196:合流は出来るだけスマートに
ダンジョンに入らず雑誌を読みふけっていると、スマホに通知が来た。
「バス乗り遅れた、遅れる。先行ってて」文月さんからだ。
バス一本逃すとなると、一時間ぐらいは遅れる計算になる。先に潜って四層でヒールポーションでも集めていようかな。
雑誌をバッグに突っ込むと入ダン手続きを取る。雑誌を読んで待ちぼうけしてる様を見ていた受付嬢に声を掛けられる。
「今日はおひとりですか? 」
「遅れてくると連絡が有ったので。先に潜って待ってることにしますよ」
「そうですか。では行ってらっしゃい。ご安全に」
「ご安全に」
俺より先に入った探索者によって一層は綺麗にされて行っている。朝一から少し時間はたったものの、それでも手早くスライム狩りが行われているのを見ると、三勢食品製バニラバーの生産がギリギリのラインで間に合っているんだなという確認が出来る。
バニラバーを持たずにスライム狩りをするのは時間の無駄か、他の探索者の邪魔になるかだからな。まぁそういう俺もバニラバーを使わずにスライムを時々潮干狩りしているので文句を言われる可能性はあるか。
二層へ直行する。スライム狩りをしている人を追い抜きながらも二層の階段まで真っ直ぐ、誘惑に打ち勝つことができた。今優先するのはヒールポーションのへそくり確保だ。
二層へ降りる。入口周辺にモンスターの気配は無い。他に三層へ向かう人が居るからだろうか。横道から出てくるグレイウルフ以外目立ったモンスターの気配は無い。そういえばグレイウルフの肉のへそくりも補充しておきたいな。十五分ぐらいうろついてみるか。
目標を変えてグレイウルフの肉を目的に側道へ入っていく。できるだけモンスターの多そうな側道はあらかじめ押さえてある。人が居ないならザクザクっとモンスターが溢れて……早速来たな。久々にグレイウルフとまともに戦う。今更噛みつかれてダメージを受ける事もないが、油断していて急所を噛まれたら厄介だ。油断する事なく真面目に相対する。
グレイウルフ三匹の集団を丁寧に処理すると魔結晶が落ちた。無しよりはマシか。お肉を二つほど落としてくれたら素直に三層へ行くんだけどな。それまで、もしくは十五分経つまでは側道でお肉狩りに勤しもう。
一分に一回のペースでモンスターと遭遇する。どうやらこのルートへ来ている探索者はいないらしく、比較的スムーズかつお気楽にグレイウルフの肉を二つ確保することが出来、ついでに合計四つの魔結晶も得られた。
よし、本来の道へ戻ろう。側道から三層への階段へ続く本道へ戻る。その間にもグレイウルフは何回か接触することになり、結局グレイウルフの肉は合計四つ、魔結晶六つを仕入れることになった。へそくりの量が増えたな。三層も下りてまだ増えるようなら中華屋に卸すか。
本道に戻り三層の階段へ着いた。どうやら先に二パーティーぐらい行ったかな? そのまま三層に滞在するかは解らないが、こっちの目的は四層だ。それまでは先導役をお願いすることにしよう。移動時間が短くなってその分密度の高い狩りが行える。
三層へ降りるとタイミングが良いのか悪いのか、ゴブリンが三匹リポップしていた。階段すぐにリポップするのは珍しい。珍味としていただきますしておく。しかし残念ながらドロップは無かった。そんな事も有るさ。ウルフ肉が多めに出た揺り戻しだと考えておこう。
真っ直ぐ四層への道を歩く。横からくるゴブリンやグレイウルフは居ても目の前にリポップしてきたことはなかった。出てきたら出て来たで素早く葬り去る。今日は世間的には休日だ、ゆっくり休みたいモンスターだって居るだろう。そういうモンスターの為に手早く時間がかからないように視界内に入ったモノは全て狩り尽くしていく。
歩くペースはいつもと同じ。各階層三十分ぐらい。文月さんは急いでくるだろうから十分ぐらい短縮してくるかもしれない。それを見越して三十分ほど四層に居座ろうというのが俺の立てた予定だ。だが、今更になってウルフ肉とヒールポーション両方が期待できる三層で最初から狩りをしていたほうが良いのでは? という疑問が流れてきた。次回に活かそう。
このまま三層の側道に入って更にウルフ肉とヒールポーションを狙うという手もあるが……四層でゴブリンソードが出たらいいなーという気持ちもある。現在手持ちのゴブリンソードは十三本。数としては十分溜まったがもっとあっても困らない。
ここは食いっ気に負けてしまおう。ゴブリンソードはソロの時でも集められる。三十分でアラーム鳴らして過ぎたら四層へ向かう。三層の側道に入る。早速ゴブリンとグレイウルフ二匹の混成パーティーと出会う事になった。おはようございます。お散歩ですか? 死ね。
ゴブリンもウルフも魔結晶を落としていった。欲しいのはそっちじゃないんだよなぁ。まぁいい、次を探そう。一回ずつ反省会するのは時間効率が悪い。この間に合法薬物を手に入れておかなくては。
ゴブリン一、ウルフ一、ドロップ無し。ゴブリン三、ゴブリン魔結晶一。
ゴブリン一、ウルフ二、ウルフ肉一。ゴブリン二、ゴブリン魔結晶二。
ゴブリン二、ウルフ一、ゴブリン魔結晶一。ゴブリン三、ゴブリン魔結晶二。
ゴブリン一、ウルフ三、ウルフ肉一、ウルフ魔結晶一。ゴブリン二、ヒールポーション。
お、一本は出たな。残り時間はボーナスタイムだ、気ままに狩ろう。サクサク行くぞサクサク。それから十分ぐらいするとトランシーバーから音が聞こえてきた。
「あーもしもし安村さん居ますかーどうぞ」
どうやら文月さんが三層にたどり着いたらしい。毎階層これを入れて反応があるかどうか確かめていたようだ。
「こちら安村、今から四層側階段に向かう、どうぞ」
「こちら文月、階段向かう了解」
さて、先に着いているんだから先に階段に達していないとな。急いで側道から本道へ出て露払い含めて道を作っておく。後ろから戦闘する音が聞こえはじめる。もう来たのかな。振り返らず前へは進んでおく。どうせ合流してもう一回狩ることになるぐらいなら先に狩ってリポップを抑えておくほうが時間効率が良い。
階段へたどり着く。どうやら先に来ることはできたようだ。水分を口にしながらしばしの休憩をする。やがて五分ぐらいして文月さんが追い付いてきた。
「おまたせー。休日ダイヤなの忘れてたわ」
「俺はぎりぎり滑り込んで開場前に来れたよ。休憩要る? お水飲む? 」
「とりあえずお水はちょーだい」
冷えた水を渡す。コクコクと水を飲んだ後、残りを返してきたので保管庫に仕舞う。さぁここからはいつものルーチンに沿ってまず六層へ行き、誰も居なければ茂君を倒す。その後七層へ行き昼ごはん&仮眠だ。
「とてもどうでもいい事なのですが、六層のダーククロウがやたら茂ってる木をこれから茂君と称することにします」
「とてもどうでもいい事みたいですが了解しました。以後茂君で認識します」
「茂君一回倒すと八百から千百グラムぐらい羽根が取れるので、ギルドに卸さずに布団屋へ値段交渉してみようと思います」
文月さんに、ダーククロウの羽根をギルドに卸さずに直接取引してみようと思う旨を伝える。
「なるほど、そのほうが高く売れそうなのですね」
「お高級なダーククロウ掛け布団を作るには二千五百グラムぐらい使うらしい」
「つまり今、そのぐらい溜まっていると」
「茂君往復二回で一回分ギリ行かないぐらいかな。とりあえず素材を全部使うかどうかも含めて、布団を受け取る時に相談してみようかと思う」
少なくとも千五百円よりは高く買ってくれるはずだ。いくらになるかは解らないが、そこそこの小遣いにはなると思っている。
「つまりお高いお布団を作ってもらったわけですね。おいくら万円でしたか」
「とりあえず枕とセットで材料持ち込み十二万。いやー、寝具に十二万も払う事があるなんて思いもしなかった」
「多分、取引の際は結構な金額になるので領収書とか請求書とかその辺きちんと管理しないと脱税になりますね。中華屋に卸してるお肉ぐらいならお目こぼし貰えるでしょうけど、こっちはちゃんとしておかないと不味いと思います」
「その辺はパーティーメンバーの頭脳に一任するよ。書類やらなんやら受け取って来た時に手ほどきしてもらおう」
「取引の都合上安村さんの個人収入扱いになると思うので、私は手数料に三割ぐらい貰う事にしましょう」
パーティー収入だし五割でも良いんだけどな。まぁ本人が納得するならその金額で問題ない。ってそうか、税金払うのは俺の取り分からになるのか。だとしたら三割ぐらい持っていくと丁度折半したぐらいの金額になるのかな?
「じゃあ皮算用が終わったところで茂君討伐に行こう」
「休憩は十分ですね。では行きましょう」
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