237:ダンジョンフィットネス
新しい朝が来た。ダーククロウさんありがとう。今日も気持ちの良い目覚めだ。もう褒める語彙は無い。ただひたすらに感謝しよう。しかし残念ながら天気はぐずつき今にも泣きだしそうだ。
思う存分祈りをささげた後いつもの朝食を作る。昨日の昼食に比べたら粗末な食事と呼ばざるを得ないが、胃袋を満たす行為に違いはない。何なら持ち帰りでも頼めばよかったかな。
昨日は昼食を豪勢に取ったおかげで体重は増えているだろう。あれだけ動いてステータスブーストも使ってスキルも使って体重が増えるという事は、年々基礎代謝が落ちてきている事の証だろうか。
お腹の肉をつまみ、厚みを計測する。ちょっとここのところダンジョン活動をさぼっていたせいか、計測値が徐々に増えているような気がする。これは最近太り始めたという奴か。つまり、このまま生活を続ければまた確実に太るという事でもある。定期的にダンジョンに潜る事は健康のために必要だ。
二日に一回ぐらいはダンジョンに潜ったほうが良い気がするな。今度は九層を巡ってみよう。とりあえず今日は買い物に行く予定があるのでまた午後から探索に入るか、一日休みにするかだ。気分で決めよう。とりあえず日用品とバーナーとスキレットを買い足しに行く予定ではある。
だが、そもそも置きっぱなしにする必要があるかどうかという問題が……あるっちゃある、ないっちゃない。そもそも保管庫に入れっぱなしにしておけば何の問題もないのではないか? という話だ。毎回保管庫に入れて出してをやっていれば良い訳だし、清州に行くときはバッグに突っ込んでおけばいい。
ただ、毎回小西ダンジョンへ来て設営して……を繰り返すにあたり、持って帰って洗浄してまた持ってくるという活動をしないなら置きっぱなしにしておいても問題ないのでは? ある日突然清州に行きたくなって、そのために小西へ取りに行くという手間が一つ省ける事になる。
後はお手入れの問題か。保管庫に入ってる間は時間の経過もゆっくりになっているので、手入れ不足で錆びたりする経過時間も非常にゆっくりだ。保管庫に入れておいたほうがメリットがはるかに大きいのは確かだ。
仮に十四層に行くような事になっても、テントはともかく身支度する道具は七層に置きっぱなしにするよりも持ち歩く癖をつけたほうが何かと捗るのではないだろうか。これは予算の問題ではなく自分の行動の問題なのでよく考えておいて間違いないはずだ。
保管庫を使う回数を減らせばそれだけ発覚する可能性も低くなる。となるとやっぱり調理用品は持ち歩くほうが俺にとって都合が良い事になるんだろうか。う~ん。なんか同じことを前にも悩んだ気がする。
きっと悩んでいたに違いない。そして今予備を持っていないという事は予備は別にいいやと決めたんだろう。ならスキレットとバーナーは今のままで良いな。
忘れっぽくなったり同じことを考えたりするのは老化現象の一つ……四十代からもう認知に問題が出始めているのだろうか。脳の訓練をしっかりしておかないとな。それはともかくとして、毎日の食事の用意はしないといけない。買い物には出よう。ただし買うのは日用品だけだ。
保管庫問題はまた次回だ。次回があるかどうかは解らんが。とりあえず保管庫の整理してから車を出して何時ものスーパーへ出かけるとしよう。
ゴミやら空きペットボトルやらは昨日帰ってきたときに片づけた。食べかけのお菓子とかそういう物が入っている事は無いはずだが、念のためチェックしておく。うん……うん……前に起きたたい焼き事変のような事は発生しないはずだ。
何時ものパンと卵と野菜と牛乳とトマジューを買い、ちょっと摘まむ感じのおやつを買い込むと、メモ帳を確認して更に足りない物がないかどうかを確認する。そういえばちゃんとした領収書を持っておかないといけないな。商品棚を眺めているふりをしながら保管庫のウィンドウともにらめっこし、足り無さそうなものを探す。
見当たらない事を確認すると昼食用のおつまみを買い求める。ついつい油モノに手を出してしまうのがこの腹のおつまみにつながるんだが、美味いものは仕方がない。が、二品買うのを一品にしておこう。あ、パックライス追加しておかないとな。箱で買う。
今日はたい焼きの魔力には負けないぞ。出入口すぐ脇に設置された店舗から香ってくる甘い餡子と焼かれた生地、そして香ばしいソースが鉄板から漂うお好み焼きとたい焼きの店だ。
既に二敗を喫している。今日は勝つ……勝つ……よし、勝った!
出入口を無事に通過すると車に買った物を積み込む。これで午前中にやる予定の事はすべてやった。午後からは……せっかくやる気があるんだしダンジョンへ行こう。今日も小西だ。一昨日と同じ行程で進んで行こうと思う。一応文月さんに伝えておこう。
「最近太ってきた気がするので減量してくる」これだな。ぽちっと。さぁ帰るか。
家に着いたころに返事が来た。「夜間狩りなら参加する」……なるほど、やはり向こうもか……
「とりあえずダンジョン入る前に連絡する」これで良いだろう。
久しぶりのパーティプレイだ。連携の確認も兼ねて、出来れば十層にも行こう。二人スキルを扱えるようになっての十層攻略は初めてのはずだ。何処まで通用するか楽しみだ。
家に帰り、昼食を軽めに食べると身支度を済ませる。いつものツナギにいつものグラディウス。そしていつものバッグの中に水と携帯食……今日はバニラバーの気分だな。後でお腹空いた時に食べよう。ちゃんと野菜も持とう。
万能熊手二つ、ヨシ!
マチェット、ヨシ!
グラディウス、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
防刃ツナギ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
枕、ヨシ!
食料水、色々種類あって、ヨシ!
保管庫の中身……ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。今日は買い物中にもチェックしたから抜けは無いはずだ。落ち着いた気持ちでダンジョンへ向かう。
いつも通り駅に着く前にコンビニでペペロンチーノを買い、チンチンに温めると保管庫へ放り込む。駅で電車に乗り最寄り駅へ、最寄り駅からバスで小西ダンジョン前へ。いつものコースでダンジョンへ向かう。
道中は混みもせず空きもせず程々といった感じ。何事もない普通の平日の昼間。ダンジョンに着いて午後二時。真っ直ぐ七層まで行って午後七時ってとこか。とりあえず文月さんに連絡を入れる。
「今から入る」これで良し。後は……そうだ、新浜さん達が小西に潜ったという事は、地図が更新されているかもしれない。念のため受付で確認しておくか。暇そうな支払いカウンターへ声を掛けに行く。
「すいません、最近地図って更新されましたか? 」
「ええとですね……十層と十一層は更新されてますね。買います? 」
「買います買います。一応二枚ずつください」
更新された地図も持った、これで準備万端だ。さぁ早速ダンジョンへ行こう。相棒は待ってればその内来るだろう。
「あ、安村さん。先に七層行ってるって言ってましたよ」
「先に来てたんですね。解りました。とりあえず宿泊で」
気を取り直して追いかけよう。そんなに時間差はないはずだ、狩りながら進んでるだろうし道中で追いつくだろう。五層ぐらいまでで追いつければベストか。
綺麗に清掃されている一層を抜け、二層にたどり着いた。トランシーバーを鳴らしてみるが反応は無い。二層もきれいに掃除されていた。三層にたどり着くも、同じく行き道は綺麗に掃除されている、四層まで一気に戦闘無しに駆け込んでくる結果になった。
さては結構近くにいるな? 四層に降りるととりあえずトランシーバーで連絡を取ろうとしてみる。
「こちら安村、四層に着いた、どうぞ」
返事はない。タッチの差で五層に行ったか? とりあえずそのまま追いかけよう。もしかしてトランシーバー忘れて出て来ただけとかそういうオチではないよな。
とにかく階段まで急ぐ。道中出てきた可哀想なゴブリンはまとめて【雷魔法】で焼き切り、どんどん奥へと進む。三回ほどの戦闘を超えて五層に到着する。五層に着いたがモンスターも文月さんも居ない。とりあえず駆け足で一本目の木に駆け寄ると、木には何もなかった。これは通り過ぎたという証だ。
そして二本目の木に行くまでの道もきれいに掃き清められている。と、更にその奥から人影が見え始めた。二本目の木まで駆け寄って後ろ姿がはっきり見える距離まで来るとトランシーバーで連絡する。
「私、安村さん。今、あなたの後ろに居るの」
振り向く見慣れた人影。
「ほんとだ、居る! 」トランシーバーから声が届いた。
ようやく文月さんと合流出来た。五層まで駆け下りて来た甲斐があったか無かったか。そのまま先に七層までたどり着いてくれてても問題は無かったが。
「これ、取れたてほやほやのお肉と羽根とそれから……色々! 」
開口一番バッグの中身を差し出す。久々の一言がそれか。まぁいいけど。預かって保管庫に放り込む。
「やはり体型が気になってきたか」
「それは言わないでください。言われて気づいて慌てて出てきたのがモロバレじゃないですか」
いや、自分で言ってるし。
「俺より早くたどり着いてる時点でそれは察していた」
「もう体型の話はよしましょう。今から動けばいいんですよ今から! 」
「はいはい。じゃあこのまま先導任せて七層まで連れて行ってもらいましょうかね」
何時もの調子に戻ると、三本目の木目指して文月さんが突撃していく。心なしか、普段よりも余計な動きを増やしている。そうやってカロリーを消費しているつもりなのか。
「お楽しみの所申し訳ないんですがね、スキルメインで戦っていけばよりカロリーが消費しやすいと思いますが? 」
「なるほど、たしかに! 」
途端に【水魔法】に切り替えてザクザクとワイルドボアとダーククロウを引き裂いていく。今日は歩き続けているな、俺。そのまま全ての戦闘を文月さんに任せ、ドロップを拾う役に徹する。
文月さんは三本目の木もきれいに【水魔法】で片づけてズンズン先に進んでいく。その後ろをトボトボと付いていく俺。小西ダンジョンでお互い見知った相手なら「今日の文月さん張り切ってるなー」で済むだろうが、清州ダンジョンだったらまた違った感想を持たれるところだろう。
ともかく、無事に合流し六層前までたどり着いた。ちょいと小休止が欲しいところだが、文月さんが次へと行きたがっているのでそのままのペースを崩さず進んでもらう事にする。そうすれば密度の高い狩りが出来る時間が増え、その分減量にもなる。無理はしてないようだし大丈夫だろう。
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