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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第四章:中年三日通わざれば腹肉も増える

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270/1219

270:で、あの件結局のところは? 高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョン十三層攻略の様子


 モンスター情報を見終わった後でそれ以外のいろんな情報を二人で閲覧して回る事にした。ドロップアイテムの利用方法だったり、ギルドから先、中間業者を通り越して最終生産物としてドロップ素材を活用している会社だったり、いざ探し始めると多岐にわたり情報量はとても多い。


 三勢食品の項目もあった。三勢食品側から提示された資料を読む限り、三勢食品自身も結局どの工程でどの材料がどのように加工された結果スライムのドロップが確定するのかはまだ掴めていないらしい。レシピ提供先となった欧州の食品メーカーとやり取りをしつつ、どこまでの作業を複製すればスライムのドロップが確定する商品が製造できるかを模索しているようだ。


「結局なんだったんですかねぇ。あのスライムのドロップ確定事件は」

「確定するに足りうるとした情報を提供した側としても不思議だ。もしかしたら、だが」

「もしかしたら? 」

「世界中数多い探索者の中で初めてスライムを餌付けしようとしたのがこの地方の人で、たまたまそこにあったのが三勢食品のカロリーバーバニラ味で、たまたまスライムのお気に入りとなった」

「仮説三段論法ですね。それで? 」

「で、スライムは俺が見ている限り個々の行動の差異はありつつも、一定量の集合的無意識みたいなものを保持している。もしかしたらすべてのモンスターがそうかもしれない。それが世界中のスライムに共有された結果、三勢食品のバニラバーがスライムに好かれる世界が出来上がった、というのはどうよ」

「夢があるのかないのか、壮大なのか陳腐なのか解りませんね」

「おそらく最初に真剣にダンジョンに潜る事になったのは自衛隊員か制止を振り切って入っていった恐れ知らずかどっちかだろうけど、自分を攻撃してこないスライムに対して一種のペット的な感情を持ってしまう事はあるだろう? 戦場をうろつく犬みたいに」


 頭の中では紛争地域で破壊された街中で餌を探してうろうろしている犬の映像が映し出されている。その犬に街を占拠した部隊の外国人が見つけて、自分のレーションを分け与えて餌付けしようとするようなイメージだ。あれがダンジョン内で行われたという妄想で物事が進んでいる。


「なんとなく考えている事は解りました。でも、バニラバー食べる前に誰かがその辺に捨てたゴミとか普通に食べてそうですよね。もしパチンコ玉を先に消化しててそれが美味しい! となってたらどうなってたんでしょう? 」

「その時は鉄球作ってる会社が大儲けしてたんじゃないかな。ダンジョンの考えてる事、ましてやスライムの思考回路までトレースできるわけじゃないからなぁ。なるほどこれが人間の食べてる食事か、美味しいじゃないか……お礼にドロップをあげよう、みたいに考えてるかもしれないしそうじゃないかもしれない」

「結局のところ解ってるのは結果だけってことですか」

「事象の解明には専門家の意見が必要だな、ダンジョン学者とか。テレビで適当な事を喋ってギャラ貰う人じゃなくて、真剣に科学的にダンジョンに向き合おうとしてる人」

「その意味ではスライムを大増殖させたという自称研究者は真摯であったと言えるのでは? 」

「真摯であったが紳士ではなかったかもな。ほら、ここに」


 検索をかけた先の情報には、原因と思われるスライム増殖現象を発見したあの自称研究者の簡単な個人情報が載せられていた。スライム大増殖に至った経緯とその後の行動、ダンジョン庁に捕縛されるまでの流れと現在どうしているか等、おおよそプライベートギリギリアウトのラインを反復横跳びしていた。


「うん、この人で間違いないと思うよ。んで、実際に行った方法を公開すると真似する馬鹿はCランク探索者でも出るだろうから極秘扱いになっている、と」

「清州みたいにスライムが慢性的に不足しているダンジョンでは効果的なのでは? 」

「そうは言うがな……スライムに囲まれすぎて装備溶かされてしまう人とか、七層との往復が途切れてしまうとか、途中で増殖反応を止める方法とか、安全にスライムを増殖・運用させるには時間がかかると思うんだよな。そしてそれには彼の協力が必要だろうし」

「もうしばらくは大増殖は起こらないって事ですか。ちょっと寂しいですね。あのお祭り感は割と楽しかったですし」


 お祭りと言えばお祭りだ。今でこそ一日で数十万稼いで帰ってくるようになったものの、あの頃は一日六万円稼ぐだけでも嬉しかったな。現実ベースで考えても、八時間働いて六万円稼いで帰ってくるのは相当な高給取りだ。探索者やっててよかったな。


 たとえば今日だと……二十四時間で六十六万、時給で二万七千円ほど。高給取りがここに居るぞ。しかし強くなったとはいえ、地上ではただのおじさん、ただほんのちょっとだけ一般人より強いかもしれない程度だ。


「さて、十三層十四層の情報を集めるか。十二層ではオークの棍棒投げにさえ注意していれば後は九層から十一層と手持ちの情報は変わらないようだし」

「そうですね。十三層は……映像見る限り人工物っぽいところですね」


 動画で十三層に潜る様子が公開されている。何処のダンジョンの十三層なんだろう? あ、書いてあった。ここが噂の高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンか。高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョン十三層の録画された映像が流れて来た。


 持ち込まれたカメラはスマホらしく手振れがそこそこあるが、こんなところにまでプロ仕様のカメラを持ち込むのはよほどのパーティーじゃないと難しいだろうし、最近のスマホは下手なカメラよりも出来が良くて映画の撮影にも使われていると聞く。


 なるほど、確かに人工物で彩られ、照明までご丁寧に据え付けられている。誰かがここを作ったとしか思えないような……いや、ダンジョンが自然発生するというのは建前上の事で、実際は何処かの何かが作っているんだろうけど。


 そのまま石造りの迷路が進んでいき、やがて画面上に二体のスケルトンが映し出される。カメラの前に立つ探索者……モザイクがかかってるから誰が戦っているかまでは判別できないが、それぞれの得物それぞれの戦い方でスケルトンに向かっていく。


 対するスケルトンも、攻撃が来たら盾で受けたり弾いたり、人間らしさが出てきている……スケルトン固有のものなのか、それともここから先のモンスターは全て知能が高いのかまでは解らないが、探索者のほうが素早い動きでスケルトンのスキをついて肋骨を殴り、奥にある核を破壊してスケルトンを黒い粒子に還していく。


 他にも頭がい骨だけをすっ飛ばして……どうやらスケルトンには目が無いが頭がい骨に視覚はあるようで、頭を探しに行こうとしたところへ一撃を加え倒したりしている。ドロップが落ちているのでこれは召喚されたスケルトンではないらしい。


 見慣れた魔結晶……大きさはオークと同じぐらいかな? これが確定で落ちるようだ。他のドロップは今回は無かったらしい。アイテムを回収すると横へ行ったりグルグル回ったりと、十三層が迷路めいたものであることを示す映像が流れて行く。


「あの位の動きなら十分対応できそうですねぇ」

「もうちょっと素早いかと思ったがそうでもないらしい。あれならステータスブーストすれば先手を取れるな。ただ核を一発で破壊するのはちょっと無理だな。昔ソードゴブリン相手に戦ってたみたいに剣を弾いてその隙に懐から一発……それから核にもう一発……二発は要るか」


 動きを見て自分がどういう動作をすればより効率的に戦えるかを相談しながらも動画は続く。続いて三体編成のスケルトンが出てきた。スマホのカメラが続いて戦闘の様子を撮影する。どうやら撮影しているパーティーメンバーは四人居るらしい。スマホを誰かが持っていて、残り三人で一対一、という感じの場面だ。


 一人が剣で、一人が短剣、一人が槍。さすがにガントレットは……居ないか。短剣だとリーチの面で問題が出ないだろうかと心配だったが、素早い動きでスイスイとスケルトンの動作を読んでは回避しスケルトンの懐にあっさり入り込むと一撃で核を破壊してしまった。凄いなこの人。


 ※真似はしないでください※と注意書きが入った。ちょっと真似はできないかな。いやでもステータスブースト使ったら同じことは出来るんじゃないかな。この状態でブーストしてるかどうか解らない。もしかしたら映像がスロー再生されている可能性だってある。


 ステータスブーストを使っていても不意を突かれると怪我をする可能性はある。文月さんでそれは理解した。ならいくら早く動く自信があるとしてもほどほどにしないといけないな。能力の過信は不注意につながり不注意は事故につながる。こんなところで事故を起こしても保険会社の担当員は飛んできてくれないのだ。


「真似しないでくださいね」


 先に釘を刺される。行けそうな気はするんだがなぁ……


「善処します」



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― 新着の感想 ―
【善処】 《名・ス他》 適切に処置すること。うまく、かたをつけること。 私では上手く表現出来ませんが、会話の前後を見るに善処は相応しくないでしょう。 自重とか、他にどんな言葉があるかな。
[気になる点] 「善処します(やらないとは言っていない)」 手づかみコア破壊が一番速そう
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