219:Cランク試験 3/11
節分は面倒くさかったので適当にガッと掴んでボリボリ食いました。
清州ダンジョン七層はいつも通り賑やかな様子を見せる。平日だからか、いくつかの屋台は商売をせず人が居ないようだが、やっている店舗もある。美味しかった串焼きの屋台は今日も営業中らしい。
「お、この間行き帰りに買ってってくれた兄ちゃんじゃないか。今日もどうだい? 」
「今日は試験なのでちょっと」
「そうか、Cランク試験か。頑張れよ」
顔を覚えられてしまった。帰り通りづらいな。兄ちゃんが寝てる間に通り抜けられればいいんだが。
官製テントに着いた。相変わらずここは目立つな。
「とりあえずここで一時間休憩します。新浜さんは自分のテントに居られるという事なので、時間が来たら呼びに行きます。それでいいですか? 」
「解りました。ではお先に失礼します。一時間後また会いましょう」
新浜さんは少々急ぎ足で自分のテントに戻っていった。さて、俺たちは何処にテントを張るかな。さすがに新浜パーティーのテントの真横は色々と不味いだろう。少し離れたところにする。
ふとある方向を見ると、太陽光パネルが見える。ここまで運んできて充電して何かを使っているという事だろう。折り畳み式の太陽光シートならここまで持ち運ぶのも難しくないか。なるほど勉強になる。ここで電気が使えるというのは何かしらの強みや商売っ気があるんだろう。何に使うのかな……
「俺テント立てるから、そこで横になってていいよ。その間にパパっと作ってしまうから」
「大人しく横になってまーす。そういえば枕は? 」
「今日は持ってきてないよ。保管庫使う気は無いし」
「保管庫使わずに九層十層に来るのも初めてですねえ」
「十層のモンスター密度がどのくらいか気になるな。小西程多くは無いって話だが」
文月さんはテントに横になって伸びをしたり太ももを揉んだりして体のリラックスに重点を置いているようだ。考え事をしながらバーナーとスキレットを準備してボア肉を焼き始める。さすがに醤油をバッグから出したりするところぐらいは保管庫を使ってみても良いだろう。
初見の十層を上手く往なせるかどうか。
十一層の密度とどのくらいの割合でオークが出てくるか。
オークのドロップ率がどのくらいか。
この三点だけ考えておけばいいだろう。ボア肉を強めに焼いて醤油を垂らし表面を軽く焦がすとその後で切り分ける。残った醤油の香りと焼き加減でコンビニおにぎりを焼き始める。海苔をはがして中身だけを熱する。ほどほどに温まったところで海苔をまき直して終わりだ。ここ最近では一番手抜きなダンジョン飯だな。でも食べごたえはあるはずだ。
「ご飯出来たわよー」
「はーい」
のそのそと文月さんが這い出して来る。切り分けられた肉とおにぎり。肉があるだけ栄養は取れるはずだ。
「おにぎりの種類は? 」
「忘れた、ロシアンおにぎりだな。無難な奴を買ったはず。だから心配しなくていい」
「なら私これとこれで」
適当におにぎりを二個選んでもきゅもきゅ食べ始める。時々肉を挟みつつ、醤油の香りに感謝しつつ、あっという間に食べ終えてしまった。やはり歩くだけでもカロリーは消費するな。俺も自分の分を取られないようにしつつ、食事を終える。
スキレットに軽く油を塗り焼き冷ます。この工程をやるかどうかで寿命が延びるらしい。飯を食い終えて後四十五分。アラームをかけて軽く寝るか。
自分のテントにのそのそと入る。文月さんは服を着たまま横になっている。俺は隅っこで良いや。アイマスクをつけて仮眠の形でしばしの休息をとる。いつもほどの休憩にはならないだろうが、多少でも眠りに入ればスッキリするだろう。
◇◆◇◆◇◆◇
side:新浜パーティー
新浜パーティーが三人そろっている。どうやら他のパーティーもここで一時休憩を選んだらしく、試験担当者が首を並べて会話をしていた。
「どう? そっちは合格できそう? 」
「んー、まだ力量を見るには微妙な所ですわ。戦力的には問題ないでしょうが、連携がうまく取れてるとはちょっと言い難いですわ。十層で苦戦しそうな感じですな」
「新浜さんはどうだったんです? 自ら志願して安村さんたちの担当になりましたよね? なにかいい情報は手に入りましたか? 」
「今は言えない。ただ、想像以上だった。ここに来るまでに何度驚かされたか」
「そこまでですか。試験は通りそうなんです? 」
多村が担当するパーティーは今のところ問題なくCランクである所の基準を満たせそうだった。平田のほうはこれから挽回できるかどうかという所らしい。
「安村さん……生潮干狩り見せてくれた。それだけは言える」
「なんだろう。新浜さんが驚く事態って。ゴブリンを潮干狩ってたとか? 」
「試験終わったら後で言う……今言うのは守秘義務違反だから。本人に了解取ってから言う」
「試験始まる前よりテンション落ちてますな。何があったかは試験の後でこっそり聞きましょう」
「とりあえず、我々の仕事は探索者を無事に帰す事だ。それだけは注意していこう」
「ゆっくりしたら安村さんが呼びに来てくれるらしいから、それまでちょっと横になる。衝撃が多すぎてちょっと脳を休めたい」
新浜はゴロンと横になった。試験官になれたありがたみと後悔と、想像以上だった安村パーティーの戦力に打ちのめされそうだった。下手すると我々より強いかもしれない。そういう疑念が新浜を苦しめていた。別に要らなかったんじゃないかなこの試験という気持ちが支配し始めている。
だが、新浜は責任感が強かった。せめてこの二十四時間は試験担当者としての威厳を保たなければならない。若干うなされつつ、新浜も仮眠をとり始めた。九層での動きは前に見たから大丈夫、もう驚くことは無いだろうという軽い気持ちをもっての仮眠だった。
◇◆◇◆◇◆◇
アラームが鳴る。目覚めがバッチリという事は無いが、体の疲れはある程度取れたと思う。隣で休んでいる文月さんを揺すって起こす。
「時間だ。起きよう」
「おはようございます。やっぱり枕があると無いとじゃ疲れの取れ具合が違いますね」
「今日はあんまり贅沢は言えないからな。ちょっと疲れが取れてればそれでいい。とりあえず水分補給とストレッチをして、新浜さんを呼びに行こう」
テントから這い出し伸びをする。全身の曲げ伸ばしをすると調子のほどを確認。あまり問題は無さそうだな。歩いてきた疲れも気にするほど残ってはいない。
十層までで一時間半、十層で一時間、十一層で何分かかるかは解らないが、合計五時間から六時間の行程になるはずだ。結構長丁場だ、ちょこちょこ休みを入れていく事が必要になるな。
「こっから十一層まで戦いっぱなしですか。途中休憩は挟みながらですよね」
「十層潜る前に休憩入れて、それから十層の様子如何かな。十一層の湧き具合が想像できない」
「十層は小西と比べてどんなもんなんでしょうね? 」
「事前情報だと湧きが甘い……九層の森側と崖側の中間ぐらいの湧きだから手に余ることは無いと思うよ」
「他のパーティーも居ますし、そこまで苦労はしないかもしれないですね」
身体を解し寝起きの水分を取ると、テントを片付ける。出立の準備を済ませると新浜パーティーの居るテントに近寄る。
「新浜さん呼びに来ました、安村です」
「お、安村さんやないですか。お久しぶりです。今起こしますわ」
平田さんが出迎えてくれた。相変わらず四角い。平田さんがテントの中に戻っていくと、しばらくして新浜さんが目をこすりながら出てくる。
「おはようございます。昼ですがおはようございます」
「新浜さん大丈夫ですか? 若干眠気にまだ支配されてるような感じですが」
「リーダーはいつもこんな感じですわ。寝起きはちょっとボーっとしてるっちゅうか、弱めな感じで」
「しばらくしたら元に戻ると思うので大丈夫ですよ」
多村さんも居る。ということはここにいるのは三人。残りの二パーティーはもう出発してしまったんだろうか。
「とりあえずこちらのパーティーはいつでも出発できるので待ってますよ」
「ん~……んっ! よし、目が覚めた」
頬を軽くはたきながら新浜さんが再起動する。
「おはようございます。これからの予定ですが、九層と十層の階段のところまでは真っ直ぐ行く予定です。そこで小休止して十層を突破しようと思います」
「解りました。では行きましょうか」
足取りに問題は無さそうなので、目は完全に覚めたんだろう。安心して九層へ向かえるな。七層から八層へ向かう間に軽い情報交換をしておき、現場であたふたしないようにするのも安全な探索のためだ。とりあえず何も聞いてこないので、どういうことなのかを説明するのは後にしよう。
「清州の九層は私初めて潜るんですけど、地図見せてー」
「あいよ。見た通り小西とほぼ同じ。ただこちらのほうが面積が広いから半周して一時間弱ってとこ。密度は薄い。外側を歩けば一~三がずっと続く感じ。なんで危険度は低い。問題は十層だな。どのくらいの密度なのか事前に調べる余地が無かった。そこまで多くないとありがたいんだが」
「他の探索者次第ってとこですかね。同じ方向に歩く人が居れば楽が出来るかなと」
他に二パーティー居る可能性があるので、そこまでモンスターが渋滞を引き起こすことは無いだろうと考えている。もしそうならないなら十層へたどり着けるのはほんの一握りになってしまう。
「じゃあ本番は十層からですね。十層から十一層へは? 」
「事前に調べたが、森を正面に見て左方向へ向かうほうが階段が圧倒的に近い。目的地は十一層なのでそっちへ行く予定」
「了解、頭に入れときます」
さぁ、Cランク試験中盤戦の始まりだ。ここからどれだけ手間暇をかけずに楽が出来るかだ。やる気を出しながら八層への階段を下りた。
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