277:田中と散策
二千百万PVありがとうございます。スランプ中ですが早めに脱却できるように色々してます。
おはようございます、安村です。現在午後五時ですがおはようございます。七層は常に朝なのでおはようございますでいいのだ。快適な目覚めをありがとうダーククロウ。今朝もお世話になったね、二重の意味で。
今日はソロでゆっくり九層を回る予定だったが、七層で田中君と出会い同じ飯を食い、そして一緒に出掛けることになった。小寺パーティーとは九層を何回か一緒に巡ったことはあるが、田中君とは初めてだ。
気持ちよく仮眠できたところでいつものストレッチとコーヒーの儀式を済ませる。一通りのお作法を済ませると、身だしなみは整え終わった。
メモ帳にしっかりここまでのドロップ品を書き記すと、エコバッグに羽根以外のドロップを収納して置いておく。こうしておくことでここから共闘する田中君とのドロップを分けやすいという一種の理由付けが出来るはずだ。
さて、今日の相棒である田中君を起こしにテントのほうに行く。すると田中君は既に出かける支度を整えていた。
「あ、おはようございます安村さん。ぐっすり眠れましたよ。良いですねこの枕、お値段以上の働きをしてくれるような気がします」
「だろ? 目覚めもバッチリでどことなく体調も良くなる」
「これに投資するのはありですね。僕もマイ枕を作る事を考えてみましょうかね」
「ここにあるのとは別で、自宅用にオーダーメイドしてもらった枕と掛け布団があるんだけど毎朝ダーククロウに祈りを捧げたくなるよ」
「さぁ、行きましょうか。安村さんとは初めてだから緊張するなぁ」
「気楽に行こう気楽に。ダンジョン歴で言えば田中君のほうが先輩なんだし気負わなくていいよ」
自転車が無かったので八層へ向かっては徒歩で行く事になった。田中君とは初めての共闘になる。彼の服装はさすがにツナギという事は無いが、簡単なベストタイプのアーマーを着込んで、厚手のだぼだぼデニムジーンズを履いている。おそらく、膝の動きを邪魔しない事が一番なんだろうな。ぴちっとしたタイプではなくかなり余裕のある作りをしたタイプだ。機動力を優先した装備としては無難なのではないだろうか。
そういえば俺はまだダンジョン歴二ヶ月。はっきり契約探索者として仕事をしている田中君のほうがダンジョン探索者としては先輩なのだ。ランクは……ランクは解らないな。聞いとくか。
「ちなみに田中君、D? C? 」
「どっちかというとDカップのほうが好みですね」
「おっぱいの話じゃない、探索者ランクだ」
「安村さんはCランクですよね。僕はDランクですから追い抜かれてしまいました」
「自力でオーク肉を手に入れて食べたくて……それで気が付いたらってとこかな」
そう、自分が狩ったオーク肉が食べたいから仕方なくCランクになった。というところだ。
「じゃあ、今は特に目標も無く潜ってる感じですか? 」
「厳しいところをついてくるなぁ。少なくとも俺自身は今これがやりたい! というものは無いんだよな。小西の十層も突破したし、十二層の地図だって最初に作ることが出来た。後はボスに会ってみたくはあるか。でもそれは俺が初めてやりたいという訳じゃなくて……とりあえず、これから何をするにしてももうちょっと強くありたいとは思ってる」
「純粋に金稼ぎじゃだめなんすか? 僕はあまり束縛されずに金が稼ぎたくてこの道を選んだみたいな所もあるんですけど」
「それは中期目標だな。昨日今日じゃなくてもうちょっと年月をかけながらやっていくって感じだ。とりあえず税抜きで老後のために四千万貯める」
「なんか急激に目標がオッサンじみてきましたね。引退するまでまだまだ時間はあるでしょう? さらに長期的目標はなんかあるんですか」
「やーほら、ダンジョンって永遠に存在すると決まった物じゃないからさ。それに探索者がもっと増えてもっと強くなって、探索がもっと便利になってきたらきっと俺の取り分はどんどん小さくなってしまっていくだろうし」
「先行者利益……というほど先行者でもないですが、そういうもんですか」
「そういうもんだと今は考えることにしてる。さて、田中君の動きを真横でじっくり観察させてもらおうかな」
八層の階段に着いた。ここから改めて共闘だ。
「任せておいてください。ソロで七層まで平然と通れるだけの実力はお見せしますよっと」
通い慣れたただ通り抜けるだけの道である八層。とりあえず戦闘を田中君に任せて背中から応援する。ドロップはポーターである俺の仕事だ。ドロップは全部テントに置いてきたから混ざる事は無いという事にしてある。
田中君はワイルドボアのターゲットを引き付けると順番に頭から後ろまで貫きそうな突きを放ってはワイルドボアを一発で処理していく。ついこの間四層三層で見せてもらった戦い方と同じで処理していくらしい。ふと上を見上げるとダーククロウが何羽か旋回している。こっちは俺の仕事だ。雷魔法でジュッと焼いていく。ドロップの羽根が舞い散る。これで首が痛くならずに戦闘できるだろう。
「便利っスね、【雷魔法】」
「こいつのおかげで十層を突破できていると言っても過言ではないからな。田中君は何か狙ってるスキルはあるのかい」
「買ってまで欲しい、という訳ではないですけど、【生活魔法】あると便利そうですよね。もう風呂も要らなくなるというか。完全に七層に籠っていられるのは有り難くなります」
ふと、バッグから探索・オブ・ジ・イヤーを取り出しパラパラっとめくって【生活魔法】の価格を見る。五千万。七層に住むためだけに家でも建てられるような金額を支払うのはさすがに趣味が過ぎるだろう。
「なるほど、確かに買ってまでは……というところだな」
「なんすかそれ、業界専門誌ですか」
「良かったらしばらく貸すよ、先月号だからもう読み終わったし」
「じゃあ狩りが終わって休憩する時に貸してください。もしかしたら何か気づきを得られるかもしれません」
探索業界紙の古い奴を七層に置いておくのもありだな……業界紙全てを置いておくのは難しいが、過去の号を暇つぶし用に置いておくのはアリかもしれない。田中君に貸すなら前の号だし、七層に放置しても大丈夫だろう。
ダベりながらもモンスターの少ない八層を歩き切り、木の上のダーククロウは無視していく。狩っていっても構わないんだが、田中君がいる以上バッグに突っ込む必要があり、そうなるとダーククロウの羽根の鮮度を保ったまま保管できないという俺が卸す品の美点を汚すことになる。それは取引相手に失礼だ。
この今取った羽根はどうしようかな……悩みながらも回収するだけは回収し、ワイルドボアと遊びつつ九層の階段に着いた。
「本番開始ですね。やっぱり最初は外側からですか」
「お互い無理のない範囲でちょっとずつ森に寄って行こうか。最初は三匹ぐらい相手にするのがちょうど良さそうだし」
「了解です。大まかな指示はお任せします」
その後、普段俺が使っているサインを教える。田中君は了解したようで、早速見つけたジャイアントアント四匹の群れに親指、四、二、と指示を出してくる。手を挙げて応え、こっち側に近いほうから二匹、早速新武器の慣らし運転に入る。
ジャイアントアントに最高速度で接近すると力任せに直刀を振りかぶって思い切り叩きつける。ワイルドボアの頭蓋よりは硬く、ソードゴブリンの剣よりは柔らかいジャイアントアントの頭は綺麗に切り取られて行く。頭部を失ったジャイアントアントはそのまますぐに黒い粒子に還った。この刀、やっぱり使えるな。
敵後方から酸の気配がしたのでサイドステップで回避。先ほどいた場所に酸が、おそらく百ミリリットルほどの量が吐き出され、地面を濡らし酸がかかった草が萎れて行く。
サイドステップから直進加速し、二匹目のジャイアントアントもまた頭から叩き切ると、これまた素直に切れてくれた。これはもうちょっと力を抜いても斬れる感じだな。力加減をセーブしつつ、一撃で倒せるよう無駄のない範囲を模索していくぞ。
田中君は瞬発力に関しては俺より上らしく、時々ブレる速さで接近してはジャイアントアントに体重を乗せた突きを放ってこれまた一発で仕留めて行く。あっちの武器も良いな、切れ味が特に良さそうだ。
「行けそうだね」
「行けそうですね。もう一歩踏み込みましょうか」
行けそうらしい。もう一歩森側で狩りを続けることにした。人差し指、四、二。お待ちかねのワイルドボアだ。こいつらがいくら出てくるかで田中君の今月のノルマがかかっている。一時間で六十匹ぐらい狩れるとホクホク笑顔になれるだろう。気合入れてかかってきて欲しい。
しかし九層から下のワイルドボアは全力で走り込んでくることが無いので、足元で威力を失ってかわいいかわいい死ねってやるほうが無駄がない。それは田中君も心得ているらしく、近づいてきてタックルされても威力がないことを解った上で体当たりされて、そのお返しに倒している。そんなほのぼのした雰囲気だ。
慣らし運転はもう少し続けよう。そして体が温まってきたら一周一時間のタイムアタックだ。
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