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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第四章:中年三日通わざれば腹肉も増える

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276:肉にチーズ。あと田中


 七層に着いたら自転車は無かった。そうか、無いか。無いなら仕方ない、歩こう。モンスターが出ない分やはりテントにたどり着くまで歩くのは暇な時間だ。ちょっと走るか。


 何時もならてくてくと背中を丸めて歩くところを走った。どうせゆっくり休憩するのだし、多少は疲れても問題は無いだろう。ちょっと汗をかきながらもテントにたどり着くと、自転車は一台あった。机のところにまっさらなノートの山とボールペンを箱で置いておく。これだけあれば一年ぐらいは余裕で持つだろう。


「ノート、ボールペン入荷。大事に使ってね 安村」ちゃんと書いておこう。


 ノートを見返してみるが、これといって大きな事件や話は無いようだ。無いほうが平和でいいのだが、たまには何かが有っても良い。


 テントに戻ると、スキレットとバーナーを出してウルフ肉を取り出す。そして保管庫からチーズを取り出す。味付けは……めんつゆでいくか。ウルフ肉をある程度の厚さに切るとめんつゆを投入し、その汁と共に表面を軽く熱する。ほんの少しだけ焦げ目がついたところで裏返す。その後しばし待って両面焼けている事を確認だ。


 めんつゆが香り立ってきたら更に上からチーズをかけて溶けるまでそのまま焼く。チーズが蕩け始め多少焦げ目がつく。焼けつつあるチーズの香りとウルフ肉の焼ける香り、そしてめんつゆの香りが同時に漂ってくる。ここまでは悪くないな。味のほうはチャレンジになるが、香りからしてそう悪いものではないだろう。


 充分に焼けたところでチーズとウルフ肉を絡めつつ火から下ろす。続いてパックライスを少量の水を加えて温める。温めるというより焼くに近いが、水分か脂分を含ませて熱しないとちゃんと消化されないらしい。最近知った。温めなくても食えるパックライスがあればそのほうが色々捗るんだが、仕方がない。ダンジョンで腹を下すようなことは避けなければならない。


 今までよく無事だったな俺……思い返してみれば、ちゃんと水分や油を吸わせたりしていたのでお腹が緩くならずに済んだんだろう。運が良い事だ。ここまでのダンジョン人生……というほど長くはないが、おそらくその中で二番目に幸運な出来事だろう。一番は言わずもがな保管庫だ。


 さて、そろそろ温まった頃だ。チーズが冷えて固まらないうちに食事にしてしまおう……視線を感じる。お前ひとりだけ良い飯喰らって羨ましいという視線を感じる。


 ……こちらを見ている探索者が居る。田中君だ。また昼飯をたかりに来たいらしい。仕方ない、俺の食い扶持が減るが分けてやることにしよう。ノートの書き写しで働いてもらった分はおこぼれに与る権利はあると思う。


 ちょいちょいと手で呼びつけると、持ったウルフ肉を分けてチーズもちゃんとかけて、パックライスの二つ目を開けて温め始める。


「いいんですか? 」

「そこまで熱い視線を送っといていいんですか? は無いと思うよ」

「すいません、いい匂いがしたんでつい」

「まあいいよ、田中君には紙皿をノートにまとめるという仕事をしてくれたし、そのお礼という事で」

「ごちそうになります! 」


 紙皿で思い出したが、今日はアレを持ち帰らなきゃいけないんだな。バッグに余裕を持たせなければな。その分も考えての慣らし運転にしよう。


 温めたてのパックライスを片手に豪快にウルフ肉を食い始めた。美味い、美味いと言いながら食っている。もしかしたら、普段ウルフ肉やボア肉を納品してる分食う機会は少ないんじゃないだろうか。


 俺も冷めないうちに食おう。やはり肉とチーズは相性がいい。最高だ。マーベラスだ。タンパク質の暴力でもって横っ面をはたかれている気分になる。脂身が少ないウルフ肉を選んだのも良かった。肉の脂がチーズの味わいを邪魔しないのがいい。


 トロトロのチーズを味わうためにもう一度火にかけて少し焦げたところでまた引き上げる。焦げチーズがまた美味しい。


 チーズは全部使いきって贅沢な一皿目にしてしまったので、追加で肉だけ焼こう。今度はボア肉を素で焼く。ステーキ風にしてまためんつゆで焼いて食べる。もうめんつゆさえあれば世の中のキャンプ料理の五割位はうまくいくんじゃないかと思ったりもする。残りのうち三割は万能中華調味料とカレー粉だ。


 後はクレイジーソルトなんかも捨てがたい気がするな。今度導入してみよう。肉を焼き終わり半分を田中君へ。残りを俺へ。美味そうに食べてくれる分作りがいがあってよろしい。


「ふむ……」

「どうしたんですか、少し考えこんで」

「いや、文月さんといい田中君といい、美味しそうに食べてくれる相手にふるまうとなんだか満足感が上がって俺の料理も美味しく感じるような気がする」

「それは有り難い一言ですね。これからも毎回美味しそうに食べる事にします」

「何回たかるつもりなんだい君は。そういえば、食べた後はどうするの? 仕事? 地上? 」

「今から寝る所ですね。寝て起きたら六層と八層回って少しずつ肉を集めようと思ってます」


 ふむ……なら田中君を誘って九層というのも有りだな。肉は全部あちら持ちにすれば早く仕事が終わってお互いに利益があるだろう。


「一緒に九層来るかい? 新しい武器買ったんで慣らし運転がてら回ろうと思っていたのだけど、そちらの取り分は基本的に肉で分け合う形でどうだい」

「え、良いんですか? それは助かります。今月ちょっとノルマが多めでですね。いつもほどゆっくりしていられない所だったんですよ」

「こっちもいざという時のカバーが出来る人が居ると助かる。今日は文月さんいないしさ、一人で回るのも少し寂しいところがある」

「そういえば、お二人って付き合ってるんですか? 大体ダンジョンでは一緒に居ますけど」

「いや、付き合ってないが。俺が文月さんの都合に合わせて潜る様にしてるだけで、今日だってほら、ソロだろう? 」


 俺と文月さんが付き合う……たしかに人より距離感みたいなものは近いとは思うが、そこまで思ったことは今のところないぞ。


「ん~……良い関係だとは思うんですけどねぇ」

「あんまり人をくっつけたがるのは良くないと思うよ。そのせいで関係が崩れる事も有るというし」

「それもそうですね、今の質問は忘れてください」


 文月さんと付き合う……犯罪臭がする、というほど幼い容姿をしている訳でもないが、ほぼ二十歳違うんだぞ。いや恋愛に年齢は関係ないとも言うけど、彼女の両親とのほうが年齢が近い訳で、なんだったら最悪同級生という可能性だってあるんだ。


 文月さんの家に挨拶に行ったら昔の同級生をお義母さんという呼ぶ羽目になった、なんてことは……割と考えたくないレベルの悪夢だな。ただ、それを理由に関係を壊すのも違うとは思うんだが。う~ん、そういうケースも考えておくことは必要だが、それを年取った者同士で勝手に決めてしまうのも彼女の意思を尊重してないと思う。


 何とも難しいケースに足を突っ込んでしまったものか、と考えてる間にチーズが少し冷めてしまったようだ。いかんいかん、これは今考える事じゃないな。手が止まっているのを見て田中君がバツが悪そうにしている。


「すいません、なんか変な方向に意識を向けさせちゃって」

「これはとても率直な質問で田中君を怒ったり嫌な気分にさせたいわけじゃない質問なんだけれど、俺と文月さん、傍から見てどう見えてるんだろう? やっぱりパパ活みたいに見えてるんだろうか? 」


 こういう機会じゃないとおそらく聞けない質問だろう。あえて田中君にぶつけてみる。


「そうですね、いい関係だと思いますよ。関西だったら舞台に立って一漫才出来ると思います」

「芸人として大成できるかどうかを聞いた訳じゃないんだが」

「そのぐらい違和感がないって事です。年齢差とか世代差とかそういう間にある壁みたいなものは本人が考える事であって、他人がどうこう言う事じゃない、と思います」

「田中君……結構大人な考えできるんだね」

「安村さんは僕を七層のマスコットか何かと勘違いしていませんか」


 正直弄っても良い七層のオプション品だとは思っていた。考え方を改めよう。彼は立派な一探索者だ。そういう対応を今後はしていこう。


「……良い意見をもらったと思う。もうちょっと食べる? 」

「是非お願いします。在ればチーズの追加も」

「チーズはさっき使い切ってしまったが肉はマシマシにしよう」


 いつもと違う空気になったので場を元に戻すため、またウルフ肉を一パック開けて焼き始める。ウルフ肉を二人で食べると満足してその場で息抜きをする。


「ごちそうさまでした。とてもいい食事を楽しむことが出来ました」

「お粗末様。さて、じゃあ三時間か四時間ぐらいしたらテントまで起こしに行くよ。それから九層へ行こう」

「解りました。美味い飯も食えたし、今日は良い夢が見れそうです。今日は枕もありますし」


 どうやら枕が空いていたらしい。うん、それはとてもいいものだぞ。


 田中君は自分のテントへ帰っていく。俺も片づけをしたらコーヒー淹れて仮眠を取ろう。トーストでスキレットの表面をきれいに拭きとると証拠隠滅をし、保管庫に入れる物は全部入れて掃除して片づけてエアマットを膨らませると横になる。田中君はソロじゃないときはどういう動きをするのか、少し楽しみだ。



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― 新着の感想 ―
佐藤のゴハンだけは災害時に温められなくても食べられるように作られているそうです。
[良い点] おもしろかった。とっても。 [気になる点] ふふん(ノーコメント)
[一言] めんつゆひとり飯って漫画が先日テレビドラマになりましてね やはりめんつゆは全てを支配する! カレー粉には負けるけどさ
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