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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第四章:中年三日通わざれば腹肉も増える

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235/1221

235:久しぶりに潮干狩りを

千七百万PVありがとうござまーす。



 ここ最近、留まる事が無かった一層へ着いた。一層に居るのはスライムちゃんだけである。やる事は一つしかない。精神統一と自己啓発のためのスライム狩りだ。


 早速一層に上がったところからスライムがうようよぽよぽよしている。君たちに会いたくて仕方なかったよ。久しぶりだねぇ……


 グラディウスを保管庫に仕舞い、腰につけている熊手を手に持つ。まず一匹目、一番近くにいるスライムをそっと手にすると、スライムの核目掛けて熊手を突き刺し、コロンと核だけを取り出す。そして靴の裏で踏む。スライムは黒い粒子に還っていった。


 スライムを狩りながら側道に入り、スライムがいつも多めに発生している小部屋に着いた。予想通りスライムは部屋一面に出現しており、それぞれあっちへ行ったりこっちへ行ったりしている。俺が来たことを確認するとまるでこちらを認識しているかのように寄ってくる。


 スライムを寄ってきた順番に丁寧に潮干狩りする。黒い粒子となって消えたスライムはアイテムをドロップしたりしなかったりとバラバラだ。バニラバーの儀式をしてないからというのもある。


 何十回何百回何千回と繰り返したスライムとの儀式だ。何千匹もスライムを倒すことも大事だが、スライム一匹一匹へ感謝を捧げながら潰していく事も忘れない。全てのスライムは生きている。若干ゲームじみたシステムで出来ているダンジョンとはいえ、確かにスライムはそれぞれ生きているんだ。


 命を狩り取って自らの生活の糧とすることについては今のところ罪悪感は無い。多分言葉が通じないせいでもあろう。もしスライムの悲鳴や嗚咽が聞こえたならばまた別だろう。しかし、スライムに発声器官は備わっていないようなので、スライムがどんな事を考えているか等はまるで解らない。


 以前集合的無意識を持っているんじゃないかとも思ったが、とりあえず今日は俺に向かってポーズを決めたりバニラバーを求めたりするスライムは居ないようだ。気分で変わるのだろうか。


 Cランクにもなってスライム狩りですか? 人に問われる可能性があるが、Cランクになったからこそ初心に戻って自分が探索者としてどういう事をしていくのか。何を求めていくのか。それを考えるにあたって無心になれる空間がこの一層のスライム部屋なのだ。


 俺を取り囲むスライム達にまずはお祈りを捧げる。その後、自分の近くにいるスライムから順番に、グップツッコロンパンといつもの音を響かせながらスライム潮干狩りを始める。出来るだけリズムよく、静かに、それでいて一匹一匹への感謝の気持ちを忘れない。


 グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。

 グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。


 ただひたすらスライムを潰し続ける音が響く。


 グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。

 グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。


 スライムを心ゆくまで好きなだけ狩ることが出来る。君たち一列に並んでくれても構わないのよ。どうせ行くところは皆同じ。早いか遅いかの違いだけだから。


 グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。

 グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。


 十二層のほうが十一層よりもオークが多いなら、十二層でひたすら狩り続けるほうが十一層よりは効率が良さそうだな。しかし十層を通り抜けるのが問題か。普通のパーティーなら十層でバッグが一杯になって泣く泣く引き返すこともあるんだろうなぁ。


 グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。

 グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。


 こういう時は【保管庫】のありがたみを大いに感じることが出来る。スライムに更に感謝しなくてはいけない。ありがとう、俺に【保管庫】をくれて。


 グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。

 グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。


 【保管庫】スキルは非公開のまま通すことにする。Cランクになったことで情報の秘匿があるとはいえ、迂闊に口に出して上位パーティーに勧誘されたりちょっかいかけられたりするかもしれん。そうなると気軽に探索が出来なくなる。


 グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。

 グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。


 こうやってスライムを狩ってる暇があったらよりランクを上げてもっと深い階層に潜る事を強制されるのは好きじゃない。探索者は可能な限り自由でないといけない。


 グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。

 グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。


 よし、この部屋は綺麗になった。三百匹ぐらいは潮干狩りしたかな。そろそろもう一つの部屋へ行こう。戻る道すがらにはまたスライムがリポップしている。忘れずに丁寧に一匹ずつ処理すると一層と出入口を繋ぐ道を基準として反対側の小部屋へ進む。こっちにもスライム溜まりがあるのだ。


 ちょっともう一つの部屋でやってみたいことがある。手始めに弱めの雷撃をスライムに当ててみる。スライムはやはり耐久力が低いのか、かなり弱めにした雷撃でも弾けて飛んだ。ポンポンと雷撃しながら視界内のスライムを潮干狩らずに飛ばして進む。


 狩ってきた数が数なので、百二十近いドロップを一層だけで拾う事になった。買い取り価格改定前ならまたスライム素材ばかりこんなに持ち込んで! と怒られるところだっただろう。いや、今でも怒られるかもしれないな。


 雷撃を出しながら通り道のスライムを全て綺麗にしていく。時間的にまだまだリポップのタイミングはある。これなら開場すぐに出て行っても帰り道すがら掃除していきやがった! 俺たちの分がねえ! と言われずに済みそうだ。


 歩いては雷撃してスライムドロップを回収しつつ小部屋にたどり着いた。ここにも三百匹ほどのスライムが詰まっている。


 スライム一匹あたりに使う雷撃の強さを設定し、その強さを部屋全体を包み込むようにばらまくイメージを作る。小さな部屋だが、その範囲を満たす雷撃の嵐。この弱い威力なら眩暈を起こして倒れるようなことは無いだろう。


 技名は……技名はいいや、サンダーフィールドとかそんな感じで良いだろう。今は周りに誰も見ていない。この空間には俺しか居ない。ならば叫ぶならおそらく今しかない。


「サンダアァァ、フィィィィルドッ!! 」


 放つ瞬間目を閉じる。瞼の向こう側で物凄い光が放たれるのが感じられる。光が収まると、周りからザラザラとドロップが落ちる音が聞こえる。目を開けた。部屋内のスライムは全部駆除されたらしい。これは文月さんが居るときに撃つと眩しくて怒られるな。フレンドリファイアの可能性もあるかもしれない。迂闊に使える技では無さそうだ。


 眩暈は……うん、来てないぞ。そこまで出力は高くないからもう二、三発連続で打っても問題ないだろう。しかし、ここぐらいでしか今のところ使いどころがない。わざわざ技名をつけて叫んだのは無駄だったかもしれない。


 スライムが消えた空間から、早速ドロップを範囲収納で、掃除機のように拾い始める。これはこれで楽だな。ドロップは百個を超える。時間効率で言えばダーククロウを投網漁するほうが圧倒的に効率はいいが、まとめてモンスターを処理するというのは割とスッキリする。


 ドロップを全て拾い終えると、ドロップの内容を確認する。魔結晶とスライムゼリーでここまでの間にざっと二百七十個。一時間少々でこれだ。もう一時間ほど回る余裕がある。次の小部屋に移ってもう一回サンダーフィールドを使って処理してみよう。


 一層には小部屋がいくつかある。さっきまでいた小部屋と最初に入った小部屋は特にスライムが湧きやすいスポットになっているが、それ以外にも湧きやすい場所はある。そこを順番に巡っていって、開場時間になったらゆるりと外へ出よう。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 一層を好き放題に狩りつくした後、開場までの残り時間は十五分。もういい時間だろう。あえてスライムを相手にせず、自分に寄りかかってくることが無い限りはスライムをリポップさせておいて、開場とともに入り込んでくるであろう探索者の分をちゃんと残しておこう。


 出入口に向かって歩き始める。出入口への道はそれなりのスライムの湧き具合になっているが、俺は今日十分にスライムを狩った。数にして千匹ぐらいか。潮干狩りもサンダーフィールドも使ってより効率的に倒すことが出来たと思う。


 久しぶりにやったスライム狩りで心も落ち着いたし明日からの活力も補充することが出来た。開場時間が来る前に、手持ちのドロップをエコバッグに全て放り込んで稼いで帰ってきた感を演出しよう。


 今回はスライムの魔結晶は査定に出さずに保管庫に入れっぱなしにしておこうと思う。俺は研究者ではないが、何かスキルに関連して魔結晶が変化するかもしれない。そういう実験をするためにも、スライムの魔結晶はちょうどいい大きさと数だと思う。


 後はボア肉を四つぐらいへそくりに入れておくかな。へそくりにはウルフ肉十個とボア肉が八つしまい込まれている。


 出入口に向かってエコバッグを両手に抱え、開場を待つ。出入り口に着くと丁度開場の時間になったらしい。ダンジョンに入ってくる探索者とすれ違う。その中に田中君も居た。


「お、安村さんお疲れ様です。深夜狩りの朝帰りですか。何層に居たんです? 」

「今日は四層と一層かな。やっぱりスライム狩りはいいね。心が洗われる」

「さすがは潮干狩りおじさんですね。初心を忘れないという事ですか」

「そんな感じ。じゃお先。ご安全に」


 二、三の会話を終えるとそのまま受付で退ダン手続きを取る。


「お早いお帰りで。昨夜はお楽しみでしたか」

「えぇ、すっかりお楽しみしてきました」


 両手を持ち上げて戦果のほどを見せつける。


「帰りもお気をつけて」


 そのまま査定カウンターに向かう。やはり朝一は暇らしく、開場して早速の仕事に張り切っている。


「今日も一杯ですねー。一晩でこれだけ稼げるようになるもんなんですかー」

「まぁ、昨夜は私しか居なかったようでして。狩場を独占できたのでそのおかげですね」

「そうですかー。ちょうど暇だったのですぐ終わると思いますのでちょっと待っててくださいねー」


 十分ほど待って査定が終わる。金額は……四十七万千四百六十五円。過去最高だな。さすがダンジョン独り占め。四層をひたすら巡った効果も大きいか。やはり自己鍛錬は大切。ついでに稼ぎも増えて文句の付け所が無い。


 支払いカウンターで振り込みをお願いすると、今日のギルドでの活動は終了だ。さて、帰りのバスのタイミングに間に合うかな。


 さて、時刻は九時三十分。まだ中華屋は開いていない。これは休息を取る時間としてはちょうど良いな。カウンターで許可を取り、しばし待合室で仮眠させてもらう。


 二時間ほど眠ればちょうど良いだろう。アラームをセットして横になる。見えない部分で疲れていたのか、眠気が訪れるまでにはそう時間はかからなかった。


作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この内容で1話丸々やる大胆な時間の使い方、この小説らしい
[一言] 他の場所でも1層くらいスライム大量に出る場所あればすごく喜びそうやなって思うくらいスライム狩りすきよなぁw
[良い点] 一匹一匹に感謝せねば→次の部屋で叫びながら範囲攻撃 やっぱ淡々とした中に出てくるサイコさが魅力
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