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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第三章:日進月歩

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202/1227

202:忘れられていたモノと確変




 毎回倒す相手に感情や戦果確認を残しながら倒すのではなく、無機質にただひたすらに出てくる相手を素早く切り刻み、捩りきり、半分に切り落とす。文月さんも同様にひたすら無言で突き殺し、ぶん殴り、【水魔法】で真っ二つにする。


 というか【水魔法】でそこまで火力が出せるようになったら俺と強さ変わらんのではないか? イメージの力って凄いな。俺も負けてられない。


 アラームが鳴った、二時間が過ぎた合図だ。ちょうど八層側の階段のところに居たのでそのまま階段に腰かけて休憩を取る。


「二時間経ったね。戦果のほうはどう? 」

「……五十四万。税引きで四十八万六千円」

「むむむ……集中した割にはそこまでとはいかないか」

「でも悪くないぞ。もう一時間頑張れば同じ効率で八十万に手が届く」


 だが、その前に休憩だ。集中が切れた今が一番危ないタイミングでもあるので周囲に気を配っておく。


「もう一時間回るにしても十分ぐらい時間取ろう。汗かいたし柔軟もしたいし休息は大事だ」

「汗拭きたい。今になって気になってきた」


 胸元をパタパタさせながらタオルの催促をされる。タオルはまだ使ってない奴とさっき使った奴があるが……


「さっき使ったまだ温かいタオルと新品のタオルどっちがいい? 」

「う~ん、蒸し暑いから新品のほうで」


 新品を渡すと自分で【水魔法】で濡らし始める。俺はさっきのを使いまわすことにした。少し温かい奴のほうが汗がひきやすい気がするからだ。しばらく無言で体のメンテナンスをし、冷えたコーラを一緒に文月さんに渡す。


「そういえばちゃんと食べてるか? エネルギー使う副業してるんだから減量も大事だが無理して倒れられると困るぞ」

「おかげ様で食費に回す余裕が出たのでバランスよく食べてますよ。野菜も取って肉も取って。後化粧品に回す余裕が出ましたね」


 それは何よりだ。化粧のことはよく解らんが、高いほうが効果が出やすいのだろう。百円ショップの化粧品で間に合うのは若い間の特権らしい。


 そしてカロリー補給をしようと保管庫のリストの中を眺めていると、恐ろしいものを見つけてしまった。


 たい焼き(餡子) x 一

 たい焼き(カスタード) x 一


 ……そうだ、昨日の夕飯に食べようと思っていたたい焼きを今までずっと持っていたのである。これも夕飯を外食に決めたせいだ。おそるおそるたい焼き(餡子)を保管庫から取り出す。まだ仄かに温かい。文月さんにそっと見せると不思議な顔をされた。


「……何でたい焼きがここに? 」

「昨日の夕飯に食べようと思っていたのをすっかり忘れていた。現実時間で言うと二十分ぐらい経過した焼き立てのたい焼き。食べる? 」

「……餡子ですか? 」

「カスタードもアルヨ。どっちがいい」

「じゃあカスタードで」


 カスタードを渡す。まだ温かさの残るたい焼きを小西ダンジョンの九層で食べる。傍から見たら異様な光景であることは確かだ。せめて七層で気づけばよかったと思わんでもない。しかし、ここで気づいてしまったのが運の尽きよ。エネルギー補給としてはこれだけとれば十分だろう。


「朝保管庫チェックしたはずなんだけどなぁ」

「前も大丈夫だったからヨシ! とかしませんでしたか」

「してた……かもしれない」


 指さし確認が足りなかったようだ。今後はより注意深くチェックすることにしよう。二人無言でもくもくとたい焼きを頬張る。美味しい。


 微妙な空気の休憩をはさんだところで一時間延長する。狩りの話だ。


 再び階段から狩りのルートに移動すると、お互い確認して頷きあう。ここからまた一時間無言で作業の時間だ。ひたすらに狩りに集中する。たい焼きのおかげでお腹もほどよく膨れてそこそこ動けるようになっている。今度は家で気づこうな。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 三十分ぐらいたった頃、異変は訪れた。ひたすら無言で狩り作業に没頭しているところに、ジャイアントアントから光り輝く丸い玉がドロップされた。


 スキルオーブ! 一時戦闘停止の合図を送ってスキルオーブを拾う。


「【雷魔法】を習得しますか? Y/N 残り二千八百七十九」


 頭の中に例の声が流れる。なんだ、確変でも引いたか。それともさっきのたい焼きが目出度いなりに運を引き寄せたのか。前回から時間があまり空いてないぞ。そろそろ俺は死ぬのか?


 一瞬でいろんなことを考えたが、まず保管庫にスキルオーブをしまい込む。そして文月さんと崖側の道へ移動する。


「何が出ました? 」

「【雷魔法】と出た。ちょっと調べてみる」


 この間のガイドブックに価格が載ってたはずだ。早速値段を確認してみよう……四千万円。何故ジャイアントアントから雷魔法かはこの際考えるのはなしだ。それを考え出すとその間に中国経済に追い抜かれてしまう。


「狩り中止して戻ります? このまま狩り続けても構いませんが」

「二百日ほっといても問題ないから、そのまま続けよう。もしかしたら確変でもう一個来るかもしれない」

「まぁないとは思いますが解りました。階段に戻るまでは続けましょう」


 そのまま狩りを続けたが、頭のどこかで売るか使うかを考える部分があって少し集中が乱れてしまう。【雷魔法】で何が出来るのか。古いマジシャンがやってたようにコンセントを持つだけで扇風機が回ったりエアコンを動かせたりできるのだろうか。


 それともただビリビリ来るだけだろうか。その辺は俺の想像力に任されるのか。【雷魔法】……サンダーブ〇ークか。指先から出すイメージでもって……と戦闘中に変なポーズを取っていたら文月さんに顔で苦情を言われる。すまん。


 だがやはり覚えた時に何が出来るようになるかは気になる所で、二千万円……税引いて千八百万円の為に手放すか、それとも自分で覚えて使うか。自分で使えるようになればもっと出来る選択肢が増えるだろう。保管庫から射出しなくても茂君を退治したり複数同時の敵に囲まれても切り抜けるだけの余裕が生まれるかもしれない。


 ジャイアントアントが複数匹来ても、後ろにだけ雷撃を浴びせる事で一時的にマヒさせて同時に来る数を減らす事も出来るんじゃないか。そうなれば小西での十層の突破も難しくなくなるのではないか。って今戦闘中だったな。戦闘に集中しないと……


 その後も余計な考えが邪魔をするおかげで狩りに上手く意識を集中させることが出来なかった。何とか階段までたどり着く。


「集中してなかったですね。【雷魔法】そんなに気に入りましたか」

「はい……正直今すぐ覚えたいぐらいです」

「パーティー戦果なので半分私に……と言いたいところですが。【水魔法】を率先して覚えさせてくれた恩もありますし、パーティー戦力の増強として安村さんが覚えるのが良いと思います。何より、スキル持ってますか? と聞かれた時に誤魔化しが利きやすいです。ただし」


 ただし……何だろう? やっぱり千八百万円分の権利くださいとかだろうか。即金で渡せるの五百万ぐらいだぞ。


「私の【水魔法】分の借金チャラで」

「よし乗った。それでいこう、すぐ行こう今行こう」


 早速スキルオーブを取り出す。


「【雷魔法】を習得しますか? Y/N 残り二千八百七十九」


 カウントはまだ減ってなかった。小数点以下は切り捨てなのかもしれんから九と八のギリギリのラインだったのかもしれないが、今すぐ使用する自分には割とどうでもいい。


「イエスで」


 スキルオーブが体内に吸い込まれて行く。俺が発光し始めた。この光は二回目だ。一分ほど輝き続けると頭の中に「あ、スキルが使えるようになったんだ」という認識が沁みわたる。


「……どうですか? 使えそうですか? 」

「いきなりここで試してぶっ倒れる度胸はない。上に戻ってからにしよう。とりあえず戻ろう」

「そうですね。安村さん担いで……ダンジョン内なら余裕で行けそうな気もしますがそれだと私のイメージが崩れそうなので歩いて戻ってもらったほうがいいですね」


 今更イメージも何もないと思うのだが、口には出さないようにしておく。そのまま黙って八層へ戻る。


 八層は行きも帰りも同じで木の間に四~六匹のワイルドボアが居て、木には少しばかりのダーククロウが止まっていた。ダーククロウでテストしてみるのも有りだな。


 とりあえずまずはワイルドボア退治だ。まっすぐ歩いているだけでこっちへ向かってきてくれる。良い奴らだ。とりあえず片っ端から切り飛ばして肉と魔結晶にする。その後木まで近寄ってみる。ダーククロウは六匹。


 どうするか悩む。試しに【雷魔法】を撃ってみるか、大人しく【保管庫】から射出するか。ダーククロウは耐久力が低いので威力が低くとも確実に当てればダメージを与えられるのは間違いない。う~ん。


「【雷魔法】でアタックしてみるかいつも通り処すか悩んでいますね。絶対そうでしょう」


 そうです。その通りです。三十秒ほど悩んだ結果、大人しく射出で処理する事にした。


「お、試運転をしたいのをグッと堪えましたね。我慢してますね、頑張ってますね~」


 文月さんが煽ってくる。ぐすん。


「まだイメージが上手くつかめないから下手に撃って飛び散られたら危ないと思って。ここはグッと我慢する」


 ダーククロウの羽根を収納しつつ、煽りに対して冷静に答える。それぐらいの煽りで俺を奮起させようとするのはまだ十年早い。ぐぎぎぎ……。階段と木との間のワイルドボアを処理しながら、必死にイメージを作る。


 そもそも雷とはどういうものか。イメージとしては対象と自分の間に電位差が存在し、その間に雷が発生する、ぐらいの知識しかない。仮にこの右手と左手の間に電位差があると仮定して……あ、なんかピリッと出た。つまり自分にエネルギーを集めて相手に対してぶつけるという感じで良いんだろうか。


 試しに目の前に来たワイルドボアに向かって雷撃を放とうと試みてみる。手から放電! すると糸のような雷撃が指先からワイルドボアに対して流れ、一瞬ワイルドボアが怯む。どうやらこういう方向性で良いらしいな。


 別に現実の雷に合わせて使う必要は無いのか。エネルギー、つまりカロリーを雷のエネルギーとしてグラディウスに集める……するとバチバチと目に見える形で雷っぽいものが発生した。


「おー、それが【雷魔法】ですか」

「こいつを試しにぶつけてみよう」


 遠距離で撃つのはまだイメージが足りない。このまま雷で殴る。帯電したグラディウスでワイルドボアを切りつけると、あまり力を入れていないにもかかわらずワイルドボアがバツン! という効果音と共に一瞬にして黒焦げになり、そのまま黒い粒子に変わっていった。これは威力が強すぎたか。


「とりあえずお試しでも十分な威力があることが分かった。後はこれを遠距離攻撃に応用できるかだな」


 一つ満足な検証が出来たところで、七層への階段を上った。



作者からのお願い


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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 求道者みたいな狩りしといて今更イメージもへったくれもな…… どうせ『潮干狩りおじさん、狩られる』とか言われるくらいだよ
[気になる点] 案外スキル習得済みの探索者って多いのかな、この世界
[一言]  茂君でつかえそうなのがチェインライトニングとか言われる、ひと筋の雷を当てたら周囲の敵に移って連鎖していくやつ。  これ1発で一網打尽。
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