191:小休止とその間の新浜パーティー
七層へ帰ってきた。相変わらず賑やかで、そして騒がしかった。
店の前を通るたびに客寄せの声が飛ぶ。一々相手をするのは申し訳ないがお断りさせてもらう。さすがにちょっと疲れてるんだ。普段なら二時間と言わずもう少し長めに仮眠を取ってから九層に向かう所を今日は二時間しか仮眠を取っていない。
その分が若干体を刺激しているのか、体のあちこちから疲労感がにじみ出そうとしている。これは戻る前に一回休憩をはさんだほうが良さそうだ。
ふと、九層の中央について新浜さんに疑問を投げかけてみる。
「そういえば、九層の森の真ん中って何があるんですかね? 」
新浜さんはすぐに答えをくれた。
「地図が空白なので何かあるように見えますよね? 実は何もないんですよ。ただ、モンスター密度が高すぎて森を通り抜けて進もうとする探索者が出ないようにあえて空白で作ってあるそうです」
なるほど、そういう理由で空白だったのか。納得できる説明をもらった。
「八層までみっちり地図が埋められていたのに九層から空白がある理由ってそれだったんですね。小西で試さずに済みましたよ」
「……多分生きて帰ってこれませんよ。九層の地図を作ったメンバーでさえ怪我人を多数出して帰ってきたそうですから」
行かないようにしておこう。そして文月さんにも行かないように伝えておこう。俺の妄想みたいに、真ん中には蟻の巣があって女王蟻がそこに鎮座しているような場所ではなかったことにホッとしつつ、少し残念な気持ちに支配された。ダンジョン二十四の不思議が初めて一つ消えた。
官製テントを横目に、新浜パーティーのスペースへ帰ってくる。俺のテントは無事にいたずらされてなかったようだ。
「ただいま戻りました」
「お帰りなさい、お二人さん。儲けのほうはどうでしたか」
多村さんが出迎えてくれた。どうやらパーティーメンバー揃って起きて、ゆっくり休憩を取っていたらしく、淹れたてのコーヒーを差し出してくれる。お礼を言って素直に受け取る。
「それは後で話すよ。とりあえず安村さんはゆっくり休まれたほうが良いかと」
「安村さん、もしかして怪我したとかですか? それなら急いで手当を」
「いや、かなり密度の高い戦闘をしていたから、安村さんもさすがに疲れたんじゃないかと思ってね」
「まぁ、そんな所です。飲み終わったらちょっとだけ仮眠を取ろうかと思います」
確かに密度の高い戦闘はしたが、体がひりつくほど、というほどではなかったな。小西だと九層であの位置だと……もっと数は多い。それを二人で軽々と対処してたんだから……。
言われてみると、自分が思ってる以上に戦闘に体がなじんでいるというか、戦力として十分なものを持っているのかもしれないな。
つまり十層に侵入できてた小寺さんたちの戦力はもっと上という事になる。悔しい訳ではないが、羨ましい部類に入ることは間違いない。もっと俺に力があれば……みたいなやつだ。
「じゃぁ、私テントに戻りますね。コーヒーごちそうさまでした」
「いえ、こちらこそ良い狩りでした。お休みなさい」
自分のテントに戻る……と言っても前と同じ隣に建てさせてもらったのだが。テントに戻るとエアマットを膨らませ、枕を取り出し、アイマスクを取り出す。アラームを二時間後にセットすると仮眠の体勢に入る。
五時間眠りたいところだが、そこまで寝ると多分終電に間に合わなくなってしまうだろう。今日中には家に帰りたいのだ。終電と自分の家に着く時間を逆算して二時間がギリギリというラインだろう。帰り道でも楽できると良いな……
◇◆◇◆◇◆◇
side:新浜パーティー
安村が寝付くのを待つと、早速パーティー内会議を始める。隣で寝ているので出来るだけ小声で会話をしていた。
「で、これが私と安村さんで狩った一時間……実際にはもう少し短いが、その間の報酬なわけだが」
先ほど二分割小数点以下切り捨てのドロップ品を並べる。
「ジャイアントアントの魔結晶二十二個、牙七本、キュアポーション三本。ワイルドボアの魔結晶七個、肉九パック、革三枚。合計で約十一万円分」
「一時間でですか。こいつは中々の効率ですわ。リーダーも安村さんも大分無茶したんとちゃいますか」
平田はしきりに感心している。一人当たり十万稼ぐというのはCランクでもそこそこの稼ぎになるからだ。
「そういう訳でもない。本気って感じではなく大分気楽に対応していた感じに見えた」
「ということは、リーダーと同じぐらいの踏破力が有ると? 」
「実際もっと密度の高い狩りをしていた形跡を安村さんとの会話で得ていたからね。どうやら小西ダンジョンの九層、清州ダンジョンの二倍ぐらいの密度でモンスターが出てくるらしい」
「二倍ですか。三人で組んで良い感じってところですかね」
多村はメンバーの戦力を考えながらそう発言する。
「安村さんはこれ以上の密度の狩りを二人パーティーでやってる。Dランクにしては異常な強さだと思うよ。Cランクになるのも時間の問題じゃないかな」
「確か初めて会った時にDランクになったばっかりと言ってましたわ。期間がみじかすぎるのとちゃいますか」
「それにしてもあの強さは……いやぁ間近で見れて眼福だったよ」
新浜はよほど嬉しかったらしい。妙に顔がニヤニヤしているし、肌もツヤツヤしている感じすらさせている。
「で、リーダーはまだ勧誘を諦めてないから、どうしようかという話ですか? 」
メンバーでも影が薄いがポーター兼サブアタッカーという重要なポジションをしめている横田が新浜に疑問を投げかける。
「違う。私たちも小西ダンジョンで腕試しをしてみたらどうか? ということさ」
「小西ダンジョン遠征……遠征と言うほど離れてはいませんが行ってみるのも面白そうだと? 」
「彼らが普段どんな戦い方をしているか興味が湧いてきた。他のダンジョンを体験してダンジョンごとの違いを味わってみても良いと思ってさ」
「小西ダンジョン……たしか開場時間が決められているんでしたね。七層で一泊するなら事前に受付で伝えておく必要があるとか」
横田が手持ちの事前情報を基に計画を頭の中で建ててみる。
「逆に言えば夜間はどの層でも狩り放題ってこととちゃいますのん? ヒールポーションだけ集めたいとかそういう用途に使うにはもってこいにも聞こえますが」
平田が思いついたように言う。実際その思い付きの通りなのだが。
「七層に潜ってみて、まず何が無くて何が有るかをはっきり確認するためにも、一度は潜ってみたいところですよね」
「多分交通の便の都合で大荷物を背負って持っていくという事は難しいだろうから、各自で宿泊設備を整えるか、大きいテントを狭く使うか、その辺は横田さんに任せるよ。数泊駐留することは無いだろうから、一泊をめどにする形でどうかな? 」
「私は異論在りません。行ける所まで行ってみるのも良いと思います。ところで、地図は何層まで作られてるんですかね? 」
横田の疑問は当然のことだった。地図が無ければ自分たちで作る必要がある。それにはかなりの労力と準備と時間を用いる必要があるからだ。
「しまったな、それを聞くのを忘れていた。何層まであるんだろう。さすがに九層まであることは間違いないと思うんだが」
「リーダーの言い様ですと、十層の地図が有るか無いかぐらいじゃないでしょうか。おそらく十一層以降の地図は無い、というかそもそもCランク探索者が小西ダンジョンで活動している可能性からまず疑ったほうが良いかもしれません」
小西ダンジョンは清州ダンジョンと違い、ダンジョンが出来てしまった当初の七層までの地図以外は全て民間の探索者によって継ぎ足し継ぎ足し作られてきたものだった。そのせいか、不要な部分の地図は作られずに残っている部分が多く、七層より深層に至っては安村がまともに更新を始めるまで一切手を付けられなかったと言っても過言ではない。
当然、それらの事情を新浜達は知る由もなく後日、ギルドの受付で地図を購入する際驚くことになるのだがそれはまた別の話。内緒話は続く。
「突然行ったら安村さん驚くかもしれませんね」
「それも楽しみの一つだなぁ。どんな顔をするのか見てみたくはある」
「あんまり顔に出すタイプでもないですからねえあの人」
「逆にこっちが小西ダンジョンの現状に驚かされるかもしれまへんで。こっちに無いものが向こうにはあるとか」
「屋台とか官製テントは無いって言ってたなぁ」
「でも目印を立てたいって話はしてたから、七層の中心この辺みたいなオブジェクトはもうあるんじゃないかなぁ」
新浜パーティーの話はこの後十五分ほど話し合い、近いうちに小西ダンジョンへ遠征する事と、安村には黙って突然行くという事は決められた。
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