222:Cランク試験 6/11 肉
休憩を取りつつ、階段まで近寄ってきたモンスターを少しずつ倒すという形になったが、それでも三十分しっかり戦った分を多少取り戻す形で休むことにした。
ここからはお楽しみの初めての十一層だ。マップそのものに大きな変化はない。しいて言うなら階段の位置ぐらいか。十一層の地図を確認する。どうやら地図を見る限り、マップの大きさが同じと仮定するなら十層から十一層へ行くよりも、十一層から十二層へ行く行程のほうが階段はさらに近いようだ。
俺はまだオークの姿を見たことが無いからな。どんなオークか楽しみだ。オークと言っても色々種類がある。筋肉ムキムキマッチョマンの変態から、イノシシがそのまま二足歩行になってる奴まで格好が幅広いモンスターである。ただ緑色の小鬼がでかくなっただけならそれはゴブリンの亜種だろう。もしかしたら二足歩行するピンクの豚かもしれない。
持っている武器にしても槍だったり棍棒だったり素手だったり、オークによりけりだ。どのパターンで来るか楽しみだな。
軽めの戦闘をしつつ十五分の休憩が終わり、いざ十一層の階段を降りた。マップの見た目は変わらない。明らかに変わったのは音だ。今まではカサカサ……という何かが這いまわる音や地面を軽く歩く音だったのが、若干重苦しく何かが明らかに移動しているという振動に変化した。
「この足音がオークのものかな。確かに地面を踏みしめるような感じの」
「おそらくそうでしょう……ってよくそこまで解りますね」
新浜さんが少し驚いている。
「ステータスブーストの応用で聴覚だけ鋭敏にして周囲の音を聞き分けるんですよ」
「なるほど……あぁ、こういうことですか。多分これがオークの足音ですね」
「さすがに大きさまでは解りませんが結構な重量がありそうな感じですね」
「ここまで出てきたモンスターの中では一番大きい部類になりますからね」
とりあえず階段方向に向かってみましょうという事になる。どれだけ湧いてくるのか解らないのでひとまず崖側をゆっくり移動していく。
するとジャイアントアントが三匹出てきた。今はお前らの出番じゃないぞ。親指、三、二。さっさと潰してしまう。ジャイアントアントを倒している間に、森の中からニュッと顔を出す緑色の皮を着た二足歩行の豚が歩いて出てきた。手には足と同じぐらいの太さの棍棒を持っている。
体長は百六十センチぐらいだろうか。俺より低いぐらいだ。だが全身は程よい脂肪で覆われており、生半可な攻撃は受けない印象すら感じさせられる。顔は豚そのものだが常に目を見開いているような表情をしている。家畜の豚のほうが愛らしい目をしているな。
「これがオークか……予想より少し大きいかな」
「これがお肉ですか……緑色だとあんまり美味しそうに見えませんね」
……まぁ、反応は人それぞれで良いと思う。
「さすがにこの大きさだと抑え込んで耐久力チェックとはいかない。殴って確かめるのが一番良さそう」
「同感ですね。ちょうど二体居ますし一対一で強さのほどを見極めましょう」
文月さんとそれぞれ一体ずつ対処する取り決めをして、いざ尋常に勝負と行く。
オークはこちらを認識するとのっしのっしと歩いてくる。ゆっくり歩いているのか、もっと早く走れるのかまでは今のところ解らない。ただ、対人間型の戦い方もここで学んでおくべきなんだろうなという気はする。
オークが走り始めた。こちらへ一直線に棍棒を振りかぶり、振り下ろす。まずはバックステップで回避する。オークはその体勢のまま横薙ぎに棍棒を振り、俺に当てようとしてくる。
とりあえず小盾で受け止める。ググッ、という重さの負荷がかかる。結構重たい攻撃だ。が、耐えきれないほどではない。受け止めることは出来るがこれを他のモンスターみたいに弾くことは難しそうだな。受け止めている間に雷を纏って反撃をする。
雷撃を食らったオークは若干怯むが、ダメージをそれほど強く与えられているようには見えない。脂肪のおかげか。オークは再び棍棒を振りかざす。その間に懐に深く潜りこむと心臓目掛けてグラディウスを差し込み、雷撃をオークの全身へと浸透させる。
そのままのポーズで動けなくなったオークだが、まだ倒れてはいない。グラディウスを引き抜くと更に喉笛に向けてもう一度グラディウスを差し込む。喉を掻っ斬られたオークは今度こそ倒れ、黒い粒子に還っていく。
中々の耐久力だった。ドロップは……魔結晶か、結構重さがある。ジャイアントアントの二倍ぐらいだろうか。とりあえずもっと火力を上げていい相手だという事は解った。
文月さんのほうへ振り向く。振り回される棍棒を槍先で往なしつつ、少しずつ傷をつけてダメージを蓄積させていっている。いったん離れると【水魔法】で切り裂きにかかるが、オークの脂肪の厚さに遮られて致命傷までは与えられずにいる。柔らかいくせに硬いな、オーク。
「槍なら心臓一突き出来ればワンチャンあるかも」
「もう終わったんですか? 早いなぁ」
文月さんの声からは余裕が感じられる。あれなら大丈夫だろう。しばらくすると胴体ががら空きになったオークに対して文月さんが全力の一突きを込める。心臓を貫かれたのか、オークは黒い粒子に還っていった。ドロップは無し。
「オークの第一印象は? 」
「久々に全力出して戦えそうな相手ですね。中々に楽しめる相手だという事が解りました」
「後は湧き密度だな。あんまり多すぎると困る」
「三匹ぐらいまでで勘弁してほしいところですが……? 」
新浜さんから情報を引き出そうとそっちを向く。
「まぁ、大体そのぐらいが上限ですね。あまり徒党を組むタイプではないようですよ」
情報をもらえた。これなら大丈夫だろう。という意思疎通をもらった気がする。
「じゃぁ、オーク狩りに勤しもう。さすがにジャイアントアントもここではそこまで数が出ないだろうし、俺も全力で【雷魔法】を打ち込んで対処していく事にする」
改めて前へ歩いていく。後の二人も体に異常は見られない。一応メモって行こう。倒した数と、ドロップの数をだ。
「う~ん、浴びるほど倒したいとは思っていたけど、そこまでの密度では無さそうだな……って言ってたら来たわ。ちょっとテストしてみる」
オークがまた二体、森から這い出てくる。試しに【雷魔法】を最大出力で撃つ。オークは消滅した。ドロップは無し。最大出力は過剰だったらしい。次に、ジャイアントアントに打ち込む強さの【雷魔法】を打ちこみ、オークの足を少しだけ鈍らせることに成功した。そのまま継続して出力を上げていき、オークが消滅したところで止める。ドロップは魔結晶。
最大出力の七割位ってところか。ここを基準にボーダーを見定めていこう。もう一体にさっきの最後の出力を浴びせ、更に継続して出力を上げていく。ジャイアントアントを一撃で倒す際の二倍ぐらいの出力を与えたところでもう一体のオークも倒れた。ドロップは無し。
「どのぐらいの耐久力か解った? 」
「ジャイアントアントの倍ぐらいじゃないかな。とてもタフネスなことは間違いない」
「じゃあ数をとにかくこなしていくというのはちょっと難しいかもしれませんねえ」
「出てくる数にもよるかな。この調子でポンポン出て来てくれればありがたいけど。とにかく苦戦する相手じゃないことは確かだ」
「お肉まだですかねえ。早くお目にかかりたいところですが」
文月さんは食気に走っているようだ。新浜さんは……笑顔を崩さない。が、小声で「もう合格で良いんじゃないかな」と言っている。なんか不味いことしましたかねえ。
暫く歩き、ジャイアントアントのグループと出会うのが二、三回。スリーマンセルで行動するのが十一層の特徴らしい。先に手が空いたほうが残りの一匹を攻撃する形で無難に勝利していく。
「もっとオークが居ても良いんだけどなぁ。その辺どうなんですかね」
新浜さんに話題を振ってみる。
「このぐらいの湧き方がここでは普通ですね。尤もオーク倒すにはもっと時間がかかるものなんですがあっさり倒してしまっているのでその分湧きが遅く感じるのかもしれません」
つまり、十分実力はあるから後は数狩って早く帰ろうぜということだろうか。
「なるほど。じゃあもう一歩森に近づいてみますか」
「なるはやでドロップ手に入れて帰る、と? 」
「そのほうが試験が早く終わって良いじゃないですか」
やる気をみなぎらせた俺と文月さんはオーク狩りに専念するために少しだけ森に近づくことにした。その分エンカウント回数が増える事でオークを狩る回数も増えるだろうという判断だ。
すると早速オークがまた二体近づいてきた。二人組多いな。ツーマンセルが基本なのか? 【雷魔法】だけを使って処理して眩暈を起こすのはあれなので、真っ当に物理での戦いに走る。
ステータスブーストを十分に使い切ってオークの攻撃を受け止めるとそのまま力を受け流し、スキが出来た所で急所にグラディウスを突き立てて仕留める、という他のモンスターでも散々やってきたやり方だ。オークにも十分通用するらしい。根元まで刺さったグラディウスを引き抜き、更にもう一度突き刺す。
オークは黒い粒子に還って……そしてお目当てのパック肉を落とした。これがオーク肉か。赤からピンクのグラデーションが輝き、白い脂肪の筋が見えている。これが俺の目標としていたオーク肉か。ついに出会えたぞ。こんにちはオーク肉。
文月さんも全力で戦っていたのか俺がオーク肉に挨拶をしている間に戦い終わったらしい。向こうもオーク肉を無事に手に入れた模様。これで残りは魔結晶が三、オーク肉が一となった。
オーク肉をそれぞれ手に取り新浜さんに駆け寄る。
「出ました。これがオーク肉ですか」
「これがオーク肉ですね。後オーク肉一つ、魔結晶三個ですね。とりあえず証拠品として両方預かっておきますね」
オーク肉に頬ずりする前に没収されてしまったが、また拾えばいいだけだ。魔結晶が出るまでにオーク肉も余分が出るだろう。余分が出たら食べる。それを目標に、俺と文月さんはさらに気合を入れる事になった。
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