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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第三章:日進月歩

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187/1224

187:宴会

 

 新浜パーティーと再会した。清州ダンジョンで唯一知り合いのパーティーだ。前回は大変お世話になった。運が良ければ会えるかな? ぐらいの気持ちで探しに来たが、どうやら運は良かったようだ。


「お久しぶりです。週末に来られるのは初めてでは? 」

「そうなんですよ。賑わいっぷりにちょっとびっくりしてます」

「週末はこんな感じです。縁日みたいでしょ? 最初は私たちもびっくりしましたが、慣れたら悪くない賑わいですよ」


 小西ダンジョンとどうしても見比べてしまう。テントの数も以前来た時は二十ぐらいしかなかったが、今日は明らかに倍以上のテントが張られている。それだけ週末探索者が多いという事だろう。


「今日はどちらに行かれる予定なんですか? 」

「九層まで潜ろうと思ってます。上層ではあまり稼ぎを得ることが出来ないので」

「でしょうね。五層六層、ほとんど何もできなかったんじゃないですか? 」

「ええ、ワイルドボアを数匹ほど狩れたぐらいで、稼ぎとしては下の中って感じですね」


 もうちょっと稼ぎたかったのが本音だ。


「さすがに人が多すぎてリポップには期待できなかったですね。にしても人が多いですね。週末はいつもこんな感じですか」

「そうですね、真剣に稼ぎたかったら週末は避けたほうが良いです。九層まで潜ってもそこそこ探索者が周回している感じですね」


 やはり清州ダンジョンで思いっきり稼ぐというのはDランク探索者にはなかなか難しいらしい。これは日付をミスったかな。でも新浜さんたちに出会えたのは僥倖か。知り合いがいるという事は心の均衡を保つためにも大事なことだ。


「仮眠していくなら前みたいに隣にテントをどうぞ……食事はどうされますか? 」

「実は屋台でウルフ肉の串焼きを味わいまして。結構うまかったですね、さすがにプロが作る食事と自分で作るのでは結構な差を感じましたよ」

「お、安村さんやないですかお久しぶりですわ」


 平田さんが顔を出してきた。相変わらず四角い。


「今日は皆さんどういう予定なんですか?」


 一応予定を聞いてみる。


「さっきまで潜ってたところですわ。小休止ってとこです。ワイルドボア肉が結構な数取れたんで、今から焼肉パーティーですわ。安村さんも一口どうです? 」

「有り難いお誘いですね。こちらからも途中で取ってきた肉と持ってきた野菜をいくつか提供しますよ」

「それはちょっと豪勢な食事になりそうですな。期待してますわ」


 いつもの癖で二人分の野菜を持ってきたが、自分合わせて六人分を満たすことは出来ない。しかし食事にちょっとした花を添えることは出来るだろう。


「今日はキノコが有りますんで野菜炒めにもちょっと彩りは付けられるかと」

「それは楽しみですね。焼くのは私にお任せください」

「リーダーは料理もそれなりにできるんですわ。うちのパーティーの調理担当はリーダーの役目なんですわ」


 新浜さんは色々出来るな、さすがだ。バッグからボア肉と野菜とキノコ類を取り出すと新浜さんに託した。


「これは醤油で味付けして香りを楽しむのが良さそうですね」


 四、五人向けだろうか。結構大きな鉄板で早速料理を作り始める。


「これでビールがあれば宴会が開ける所ですが、さすがに温いビールではちょっと物足りないですな」


 どうやらこのパーティーは酒には寛容らしい。飲んで仮眠して、それからまた狩りに出かけるのだろう。新浜パーティーのテントの隣にいつもの自分のテントを立てる。小さいほうだ。せっかくなのだからビール持ってきてお裾分けすればよかったな。機会を逃したな、次に活かそう。


 あまり疲れていないので食事をしたら二時間ほど仮眠すれば体力は回復するだろう。何より今日は枕がある。二時間でも良い睡眠をとれるのは確実だ。


 テントを建てて荷物を押し込むと、マイ箸と紙皿を準備していつでも料理が来て良いように身構える。こういう時は肉の取り合いになるのがパーティーの常になるのだろうが、新浜さんが均等に肉を分けていく。どうやら狩ってきたボア肉を使っているらしい。鉄板にしみ出す脂の量からそれを察知する。


「ボア肉のステーキですか、ステーキとして楽しむのは初めてかもしれません」

「屋台で出てる串焼きにはかないませんが、私も徐々に腕を上げつつあるのですよ」

「リーダーまだー? お腹空いた」


 多村さんが臭いを嗅ぎつけてテントの中から出てくる。


「おや、安村さん。来てたんですね」

「お久しぶりです多村さん。前はお世話になりました」

「安村さんなら大歓迎ですよ。一緒に食事を?」

「えぇ、ご相伴に与りつつこちらからも食材を提供する事になりまして」

「これは豪勢な食事になりそうですね」


 豪勢と言われても、事前に刻んで持ってきた生野菜が二人分ほどだ。六人分には程遠い。それでも栄養バランスから考えて生野菜を運んで持ってくるというのは大事なことだな。


 ピットマスター新浜が焼けた肉を順番に盛って行く。野菜は焦げ付かないように肉の後に油を使ってしなっとさせている。水分がある分当然跳ねて焼いている本人に当たっているのだが、新浜さんは熱いそぶりを見せない。


「もしかして、ステータスブーストしながら調理してます? 」

「良く気付きましたね、これ便利ですね。油が跳ねてもそんなに熱くない。おかげで焼くことに熱中できますよ」


 そういう使い方をされるのは予想外だった。だが広まっていることは確からしいし、それでみんなの居住環境が充実していくのは良い事だ。


 大人しくお預けの姿勢で待っている俺含め五人。肉の焼ける音と火の入った醤油のいい香りが漂う。さっきの串焼きとはまた違う食欲を誘う香りだ。


 やがて出来上がった肉がそれぞれの皿に盛りつけられていく。


「さぁ、どうぞ召し上がれ」

「「「「「いただきます」」」」」


 一斉に食べはじめる六人所帯。若干むさくるしいのはさておき、料理を純粋に楽しむことにしよう。新浜さんはパックライスを温め始めた。次に温かい米が食えるらしい。


「うん、やっぱりリーダーの味付けは美味いな」


 多村さんが舌鼓を打ちながら褒めちぎる。結構な量を作ったように思えたが、もう半分ほどまで食べていた。食べるの早いな。


 醤油と塩胡椒で味付けられた野菜からまず味わう。脂は多すぎず少なすぎず、食感を残しつつ丁寧に調理されている。噛むとバーベキュー! って感じの味わいが広がる。やはり七層の食事は野菜炒めは外せない。新浜さんたちのおかげで食事の予定が豪華になった。今日はいい日だ。


 続いて肉を齧る。肉の焼き具合がちょうどいい。生の部分が非常に少なく中まで火が通っていて、噛み切りやすい。ふんわりと漂う醤油の香りがさらに食欲を増す。これ、焼きそばが添えてあったら最高だったな。今度やってみよう。メモ帳に書いておく。


「なにやらメモってますが何書いとるんです? 」


 不思議そうに平田さんがこちらを見る。飯に集中してたんじゃなかったのか。


「焼きそばが加わればより食欲を満たせたかもしれないと思って。自分で作る時用に記録してます」

「マメなことですなぁ。でも確かに、炭水化物を加えるんなら焼きそばもええかもしれませんな」


 残った肉のかけらと焼きそば、清州ダンジョンの七層ならこの縁日じみた雰囲気にもマッチする。小西でもぜひ使おう。ソースを絡めて紅しょうがをのせて。


「週末の清州はこんなに賑やかなんですね」

「そうなんですよ。おかげでライバルも多くて大変です。でも人が居る事に越したことはありませんからね。ピンチに陥った時の選択肢が増えます」


 エンカウントが多すぎた時に押し付ける用の人員は居たほうが良いという事か。そこまでエンカウントが多いのは……十層の話かな?


「そういえば今日は何しに清州へ? 週末の清州をふらっと見物に来たとかそういう感じですか」


 村田さんが俺に尋ねる。食事の手は止めない。お互いに飯にかぶりつきながらの話だ。


「実は今日が週末だという事をすっかり忘れてまして、たまたまなんですよ」

「さてはダンジョンに潜りすぎて曜日の感覚を失いましたね」


 ズバリ指摘される。仰る通りでございます。


「前より賑わってて楽しいですね。つい空気に当てられそうになりましたよ」

「それでついウルフの串焼きを買ってしまった感じですかね」


 ズバリ指摘される。仰る通りでございます。


「中々美味しかったですね。さすがに片っ端から買って楽しむ、という事はなかったですが」

「やっぱり。平田さんも最初あそこでひたすら買い食いしてたんですよ。せっかくなら楽しまなきゃ損だって」

「そこで私の過去をほじくり返すのはやめて欲しいんやけど」


 平田さんからブーイングが飛ぶ。しかし、事実だろと周りから指摘されて大人しくなる。どうやら最初はみんな空気に当てられてしまうようだ。俺だけじゃなくてよかったぜ。


「ちなみに安村さん、この後のご予定は? 」


 新浜さんは俺の予定が気になるようだ。機会を見つけたらパーティーに誘おうとまだ考えているのだろうか。


「二時間ぐらい仮眠を取ったら九層に向かってみるつもりです。ここまでの行程で全然稼げなかったのでせめて利益が出るぐらいは狩りをしようかと」

「なるほど。しっかり稼ぎに来たわけですね。でも今日は御覧の通り人多いですよ? 」


 周りのテントの数を紹介しながら新浜さんが食事を始める。前に来た時は二十そこらぐらいだったテントが今日は倍近くある。一つのテントに二人ずついたとしても、この階層より下に八十人近い探索者が居る事になる。小西だったら今日の稼ぎは諦めるレベルの混みようだ。


「そうですね……まぁでもせっかく来たことですし清州なりの稼ぎ方を楽しんでいこうかと思います」

「また、誰か一人連れて行きます? 」


新浜さんからの提案だ。前回は多村さんに随伴をしてもらう事になった。あの時は結構稼げたな。だが、一人で潜りたいという欲も有る。二人のほうが効率が良いのは間違いないんだが……


「いや、さすがに初めて九層に潜るわけでもないですし、これでも一人で戦えるぐらいには成長しましたよ? 」

「リーダーが付いていきたいだけでは? またみられるかもしれないし、潮干狩り」


 多村さんが茶化す。新浜さんは図星を突かれたのか、何か言おうとしてそのまま言いとどまる。


「そんなわけで、一人で行ってきますよ。ご心配をおかけするようなことは……ないと思いますので」

「解りました。我々は少し仮眠を取ってその後で九層へ向かう感じです。もしかしたら後で九層で出会う事があるかもしれませんが、その時はその時で」

「解りました、その時はその時で。ごちそうさまでした」


 食べ終えると新浜さんに礼をする。お粗末様でしたと新浜さんは返事し、俺は自分のテントを広げる準備を始める。エアマットを膨らませると枕を取り出し、眠りの準備はできた。いつもの「仮眠中 安村」の紙皿を貼り付けておく。


 腹も満たされているし、すぐ眠れそうだ。疲れも感じていないし、仮眠は短くていいだろう。この寝るという間が大事だと最近解ってきた。ここで一睡しておくのとしないのでは後のパフォーマンスが結構変わってくる。集中力が長く続くためには短時間でも寝ておくのが大事だ。おやすみ。



作者からのお願い


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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
朝起きて、清洲Dまで移動して 7層まで下りて、串肉食って 新浜パーティーと再会して飯を食う… と言う内容で、3話分…うーん進まない…
[一言] 鉄板よりジンギスカン鍋(とジンギスカン鍋用バケツ)のほうが良さ気
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