220:Cランク試験 4/11
八層から九層へ向かう道はそこそこのモンスターリポップがあった。ワイルドボアが三匹ずつぐらいワンセットになりつつ、適度な感覚で散らばっている。これなら暇つぶしにもなるし丁度いい。一時間休憩した分の気楽さは手に入れたぞ。【雷魔法】は使わずに正統派の物理攻撃で一匹ずつ処理していく。
「やっぱりスキルよりこっちのほうが落ち着くな」
「これからどれだけ使うかもわかりませんしね。そういえばジャイアントアントに【雷魔法】で立ち向かったことは? 」
「まずはジャイアントアントの耐久力試験からだね。どのくらいの出力で落ちてくれるかはやっぱり実地でないと解らない」
ダーククロウは極力相手せずに、頭の上を通りそうな奴だけを【雷魔法】で撃ち落としていく。羽根が舞う。試験の邪魔だとは思いつつも、ドロップを散らばらせたまま行くのは丁寧な探索とは言い難いのできっちり拾っていく。
「羽根はなぁ……やっぱりパックで欲しいよなぁ。でもパッキングしてあると潰れちゃうし、やっぱりそのままドロップするほうが正しいのかなぁ」
「ダーククロウの羽根ですか。確かに散らばるのを拾うのは手間ですが、正しいとは」
新浜さんがドロップの正しさという不思議な単語に対して反応している。
「いやね、ウルフ肉・ボア肉・ゴブリンソードと、真空殺菌パックだったり鞘付きだったりで、それぞれ我々に扱いやすいように配慮してドロップしてくれるじゃないですか」
「確かに……そう言われればそうですね。おかげで埃や汚れを気にせずに食べられますが」
「ポーションもそうです。なら、ダーククロウの羽根にもそのままドロップする事には何らかの意図があって羽根のままのドロップなのかな、と思いまして」
現状使われているのが快眠グッズというだけで、実際にはもっと応用の効く何かに使われる可能性があるんじゃないか、という考えだ。
「なるほど、我々にはまだ気づいてない使用用途があって、それにはパッキングした羽根ではダメな何かがあるかもしれないという事ですか」
「まぁ、ダンジョンのほうが何も考えてなかったという可能性だってあるんですけどね」
「ダンジョンが何も考えてない……ダンジョンに意思があると? 」
「意思というか文明に対する理解度、ですかね。でなければ肉や魔結晶のドロップはそれ自体がポンと出てくるわけじゃなく、自ら肉体を切り裂いて手に入れる必要があるはずです。そうなってないという事は、現代人はそういう行為に慣れてない、もしくはそういう慣習をほとんど持っていない、という事をダンジョンが認識している必要があるじゃないですか」
今のところ立てている仮説を基に新浜さんに解説を試みる。
「なのでダンジョン側が考えているかどうかという意識の表れになる……」
「自ら毟らなくていいだけマシってところが俺の感想ですが、ここよりさらに下の階層に答えがあるかもしれません。それを謎解きながら進むのも面白そうではあります」
「安村さん色々考えているんですねえ。私はそこまで考えたことは……あったかもしれないけど忘れていたような気もします」
ダンジョンに対する認識をお互い深めながら、九層の階段へ着いた。道中のドロップはボア肉四つ、魔結晶三つ、ダーククロウの羽根百グラム、ダーククロウの魔結晶三つである。
「さぁこっからは戦闘続きになります。新浜さんとは前にやったと思いますが例のサインで進んでいきますんで、そこの所をご理解ください」
「あ、あのサイン新浜さんにも教えたんですか? 」
文月さんは少し不満そうだ。何が不満なんだろう?
「九層で狩りする時に。森の近くまで寄った時話す余裕が無い場合にマズイから」
「という事は、結構内側で戦っても余裕がある戦闘が出来る? 」
「まあ、今日は通り道だから一番外側をぐるっと回って、戦闘回数は出来るだけ減らしていこう。第一目的は十一層に行く事だし」
「そうされるなら解りました。命の危険を感じた時は自衛しますのでそれだけはご考慮くださいね」
新浜さんは出来るだけ手だししないと言いつつ、危ない場合は手出しするという話になった。これは逆に言えば新浜さんを囮に使えるという意味もあるが、出来るだけ戦わせない事のほうが重要だろうな。
確認を終えると九層に入る。空気が急に湿気を帯び、鬱蒼とした森の風景に変わる事にも慣れてきた。砂漠を超えて突然の森、という感じだ。
さて、九層から十層に渡る回廊を時計回りに回るか反時計回りに回るか。どちらでもあまり変わりはしないが、ここは時計回りに回ろう。
二人に行く方向を指示、確認を取る。しばらくすると早速会敵。親指、三、二。早速ジャイアントアントに近づき、雷を纏う。どのくらいの威力が上乗せできるかのチェックからだ。雷を纏いながらの頭部への一撃。突き刺さったグラディウスの先から雷撃がジャイアントアントの頭部を焼ききったのか黒い粒子に変わる。
うん、どうやらグラディウスを通して突きにかかれば確実に倒せるラインは何となくつかめた。後は雷撃だけでどうなるかだな。残りの一匹に雷撃を放つ。バリッという音と共にジャイアントアントに稲妻が走る。ジャイアントアントから少々の煙が上がる。何も考えない一撃ではちょっと遠距離攻撃としては物足りないらしい。威力の底上げが必要だな。
フラフラになり移動もおぼつかないジャイアントアントの残りの命を再度の雷撃で削りきると、ドロップを拾って元の位置に戻る。
「二発必要だった。一発で仕留められれば楽だな。同時に二発撃てば一回で終わる……かな? 」
「つまり余裕と。ワイルドボアが倒せる出力で二発撃つか、一発で倒せるように出力調整するか、あたりですか」
「そんな感じかなぁ。まぁもう少し調節しながら進む事にしよう。やっぱり小西九層に比べて清州九層は移動については楽だ。歩くスピードも上げてしまっていいと思う。その分十層十一層に時間を使うようにしよう」
確認し合うと再び外周を速足気味に歩いていく。三分に一回ぐらいのペースでモンスターと出会う。後二十回ぐらいは九層で戦う事になるのか。人差し指、三、二。ドロップ肉。あまりここで時間をかけて狩りをしてもドロップの分荷物が増える事になるので戦いにくくなっていく。
今戦いを避けながら行くのは多分後の事を考えておくと正解なんだという前提で動いている。ダッシュで十一層まで駆け抜けてオークと戦ってみたいのが本当のところだが、そうは問屋が卸してくれないのがダンジョンだ。転移魔法や階層を繋ぐテレポーターという物があるわけではないからな。
仮に出来るようになったにせよ、帰りに稼いでいけばいいのだから今無理に稼ぐ行為に走る理由は無い。第一目標は十一層にたどり着いて規定数のドロップを手に入れる事だ。それを持ち帰れないなら今日のダンジョン探索は失敗になる。
目標を一瞬見失いかけそうになったがそれを忘れないように今は周囲に気を配りながら……親指、三、二。気を配りながら誰も怪我しないようにとりあえず十層まで抜けて行こう。とはいえ小西九層よりも手ぬるいぐらいだ。心配することはそれほどないだろう。ドロップ牙一つ。
やっぱり清州ダンジョンは全体的に広いんだという事を思い知らされる。山脈も遠くに見え、若干高いような印象を受ける。
「小西ダンジョンと比べてどうですか? やはり違いますか? 」
新浜さんが話しかけてくる。そんなに緊張しているように見えただろうか。
「なんか自分が小さくなった感覚を覚えますね。やはりマップサイズが違うせいでしょうか」
「遠いよねぇ曲がり角まで。一周二時間ぐらいって話だけど」
「こう遠いと真ん中を通って行きたい気持ちが解らなくもないですね」
目印まで歩き続けるのとはまた違ったストレスがある。モンスターとエンカウントするのが救いみたいなところは確かにある。暇そうに歩いているよりも何か集中できることがしばしば起きてくれるほうが精神的に楽だ。さっき移動は楽だと言っていたのは訂正だな。人差し指、三、二。ドロップ肉。
かといってここは九層。真ん中を突っ切っていけば四方八方からモンスターに囲まれ永遠にオサラバしてしまう可能性のほうが高い。ここもグッと我慢だ。我慢が多いな、今回の試験。それに耐えるのも試験の内だろうか。
「まぁモンスターがちょこちょこと顔を出してくれるのは広いマップに対して救いかな。多すぎても困るが」
「九層でこのぐらいなら十層だといつも狩ってるぐらいの密度になるんですかね」
「そのぐらいで落ち着いてくれるとありがたい。小西と変わらない密度だったら……その時はどうしようかねえ? 」
「とりあえず着いてから考えましょう。地図を見る限り三十分ほどで十層から十一層へ抜けられそうですし、腕試しにもちょうどいいですし」
親指、二、一。そういえば二人ともスキルを取ってからの全力戦闘はまだしたことが無いな。試すにはちょうどいい機会だったか。ドロップ無し。
「全力で三十分戦闘か。それはそれでワクワクしてきたな」
「眩暈起こす前に止めましょうね、お互い」
スキルを使いすぎると眩暈が起きる。まだ文月さんが眩暈を起こすまでスキルを使い続けたところを見たことは無いが、見ないに越したことは無い。お互いを監視しつつの全力戦闘は楽しみではある。
親指、二、一。余裕があるので文月さんのほうを見ると、【水魔法】で額を斬り裂いた跡に槍を突き刺すという二段構えで確実に仕留めている。一発で仕留めるという訳ではないようだが、ずいぶん短時間で倒せるようになっている気がする。俺も負けていられないな。
そのままのペースで一時間が経過し、無事に十層への階段へたどり着いた。果たして清州の十層の湧き具合はどれぐらいのものなのか。そして試験を受けている他のパーティーはどうしているだろうか。
いろいろ気になることはあるが、ともかく休憩だ。少し休もう、そのぐらいの時間はある。
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