231:久しぶりの小西
さて、冊子を少し読み込んだところで頭が少し疲れてきた。これは休憩がてら運動するのが良いな。一気に一日で読み込んで覚えきるものでもないだろうし、一番大事なところは読み終わった気がする。
罪は犯すな、社会的に死ぞ。
これで十分だろう。さて、昼飯食ったら……久しぶりに小西をぶらつこうかな。七層で仮眠して道中運動しながら帰ってくる、いつものソロお気楽ルートだ。Cランクになったら必ず下層へ潜らなければならないというルールがあるわけでもないし、俺一人であの十層を突破する自信はない。
とすれば、夜中の四層狩りで【雷魔法】の使い方を研ぎ澄ませていくのが成長には大事だろう。パックライスと適当なレトルトを保管庫から取り出すとレンジで温めて、期限の怪しそうな野菜を添えると食べる。
腹を十分に満たすと、久しぶりのダンジョンルックに着替える。なんだか袖を通すのも久しぶりに感じる。髀肉之嘆ではないが、そう言う事なんだろう。これは少し鈍ってしまっているかもしれない、より注意しながら行くか。
水とコーラもちゃんと入れてから確認の時間だ。
万能熊手二つ、ヨシ!
マチェット、ヨシ!
グラディウス、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
防刃ツナギ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
食料水、色々種類あって、ヨシ!
保管庫の中身……ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。だが、以前指さし確認した時に食い忘れたたい焼きを残したまま普通にダンジョンへ来るという失策をしている。保管庫の中身はより入念にチェックしておかないとならない。
余分なものを持っていくのは問題ない。必要な物が入ってない事が問題だ。必要な物、排泄用品、タオル、枕……枕は大事だ、ちゃんとしたほうを持っていこう。トランシーバーは念のためバッグに入れて持ち込んでおく。エコバッグも枚数それなりに入れてある。
今度こそ、ヨシ! すると、いざ久しぶりの小西ダンジョンへお出かけ開始だ。駅の前のコンビニに寄って夕食代わりのパスタさんを買う。……お、探索・オブ・ジ・イヤーの最新号が出ている。こいつも買っていこう。
更に、A4のノートとボールペンを購入しておく。いい加減、七層の紙皿交換会もノートにまとめたほうがみんな楽だろう。そのほうが見やすさも質量も少なく済むはずだ。
駅について小西ダンジョン方面の電車に乗ろうとする。タイミングが悪かったのか、しばし駅で待ちぼうけする事になったのでさっき買った「月刊誌」探索・オブ・ジ・イヤーをパラパラと読む。
スキルの相場はどうやら小幅な値上がりをしており、平均では五パーセントほど上昇しているようだ。探索者の増加傾向に引き寄せられた形らしい。ダンジョンが出来てまだ三年、すでに引退を決め込んだ人や探索者が嫌になった人がそうそう多く出るはずもなく、需要は伸びているんだろう。
新しいダンジョンが出来たという情報も無いので俺の以前予測した、各ダンジョンと各階層でドロップテーブルが別で回っている、という現象が正しいならば探索者が増えてもドロップ量は増えない。
となれば探索者が増えた分だけ欲しがる人も増える。スキルオーブをドロップしなくても俺と文月さんみたいに一晩で数十万の稼ぎを上げる事はそこまで難しくないはずなので、金を貯めてスキルを競り落す方向で考える人も少なからずと言ったところだろう。
そう考えるとスキルを都合四つ手に入れた俺たちは運が相当良かったということになる。あの仮説が仮に正しかったのだとしても、それでも手に入るかどうかはまた別の話だ。実際に手に入れるまでサイコロを振り続ける作業をひたすら続ける必要がある。
結局のところ努力でなんとかしたという点については同じなのだが、効率よくそれを行うことが出来たのもまた幸運という事だろう。
お、電車来たぞ早速乗ろう。電車に乗りつつ乗り過ごさないよう気を使いながら続きを読んでいく。
今月のラッキー星座は牡羊座、ラッキーアイテムは太ももにピッタリ収まるスキットル。これは俺には関係ないな。
鬼ころし清州店、食品関係五パーセントオフのお知らせ ※対象外の食品もあります
これは多分バニラバーが対象外なんだろうな。あれは安くしなくても皆がこぞって買いに来てくれるスライム狩りの必須アイテムになってしまった。
今月の紹介ダンジョンは十津川ダンジョンらしい。どうもスライム確定狩りが始まってからどこの交通の便がいいダンジョンの一層も満員になった結果、山奥にある過疎ダンジョンである十津川ダンジョンにも人が訪れるようになったとの事。
ツアー客がメインで、スライムをひたすら狩るツアーと、七層まで行って帰ってくるDランク以上限定のツアーとあるらしく、中でも七層行きのツアーは途中で三層や五層で別れて探索をしても良く、参加費のわりにそこそこ稼げるツアーとして順調な滑り出しをし始めているようだ。
例の仮説が立証されるようになればよりツアー客はがっつりと増えるようになるだろう。いや、もしそうなれば日本全国ダンジョン行脚の旅を始める探索者も出始めるだろう。そうなればこの本もちょっとは分厚くなるんだろうか。
その前に、この仮説を立証する方法が無いんだったな。まぁあまり気にせずに行こう。たとえば俺自身が全国のダンジョンを行脚して巡り続けて見本を示す事だってできるが、それはそれで目立ってしまうし、俺自身が集めてしまっては何の意味もないからな。できるだけ考えるだけにして、立証実験は他人に任せたい。
最寄り駅に着き、バスの時刻を見ると三十分後。これは自転車のほうが速いな、自転車で行こう。駐輪場で自転車を出すようなフリをしつつ誰も見ていない事を確認すると、保管庫から自然に自転車を取り出し乗り込む。完璧な演技だ……
駅からダンジョンまでは自転車で二十分ほど。準備運動としてはちょうどいい。時間的にも暇だろうから自転車を保管庫に放り込むときも人目に付くことは無いだろう。道中のコンビニはパスだ。自宅近くのコンビニにもう寄ったからな。
道中事故にあうことも無く無事に小西ダンジョンにたどり着いた。なんだか久しぶりな感じもする。とりあえず文月さんには一言送っておくか。駐輪場に自転車を停めると、誰も見てない内に片づける。
証拠隠滅完了。これでいつも通りのペースでダンジョンに潜れる。早速受付に行くと受付嬢に質問される。
「何日か前に安村さんの知り合いの方が宿泊して帰って行かれましたけど、心当たりあります? 」
「あ~……五人組でしたか? 」
おそらく新浜さん達だろう。早速潜ったのか、行動が速いな。
「えぇ、お知り合いでしたか。一応の確認ですのでお気になさらず」
「そうですか。あ、一応宿泊で通しておいてください」
「解りました。あ、あとCランク昇格おめでとうございます。ご安全に」
「ありがとうございます。ご安全に」
さぁ久々のダンジョン探索だ。気合入れていくぞ。順番に一層から七層まで潜っていこう。しかし、一層は綺麗に掃除されている。つまり探索者がそれなりに居るという証拠だ。この時間帯では楽しくスライムと語らい合うことは出来ないだろう。
楽しみの時間はそれは夜にしよう。今はとりあえず四層までまっすぐ潜って鈍った体を解していく事が先決だ。一層二層三層と飛ばしていくが、三層にも人の手が増えつつあるらしく、四層まで一直線に向かったもののモンスターは一切出なかった。やはり四層からが本番だな。
四層に降り立つと聴覚ブーストを使って他のパーティーが無いかどうか確認する。どうやら一パーティーは居るらしいな。戦いの音が聞こえる。そっちへ行かないように逆方向へ進もう。すると早速ゴブリンの集団と出会う事になった。やぁ久しぶりだねぇ。
早速【雷魔法】の復帰練習台になってもらう。チェインライトニングのイメージを思い出し、出力をちょっと強めにして打ち放つ。一瞬の閃光と共にゴブリンたちはドロップを残してそのまま黒い粒子になって消滅する。
うん、鈍っているかと思ったが完全に忘れている訳ではないらしいな。まずは一安心だ。この調子でしばらく留まって調子を整えよう。ステータスブーストを使って少しずつ体と脳を加速していく。加速した世界の中でゴブリンと出会っては肩を軽くたたいてやり、そこで【雷魔法】をお見舞いしていく。君、今日でクビだから。
クビを宣言されたゴブリンは全身に稲妻が走ったような衝撃の後倒れていった。実際に雷撃は走っている。次々にゴブリンやソードゴブリンを肩ポンしてクビにしていく。四層での大リストラが始まった。俺は突然忍び寄る怪しい係長だ。この階層で出会ったすべてのゴブリンたちに悪夢のプレゼントを配る。
二十分ほどそれを続けて眩暈の兆候を体感し始めた。前は十五分ぐらいでギブが来てたから前より少しだけ力を使いこなせるようになったという事か。よし、また二十分の間は普通にステータスブーストだけで狩りを続けよう。
まるでシャトルランをするようにスキルを使いながら全力で動く時間と、スキルを使わずに肩の力を抜いて戦う時間を交互に取ることで、ちょっとずつ体にスキルをなじませてより軽やかに動かせるようになると良いなという話だ。実際に効果があるかどうかまでは解らないがやらないよりやったほうが良いだろう。
ゴブリンの肩たたき雷撃を肩ポン爆破と略して呼ぶが、少なくとも肩ポン爆破でゴブリンを倒し続けるだけの経験を積み重ねる事で僅かばかりでもステータスブーストやスキルの成長にも徐々に効果が及ぶはずだ。
「む~りやり~リポップするまでの~過酷なひーとりたびーっと」
四層と言えば、新浜さん達は結果を残せたんだろうか。結果がはっきり出たから今もうここに居ないのか、飽きて清州に帰ったのかは解らないが、結果が出るまで粘っていたなら何か伝言ぐらい残しておいてくれてもいいところだが。
都合二時間ほど四層で粘り強く己の鍛錬に勤しみつつ肩ポン爆破を楽しんだ。ゴブリンたちにとっては大迷惑だろうが、そこは俺の都合に合わせてもらった。さて、そろそろ七層へ向かうか。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
 





