273:買い物とスキル実験
まっすぐ家に帰り、今日受け取った代金の内、六万七千八百円を別にしておく。ダーククロウの羽根代金としての文月さんの取り分だ。三割は渡すという取り決めになっている。
この辺はなあなあで済まさずきっちりしておくことがきっとお互いのためになる。文月さんも文月さんでちゃんと収入として計上しているだろうし、本来なら俺と文月さんの間でも領収書や請求書をやり取りする必要があるんだろうが今のところそういうやり取りはしていない。
本来パーティーで等分するところを俺が税金申告して多めに支払わなければいけない所を見越しての三割請求だと思っている。細かい計算まではよく解らないが、多分そういう所を考えての三割なんだろう。
確定申告の時期になったら真面目に文月さんに相談しよう。とりあえず今までに渡した金額と日付はメモ帳に書いてある。このメモはきちんと残しておかなければいけない奴だ。リングから外してクリアブックに入れて保管しておく。税金のかかってきそうな金額や内容はとにかくメモして、買い物をしたレシートは保存してクリアブックに入れて冷暗所に保存して置く癖をつけるようにしてきたつもりだ。
探索者稼業一年目、抜けや忘れは色々あるだろうし最初から完璧に出来るとは思えないので、思いつく限りのものを残し書類を残し、実はあれも経費で落とせました、みたいな事があっても良いように細かいところまで残しておくほうが良いだろう。逆もあり得るか。
今のところ思い付く限りで探索者向けの必要品として経費に落とせそうなのは交通費と装備品、テントなんかの備品と……生理用品も経費に入るのかな。食費は入らないだろう。とりあえず経費として計上できそうなレシートは全部クリアブックの中に入れてある……おっと、さっき買った直刀のレシートも忘れずに入れておかないとな。十八万円は大きいぞ。
さて、もう一度車を出して買い出しに出かけるか。出かける前に買い出しリストを作ってそのまま帰りに寄ってくるほうが良かったが、最近車も運転してなかったので練習がてら丁度いい。
買い出しリストを作りながら保管庫の中身を出し入れしていて気づいたのだが、レトルト食品の中にレンジ専用のものが混じっていたことが発覚した。危ない危ない、次はよく考えて買うものを選ぼう。
温めなおせる湯沸かしでも使える奴のほうが利便性は上だな。それに他人に見られた時の事も有る。何故こんなところで暖かいレンチンレトルト飯を? と言われたら返答できない、気を付けよう。
さて……これは二回に買い分けて、レシートを別にしたほうが良いな。食料や家で使うものは自腹、探索で使うものは経費だ。七層に置いておくノートとボールペンは……経費で良いだろう。それに細々と補充してを繰り返すのも面倒だ、まとめてノートを五冊ぐらい、ボールペンを箱で買ってしまおう。
メモに買い物をする内容をまとめ直す。メモに書いてあることと頭に浮かんでいる事、そして補給物資の事と色々書き出していたら結構時間がかかってしまったな、これは布団の山本に行く前にやっていたら一時間かかってしまったかもしれない。結果的には問題なしだ、うん。
買い物リストを手にして、自転車で三十分バスなら十五分、自分で飛ばして十分の距離にある、スーパーとホームセンターが併設されている場所に向けて車を出す。ガソリンは……まだあるな。
飛ばして十分コースを選びホームセンターに着くと、探索用品の買い物をまず済ませてしまう。今日の夕食ぐらいは最悪買い忘れても何とかなるが、探索用品の欠乏は問題が発生する。重要なことは先に済ませてしまうのが物事をスマートに進めるためには必要だ。
メモを片手に品物を取りこぼさずに買っていく。ここに無ければ隣のスーパーにあるだろう。無事に買いたいものはそろっていたので一通りの物をそろえて会計を済ませる。仕事の買い物これで終わり! 次は私用! 早速スーパーへ向かう。夕食何にしようかな。
店の入り口をくぐると甘い匂いが俺の食欲を脳の奥から呼び戻し、胃袋を締め付け始めた。あのたい焼き屋だ。ここではたい焼き以外に名前を呼んではいけない両面を焼いて間に餡子を挟んだ物、みたらし団子、そしてお好み焼きを同時に販売している。
たい焼きと名前を呼んではいけないアレを同時に販売するという蛮勇を見せつけてくれているが、どっちかに限定する事も出来たんじゃないかと思う。多分金型が安く余っていたから導入した、みたいな店を作る時の都合があったんだろう。
中身はどちらも餡子とカスタードが選べる。以前は抗いがたい本能に己の理性が打ち破れて購入してしまったが、今日はその手は食わないぜ。俺はお好み焼きを購入すると伝えて、中へ買い物へ出かけた。ここは買い物をしている間に焼いておいて、温かいのをそのまま受け取れる仕組みになっている。便利。
夕食が先に決まったことで中で悩む時間を短縮することが出来た。後は付け合わせを選ぶだけで済む。が、まず先に食パンだ、何は無くとも食パンと卵だ。俺の朝の活動を保障するための貴重なエネルギー源だ。
冷蔵庫の中の野菜は現状ほぼ使い切ってしまって野菜室は空っぽだ。手の込んだ料理をする予定は今のところないので、千切り用のキャベツと人参とジャガイモがあればまぁいいだろう。肉は……肉はいまのところ新鮮な肉が三種類ある。
鶏肉は冷凍庫に入っているし、牛肉を食べたいということがなければとりあえず肉には困らな……ん、牛肉か……急に肉じゃがが食べたくなってきた。総菜コーナーに無いかな。あった。夕飯はお好み焼きと肉じゃがだ。自分で作るよりも春雨が入っている分お得に感じる。
こんなところか。今回は意外と少ないな。水もコーラも在庫はあるしレトルト類も補充する……そうだ、レンジ用じゃないレトルトを仕入れるんだった。メモにちゃんと書いたのを見たのに忘れそうになっていた。
丼物のレトルトを何種類か見繕い、今度こそ無事にメモ帳の内容を消化した。会計を済ませるとスーパーに併設されている百円ショップが目に入り、同時に飾られている百円じゃない時計が目に入る。
そういえば時計も電池で動いてるんだよな……あれ、自分の【雷魔法】で動かせたりしないかな。でも高電圧掛け過ぎて壊れたり……テスターがあれば自分の出力を計測することが出来るな。いっちょやってみるか。時計は使ってないのが家にもある。それで試すか。
出入口の店でお好み焼きを受け取り、もう一度ホームセンターへ。ホームセンターでテスターを探す。あった。千ボルト位まで計測できる奴を購入。これは……これは経費じゃ。自分の探索者としての能力を証明するための道具だから経費じゃ。そう決めつけてテスターを購入。これで計測準備はばっちりだ。
家へ帰る。夕食にはちょっと早い時間だが、お好み焼きは保管庫に入れておけばまず冷めるという状態にはならない。安心してゆっくりできるな。
安全運転で家に帰ると、まず買ったものの整理。それからレシートを区分けして、経費はクリアブックに。それから普段使わない部屋の壁掛け時計を外して持ってくる。テスターを開封。
念のためテスターの計測レンジは一々変更する手間を防ぐためにデジタルのオートレンジモードで動くものを買ってきた。お値段はそれなりだった。また誰かに無駄遣いだと怒られそうだな。
テスターを両手に持ち、よわーく、よわーーく【雷魔法】を両手の間にかけ始める。すると七十ボルトぐらいまで針が動いた。自分の出力をさらに下げる。三ボルトまで下がったところでイメージを固定化する。この感覚を覚えておこう。
次は電流表示モードだ。何アンペア流れているかを検知する。乾電池の無負荷の場合の容量は……何アンペア流れてるんだろう。実験を中断して調べてみると大きくても三百ミリアンペアほどらしい。意外と高いのか?
同じだけの電圧をかけて……まてよ、そもそも【雷魔法】に電圧と電流の区別がつくのか。圧と流の違いをどう体に教え込めばいいのだろう。ちょっと手を止めて考える。
電圧を高低差、電流を流れる量とイメージする。高低差のイメージをさっきのやり方でやるとして、電流量は……糸で例えてみるか。電圧が糸の太さ、電流が糸の強靭さ。こっちのほうがイメージとして掴みやすいな。
指先でピリピリっと電流が発生するような状態はかなり高電圧高電流であると言って良いだろう。なら、そこまで行かないような、目では見えないレベルの小ささで【雷魔法】を使っているイメージを持てばいいな。
改めてテスターに向かい合い、電流計測モードにしたテスターを両手に持つ。出力はさっきと同じぐらいで。すると五百ミリアンペアという数字が出てきた。乾電池よりちょっと高いな。このまま時計を持ったら壊れるかもしれない。糸の強靭さを最も弱いものとするイメージを作り上げる。そこそこ細くてちぎれやすい糸……ちぎれやすい糸……よし、できたぞ。
今の電圧電流のイメージのまま、時計の裏側の電池ボックスから電池を抜くと直接指で触れる。そしてさっきのイメージを流す……お、時計が動き始めたぞ。実験は成功だ。【雷魔法】でも市販されている電力は作ることが出来る。ただしかなり集中力が必要だ。
これで時計ぐらいなら動かせることが分かった。俺も地球の電力消費量の増加における二酸化炭素排出量の削減に貢献することが出来るな……ただ、この実験に意味があったかどうかは定かではない。
せっかくなら扇風機のコンセントを握ったら自動で動き出すような、そういうもっと大がかりのものをやりたいな。今度は安物のサーキュレーターででも試してみるか。
俺の雷魔法は電化製品も動かせる。それが解っただけでも収穫だ。もっと出力が大きいものでも対応は可能だろう。ただ、交流と直流についてはまた今度調べることにする。なによりも、色々スキルをこねくり回していたら……腹が減った。
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