204:【雷魔法】を使ってみよう
千四百万PVありがとうございます。
六層はいつも通り暴走族であふれかえっていた。ほんの半日前に検問を実施したばかりなのにもう居るのか、元気だな。
試しに一番近い奴に対して【雷魔法】を試射してみることにする。イメージする雷撃の太さ、距離、威力は……めいっぱい。
両手の間に雷撃を貯めるイメージを作る。すると左右の手から稲光のごく小さい奴が走り始め、手の中に集まっていく。それを右手にすべて貯め込むイメージを作り上げる。これ以上はちょっとキツイ、という所までため込むと、ワイルドボアに向けて放つ。
「サンダーブ〇イク! 」
雷撃はバチィッという音と共に瞬時にワイルドボアに着弾し、文字通りワイルドボアは爆散した。黒い粒子になるのが先か黒焦げになるのが先だったか、解らなかったまま飛び散る。ドロップの証として肉を残していた。
「初回としてはこんなもん……かな……と、思うんですが」
「オーバーキルにもほどがありますね。それより、素早く打てるように練習したほうが良いのでは」
経験者は語る。そういえば俺がイメージを伝えた時もそんな感じだったような気がする。仲間がやられたことに気づいた暴走族はこちらへ一直線に向かってくる。
「素早くか……この場合素早く射出するんではなくていかにして手早く雷撃を貯めて撃つか、みたいな方面のイメージかな」
試しに細い雷撃をピュッピュッと地面に対して打ち込んでみる。これを徐々に太く正確に相手に向けていけばいい訳だな。
「よし、次は二匹同時にやってみよう」
二匹に向けて意識を集中、雷撃の刃をグラディウスを通して投げつけるイメージを作る。まだワイルドボアまでには距離がある、焦らず落ち着いて素早くイメージを組み上げる。
「それ」
グラディウスを縦に振る。バチッという音と共に地面と平行に伸びた雷撃はワイルドボア二匹に瞬時に着弾する。さすが光の速さ、初速の信頼性は強いな。しかし、威力は不足していたようでその場で感電したワイルドボアは転んで自分のスピードを保ったまま痙攣しながらこちらへ滑り込んでくる。
動けなくなったワイルドボア二匹を静かに仕留めると、さっきのドロップも含めて拾いに行く。その間に文月さんもワイルドボアを冷静に【水魔法】で半分に割っていた。とりあえず感想戦は残りのワイルドボアを処理してからだ。雷撃でワイルドボアを感電させて無力化させつつ止めを刺す。とても楽だ。
「試し打ちはゴブリンとかでやると思ってました」
「出来るときにやる。というか早くやりたかったというのが本音。だってワクワクするじゃん新しいおもちゃ貰った時みたいで」
「はいはい、解りましたから次行きますよ」
正直新しいおもちゃとしてはやりたいことが一杯ある。電球持って自家発電みたいなことができるかどうかとか、まずは金のかからない所から順番に攻めていきたいところだ。なんなら冷凍庫持ってきて七層で発電してキンキンに冷えたアイスを食べる、なんて贅沢まで考えたところで冷静になる。冷凍庫持ってきたらさすがに違うものがバレるだろ、と。
落ち着いた俺は上空に舞っている数羽のダーククロウを指さす。
「害鳥だ。次は頭の上のアレを落としてみよう」
「害鳥ですね。貴重な寝具の材料でもありますが」
指先から雷撃を出すイメージを作る。これも段々簡略化していって全身どこからでも発生させられるようにならないとな。さっきのワイルドボアぐらいの威力を出せば楽勝だろう。
パリッという小さな音を出して雷撃が飛び、瞬間でダーククロウが感電しそのまま地上に落下、黒い粒子に変わる。羽根と魔結晶をドロップ品としてくれた。
これ強くね? 狙えば当たるのは特に強く感じる。次にワイルドボアが出てきたら死ぬまで雷撃を浴びせ続ける、というのをやってみよう。長時間の雷撃が何処まで出来るかを試しておきたい。
たどり着いた三本目の木は今日も茂らない。もしくは、さっきのダーククロウ達が茂らない君に止まっていたはずのダーククロウだったかもしれない。
「いつも通りでなんか拍子抜けしますね」
「幸運の後に不運が待っているなんて誰が決めたんだ。今日も帰って一杯おちんぎん貰って帰るんだ」
「私も晴れて借金から解放されましたし、ここから何か変なことに巻き込まれたりせずにまっすぐ帰りたいところですね」
お互いに無事に帰るまでがダンジョンだと確認したところで二本目の木、つまり茂君までに居るワイルドボアの処理にかかる。どのくらいの距離まで届かせることが出来るかは試してみたいところだ。一番遠くにいるワイルドボアに向かって思い切り雷撃を放ってみる。その距離およそ百メートル。
雷撃は確かに届きワイルドボアは反応する。が、さすがにこの距離では殺しきることは出来ないらしい。その場でパタッと倒れたワイルドボアはそのまま動かないが、黒い粒子に変わることも無いみたいだ。どうやらしびれさせるだけなのが今の限界らしい。修錬が必要だな。
「あそこまで届いてあれだけダメージ与えられれば十分強いと思います。さすがの妄想力ですね」
「言い方。コツがわかってきたと言ってほしい」
「あの一匹はほっといて残り七匹、やりますよ」
合計八匹いたワイルドボアがしびれて動けない一匹を除いて一目散にこちらに走り込んでくる。ふと思いついたことがあって文月さんを下がらせる。一匹一匹狙うのではなく、範囲で狙ったらどうなるのだろう。
扇状に雷撃を走らせるイメージをすると、籠められるだけイメージを込めて雷撃を放つ。視界が一瞬真っ白になるほどの雷撃を放つと、およそ五十から百メートルの距離の内側に居たワイルドボアが全て黒い粒子に変わっていく。それと同時に軽いめまいを覚える。どうやらマップ兵器は消耗が激しいらしい。
「やりすぎた……眩暈する」
「これだけ派手にやればそうなるでしょうね。後はやっときます」
「三十秒で元に戻れるよう努力する」
正直オーバーキルであることは自覚していた。今度はもっと範囲を絞って、雷撃が数珠つなぎに伝わっていくようなイメージを掴もう。後威力はもっと抑えめでよい。スキル経験値をこうやって徐々に貯めて行こう。上手い事活用するためには多少の無茶が出来る間にやってしまうのがある意味安全だ。
深呼吸して立ち上がると、残りのワイルドボアは文月さんが殲滅しきっていた。ドロップが点々と散らばっている。使うのは良いけど拾うのは一苦労だな。
「使いどころが大事だな。十分使えることは解ったけどドロップを拾う事も考えておかないと」
「フラッフラの人に言われても説得力無いんですけどー」
「大丈夫大丈夫、茂君までには回復すると思うから」
前に百数十発バードショット弾を飛ばした時ほどの眩暈はしてない。歩いているうちに治っていくだろう。茂君に着いたところでどうするか要相談だな。
茂君に着いた。茂君は帰りも良く茂っていた。ここで文月さんと相談。どう対処するかを考える。
「あれ、【水魔法】でまとめて行けるかな」
「またサバンナの木を保管庫に詰めることになりそうな気がしますが」
正直サバンナの木を保管庫に放り込んだところで使い道が無い。かといってその場で放置していくのもなんだかなぁという気がする。
「じゃぁ【雷魔法】でゆるーくやってみるか。ゆるーく」
「眩暈はもう大丈夫なんです? また眩暈起こされるとドロップ拾うの大変なんですが」
「ダーククロウ弱いから、さっきの奴を飛距離三分の一で出力を抑えれば問題は無さそう」
うん、手を握ったり開いたり雷撃を出したり引っ込めたりしながら考える。ダーククロウの脆さと飛距離と数を計算に入れて……よし、この技は応用が利きそうだな。名前を付けて覚えておこう。
「チェインライトニング! 」
わざわざ口に出して【雷魔法】を使用する。木の中心に向かって放った雷は一瞬のうちに周囲に拡散し、すべてのダーククロウへ通電する。そのまま通電を維持してダーククロウが消滅するまで持続的に雷撃を出し続ける。弱い雷撃から徐々に強くしていき、すべてが黒い粒子に還ったところで止める。
文月さんにどうよ? と振り返るとぱちぱち手を叩きながら絶賛していた。
「初日にしては中々のものですね。百点あげましょう」
「わーい」
木を見ると、最初の着弾地点が少し焦げている。やっぱり木そのものは固定オブジェクトではないんだな。出力を上げていたらここもぽっきり行く事になっていたのだろうか。よく木を観察してみると、何かが着弾した跡みたいなものもある。これあれだな、多分俺のバードショット弾だな。
とりあえず木の周りに落ちている羽根と魔結晶を拾う。羽根は焦げてはいないようだ。やっぱり対象にするかしないかをある程度イメージで選り分けることが出来るみたいだ。これでドロップ品が蒸発するという事もなさそうだ。
「ドロップを気にせず雷撃を当て続けたらドロップも蒸発してしまうんだろうか? 」
「試さないほうがいいのでは。うっかり消すとその分収入減りますよ」
「そうだなぁ……せめてスライムで試すか」
ドロップを拾い終わると一本目の木に向かう。ここは五層も六層も三本の木を経由するのでその間にポップしているワイルドボアが今では癒しだ。ここも七匹ほどが駐留している。さっきたっぷり【雷魔法】を使った気がするのでここは省エネで普通に近接攻撃で倒そう。
近接攻撃をしながら【雷魔法】を合間に使っていくのがベターな戦闘方法だと言える。ジャイアントアントみたいに明らかに「今から使いまーす」みたいなのでは実用性に欠けるし、何よりスマートじゃない。二つの考え事を同時に組み込みながら戦えるようにしなければ。
一匹目を処理した後二匹目が来る間に雷撃を加えるイメージを作るがうまく機能しない。威力をある程度イメージとして固められるようになるまでこれはちょっとお預けかな。頭の切り替えといえば保管庫で射出する時と同じか。もうちょっと慣れが必要かな。
さっさとワイルドボアを手元で処理するとドロップをすぐさま回収し、一本目の木に向かう。七匹と言ったところか。さっきの雷撃をもう一度試してみるか。出力は最後に出した時の出力を基準にするぐらいでいいだろう。もういっちょ、チェインライトニング。
バリッという音と共に七匹があっという間に黒い粒子に変わる。発動から着弾が早くていいな、【雷魔法】。高いだけはある。きちんと狙えば確実に当たるのはとても良い。デメリットは雷撃する時に出る音か。これは消しようが無いな。
ドロップを拾い終わると階段へ向かう。階段までの間にはワイルドボアが十匹ほど湧きなおしていた。ドロップを自ら拾いに行く事と【雷魔法】の上達を天秤にかけた結果、ドロップを拾いに行く面倒くささが勝った。いつも通り手元で止めて処理する。ドロップの回収が楽でいい。
そのまま階段へまっすぐ歩き、五層への階段を上る。さぁ、ここからは時間が余ってくるぞ。どう過ごすか悩みどころだ。
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