265:第四回十層通過復路
二千万PVありがとうございます。五月ぐらいまでに一区切りつくと良いなと考えながら続き作ってます
十層に上がって早速ステータスブーストを無理ない範囲で限界まで引き上げた後、早速戦闘態勢に入る。カサカサカサ……とジャイアントアントのおみ足の音が大量に聞こえる。親指、九、六。
三匹を射出で打ち抜いて奥の三匹を同時に相手取る。この速さを維持できるなら一対三でも全て対応しきれる。噛みつきに来ているのが二、酸を浴びせようと構えたが味方が近づいたのを見て取り止めたのが一。
酸を吐かれるのは厄介なのでそのまま手前の二匹を放置して奥のまだ戦闘態勢の整わない一匹を狙う。こちらに対して無防備にしていた一匹は頭をグラディウスに貫かれ真っ先に黒い粒子に還る。振り向くと二匹に向かって近接、一撃、二匹目撃破。もう一撃、三匹目撃破。ドロップを確認して範囲収納。
一戦目は危なげなく勝てた。次はもう一匹余分に相手してみよう。一対四になってもなんとかなるかもしれない。徐々に実力を上げて保管庫に頼らなくなることは自己の成長という事を考えても悪い事ではないはずだ。
人さし指、六、三。早速次が来た。癒し枠のワイルドボアだ。突進してくるわけでもなく、ゆっくり噛みつきに来てくれるので対応する時間もドロップを拾う時間も短くて済む。
速足気味に九層への階段へ向かうが、やはりエンカウント率は高く、数も多い。何回か通った後で徐々に数が減っていく事も有るんだろうか。それを検証するには時間が足りない。
親指、八、五。一匹を射出で対応し、残り四匹の内二匹を雷撃で減らし、その残りを近接で対処。一対四ならスキル込みで行けるな。むしろ最初の一匹すら雷撃でなんとかなったかもしれん。
徐々に射出を使う回数を減らしていこう。雷撃のほうが体感使用コストが高いが、十層でもし誰かとすれ違う事になった場合言い訳がきかん。
親指、八、五。奥側の三匹を雷撃で仕留め、手前二匹を近接で仕留める。ドロップを範囲収納でまとめて手元に引き寄せる。これも人が見てない所じゃないとできないスキルだ。こんな所で人と出会う可能性は低いが、こっちが戦闘に夢中で気づけなかったという可能性はゼロじゃない。
次々に来るジャイアントアントとワイルドボアを黒い粒子に還しつつ、一歩でも早く前へ進んでいく。正直しんどい。これはRTAやってるのとあまり変わりがないな。精神的に負荷が高いだけRTAよりも難しさは上に感じる。
続けざまにモンスターが来るおかげであんまり進んで居ないような気がする。早く通り抜けたいのは山々だが、うっかりリンクして更に大量のモンスターを相手にするのは避けたい。着実に近寄ってきたものを処理してゆっくりだが前へ進む。
十五分が経った。本当に半分も進んだのだろうか。そう思いたくなる。毎回思っている気がする。が、少なくとも階段は周りには無いので進んでいる事だけは確かだ。まるで豪雪吹きすさぶ中を手探りで進んでいるような気分だ。とりあえず半分進んだと思っておこう。
人さし指、六、三。癒しタイムが始まる。この楽に倒せるワイルドボアの間に歩く距離を稼ぐ。一歩でも前へ行こうと試みる。人差し指、七、四。連続でワイルドボアだ、これは運が良い。移動距離が稼げる。
親指、九、五。雷撃で三匹吹き飛ばすと残りの二匹を引き付ける。二匹とも酸を吐く体勢になったので飛んでくるルートを先読みして回避。回避しながら酸を収納し投げ返す。投げ返された酸はジャイアントアントにヒットし、ジャイアントアントの表面をジュージュー焼きながら溶かす。
黒い粒子の塊である所のモンスターが溶けるという現象がよくわからないが、スライムも体内で何かを溶かすことが出来るんだから問題ないんだろうと納得しておく。
人さし指、八、四。今回はワイルドボアが多めかな? と感じる。いつもは蟻が七、ボアが三という感じだったが今回は六四ぐらいの感覚がする。
そこから更に五分経過。遠目に階段が見えてきた。後十分もかからないはずだ。親指、九、五。五匹の内三匹を射出で仕留めて残り二匹を近接で仕留める。時間的にそろそろスキルが使いづらくなってくるころだ。射出も織り交ぜながら戦わないと厳しくなるだろう。
ちょっとずつ眩暈に近い症状が出始めてくる。もうちょっと持ってくれるとありがたい。射出でお茶を濁しつつ、近接戦闘に影響が出ないように雷撃を抑えめにする。
人さし指、八、四。やはりまだ問題なく十層を攻略するには力が足りない。もっと鍛えないとな。腕力も精神力もスキルの使い方も。四層ソロマラソンはまた続けて行こう。
その後五回の戦闘を無事に切り抜け、階段にたどり着くことが出来た。疲労がたまり始めているし眩暈もちょっとずつひどくなり始めた。今回は若干多めの戦闘だったな。
文月さんのほうを見る。若干顔色に変化が表れ始めたらしい。どうも帰り道は行きよりきつめの戦闘であることは間違いないようだ。
戦闘を続けて最後と思われるジャイアントアントの集団を殲滅すると、そのまま階段へ駆け込む。肩で息をしながら階段を上りきると、九層へ無事に到着する。
「ふぅ……疲れた」
「休憩が必須ですね。眩暈が徐々にし始めて危ないところでした」
「行きよりきつかったな。事前にしっかり休憩取らなければ危ないところだったかも」
「そっちも眩暈ですか? あんまり射出を使ってないように見えましたが」
「スキルを十全に使うって意味では射出は効果的だが、徐々に使わないほうにシフトしていきたい。何より人目を気にせずに【雷魔法】スキルだけを大手を振って使えるのは俺にとってもメリットだ」
「範囲収納も出来るだけわからないように、ですか」
文月さんは保管庫をできるだけ使わずに戦おうとしている俺の思考をちょっと読んだらしい。
「それもある。保管庫に頼る場面は徐々に減らしていきたい。そういう意味では十層は実践の場として魅力的だな」
「しかし、ドロップも大漁に出ましたね。これは査定でホクホクできるのでは」
「そうなるかもしれないな。でも範囲収納は便利だからつい使っちゃうんだよな」
「それも徐々に減らしていく方向で? 」
「戦闘に余裕が出来ればアイテムを拾う余裕だってできるはずだ。そうなれば後はいかに一対多でうまく戦闘をこなしていくかで自分の力も付いてくると思う」
さて……今のところいくらぐらいの収入になるかな。休憩がてら計算してみる。……どうやら過去最高の実入りは期待できそうだ。ここまででもかなりの戦闘をこなしたが、その分の成果はあったらしい。
「地上に戻ったら楽しみにしておくといいぞ。とりあえず十五分ぐらい休憩かな。その間警戒はやっておくよ」
「じゃあゆっくり休ませてもらいますね」
その場で胡坐をかいて水を飲みカロリーバーを要求してリラックスモードに入ったらしい文月さんを横目に、モンスターがいつこっちへ来てもいいように気を張り巡らせておく。このぐらいなら消耗の内には入らない。
ステータスブーストを一旦OFFにして通常の空気感覚に戻す。落ち着いたらもう一度ONにし、青りんごバーを齧りつつストレッチしながら周りを見張る。階段周りはモンスターが湧きにくいとはいえ来ない訳ではないからな。
ここはまだ九層だ。ジャイアントアントもワイルドボアもわんさかとはいわないがそれなりに出てくる。うっかり休憩中に酸が飛んで来たら大惨事になるだろう。
現在午後十一時。七層に戻ったら零時半というところだな。今日はしっかり動いたので五時間ぐらい仮眠取ってそれから朝一でダンジョンを出るような感じになるだろう。その後も行動する予定があるので睡眠はしっかりととっておきたい。
十五分ほど休憩して英気を養ったところで九層から八層へ移動し始める。十層に比べたら温いとしか言いようがない九層だ、帰り道は急ぎ足でも良いだろう。スピードを上げながら三匹、または四匹と向かってくるジャイアントアントとワイルドボアを相手にする。
楽だ、楽すぎる。十層を通り抜けたからこそより味わえるこの温さ。やっている事はほぼ同じだけれど、襲ってくる数が少ないおかげで気楽に行動でき、精神的負担が少ない。精神的負担が少ないという事は消耗も少ない。消耗が少なければその分休憩を取らなくても行動が出来る。
さっき休んだばかりだからというのもあるが、気力に満ち溢れている。帰り道にも何か美味しいポイントは無いかと探すことは出来る。一口に森と言っても同じ形の木が複数並んでいる訳ではなく、様々な枝っぷりを見せつけてはくれている。
例えばたった今通った場所の一番近くの木にはジャイアントアントが潜んでいる事が多い等、言い始めれば終わらないぐらいの観察が出来る場所でもある。後二十歩歩けばモンスターに出会いやすいポイントに来る……ほらきた、親指、三、一。
鬱蒼と茂る森と一口に言っても気にするところはいくらかあり、そこにモンスターが潜んで居そうかどうかまで考えたらいくらでも解説する場所は出てくる。
そしてこの先の木には洞があって時々ワイルドボアがはまっているなんてこともあるかもしれない……あ、いたわ。えい。よし楽に肉を手に入れたぞ。
何事もなく九層を狩りながら抜け、八層への階段を上る。さわやかなサバンナの風……風吹かないんだよなダンジョンの中。ただ湿度が急に下がったおかげで快適な気分にはなった。
しばらく人が来てない証拠に七層までの階段の道中に居るワイルドボアとダーククロウは湧ききっていたが、ただ四十分の時間をかけて十匹少々のワイルドボアと数羽のダーククロウを相手にする時間で終わった。思い出すことも思い返すことがあるでもなく、只時間だけが過ぎ去っていった。
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