ行く。卵を半分に割り、そこに出汁をかけて黄身が少し溶け始めたぐらいで口に入れる。あ~幸せを感じる。鍋を一緒に囲む人が居たらこれはさらに美味しいだろうな。
鍋を囲む人か……今のところ俺には思いつかないが……いや、喜んで食べてくれそうな人は居るか。思いついただけでも幸せといえるだろう。なんか満腹になってきたな。このぐらいにして残りは明日の朝食に回すか。
器を替えると冷蔵庫の中へ。作りすぎた米はラップして冷凍庫へ。明日温めて食べよう。なんだか急にやる気が無くなったというか、元気がなくなってきた。なんだろう、寂しいんだろうか。しばらく鍋物は無しだな。四十で独り身という現実が襲い掛かってくるようだ。
そのまま気分が晴れることは無く、風呂に入ると早めに寝た。独り身という言葉が相当深く心に刺さったらしく、寝ている間の夢もあまり覚えていないが、すくなくともいい夢ではなかったことは間違いない。
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