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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第四章:中年三日通わざれば腹肉も増える

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262:回 2/3




 再び十二層を回る。今のところお互い傷を負ったりとか足止めに失敗して一対二の状況に持ち込まれたりとかはしていない。順調だと言える。


 オークがしばしば襲ってくるのを無事に切り抜けてはいる。十二層は十一層よりも合計モンスター数が少ない分楽に感じているのだろうか。油断は禁物だが、余裕がある事は良い事だ。


 と、考えているとオーク五体の団体さんの登場だ。今まで出なかったのが若干不思議な所だが、出てしまったのは仕方がない。こちらの雷撃で二体を足止めしてその場で無理やり座り込んでもらう。文月さんも【水魔法】で足を切り落として動きを止め、さらに奥の一体に向かう。


 が、【水魔法】で足止めをしたオークが棍棒を投げるといういつもと違う行為を始めた。


「避けて! 」


 文月さんに緊急で声をかけるが、オークの棍棒が当たるほうが早かった。文月さんの左腕に文月さんぐらいの太さの棍棒が当たる。意表を突かれたらしく文月さんの体勢が崩れる。それでも残った右手で目の前のオークを処理すると、攻撃手段がなくなった棍棒を投げたオークに向かって攻撃を始める。


 オークに棍棒を投げるという攻撃パターンがあったことに驚いた。やはり痺れさせるほうが確実なのか。それとも両腕を飛ばすか。それより文月さんは無事か?


 文月さんの顔には苦痛の表情が見える。手早く目の前のオークと痺れてもらっているオークを全力で処理すると、文月さんの援護に入る。さすがに片腕では力の入り具合が厳しいらしく、痛みを我慢しながらめった刺しにてやっとのことで倒せたらしい。ドロップを拾うのを後回しにし、文月さんに駆け寄る。


「大丈夫? 折れてない? 」

「痛いし痺れてちょっと力が入らないですね。折れてるかどうかは解んないです」


 強がれる分まだ大丈夫なようだな。手早くドロップを範囲収納すると文月さんの肩を抱えて比較的安全なほうへ運ぶ。抱えるときにも少し痛がっていた。


「ちょっと触るよ」

「あいたたた……もうちょっと優しく」


 触った感じ骨は折れてないようだ。医者じゃないから詳しくは解らんが折れてたらもっと悲鳴を上げるだろうし打撲といったところだろうな。


 文月さんは棍棒が当たった部分を左腕を服から出すと冷静に観察し始める。腕は大きな青あざになっている。外観からでは内側がどうなっているかまでは俺の目ではわからない。多分文月さんの目でもわからないだろう。


「ステータスブーストしててこれですから、してなかったら完全に折れてたかもしれませんね」

「やってて良かったステータスブースト」


 とりあえずヒールポーションを渡そうとするが、どうしよう。ランク1をまず飲ませてみて治るかどうか確かめるか、ランク2を試すか。


「一万円治療コースと四万円治療コースどっちにする? 」

「えーと? ……あぁそういうこと。贅沢に四万円コースにしようかな」

「じゃあはい。とりあえず患部に塗っても効果あるかもしれない」

「なるほど、経験者は語る、ね」


 文月さんは俺から受け取ったヒールポーションランク2を患部に塗りたくった後、残った液を飲む。すると文月さんの表情が一瞬にして五種類ぐらいに変化した後、元に戻った。


 文月さんの腕も、三十秒ぐらいたつと出来ていた青あざも綺麗に引いていく。前にも人が飲んでいる様を観察したことはあったが、不思議なもんだな。


「……こんな味だったんですね、ヒールポーション」

「今度大事な時に風邪ひいたらキュアポーション試してみるかな」

「十層切り抜けるのにも今完璧に治療しておくほうが良いと思ったので贅沢コースにしましたが、もったいなかったですかね」

「調子はどう? まだ痛む? 」

「いえ、それがピタッと収まりました。さすがに四万円コースは効きましたね」

「そうか。で、どうする? まだやるかい? 」

「まだやる。今飲んだ分元は取らないと。と、その前にカロリーバーください。急にお腹が空いてきました」


 俺よりメンタルの切り替えが早い。凄いな文月さん。俺だったらしばらくオーク拒否症に陥る所だったかもしれん。見習おう。カロリーバーを渡しつつ文月さんに尊敬のまなざしを向ける。


「階段を見つけるのもそうだがお返しは利息をつけてくれないと割に合わないな」

「そうですね。肉を殴られた分は肉でお返ししてもらいましょう」


 それからの文月さんの気合の入りようは凄かった。オークが出るごとに【水魔法】をかなりの威力で撃ち、オークの両腕を棍棒ごと切り飛ばしたり首の切断に成功させたり、さすがにオークを倒すたびに咆哮を上げたりはしなかったが、動きが二段階ぐらい増したように見える。


 文月さんが奮闘する分だけ進む時間も短くなり、二つ目の角に差し掛かるころ、階段が見えた。


「角と角でしたか……どっちに進んでも変わらなかったかもしれませんね」

「もしかすると怪我をすることも無かったかもしれん」

「あれはあれでいい経験だったという事で。もしかしてその経験を積ませるためにグラディウスはそちらを選んだ? 」

「こいつにそんな甲斐甲斐しい神様が宿っているとは思わないが……文月さんが落ち込んでいない事のほうが嬉しいところかな」

「ソードゴブリンにマチェット捻じ曲げられて落ち込んでる人とは違いますから。いつか怪我する事は覚悟してましたし」


 なるほど、参考にされていたのか。それならそれでいいや、過ぎたことは振り返らないでおこう。とりあえず地図に階段、十三層側と明記して角を閉じる。これで地図の半分……必要な部分としては全部書き終わった。後は追記データとしてモンスターのグループ・数をメモに記しておこう。


「さて、あと四十個ぐらい肉を持って帰るのがお仕事だが、十一層と十二層どちらで集めるべきかな」

「このまま十二層回ってその後で考えましょう」

「よし、じゃあそこを目標に安全第一で行こう。五体来たら? 」

「確実に両腕斬り飛ばした後で考える! 」


 ……だいじょうぶだ、たぶん。


 一抹の不安を感じながら足取り軽く先へ行こうとする文月さんを追いかけることになる。実際の所文月さんはケガする前よりもより慎重に、そして確実に戦っているように見える。怪我の功名という奴かもしれん。


 こちらも手を抜かないよう、オークに今までより強めの雷撃を落とすことにした。棍棒を投げてくるという戦闘パターンがある事が解った以上、中途半端に痺れさせるだけではまずい、という教訓からだ。


 三分に一回、三体から五体とのオークもしくはジャイアントアントとの遭遇を繰り返しながら、二十五分ほどかけて最後の角に着く。無事に地図を完成させるためにはあと一辺を巡らなければ。つまり我々は移動する点Pである。


 これまでの予想から、また二十分ほどかけて移動する点Pは正方形とみられる角ABCDの間を線分AB・BC・CD間を戦闘時間含めそれぞれ約二十分かけて移動してきた。つまりこれから移動する線分DAの間も二十分ほどで移動し終わる事になるだろう。


 戦闘する回数は予想七回。最低保証二十一匹ってところか。全部オークだったとして拾えるお肉の確率は五個。移動をもう少し早くするか内側を歩けばもうちょっと多く手に入るかもしれない。が、油断してさっきみたいにならないようにしないとな。


「ふと思ったんですが、ここのオーク、十一層のオークより強くありません? 」

「う~ん……言われてみれば戦闘パターンに変化があったな。棍棒投げるにしても十一層でぶつけられててもおかしくなかったんだよな。なんだろう? 五匹以上のグループの場合戦闘スタイルが変化するとかなのか? 」

「かもしれませんね。試しに十一層でぶん投げるかどうかテストしてみます? 」

「回るペースと敵の出るペースを考えるとどっち回っても変わらないというか、ジャイアントアントが出やすいだけ十一層のほうが回りやすくはあるんだよな」

「じゃあ十一層に戻って残りのお肉を集める方向でどうでしょう」

「そうしようか。無理に十二層で戦う理由は……ないな。ジャイアントアントが出てほしくないモンスターという訳でもないし、どっちも美味しい」


 モンスター密度がそう変わらない以上、安全策を取るためには十一層で戦ったほうが良いだろう。ついでに本当に十二層以外でも棍棒を投げてくる奴が居ないかどうかは試しておいて損はないはずだ。ヒールポーションの在庫はある。痛い目に合うのはあれだが必要な検証だろう。


「さて、十一層に戻るため我々線分上を動く点Pは頂点Aに戻ろうか」

「……探索しながら何を考えていたか大体わかってしまいましたが突っ込まない事にします」


 十二層残りの行程を肩の力を抜いて突き進む。オークは足音が大きめだからすぐわかるが、それにかき消されてジャイアントアントが忍び寄ってる事も有るので注意はする。


 と、目の前にジャイアントアント五匹。手前から順番に雷撃で潰しつつ酸はきっちり避けて被弾をしない。五匹とはいえジャイアントアントではもう相手にならなくなってきた。


 ドロップを拾いまた進み、ジャイアントアントと会ってはジャイアントアントを斬り、オークが現れてはオークを斬り、余計なことを考え付くことも無く二十分集中した狩りを終えて十一層への階段まで戻る。


「十一層に行く前にちょっと休憩しましょう。ちなみに今何個? 」

「二十八個だな。目標の六割ってところだな。十一層を二周ぐらいすれば目標の五十個まで集まるんじゃないか」


オーク肉五十個の目標を立てたのをちゃんと覚えていたらしい。水分とカロリー……とくに文月さんはヒールポーションを使った分余計にお腹が空いているだろう。カロリーバーを渡す。


「これ、ヒールポーションダイエットって出来ないですかね? お腹が空くって事はそれだけカロリーを消費したことになりますよね」

「ハンガーノック起こしそうで怖いな。減量には王道が一番だ」

「よく食べて、よく動かす? 」

「そんなところ。蓄えた贅肉を消費しに上へ戻ってぐるぐる回ろう。回っただけ有り難いお布施が増えるぞ」

「ですね。今日は地図が作れただけでも収穫ですし」

「十二層初回到達特典は……良い経験をさせてもらったって奴かな」

「それは金銭に代えがたいものをもらいましたね。ちゃんと使った分のヒールポーションは返してもらいましたし」


作者からのお願い


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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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[良い点] メンタルつよつよ系女子 [一言] 何故か動く点Pさん
[一言] 筋肉は脂肪より1.2倍ほど重いという 仮に体重が多少増えても「太った」というより「引き締まった」と言うべきよね
[気になる点] おっちゃん、とは? この地方での表現? 世代特有の表現?
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