184:考え事の続き:疑念
大晦日ですね。今年半年あっという間でした。ここまで読んでくださっている方々には御礼申しあげます。また来年もよろしくお願いします。
ご機嫌な夕食が終わる。ウルフ肉の香草焼きに満足した俺は次回もこれを作ろうと決め、後片づけをして洗濯をし、湯を溜め終わった風呂に入る。風呂ではさっきの考え事の続きだ。ダンジョン庁とダンジョンがグルになっているのではないかという与太話だ。
グルになったとして、お互いが合意するメリットとは何だろうか。雇用の創出か、ファンタジックスキルを使えるようになることか、もっと別の何かか。おそらく考えるだけ無駄だろうが、こういう無駄な妄想が俺は結構好きである。
少なくとも探索者証はファンタジックアイテムのうちの一つだ。持ち主が生きているかどうかを判断する能力がある。何処までを生きていると判断するかまでは実際に死んでみないと解らないだろうが、死んだら必ず赤く光るとされている。
心拍が止まった時を死亡と判断するのだろうか。なら、心拍が止まって心臓マッサージの最中は赤くなったり元の色に戻ったり点滅し続けるんだろうか。点滅する探索者証を想像すると笑える。
テセウスの船状態ならどうなるんだろう。自分の心臓を他人の心臓に移植されたとして、それは俺が死んだことになるのか、それとも他人が死んだことになるのか。探索者同士での心臓移植手術が行われた場合それがはっきりするだろう。
話を戻すか。その探索者証をギルドが発行できる以上、ギルド側にそのファンタジックアイテムを作るファンタジックなファクト、つまり何かが存在するはずだ。探索者証の発行をどのように行っているのか。機械なのか、それともスキルなのか。スキルだとすれば、あのギルマスもそのスキルを持っているという事になるのだろうか。
少なくとも探索者になるために小西には行った。小西には探索者証を発行できる謎の機械かスキルを持つ人が居るという事に間違いはないだろう。もしかしたら探索者講習で教えに来ていた人自身がそのスキル持ちだったのかもしれない。
ダンジョン庁がその発行を操作できる以上、ダンジョンとただならぬ関係にあることは事実だろう。ただのドロップ品の納品先ではなくダンジョンそのものと通じ合っている。どんな利害関係にあるのかは解らない。
少なくとも俺は利益を供与される側になるんだな。ダンジョンで稼いで利益を得ている。このままダンジョンの謎を紐解いてバラバラにしていく探索者は俺以外に何十人も居るだろう。その人たちにそういうのは任せよう。
とりあえず現状認識として、俺は保管庫スキルとステータス……そういえばステータスも謎のパラメータだな。現実にも少しずつ侵食し始めている。少なくともダンジョン内ではパラメータに体が大きく左右されて、現実でもちょっと左右されている。
今体力テストをしたらそれなりの体力向上が見込めるだろう。もしかしたら賢さにも変化があるのかもしれない。ダンジョントレーニングみたいなものは存在するらしいし、ますます現実がファンタジーに侵食されて行く。最終的にファンタジーに現実が内包されてしまうのか、それとも両輪としてそれぞれが活躍するのか。
両輪で行って欲しいなぁと思うのが俺の感想だ。魔結晶から電力を取り出して発電、大規模発電によるエネルギー資源の確保。地球環境の改善、その他もろもろ。
まだ長い時間がかかるだろう。技術は日進月歩だ。一つ一つ問題点を潰し、新しい問題点を見つけ、解決していく。発電成功にしたってより効率的な手段が現れるだろう。お湯を沸かしてタービンを回すシステムから人類が脱却する日もいずれ来るのかもしれない。
研究と言えばスライム増殖させたらしい兄ちゃん、今頃どこでどうしているんだろう。スライム以外を増殖させる方法を研究してたりするのかな。
っと、長く入りすぎたか。のぼせないうちに出よう。
体を拭きパジャマに着替えると、調べものを始める。”探索者証 謎”あたりをキーワードにして検索する。やはりみんな同じことを気にしていたようだ。何故探索者証が赤く光るのか? そのためにいっぺん死んでみる……なんてことは出来るはずはなく。
実際に目撃した例がいくつかあるだけで本当に死んだら赤く光るかどうかは見てみないと解らないという感想と、ダンジョンだからしょうがないんじゃね? という感想が主な意見だった。
ダンジョンだからしょうがない、は便利な言葉だな。俺も今後使っていこう。”ギルド ダンジョン 癒着”で検索すると、オカルト系サイトが引っかかったが、どれも仮説を投げているだけで証明することは不可能みたいである。まぁ、考えることはみんな同じって事だが、ダンジョンだからしょうがない。
”ダンジョン スライム 大増殖”で最後に検索をかけたら、小西ダンジョンの例の事件について語っているサイトがいくつか引っかかった。俺の動画が載っている。再生数は五十万を超えていた。田中君にまたなんか奢らせないといけないな。
ステータスについて調べてみる。個人でステータスについて研究し、ステータスブーストの方法を教わったというサイトが見つかる。誰から教わったかは機密事項なので言えないが、常に脳を酷使することで自分の身体能力を向上させることが可能になった。これがその証拠である。と動画が添えられている。
普通に走ってこっちへ戻ってくるだけの動画だが、行きは全力で走っている様子が見られるが、帰りは明らかにステータスブーストしたであろう速度で瞬時にカメラ前まで戻ってきていた。これは間違いなくステータスブーストをキメてる映像だ。動画の再生数も百万を超えている。
ただし信じられない人からすれば「最初の映像はスロー再生だろ? 」とか「こんなもんいくらでも捏造できる」というまともなコメントが付いている。
動画見てやってみた勢からのコメントもいくつかついており「僕もこの方法で会得することが出来ました」とか「おかげで彼女も出来て幸せです」とか、怪しい商材業者みたいなコメントも見られた。
地道に広がってはいるんだな、ステータスブースト。ファンタジー的に言えば、ステータスブーストはいわゆる【身体強化】スキルに該当するんだろうとあたりを付けている。
探索者になった段階で【身体強化】スキルを付与されていると考えると、探索者証を発行させることでダンジョンでの活動がある程度保証されるわけだ。ただ、誰も説明をしないし説明書も無い。あるのは実際に使えるという結果だけだ。
何故誰も説明をしないのかについてはみんなのコンセンサスが取れてないんだろうなぁという感想しか浮かばない。おそらくダンジョン側もギルド側も「どうせあいつが説明してくれるだろ」みたいな感じに違いない。そうでなければ生死を分けるかもしれないこの力に注釈を付けない理由は無い。
現状の所、ステータス自身を上げ、ステータスブーストを上げ、実力を上げて十層に挑むしかない訳だな。友達いないからなぁ、俺……
少ししんみりしてしまった。今日はもう寝てしまおうか。後三日ほど待てばおニューのダーククロウ布団が手に入る。そうすれば極上の快眠が俺の手に入る。もう二度と布団から出られないかもしれない。俺の命もあとわずかか……
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