188:清州深き隣は狩りをする人ぞ
おはようございます、安村です。仮眠を二時間ほど取りました。いつもより短めですが体に疲労は残ってない感じです。ダーククロウさんありがとう。
テントから出ると水を含ませたタオルで顔を拭く。隣のテントを見ると仮眠中と書かれている。みんなあの後一斉に眠り始めたのかな。静かだからきっと皆眠りの中なのだろう。
柔軟運動を軽くすると、寝ている間に消費した水分を補給する。お腹は……空いてないな。空いたときにカロリーバーか何かを詰める感じで行こう。
テントをそのままにすると 「外出中 安村」の貼り紙をしていく。続いて新浜さんたちのテントの貼り紙の近くに「行ってきます」とだけ書置きしていく。多分これで通じるだろう。
さぁ、探索に行くぞ。八層側の屋台に向けて歩みを進める。まだにぎやかだ。多分日曜日の昼ぐらいまでこの光景は続くんだろう、知らない探索者が行き来するのを目にする。また、八層側の屋台で買い物をしてる人が遠目で見える。
一応中央のどでかいテントをちらっとわき見していく。中に警官が居た。銃も装備している。ここで使う事はほぼないだろうが、ちゃんと派遣されてきているという事は解る。忙しそうにしていないのを見ると、治安が良いのは間違いないらしい。
八層側のテントでは携帯用の水分、食料、雑貨品、排泄用品、様々な小物の屋台が並んでいる。トイレットペーパーが一ロール百五十円という絶妙な価格で売られている。高いがケツを拭けない不快さに比べれば安いものだろう。割高価格でも必要物資が欠乏することはままあることらしい。
やはり想定外ってのはあるんだろうな。さっぱり売れてないといったことはなく、そこそこ売れて行ってるんだろうなという感じの在庫量がそれを語っていた。
水は五百ミリリットルで七百円。一リットルで千円らしい。一リットルが千四百円じゃないあたりはお優しい価格なんだろう。それでも高いが。食料はカロリーバーやチョコレート、マヨネーズ等日持ちがして栄養になるものが売られている。
マヨネーズは遭難した時用だろうか。登山でも持ち歩くらしいし、縁起ものであることは間違いないか。ただ、カロリーハーフも売られているのは謎だ。それらを横目にして、足りない物はないだろうという事を確認すると、八層に降りる。
清州の八層は他のサバンナマップに比べると若干オブジェクトが多い。木が何本か柱のように規則正しく並べ立てられていて、その間を縫うように進むと九層への階段が見えてくる形だ。それぞれの木にはダーククロウが止まっていて、ちょっかいをかけやすくなっている。
同じタイミングで下層に出かける人が一人居た。その人はダーククロウには興味が無いらしく、ワイルドボアの動向だけを注視しているように見える。
これは九層まで出番が無いかもしれないな……と気を抜くと、左右からワイルドボアが来る可能性もあるからな。俺も注意は怠らないようにしよう。もしかしたら木の陰の死角でリポップする可能性だってあるのだ。
とは言いつつも戦闘の可能性なく歩くのは六層もそうだったが若干退屈であるのは仕方ない。三層や四層で俺の後ろを歩いていた人たちも同じ気持ちだったろうに。悪い事をしたかなぁ。
そう考えていると後ろから気配がする。だるまさんがころんだ。後ろにワイルドボアが一匹リポップしていた。とりあえず相手にしたがドロップは無かった。ちょっとくやしい。
前に居た人とは少し距離が開いた。距離が開いたところで視界はほぼ似たようなものだからワイルドボアが前から湧く可能性は低いだろう。湧くとしたら左右かな。
出来るだけ見ないようにして、聴覚だけしっかり確認しよう。音がしたら振り向く。ダーククロウの居る木にはちょっかいかけない。これを徹底してただ前を向いて歩く。だるまさんがころんだ。はずれ。
真っ直ぐではなく、ダーククロウの警戒範囲を避けながら移動するため若干左右に揺られながらの行軍になる。前はここを直進してダーククロウを反応させながら九層に逃げ込んだ探索者が居たため、八層と九層の間にダーククロウが詰まってしまうイベントがあったな。
あれは中々の儲けだった。羽根が非常に嵩張ったが、あれが清州ではなく小西だったらよりおいしいイベントだったに違いない。ただ、小西にそこまでのポップは期待できないのが残念だ。
うだうだ考えながら歩いていると、漸く九層の階段にたどり着いたらしい。やたら長く感じた。時間的には四十分ほどの時間だったが二時間ぐらいに感じられた。しかし、ここからは九層だ。思う存分狩りに勤しむぞ。
清州の九層は小西の九層とほぼ同じ作りになっていて、森を挟んでちょうど反対側ぐらいに階段があるらしい。一周にどのくらいの時間がかかるかな。一時間ぐらいだと、一周して二時間か。狩りの時間としては悪くない長さだ。ちょいちょい休憩をはさみながら狩りが出来ればなお良いのだが。
やはりサバンナマップから森マップに切り替わると、明らかな湿度の違いを感じる。汗がダラダラ出るほどではないが、木が多い分湿気も含んでいるんだろう。早速左回り右回り、どちらのルートを回るか選択する事になる。前を歩いている人は右回りルートを選んだようだ。ならこっちは左回りを選ぼう。
歩き始めて三分もすると、モンスターの気配を感じる。森のほうを見ると早速ジャイアントアントが二匹やってきた。いつものやり方を思い出す。一対二なら散々経験してきたぞ。
ジャイアントアントに密着している状態では後ろから酸が飛んでこないことはこれまでの戦いで学習した。ならば接近して攻撃だ。こちらから出向き相手の噛みつきを寸前でかわすと相手の頭を通り越し、首をはねる。早速魔結晶が出た、幸先は良いな。
二匹目を仕留めにかかる。近づくまでに尻がこっちを向き出した。どうやら酸を飛ばしてくるらしい。酸の軌道予想を考えてそこを避ける。避けた先を酸が通り抜けた。酸を出す体勢からこっちに噛みつきに来るまでに時間的余裕がある。その間に接近して頭をグラディウスで突き刺し、貫く。
魔結晶を残しジャイアントアントは黒い粒子に還った。いつものパターンにはめ込むことが出来たぞ、このリポップ量が続くなら理想的な狩りが出来そうだ。
警戒しつつ、断崖絶壁のそばを歩いていく。前後に探索者は見当たらない。しばらくは一人旅かな。と、ワイルドボアがトコトコと目の前を通過した。気づかれないように接近すると背筋に一太刀。ワイルドボアは黒い粒子に還る。
肉を落とした。なんだかドロップ運が今日はいいようだ。まだ三匹しか倒してない訳だが、どうやら今日はラッキータイムに入っているようだ。このままの調子で続いてくれれば中々の収入になりそうだぞ。
ワイルドボア、ジャイアントアント、ジャイアントアント、ワイルドボア……と、次々にモンスターが出て来てくれる。こう順番に出て来てくれるとテンションが維持できて捗る。ステータスブーストをかけたまま歩いているだけでモンスターがこっちに来てくれる。理想的な環境だ。今日はあたりを引いたかな。
ジャイアントアントは二分の一で魔結晶をくれるとてもいいアリさんだ。偶に牙も落としてごくたまにキュアポーションも持ってきてくれる。ワイルドボアは肉と革と魔結晶と捨てる所が無い。清州の九層は気楽に狩りをするという点では楽園かもしれない。
文月さんと二人で小西の九層を巡っている時はどんどん進みながら固まってモンスターがポップしているので常に緊張感を持ちながらの戦いになるが、ここでは固まってモンスターが襲ってくることはあまりない。
おそらく人口密度と関係があるのだろう。見えない範囲で俺より先に進んでいる探索者が居て、その後にポップしたモンスターが俺のところに来てくれている感じだろうか。小西と比べて肌がひりつくような戦闘ではないが、のんびりと狩りをするにはちょうど良いのかもしれないな。
出てくる間隔も二分に一匹ずつ出てくる感じだ。とすれば一時間で三十匹。それぞれの期待値はワイルドボアが八百六十円、ジャイアントアントが千八百七十五円だ。一時間当たりにすれば四万とちょっとぐらい。ジャイアントアントはキュアポーションを偶にくれるので期待値が大きい。ぜひたくさん落としてほしい。
さすがにペア狩りをすることに比べたら時間当たりの期待値は低い。しかし、ソロだとまぁこんなもんじゃないかなとも思っている。やはり文月さんが居ると居ないとでは違うなぁ。ソロだとうっかり森に近づいて大量に来た場合一人では追いつかない気がする。いや、試しにやってみるのもありか?
少しだけ森に近づく。森に近づけば森の中にいるモンスターの戦闘範囲に入る確率も高くなる。その分高効率で狩りをすることは可能だ。
数十メートルぐらい森に近づいて、更に歩みを進める。すると、二分に一匹ぐらいのペースだったモンスターが倍ぐらいの速さでこちらへ向かってくることが解った。ほんの数十メートルでこの差である。森の中に入ったら一体どうなってしまうのだろうか。
相手はアリなので、当然木の上から襲ってくることも考えられる。木を蹴りながらこちらも木の上に登って戦闘をすることになるんだろうか。しかし、空中で滞空する時は酸が飛んできて危険な状況にも陥りやすい。やはりソロで森に入るのはダメだな。
俺としてはもう少しぐらい負荷がかかっても対処できるかな? と思っているところだ。ここはこのぐらいのリポップ速度で納得する事にしよう。慣れない場所で戦うのは危険が危ない。
一分一匹。それぐらいでちょうどいいんじゃなかろうか。さぁ、本格的な狩りを始めるぞ。
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