243:オーク肉を一番うまく食べる方法
体調悪い時は寝てるに限る。
アラームが鳴り目覚める。やはりダーククロウ、疲れが少し残っていても目だけはバッチリと覚めてくれるらしい。無事二時間で目が覚めたようだ。
午前九時。小西ダンジョン開場の時間だ。う~んと伸びをしたあと、服をいったん脱いで半裸になった後タオルで汗を拭き始める。ちょっとは腹の肉も減ったかな?と摘まんでみるが、さすがに一日二日でそう変わるような事は無いようだ。腹以外の肉は少し落ちた気がしないでもないが。
汗を拭き終わると隣のテントをガサガサと揺らす。
「起きてまーす」
返事があった。どうやらこっちのアラームで向こうも起きていたらしい。手がニュッとでてきたので握手しておく。
「いや握手じゃなくてタオルください。体拭きたいので」
タオルを渡すと手は引っ込んだ。その間にコーヒーを沸かしてストレッチをしよう。帰りはさっきまでより楽だからと油断して腰を痛めたりするのは避けたい。
ググググ……とアキレス腱を伸ばしたり背中にのけぞったままブリッジをしたり、いろんなところを伸ばしたり縮めたり。湯が沸いたらコーヒーを二杯用意する。
若干コーヒーが冷めるまでの間にストレッチをし終わると、文月さんがタオルと共に出てきた。タオルとポプリを受け取りコーヒーを渡す。
まだ熱かったらしく、ゆっくりと飲み始めると、その後体を動かし始めた。やはり疲れがちょっと残っているらしい。
文月さんが身繕いをしている間に、テントの中に一式を仕舞って保管庫に入れてしまう。その後保管庫の中のドロップ品をエコバッグに仕分けし終えた。肉はボア肉とオーク肉が混ざらないように別の袋に入れる。
ふむ……豊作だな。いつもよりバッグが一つ多くなってしまった。魔結晶で二つ、オーク肉で一つ、ボア肉で一つ、ポーション類で一つ。革は数が少ないので普段背負ってるバッグに仕舞う。
キュアポーションとヒールポーションランク2が中々の収入になってくれている。これは査定が楽しみだ。エコバッグを保管庫に仕舞いなおすとテントを出る。
程よく冷めたコーヒーを一気に飲み干すと、出立の準備だ。置いていくもの、テント、以上! エアマットも洗って干すために持って帰る。
「さて、帰りますか。今から帰って十三時頃ですかねえ。お昼には間に合いそうです」
「道中頑張って腹を減らしておけば美味い中華が食えそうだな」
「それは楽しみですねえ。さぁ帰りましょう」
シェルターには自転車が無かったので、仮眠の間に誰かが持って行ったのだろう。仕方が無いので歩いて六層へ向かう。六層は相変わらずの暴走エリアだった。まだ誰かが来るには早い。おそらく一晩ずっと走り続けていたのだろう、元気なことだ。
疲れもそこそこに取れている事でハグ会を開催する精神的余裕も出来た。文月さんはまたやってるよ……という顔でこちらを見ているが、暇つぶしにはこれぐらいがちょうどいいんだ。そんなに見つめられても困る。
サクッとハグで終わらせてドロップを拾うと、茂らない君を通過して茂君に達する。やはり帰り道も茂君は茂君のようだ。二回目のハグ会を終わらせた後、いつも通りサンダーウェブ一発ですべてのダーククロウを落としきる。
これでダーククロウの羽根の在庫は五キロを超えた。いつでも布団屋へ卸しに行けるな。戻ったら都合を聞いておこう。
三回目のハグ会を終え六層最後の木のダーククロウを処理し、最後のハグ会をして五層へ上る。文月さんが若干速足で進んでいくのは腹が減っているからか、それとも早く帰りたいという合図か。
早く帰る事に越したことは無いので歩調を合わせる。五層に上がると、六層より更に暇な空間が待っている。
「ランニングで行きましょう。ダーククロウはこの際無視で」
「何、そんなに中華食べたいの? 」
「食べたいです。お腹が空いて仕方ないんですよ」
「カロリーバーあるけど食べる? まだ上に上がるまではずいぶん時間があるよ」
「とりあえずカロリーバーは貰います。それはそれとして早く上がって、今日の成果を確認したくありません? 」
「まあ、その気持ちは解らないでもない」
よほど手ごたえがあったと思っているのだろう。実際手ごたえも歯ごたえも十分にあった。大体の金額は計算済みだが文月さんには伝えていない。せっかくだし上まで待たせて結果発表で喜ばせよう。
五層をランニング気味、悪い言い方をすればトレインしながら駆け抜け、五層の階段に着いたところでまとめて殲滅した。おかげで四十分かかる予定だった行程を十五分に圧縮することが出来た。誰も居ないならこういう狩り方も有りだな。
四層からは普通に進むようだ。ほいほいと後ろをついていく。ついでにそろそろ人と出会いそうなので文月さんに声をかけて、両手いっぱいにエコバッグを抱えての移動になった。
「あーこれダンジョン出たらすっごく重くなる奴だわ」
「頑張った成果ですからね。そりゃ重くもなります」
「これだけ大量に下から持ち帰ったとなると逆に怪しまれそうでそろそろ怖い」
「そうなったら二人で持って、スキルだけで地上まで上る事になりますか」
「そうなってしまうな。今日ぐらいが限界かも」
「ぬぬぬ……深く潜るにも限界があるって事ですか」
「ポーターにも限界はある」
俺がもう一つ持てるぐらいで満載ってところか。ただでさえダーククロウの羽根を別で抱えているんだから、さすがにこれ以上深く長く潜ると怪しまれる可能性が高い。いっその事査定に出さずにそのまま保管庫に入れておくという選択肢も考えておくべきか。
道中の敵は文月さんが片づけてくれるし、両手がふさがっていても【雷魔法】は普通に使えるのであまり問題は無い。三層へ向かってズンズン進む。しかしえらく速いな。俺が一人で四層を巡っている時ほどではないが、何かに焦っている感じはある。そこまでオーク肉が食べたいのか。
道中のゴブリンの団体を蹴散らしながら、ドロップもちゃんと拾って三層まで三十分。三層からは人の気配が増えるのでここからはひたすら歩くだけになりそうだ。
三層の綺麗に掃除された道をひたすら歩く。食欲に身を任せ文月さんが行く。人はどうして食に対してそれほどの情熱を注ぎたくなるものなのか。そんな問の答えを求めんとする様だ。
三層を抜けて二層へ入る。ここまで来ると人とすれ違う事もある。顔を知ってる人も居る。普段七層には来ないが上層でグレイウルフやスライムと戦っている人たちだ。中には「よう、お疲れ様」なんて挨拶を交わす人も居る。だが、今は文月さんに引きずられる形で急いで道を行くところだ。
今の俺は両手に荷物を抱えて若い女の子の後ろを行くという状況だ。知らない人にとっては俺は只の荷物持ちにしか見えないだろう。実際荷物持ちだが。
掃除された二層をやや足早に駆け抜け、一層へ着いた。ここまでくれば地上まであと少しだ。時刻は午後〇時。意外と早く着いたな。
「さぁもう少しですよ。もう少しで美味しい中華が待っています」
「急いでも美味しい中華は逃げないぞ。むしろ腹が減ってるほうがより美味しく食べられるぞ。食事を一番おいしくとる方法は腹をとにかく減らしておく事だって誰かが言ってた」
「誰かは知りませんがいい言葉ですね、今の私にピッタリです」
「あと……五十分ぐらいか。我慢の時だぞ」
ぐぬぬ……と言った感じでひたすら待てをされている事になる。ちょっと可哀想でもあるがかわいくもある。それだけ我慢した時の飯はきっと美味いだろうよ。
急いだら急いだ分だけお腹が空くからより効果的なのでは? という悪魔のささやきをしようかどうか悩んでいるが、言い出したらダッシュで地上まで行きそうだな。それについていくのはちょっと辛いので黙っておこう。
黙々と地上へ歩き続け、二十分ほどたったころ、出口が見えはじめた。段々文月さんの顔が明るくなっていく。
さて、荷物の重さがずっしり来るのを覚悟して俺も地上へ出る。途端に重くなる両手。指が痛い。後五分ほどの辛抱だ。頑張って持とう。一旦荷物を置き退ダン手続きを済ませる。
「また一杯狩ってきましたね。戦果は上々ですか」
「十一層まで行って帰ってきましたよ。査定が楽しみです」
「それはそれはご苦労様です」
探索者証を受け取るとそのまま重い荷物をもう一度持ち、査定カウンターへ向かう。
「今日も大漁ですねー」
「これとこれが魔結晶、こっちがオーク肉、こっちがボア肉、それからキュアポーションとヒールポーションランク2が入ってるのがこれです」
「大分時間かかりそうですねー。覚悟しておいてくださいねー」
十五分ほど待って査定が終わった。レシートを二分割して受け取る。金額は……五十六万八千四百四十円。二人合わせて百十三万というところ。過去最高記録だ。
レシートを文月さんに渡すと、金額を見てにへらっという笑顔になる。まあ金額見たらそうなるわな。早速支払いカウンターで振り込みを依頼する。
「さぁ、待ちに待った食事ですよ、食事。美味しい中華食べるんです。肉の在庫はありますよね? 」
「念のため二つほど査定に出さなかった。食えないという事態は回避できそうだな」
「早速行きましょう。さぁ行きましょう。美味しいご飯が待っています」
全ての行程を終えてハイテンションな文月さんがとっとと中華屋へ向かおうと歩き出す。そういえば俺も腹減ったな。さて今度は何を出してくれるのか。楽しみだ。
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