252:各御家庭秘伝のレシピ
さて、夕食の準備だ。さっきたらふく食ったが、まだ胃袋は洋食を要望している気がする。今日は一日洋食祭りというのも良い。
洋食にしてもシチューとかカレーでも良いだろう。今から帰って仕込んでゆっくりコトコト煮込んでも十分なはずだ。じっくり煮込んだボア肉のカレー。それで行こうかな。確かカレールゥは在庫が無かったはずだから買っていこう。
後はジャガイモと人参と玉葱と……冷蔵庫にあるものを思い出しながら足りない物を買い足していく。それから米はまだあったな。手伸ばしナンも買っていこう。いざカレーと向き合ってやっぱりナンが欲しいという可能性もある。
ナンは食べるならやっぱりお店の本格派ナンを食べたいところではあるが……あぁ、外食という手もあったか。しかし籠に入れた野菜たちを全部元に戻すのは手間だな。どうするか……
三分ほど悩んだ結果、せっかく料理作る気になってるんだから作ろうという事になった。後は今思い出したが、小鍋を買おうという話だった。あのバーナーに合うサイズの小鍋もここで見繕ってしまおう。アウトドアショップじゃなくても日用品コーナーにあるはずだ。
あまり大きい鍋を持って行っても邪魔にはならないがどうやって持ってきたと言われたら返答に困るからな。文月さんが居れば洗浄も乾燥も出来て便利だから二人用ぐらいの鍋で底のちょうどあいそうな奴を選ぼう。IH対応じゃなくていい。
ん?いっその事大鍋で作ってダンジョンにそのまま持ち込むことも可能か。でもさすがに冷めるよな。やはり二人用分ぐらいの鍋にしよう。家で調理して持ってきて温めるぐらいがちょうどいい。となれば、紙皿ではなく深皿が必要になるな。それも見繕おう。段々荷物が増えてきたぞ。
食器用洗剤も保管庫に入れておくか。脂ぎったまま深皿を保管庫に放り込むのはちょっと抵抗がある。軽く洗ってキッチンペーパーで拭いて保管庫に収納できるぐらいがちょうどいい。
念のため文月さんに確認を取っておこう。明日行くなら二日目のカレーを提供できるかもしれない。
鍋と深皿は後で買うとして、食材だ。何か変わった物を入れて味わいを深めようという気にはならない。精々トマトを一つ放り込んで酸味を際立たせるぐらいでいい。
後は朝食用のいつものパンだな。パンを切らすことは死に直結する。卵はまだ数があったはずだからいい。刻み野菜はパックで買うか自分で刻むか悩んだが、自分で刻んで冷蔵庫に保管しておくことにした。
保管と言えばダンジョン用のタッパー容器も見繕う必要があるな。メモには書いてなかったっけどうだっけ。そうだ、めんつゆとか万能調味料も入れておくんだったな。確か家には無かったから買っておかねば。
大体買うものをそろえ、会計を済ませると日用品コーナーへ向かう。ここはレジが別なのでレシートが分割出来て経費で落としやすい。早速二人分ぐらいの大きさの鍋とタッパー容器を三個、それから深皿を四枚購入する。
飛び入りで食いたい! と乱入者が居ても対応できるように予備で買っておくのだ。多分高確率で田中君が寄ってくるだろう。その為の準備をしておいても良いと思う。
鍋物か……鍋も食べたいな。また今度作る事にしようか、それとも鍋のほうを優先しようか。腹の中で鍋派閥がカレー派閥に対して反乱を起こそうとしている。
むむむ……俺の都合も考えてほしい。今からだしの素を再度買いに走るか。肉は……肉はあったはずだ。つまりベースだしを何にするかでまだ鍋派閥の中でも意見が一致できていないらしい。これはカレー派の勝利で幕を閉じそうだな。
何せカレー派の兵力は十分満たされている。既に手元には十分な兵站……野菜も肉もカレールゥも潤沢に用意されている。それに引き換え鍋派は意見の統一すらまだ行われていない。家に帰るまでに反乱は収まるだろう。
一人日用品コーナーで腹を押さえながら長考する姿は滑稽に見えるかもしれない。ここは早めに戦術的撤退を選択してカレー派閥の後押しをすることにしよう。
鍋と深皿を買うと、文月さんに「明日の食事は手作りカレーにしようと思うんだけれど」と一報を打っておく。
買い物を済ませて自宅へ戻る。今日のおやつは無しだ。いつもならフードコートで何かしら漁るところだが、腹肉の蓄え具合を考えて食欲を抑えておく。
しかし、ただ昼食を取るだけのお出かけだったつもりなのに意外な雑談会……いや、雑談と評するには少々重い話になってしまったな。
家に帰ってから過去ログも調べて、オフ会の内容がどうだったのか自分でも確認してみよう。帰り道は意外と空いていて、行きに比べて少し短い時間で家にたどり着くことが出来た。
文月さんから返答が来ていた「明日は行きます。楽しみにして待ってる」これは美味しく作ってやる必要があるな。
とりあえず今日の夕食の準備だ。カレーをまず大きめの鍋に作って、後で二人用の小鍋に移して翌朝に温めて保管庫に入れる。これで行こう。
四人前ぐらい一気に作ると材料的にもレシピ的にもとても分かりやすい。夕食・朝食・昼食か夕食にカレーと丸一日分ぐらいカレーが続くが、カレー好きの俺としては何ら問題はない。むしろ一か月連続でカレーでも良いぐらいだ。
豚バラっぽくしたボア肉をさっと炒めて別の容器に移し、その肉の油でみじん切りにした玉ねぎをレンジで温めたものを炒めて、程よく火が通ったらすりおろした人参と薄切りにしたトマト、一口大にしたジャガイモとさっき炒めたボア肉を投入し水を入れしばし煮込む。アクは取る。
三十分ほど弱火で煮込んだところでカレールゥを入れて香りづけにチューブニンニクと少量のソースを入れて焦げないように混ぜれば大体OKだ。後は時間が何とかしてくれる。
カレーは本場のインドでなくても各家庭それぞれにレシピがあるという厄介な代物なのでこれはこれでパーティー対抗カレー大会なんかが開催される事態にもなりかねん。我が家のレシピはこんなものである。味の好みは人それぞれだ。口に合うと良いが。
個人的に、カレーとみそ汁と芋煮のレシピに口を出すことは控えている。戦争になるからだ。戦争は腹が減るからやるもんじゃない。
夕食の準備が終わったところで夕食前の情報収集と行こう。過去ログを引っ張り出し、オフ会が開催されたという部分を探し出して閲覧する。
ふむ……さすがに開催場所は小西ではなかったらしい。小西以外にもいくつか夜間封鎖が行われているダンジョンがあり、より交通の便が良いところが選ばれたようだ。
ダンジョンも場所によっては高速のインターチェンジのほぼ真横にあったりする。当然顧客は自動車で来るので駐車場はでかい。
そんな立地でも二十四時間営業ではないダンジョンはあるようで、そのせいで他のダンジョンに人が流れているという、都合のいいダンジョンも探せばあるもんだな。
とにかくそういう場所で行われていたらしい。参加者は全部で十パーティーほどになったそうだ。皆の予想通りそれぞれのパーティーが食料や酒、おつまみを持ち寄りまず昼間から宴会。宴会が終わり仮眠した後夜間に検証を行うという時系列だったらしい。
まず最初に行われたのが俺が投稿した内容であるゴブリンの棍棒を奪い取り、そのゴブリンを押さえつけたり卒倒させる班、撮影に終始し、棍棒をひたすら撮影しながら追いかける班、そして一番大事なゴブリンの棍棒を階段へ向けてトライする班と別れての行動になった。
事前に決めておいた手順を着実に守る事で検証は進み、俺の言った内容である所の検証は無事に確認されたらしい。気絶させて放置した結果ちゃんといじめも確認された。それ以外にもソードゴブリンで同じことが出来るかどうか等、若干難易度の高い検証も行われた。
結論として「その階層でポップしたモンスターはその階層を離れることは出来ず、持ち物や装備に関しても同様に動かすことは出来ない事が確認できた」という事だそうだ。
もっと簡単な検証として「一層にポップしたスライムを放り投げて二層に入れ込むことが出来るかどうか」も行われたが、スライムは二層の階段との中間点で見えない壁に弾かれて通れなかったと報告にある。
金銭収入としてはあまり実入りの多い結果にはならなかったが、ダンジョン毎のマップの違いや各ダンジョンの七層の様子などが意見交換され、検証班はお互いのダンジョンの七層の映像やスキルオーブを取った瞬間、それを使った時の映像などを交換し、大いに盛り上がったという。
ダンジョンによっては五層から八層のオブジェクトの密度にとても差がある事が解った。小西や清州みたいに何もない荒野に目印すらないダンジョンもあり、グランドキャニオンの隙間を巡っていくようなダンジョンもあり、複数の木が乱立しダーククロウが自由にその間を飛び回っていて迂回するのが最も安全な層があったりするそうだ。
九層以降に関してはどのダンジョンも同じらしく、中央部は立ち入らずに周回する形で行かなければとても危険だという事も一致している模様だった。
これがCランク以上の探索者だけが集まるようなオフ会だったら、九層の中央部を目指してみるとかそういう流れになってたりするんだろうか。
過去ログを漁っているうちにだんだん過去から現在に時系列は追いつき、現在進行中の検証スレまでたどり着いたところで事件は起きた。
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