210:慣らし自動運転
七層に降りると、自転車は一台も無かった。やはり先に行った人が乗っていったのだろうか。う~ん、大木君じゃないけどこうなるともう一台ぐらいあってもいいような気がしてきた。Cランクに上がったらその祝いで一台置きに来るか?
仕方が無いのでとシェルターに向かって歩いていく。この歩いている時間を利用して保管庫の中から出すものをあらかじめ考えておこう。昼食のドリアはまず確定。本当なら六層でお肉を確保する予定だったが思ったより収穫は得られなかった。しかし、肉を食いたい気分になった。
スキレットとバーナーと箸とナイフ。これだけあれば良いだろう。後は飲みかけの水分を補給して、小休止する予定だ。とりあえずシェルターに着いた。布団は今は無い。紙皿の新しいのもさすがに昨日の今日では増えてはいないようだ。
特に何事もなく自分のテントに帰ってくる。まずテントの中に放り込んである文月さんのテントとエアマットを回収。これは帰ったら陰干しだな。綺麗にしておいて問題は無いはずだ。
そしてバーナーとスキレットと昼食予定のドリアを取り出し、ウルフ肉のパックを開けると薄切りにして順次焼いていく。焼けた肉はドリアの上に豪勢に乗せていく。金額ベースで言えばそこそこ贅沢な昼食だと言えよう。
早速コンビニで付けてもらったスプーンで食事を始める。コーヒーを沸かすのは食事の後で良い。今は冷えた粉ジュースの残りと肉マシコンビニドリアを胃に詰める作業に没頭しよう。ドリアはまだ冷めていない。むしろアツアツの状態から食べごろの熱加減になっていてとても食が進む。過剰なぐらい温めたの正解だった。
食に気を込めるほどのものでもない昼食だったが満足度はそこそこだ。コーヒー淹れて休憩したら上に戻ろう。四層で二時間ほど流して今日は帰る予定だ。ただし二時間みっちり狩りはする。
コーヒーを飲んで一服すると片づけをして四層まで戻る準備をする。テント本体以外は全て持ち帰っても良いだろう。清州へもっていくものは厳選する必要がある。とりあえず手元に置いてそれから選別をすることにしよう。
シェルターには自転車が二台あった。一台を拝借して六層へ戻る。あー楽でいいなー自転車。そういえば小西七層の地図を作り上げる話もしたな。あれはいつやろうかな。とりあえず木曜日の試験の後だな。今日はそういう気分じゃない。急ぎでもないし、追々やっていこう。
六層の階段に着くときちんと自転車台に自転車を停め、階段を上る。さすがに三十分少々ではリポップもしていないだろう……と思っていたが、手近のワイルドボアも七匹ほど居る。俺の後に誰も来なかったのでリポップしてくれているんだろう。これで帰り道に退屈するという事は無くなった。
慣らし運転にと、体に雷を纏わせず前へ進んでいく。体当たりしてくるワイルドボア。受け止める姿勢の俺。ワイルドボアと俺の体が当たる瞬間にだけ雷を体に纏わせる。体当たりをきっちり受け止めると、ワイルドボアは感電して黒い粒子に還っていく。
やはりまだ出力が大きいか。徐々に出力を落としつつ、ワイルドボアの体力を削りきるだけの出力がどんなものか手探りしていく。とりあえず自分の周りにいた七匹を処理して肉二つ魔結晶二つを手に入れるが、もうちょい出力が弱くても大丈夫らしい。
やはり下から攻めるか。体当たりの瞬間に雷撃を与えて、そこから順番に出力を上げて行って黒い粒子に還る瞬間の出力イメージを固定する。これでいこう。
次への課題をみつけたところで三本目の木にはダーククロウが二羽止まっている。ここんとこでは珍しいな。有り難く羽根をむしり取っていこう。チェインライトニングと名前を付けたが、要するに連鎖する雷だ。どれか一羽に当たった後で周りに拡散し、更に数多く感電させていくというイメージでいい。さっき茂君に使った雷の投網、サンダーウェブに比べると出力も連鎖する数も小さいだろう。
すべての相手を狙わなくていい分正確性に重点を置かなくて良いのと、使う分だけの精神力がおそらく小さいであろうことが挙げられる。こっちのほうが敵の数が少ないなら低燃費で済む。適度に使いわけていこうと思う。
茂君は半分ぐらい茂っている。まだ時間が空いてないからだろう。絶賛湧いてる途中という感じだ。道中のワイルドボアは六匹。これも美味しくスキルの検証素材として頂いておこう。
ワイルドボア一匹目を正面で受け止めて雷を纏う。徐々に出力を上げていき、ワイルドボアが黒い粒子に変わる瞬間で止める。出力を上げている間のスリップダメージを考えて、その感覚のまま二匹目を受け止めさらに出力を上げていく。この繰り返しでなんとかワイルドボアを確殺できる出力がどの程度なのかを把握した。
この【雷魔法】を堂々と使う事で、茂君を他の誰かが居ても使うことが出来る。ようやく日の目を見ることが出来る立場になったという感じがする。保管庫は保管庫で使っていくが、一つ懸念材料が減ったということで俺の肩の荷も少し軽くなった。
さて、問題の茂君だ。数は二十四ほど。さっきのサンダーウェブを使ってみよう。雷で作る網のイメージを脳内に書き起こし、しばらく真っ直ぐに伸びた雷撃から先に一気に広がるイメージをプラス。手元で開くのではなくある程度進んでから開く。距離は……このくらいで良いな。
二回目だからか、すんなりと自分の中にイメージが入り込んでくる。よし、放とう。バツッという音と共に雷撃が放たれ、次の瞬間に雷撃が花開き木全体を覆う。網の目より大きいダーククロウ達はそれから逃げることが出来ず、体力を失ったものから順番に黒い粒子へと帰っていく。
一匹残らず仕留めることが出来た。周りが安全ならこれがそこそこ楽に使えるらしい。攻撃手段がまた一つ増えたな。対ダーククロウ用集団決戦技だ。上手くやれば空中にも放てるだろうが、自爆する未来が見える。動いてない奴専用ならこれで十分だろう。後は数と体積でうまく出力を調節していこう。
木に近づいてドロップを集め始める。茂君には雷の網が当たった部分に焦げ跡が残っている。これは永遠に残り続けるのか、それとも部分的にスライムが消化して新しくリポップするのかは解らない。
ともかく実った収穫を拾い集めきることが出来た。さぁ上に戻るぞ。一本目の木に向かって歩き出す。道中にはワイルドボアが八匹。歩いて近づいて行くだけでいい。相手が体当たりする瞬間に雷を纏って反撃。全てのワイルドボアは文字通り当たって砕ける事になった。
体勢を変えなくてもいい分更に狩りが楽になる。反撃で勝手に死んでいくのでこちらとしては大助かりだ。ただ頭がちょっぴり忙しい事にはなるし、ドロップ拾うために結局かがまなければいけないのだが、これは出力次第で確実な物理障壁を得たぞ。
問題は相手が絶縁体もしくは完全導電体だった時ぐらいか。そんなモンスターが居るかどうかは確認しないと解らないな。今後は出る事も考慮しよう。魔法が通じない相手も居るかもしれないと文月さんも確認を取っていたし、過信してはいけない。
一本目の木には九羽のダーククロウ。チェインライトニングでサラッと一掃する。うん、らくちんだ。眩暈はまだ来そうにない。ドロップを拾うと五層への階段が目前だ。木と階段との間には今日も七匹ボアが居る。
歩いて階段に近づきつつ、この雷を纏う動作をより完璧に扱えるように訓練していく。出力自体に問題は無いようで、ワイルドボアがぶつかってきては黒い粒子に還り、ドロップ品を足元に置いていく。
この調子で五層も駆け抜けよう。五層への階段を上るとワイルドボアが四匹。まっすぐ三本目の木に歩いていくとわざわざドロップを置きに駆け寄ってきてくれた。有り難い。速足で五層を駆け抜ける。
木に近寄ってチェインライトニング。木までの移動に雷を纏って歩く。木に近寄ってチェインライトニング。木までの移動に雷を纏って歩く。木に近寄ってチェインライトニング。階段までの移動に雷を纏って歩く。
五層の移動が完全に自動作業化してしまった。眩暈がこない限りこれが続けられるのは移動を短縮する面でも、羽根を集める面でも非常に便利だ。今日はダーククロウの茂り具合が良かったのか、すでに三キログラムほど羽根が溜まった。
布団屋に卸せばこれだけで七万二千円だ。良い小遣い稼ぎだな。しかし、持って行って毎回買い取ってくれるとは限らないので肥やしになる可能性もある。需要を上回らない程度に供給していこう。
今までで一番速い速度で五層を駆け抜けると、四層へ上がったところで休憩をする。精神力をしっかり使ったはずだ。ここでカロリーバーと水分と心を補給しておこう。
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