245:情報過多
千八百万PV、ユニークアクセス三百二十万、ブックマーク一万七千超、いいね七万五千回、ありがとうございます。
バスが駅に着く。文月さんの頭をガクガクと揺らして現実に引き戻す。
「おーきーろー。駅着いたぞー」
「もうちょっと~後五分~」
「五分経ったらもう一周バスの旅だぞ、起きろ」
「……ぬぅ……もう駅ですか」
まだだいぶ眠気にやられているようだ。やはり食欲の為に無理してたな。
「大丈夫か? まっすぐ帰れるか? 」
「う~ん……多分大丈夫です」
まだ寝ぼけているらしく帰りの電車で寝そうだが、信じる事にしよう。駅で文月さんと別れ、それぞれの路線に乗る。不安が募るが、乗り過ごしぐらいならまぁ許容範囲だろう。あの路線は一応終点まで着いたときに車掌が見回るから寝てたら起こすはずだ。
こっちも徐々に眠気が訪れてはいるが、家まで持たない訳ではない。だが念のため立ったまま家まで帰る。最寄り駅まで無事に睡眠と激しい戦いを強いられることなく到着し、いつものコンビニで夕食になるようなものを見繕うと自宅に着いた。
早速後片付けを開始し、洗うものは洗ってゴミは捨てて、持ち帰ったエアマットを洗い干す。いつもの流れが出来ているうちは大丈夫だろう。まだ布団に入るには早い。
中途半端な時間に帰宅したため、今から布団に入ると起きるのは深夜になってしまう。時間をうまくずらすため、ネットを見るなり探索・オブ・ジ・イヤーを読むなりして時間を潰すことにしよう。
レインに「寝過ごした」と連絡が入るが既読だけつけておく。大丈夫かって言ったのに……
◇◆◇◆◇◆◇
Cランクになってもらったマニュアルの中に書かれていたのだが、Cランク以上の探索者のIDでしか入る事の出来ないネットワークシステムがあるらしいことが分かった。早速それにアクセスしてみる。
細かい仕組みはよく解らないが、とりあえず新規登録と自分の探索者IDを入力して二段階認証をしたらそれで紐づけされるらしい。なりすましとかどうなってるんだろう。
今まで既存のネット上にあった情報が精査されている。人に話して良い、他人に対して開示可能か不可能かの確認も含めて色々な情報がここに敷き詰められている。俺が欲しかった情報のいくつかがここにあるらしい。探し回ってみよう。
十一層以降のダンジョンの情報や各ダンジョンの構造・モンスターの行動等様々な分野・ドロップ品の入手先・販売先・使用先なども含めた今まで欲しかった情報が色々と転がっていた。要注意人物の情報などもここにある。
とりあえず最初に調べてみる事は、あのスライム大増殖の話がどう帰結しているかだ。結局彼が確保されたという情報はあったが、それ以降はあやふやなままだった。
スライム増殖騒ぎを起こした張本人であるあの怪しい研究者は捕縛の後解放され、ギルド庁の監視の下でスライム増殖の手順や仕組み等を解明して、スライムが枯渇しているダンジョンを中心にスライム生息数を増やすイベントを企画するなど良い方向? に作用するように持っていく予定らしい。
結局キーになるのは何だったんだろうか。そこまでは詳細に情報を開示されてはいなかった。現場を一部なりとも見ていた俺としては気になるし、再びスライムが大量発生したところをまとめて狩ってバラバラとドロップ品が落ちてくる様を見物したいという気持ちはある。
いや素人に迂闊に情報を漏らして、あちらこちらでスライムが大発生して……という事態は避けたいのだろうな。なんにせよもう暫くの間、彼が自由になる事は無いだろう。
また小西に来る事も有るのかな。潮干狩りも楽しいが、大量のスライムを一瞬で蒸発させることも出来るようになった。深夜の一層の湧き密度の高いスライムをまとめて対処できる。
ダンジョン出入口から詰まりきったスライムを【雷魔法】一発でどこまで処理できるようになるか、己の限界を知るには楽しいイベントかもしれん。いやイベントだから俺一人で楽しんではいけないか。
スライムのドロップ確定についても情報が載っていた。とりあえず首謀者は不明のままになっているが、要注意人物の欄には俺の名前もあった。どうやら東海地方近郊でスライムについて何かしらの関わりがあった者はリストアップされてるらしい。要注意度はかなり低いほうだ。
これはスライムドロップの時ではなく、大増殖の時に活躍しすぎたからなのだろうか。それともスライムドロップ確定以後心の穏やかさを保てる範囲で、スライムをできるだけ狩らないようにしていたのが逆に怪しまれる原因にでもなったか?
以前見たことのあるスレで書き込みのあった「自分の店の商品を店長権限で買い占めてスライムで収入を得ていた可能性がある」として俺と同じリスト上に並んでいる人物も居た。どうやら情報収集能力は結構高いものらしい。
ダンジョン庁……きさま! 見ているなッ!
思わず振り返って後ろを確認するが、この部屋にはカメラも何もついていない。見てなかったようだ。そりゃ見てたらとっくの昔に保管庫スキル所有疑惑人物としてリストアップされていてもおかしくないか。
念のため、そういうスキル関連の話も調べてみる。現在【保管庫】に相当するスキルを持っていると疑われる者、または確定している探索者は……世界には存在するらしい。が、国内では今のところ確認されていない、という事は前にも調べたな。
また、仮に所有者が居たとしても所有者に関するアプローチはこれを禁じる、とある。おそらくそれで有用なスキルの持ち主が国外に流出したり、法的に危ない仕事に手を出したりしないようにするための措置だろうと考えられる。
お前スキル持ってるんだから荷物これもこれも持てよ~とか、そういうポーター役に専任させられて嫌気がさすような環境が発生した場合、貴重なスキル保持者を失う事になるという事態を回避するための文言ではないだろうか。
つまり、俺が仮に保管庫スキルを持っているような仕草をしていたとしてもCランク以上の探索者には「あ、こいつ持ってるかもしれない」とかそのぐらいの気軽さで接される事になるんだろうか。
それはそれでよそよそしい気がするのでこれからも保管庫スキルはバレないように細々と使っていこうと思う。しかし、良質のダーククロウの羽根を卸していることが解っているあの布団屋経由で情報がバレるという可能性があるという事か。そこは落ち度だったかもしれないな。
自分の分だけ……いやでもあの幸せはいろんな人に味わってもらって、ダンジョン素材ではこんなにすげーものを作ることが出来るんだという事を知ってほしい。そういう気持ちもある。
保管庫の中にあるダーククロウの羽根を見ながら、また連絡して納品に行く事を考える。今思えば小西のダンジョン側から見たらどこにそんなに詰め込んで持ち帰ってるんだと突っ込まれれば一発でバレる話だな。更に言えば税務上の書類からそれを探し出すことも可能か。
どこまでダンジョン庁が確認を入れられるかは解らないが、近いうちにバレる事は覚悟しておかなければならないか。公に認めたら多分海外渡航とか制限でるんだろうなぁ。海外行く予定もつもりも今のところは無いけれど、国内旅行にも制限が付いたりするんだろうか。
とりあえず日常を送る際にはあまり問題が無いだろうし、小西ダンジョンに限定して言えば活動に支障が出る事は無いだろうと思っておこう。
◇◆◇◆◇◆◇
調べたいことは色々ある。だが情報量が多すぎて何をどこから調べるかまだ手が付けられない状態だ。が、まとめて調べてそれを覚えておくほど記憶力が無いので、今日はこの辺にしておこう。
夕食に適当に買い込んだ物を胃に詰めると、風呂の準備をしつつ眠る準備もしておく。そろそろ眠気が来る時間だ。今日は長く眠ることが出来るだろう。
確かなことは、まだまだダンジョンには知るべきことが多いという事と、遥か先を走っている探索者は少なくないという事だ。トップに追いつこうという気は更々ないが、もうちょっと先の景色を見てみたいという欲求はある。
この先どんなモンスターが出てくるか。近いところで言えばボスは一体どのようなものが出てくるのか。どういう戦い方を強いられるのか。これを調べるぐらいは出来るだろう。
調べた結果、ボスはゴブリンキングというゴブリンの上位種で、お供にゴブリンシャーマンとソードゴブリンの軍勢を率いて待っているらしい。ゴブリンシャーマンは出会ったことが無いな。ここでしか出ない奴かな?
ゴブリンシャーマンについて引き続き調べる。どうやら【火魔法】のスキルを持っているらしく、ゆっくりとした火球を飛ばしてくるようだ。これについては味方のソードゴブリンが居てもお構いなしに奥から打ってくるらしく、ソードゴブリンよりもゴブリン内ランキングでは上位であることが伺える。意外と丈夫な杖を持っていて近接戦闘もある程度こなせるようだ。
小鬼の大鬼だから鬼か。やはり巨大な棍棒なり剣なりを持っているのだろうか。お供の強さはどうなのか。倒すためのパターンはあるのか。その前に十二層から十四層に潜り込むことが先だな。
十三層から現れるスケルトンの量や強さにも興味がある。必ず魔結晶を落とし、落とさないのはスケルトンネクロマンサーに召喚されるスケルトンだという事は解っている。
倒してみるまでそれが召喚されたスケルトンかどうかが解らないのはちょっと辛いかもしれない。何十人? もスケルトンを倒してそれが全部召喚されたスケルトンだったらとんだくたびれもうけになるな。
どのくらいの密度でスケルトンが湧いてくるかは解らない。こちらのキャパをオーバーしない程度であることを祈るしかないが、小西ダンジョンだからな。予想よりちょっと多めに出てくるのは覚悟するべきだろう。
次に潜る時には十二層へ挑む。オーク肉を大量に確保して小西ダンジョンの赤字を少しでも圧縮する事はギルドに対して貢献になるはずだ。十一層をゆっくり回って問題なく探索が出来る事は確認済みだ。十二層の地図は無いらしいが、おそらくマップの性質上一周すれば階段は見つけられるだろう。
十三層は……考えるのをやめる。行けるようになった時に行ければそれでいいや。
風呂が沸いたので風呂にゆっくりと浸かる。この後は極上の睡眠が待っているので烏の行水でササっと出てしまう。考え事は風呂に入る前に十分やった。パジャマに着替えると今日やる事を確認してもう何もない事を確認する。早速布団に入ってお休みの時間だ。
しかし一日五十万の収入は大きかった。より上位の探索者はもっと稼いでいるんだろうな。いくら稼いだかを競うつもりはないが、どうせ同じ時間探索に回るなら多いほうが良いに決まっている。次はいつ行こうかな。楽しみにしつつ布団に飛び込む。
布団に飛び込むと急に疲労が襲ってくる。ダーククロウ布団は俺の疲労具合を察知しているのか、軽やかな眠りに誘ってくれる。今日は素直に寝ておこう。寝る前に陰干ししていたエアマットを収納するとそのままベッドにダイブ。これで今日は思い残すことは無いはずだ。はずだ。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。





