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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第四章:中年三日通わざれば腹肉も増える

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238/1221

238:ダイエットは無理をしない範囲で

 


 六層はいつもの暴走っぷりを見せつけてくれていた。隣の文月さんも暴走気味である。早速ワイルドボアの群れに突撃しようとしている文月さん。


「ステイ。俺もここまであまり動いてないんだ、ちょっとは運動させてくれ」

「それもそうですね。じゃぁ半々で行きましょう」


 よし出番が出来た、がんばるぞー。オラオラと走り込んでくるワイルドボアを優しくハグ。そして雷で焼く。気分的には飛び込んできた柴犬をなでなでするイメージだ。ただしワイルドボアは死ぬ。


「また変な遊びしてますね」

「こう、レパートリーがいくつかあったほうがね? 」

「ね? じゃないです。ツナギに変な臭いついたりしませんか」


 どれどれ……ちょっと獣臭いかもしれんがゴブ臭に比べれば大したことは無い。


「大丈夫、まだ柔軟剤の香りがしてる。それにほら、手元で倒すとドロップ拾うの楽なんよ」

「それは解りますけど」


 ワイルドボアを楽し気に抱きしめては黒い粒子に変えている俺を見て若干引き気味である。ちゃんと優しく一瞬で、痛みを感じないようにしてあげてるんだけどなぁ。


 木までの間に出てきていたワイルドボアを殲滅し終わると木までまっすぐ歩こうとしたが、走ったほうがダイエットになると意気込んでいる文月さんにランニングを強いられた。


 木にはダーククロウが九羽ほど止まっている。文月さんが間髪入れずにウォーターカッターを小刻みに羽数分だけ発射し、全部落として見せた。


「おー、そこまで制御できるようになったかー」

「どんなもんよ、これでもう木を切り落としたりしないはず。でも茂君はちょっと無理そうかな。さすがに数が多すぎる」

「そっちは任せとけ。焦げるだけで留めておく」


 木に駆け寄りササっとドロップを拾うと次の茂君へ向かう。茂君は遠目から見て、今日も良い茂り具合だ。これで行きと帰り合わせればまた布団屋に一回納品する分ぐらいは溜まるかな。


 木と茂君の間のワイルドボアを処理しつつ、またランニングで移動する。忙しない。だがタラタラと歩くよりはマシかもしれないな。茂君の警戒範囲に入ると、全体を覆うイメージを作り出してサンダーウェブを発動する。ピカッと光った後には舞い散る羽根とぼとぼと落ちる魔結晶。


 うん、投網漁は楽でいい。羽数をいちいち数えなくていいのも良いところだ。木の根元に駆け寄りドロップを収納。ここまでで……羽根が千四百グラムほど。手持ちの全部を合わせて四千二百グラムか。なかなか良い量だ。


 茂らない君は今日も茂っていない。茂っているタイミングに出会ってないな。何かのトリガーだったりするんだろうか。代わりに五羽ほどのダーククロウが空中に飛んでいる。道中のワイルドボアをハグしつつ、ダーククロウにも気を配る。射程範囲に入ったら落としてしまおう。


 茂らない君を通り越し、最後のワイルドボアのハグ会を終了させると休憩場所でありキャンプ場所であり仮眠場所である七層に到着した。


 自転車は一台だけ置いてある。どっちが乗るか、これはじゃんけんで決めるか。


「あ、私走っていくので自転車どうぞ」


 じゃんけんの出番は無かった。そこまで大幅に変わってしまったのだろうか。パッと見てそう変わってはいないぞ。勿論口には出さない。出したところで女心が解ってないとかで説教を受けるのが目に見えている。


 自転車にさっそうとまたがるとシェルター目指して漕ぐ。文月さんは自転車に並走するようなスピードでこっちに付いてくる。そこまでして痩せたいか。


 結局自転車に乗ろうが乗らなかろうが同じペースで並走する文月さんと同時にシェルターに着いた。早速ノートのほうを確認する。


「今後はこれ使うんですね、解りました 田中」


 田中君以外はまだ誰も訪れて居ないようだ。この紙皿の山どうしようかなぁ……勝手に処分しても良いものなのかどうか。


「紙皿の山どうしますか? 処分して良いなら処分しておきますが 安村」


 一応確認を取ってからにしよう。そうしよう。勝手に処分して気分が悪くなる人が居るとそれはよくない。何事も相談して決めるべきだ。特にこの人口の少ない小西ダンジョンでは不和を起こさないようにするのがいい。


 さて、自分のテントに帰ってきた。時間的にはちょっと早いが夕食の時間にしよう。いつもの肉野菜炒めとパスタが今日の夕食だ。パスタは先に炒めて若干焼き気味にしてパリパリさを演出しよう。その後でボア肉を炒めて野菜炒めを作って終了だ。一応二人分用意しよう。


 文月さんはその間に俺のテントから寝具を一式取り出すと仮眠の準備をしている。


「食事の前に仮眠にする? それとも先に食べる? いくら減量とはいえ食べないのはよくないぞ」

「先に食べる。そのほうが寝た後よく動けると思うので」

「じゃあそうしよう。たんとおあがり」


 パスタを熱してカリッとさせる。水分を飛ばしきらない良い感じのところまで温めると半分にする。ほのかに香るパスタの残り香を利用してボア肉を薄切りにして焼く。その後に残った脂で野菜炒めを作り終えると、ササっと二人で食べ始める。


 うん、ペペロンチーノの唐辛子とニンニクの香りがうまくボア肉に残ってくれた。中々いいぞ、良い感じに食欲をそそる。今日のダンジョン料理はそこそこの出来だな、また次回もこういう感じで頼むわ。


 文月さんは「カロリー」と口にしながら恐る恐るちょっとずつ食べ始めたが、一度食べ始めたら止める気は無いらしい。あっという間に平らげてしまった。ここで追加するのはちょっと野暮だな。いつもならこっちの分を取ろうと目を光らせているが今日はそうでもない。


 満足する量は取ったようで、自分のテントの具合を確かめたり「なんか久しぶりな感じー」とエアマットの寝心地を確かめたりしている。その間に自分が飲む分のコーヒーを淹れ、一息つく。さて、今日はどうするかな。九層で慣らし運転にするか、十層へ行ってみるか。


「どうする? 九層に行くか十層に行くか。勘を取り戻すためなら九層をグルグル回るほうが良さそうだけど」

「そうねー……九層一周してみて確認した後森側を歩いてもう一回試して、それで行けそうだったら十層に行ってみるというのは? 」

「それ……はいいかもしれんね。そうするか」

「そういえば新浜さん達に耳打ちしてた件はどうなったの? 進展あった? 」


 例のスキルオーブのドロップテーブルの件を思い出したらしい。


「出たって書置きと一緒にお土産のオーク肉とゴブリンソードが置いてあったよ。どうやら上手く行ったらしくて何より」


 オーク肉を一人で食した事は黙っておこう。上手く調理する事に成功したとも言えないし、どっちかというとあれは実験の域だ。


「オーク肉と言えば、先に中華屋でオーク肉料理を美味しく味わってきたよ」

「あ、そういえばあの後渡しに行ったんでしたね。次は私も行きます」

「減量は良いのか減量は」

「動いた後なら問題なしです。今日これから動くので何なら終わった後でも良いですよ。確か予備ありましたよね」

「肉が無いと言われた場合渡せる分はあるな。なんなら飯代と相殺でもいいし」


 つまるところ、今日探索が終わったら付き合えという事だろう。二人で取ったものだしそれは一向にかまわないが、減量という二文字が既にどこかへ飛んでいってやしないだろうか。言わないでおこう。


「さて、予定が決まったら後は仮眠だ。ゆっくり休んでこの後の労働のための体力を培おう」

「そういえば急いで来たので枕を持ってきませんでした。いつもの匂い袋貸してください。安村さんはばっちり枕持ってきてますよね」

「ちゃんと持ってきてるぞ」


 出てくる前に指さし確認したからな、今日は大丈夫だぞ。


「ならこれは私がお借りします」

「へいへい、起きたら返してね。何時間ぐらい寝るかね? 」

「四時間ぐらい眠れば十分かと。今からだと……十一時半ぐらいになりますかね」

「じゃあそう言う事で。おやすみ」

「おやすみ! 起こしてね! 」


 元気よく睡眠に入る。なんかおかしい気がするがまあ寝て起きてまだ元気なら問題は無いだろう。コーヒーを飲み終えると道具を全てテントに放り込み俺も寝る準備をする。テントの前に「仮眠中 安村」の札を二枚貼り付けて、仮眠の邪魔をする外敵が寄り付かないようにしておく。


 エアマットを膨らまし愛用の枕を備えると後は眠るだけだ。仮眠と言えども立派な睡眠、ダーククロウの香りが俺を包み込んで快眠へと誘ってくる。後は身を任せよう。何か考えてても何も考えなかろうと、数分すれば眠っているはずだからな。


作者からのお願い


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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 文月さんの大学の友人って出会いませんね。 新浜さん達が手にしたスキルオーブとその顛末とか、水魔法や雷魔法に対して知り合いがまだ話し掛けてきてないので楽しみにしてます。
[良い点] 主人公とヒロインが居酒屋のぶの店主とヒロインのような距離感がいいですね。くっつく?いや仲がいいけどみたいな
[一言] 人間食欲には勝てないのだ……
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