259:第四回十層通過
誤字報告毎回ありがとうございます。
準備は出来た。早速十層へ降りよう。ステータスブーストを全開にして己の肉体と精神の限界に挑戦する。階段を降りると森がざわつき始める。早速の戦闘の合図でもある。
親指、八、五。手近な二匹を雷撃で吹き飛ばすと、残り三匹が近寄ってくるのを待って近接戦闘に入る。一対三なら保管庫から射出しなくても対応できる。合計が十匹になると流石にスキルの使い過ぎを懸念する事になるため射出を使う。
真っ向からジャイアントアントとぶつかり合うと、首をはね落としそのままスピードを殺さずに二番目のジャイアントアントへ向かい、二連続でヴォーパルバニーならぬヴォーパルおじさんと化す。
保管庫で射出するほうが雷撃よりも燃費が良いのは体感で分かっている。いずれ逆転する事があるかもしれないが現状はそうなっている。眩暈起こすまで使い続けたとしても射出なら二百発ほど同時に打ち込まない限りは大丈夫という経験がそれを物語る。
ドロップを拾うとそのまま階段のほうへ速足で向かう。危険と分かっている場所に留まるよりも次々に進んでその先で戦闘になるほうが終わりの合図である階段が近づくだけ楽になるからだ。
ものの五十メートルほど歩くだけですぐにお代わりが来る。次はワイルドボアが八匹だ。人差し指、八、四。これはとても楽だ。癒しだ。何せ六層よりも速度が乗ってない分厄介さがない。
ササっと近寄ってササっとグラディウスを捻じ込んでササっとドロップを拾って元の道へ戻る。
更に五十メートルほど歩くとジャイアントアント九匹とエンカウント。親指、九、六。ゴブリンソードを射出してジャイアントアントをまず手前から二匹を確実に潰しておく。
その後は四匹を相手取る。まだ射出無しに相手取るなら七匹が限界か。手前から迫ってくるジャイアントアントと密着し、その間に雷撃で離れてるほうに向かって打ちこむ。近接してる間は酸が飛んでこない事を利用した小技だ。
順番に三匹とも確実に黒い粒子に還すと、盾にかじりついていたジャイアントアントに止めを刺す。あまり褒められた戦い方ではないかもしれないが盾が持つ間安定性は増す。盾を腕から振り払う力は……俺に比べてそこまでではない。
ドロップを拾って元の道へ。また五十メートル歩いたら次が出てくるだろう。その間に呼吸を整えて聴覚を研ぎ澄ます。三回目だがやはり精神的な重さはまだ慣れないな。
親指、六、三。これは【雷魔法】無しでも対応できる。一匹ずつ確実に近接で仕留める。酸は飛んでこなかった。これは楽できたな。
ドロップを拾って元の道に戻り……を繰り返し、無言で二十分が経過した。前回よりはちょっと進みが早い。ドロップを拾わずにひたすら進むという選択肢もあるが、もしかしてスキルオーブ……という願いもちょっとあったりする。
それに範囲収納のおかげであまり近寄らなくてもドロップが拾えるからな。その辺の恩恵はきっちり受けておくことにする。
人さし指、八、四。これは楽に処理が出来る。半分休みのような時間だ。確実に一撃で葬るとドロップを拾いまた道に戻る。
まだ十層の密度に慣れないせいか、俺も文月さんも微妙なところで体に疲れが出始めている気がする。精神的にもまだかなぁという思いが生まれはじめ、色々ときつい時間が訪れる。時間的に見ても距離的に見てもそろそろ階段という距離だ、それだけの間持ってくれればいいんだ。
親指、九、六。四匹をゴブリンソード射出で始末すると二匹を相手に近接戦。例によって近接した奴をほっといたまま酸を打ち出せないように張り付いたまま、少し離れたジャイアントアントを雷撃で仕留める。張り付いてた奴は最後に首を落としてこの会戦は終了。
階段が見えてきた。後二回ほどの戦闘でたどり着けるかな。文月さんも気づいたらしく、頷きあう。
「降りるまでは気を抜くなよ」
「うぃ」
ジャイアントアントがまた来る。親指、八、五。三匹を射出で賄い、残り二匹は近接して仕留める。段々この流れに慣れてきたぞ。両手に剣を持っていても良いぐらいだ。
片方を刺しこんで放置したままそのままもう片方へ飛びかかっても良い。ゴブリンソードで代用できそうだな。強度も射出で折れたりしないあたりおそらく問題ないだろう。
文月さんの表情に若干の影が見える。もう後二戦ぐらいが限界か。ドロップを拾い終えると合流、少し早足で階段へ駆けつけるが、その前にもう一エンカウントだ。
親指、九、六。最後の最後だ、全部やってしまおう。飛びかかってくる全てに狙いをつけると範囲収納が出来る範囲に入った瞬間に射出。全部吹き飛ばしてしまう。
そのままドロップを回収すると二人階段に飛び込む。今回も突破は出来た。帰りはもう少し余裕を持って戦闘をしたいものだ。
十一層に降りても視界に入るものは変わらない。相変わらずの森マップだ、いや、森風マップと呼ぶべきだろう。これが鎮守の森なら中央には神社があるはずだが、いや実は何も無いんだよと聞かされている。なのでやはり森風マップなんだろう。
うまく十層を切り抜け、二人息を荒げながら十一層にたどり着き体を休める。水分を取り、念のためカロリーも取る。文月さんは【水魔法】で自分で水を出しながら水分を補給している。
「それ、かえって疲れたりしない? 」
「んー、最初の頃はそうだったけど今はそうでもない」
「そっか。水飲むために余計に疲れるぐらいなら保管庫から水出そうと思ったけど」
「冷えたのある? コーラがあるとベターかな」
要求されたのでいつものアイスバッグの中からコーラを出すと渡す。
「……やっぱり冷えてる奴のほうが疲れが取れる気がします」
「イタリア人は疲れたら炭酸飲料を飲んで疲労を回復した気になっているそうだ」
「気になって……実際の所は? 」
「解んないらしい。血行を良くして疲労物質を体から抜くとかいろんなこと言われてるが、疲労を物理的に取り除く手段は発酵食品だとも言われてるな。チーズとか納豆とか」
「ならお昼はちょうどよかったのかな」
そういえば昼にチーズ食べたな。まだ残ってるから帰りの七層で肉と一緒に焼いて食うかな。休憩で疲れをそぎ落としながらとれたところで周りを見渡す。
やはり十層に比べれば静かなもんだ。多少重量感の増した足音が聞こえるが、数は少ない。もうしばらく休んでても良さそうだな。
十五分ほど休憩し、お互い息を整え、栄養を取った、さてそろそろいくか。
「そろそろ準備はええかえ? 文月さんや」
「えーですよ安村さんや。で、どっち行きます? 十二層行ってみます? 」
「階段下りてから決めよう。十層みたいな感じでやばそうだったら戻って十一層へ行く。大丈夫そうだったら地図を作りがてら十二層を回る」
「それで行きましょう。楽しみですね」
「今までの経験から行くと、ジャイアントアントが減ってオークが増える感じかな」
早速歩きはじめると三分ほどしてオークが三体現れた。相変わらずの二足歩行の豚面だ。あれがあんなに美味しい肉に変化するとはとても思えない見た目をしている。あれが一匹三千円。百匹倒せば三十万円。ジャイアントアント二匹分と考えればお得感があるな。
早速オークが棍棒を振り上げて俺を殴ろうと向かってくる。きっちり小盾で受け止め、少し足元が沈むがダメージとしては無し。まだ持つなこの小盾。丈夫な奴を買っといてよかった。
受け止めている間に首筋にグラディウスを突き立て、グラディウスを伝わせて雷撃を放つ。そのままブスンという感じでオークは感電、そのまま黒い粒子に還る。まずは一匹。
残りの一匹も同じように攻撃が来たら受け止めるかバックステップで回避し、相手が棍棒を振り回して手元に引き戻す一瞬を狙って急所への攻撃&雷撃で確実に落としていく。
文月さんは細かく槍をブスブスと突き刺しては累積ダメージで倒す方向で行くらしい。オークの攻撃をひらひらと避けては隙を見て槍を突き刺す。段々動きが鈍くなっていくオーク。やがて力を使い果たしたのかオークは黒い粒子に還っていった。
オークを倒すのは手間から言えば……酸を飛ばしてこない分対応しやすくはある。ジャイアントアントよりも戦いやすいがタフだ。ジャイアントアントなら一撃で屠れるところを二、三撃ないし一撃プラススキルで一発打ち込む必要がある。
倒すまでの時間を見ればそう大差はない。つまり、三体ぐらいのオークなら一方的に狩れる。三匹目のオークを何度も切り刻み、今度は【雷魔法】を使わずに蓄積ダメージで倒す。オークは肉を落とさなかったが、魔結晶は落とした。
さすがにいきなりオーク肉とはいかないか。まあ焦らず行こう。時間とカバンのスペースは十分にある。十層を巡っていたさっきまでとは違い九層と同じかそれより少し遅いぐらいのペースでオークかジャイアントアントとエンカウントする。
オークと戦う感想はちょっとしぶといワイルドボア、あたりの認識であっているだろう。攻撃を棍棒で防ぐこともあればこっちの剣筋を読んで避けたりもする。ジャイアントアントほど真っ直ぐに突っ込んでくるわけでもないのでやりにくさがずいぶん上がる。
それでも一撃プラス一発で処理できる範囲ではあるので、やはり質より量ということだろう。オークが二体同時に来るぐらいならなんとか対応できそうだ。ジャイアントアントだと量が問題だ。
というか、十層が忙しすぎるのだ。ランク試験に使われるのにちょうどよいからとかそんな理由で配置されている訳でもないだろうに、何だこの小西ダンジョンの十層の難易度は。ダンジョンを作ったやつは限度というものを考えないんだろうか。
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