176:その辺の喫茶店のクロックムッシュとチョコレートパフェ
打ち合わせも無事終わり購入することを決め、料金も払った。出来上がりが楽しみだ。どれほどの快眠を俺に味わわせてくれるのだろう。極上すぎる味わいのショックで眠ったまま死ねたのならそれも人生としてありかもしれない。
いや、そうなると文月さんが困るな。使う前に遺言をしたためておかないと不味いか。後、俺が死んだら保管庫の中身どうなるんだろう? 死んで中身が放出されたら死因は圧死とかになるのかな。それとも中身はそのまま永遠に異次元を彷徨うのか。スキルにはまだまだ解らないことがあるな。
さて昼を食うにはちょうどいい時間になったが今日はどうするか。この間のカレーの二回戦に行くという選択肢も取れるが、今日はどうもそういう胃袋ではないらしい。
スマホの地図を見て適当に飲食店を探す。中華……寿司……中華……カレー……フレンチ……どれもピンとこないな。いっその事帰ってインスタントラーメンでもいいかな。人気ラーメン店でラーメン食うために行列を待つとかは俺の中の選択肢には存在しない。
すぐ入って、注文して、料理が来て、そして思うように食べる。これが出来る店かどうかが俺の中で割と比重が高い。何時間も並んで食べるぐらいならその並ぶ時間で他のことをしたいと思う派閥に所属している。
そうなると、並んでそうな店は候補から外れていく。すると浮かんでくる中華の文字。しかし中華の気分ではない。ここは喫茶店で軽食をつまんでいく方向性で行くか。それっぽい喫茶店ならコーヒーは飲めるし何かピンとくるメニューがあるかもしれない。
この間入った店は良い雰囲気だったな。そんな店を開拓してみるのも悪くないな。近くにある喫茶店を検索してみる。雰囲気の評価が高い店を検索する。十分ほど走らせたところに評価の高いところがあった。ここにしてみるか。
ここでようやく布団屋の駐車場から発進する。長々と駐車場を占拠しててごめんよ。早速喫茶店に向かって車を走らせる。この辺はあまり横着な運転をする車が少ない。スムーズに目的の店までたどり着くことが出来た。やはり安全運転は大事だな。
目的の喫茶店のドアを開ける。若干古ぼけた……いや、年季が入っているというべきだろう。マスターらしき人がカウンターに立っている。どうやら複数人が忙しく働いているような店ではなく、マスターと従業員が一、二名居る程度のこじんまりとした喫茶店だ。まず第一関門はクリアだ。
席に案内されメニューを見る。サンドイッチとナポリタン、そしてクリームソーダやコーヒーフロート、定番メニューはばっちり押さえているな。何か物珍しいものは無いかメニューを食い入るように見る。
とりあえずホットコーヒーは頼もう。後は何を食うかだ。この間はサンドイッチを頂いてとてもゆっくりした時間を過ごすことが出来た。今日はどうだろう。ドリア、明太子パスタ、オムライス……結構選択肢が多い。これマスターが作ってるんだろうか。それとも厨房専門が居るのだろうか。
御一人様での入店だが、俺はこういう所で甘いものを平気で頼める人間だ。喫茶店でパフェをおじさんが一人で食べるのは他から見ればどうかと思われるかもしれないが、俺は気にしない。食いたいものを食うのだ。ホットコーヒーとパフェは決まりだな。パフェの種類は……どうやら三種類ほどあるようだ。
オムライスは店の感じからして、流行りのふわとろ系のオムライスではないんだろうな。ふわとろオムライスがあったら興味を惹かれたかもしれないが、生憎胃袋がそれではないと俺に伝えている。別の系統を選ぼう。
ふと、クロックムッシュが目に入る。クロックムッシュとは一体何だろう。サンドイッチの項目にあるのでサンドイッチには違いないのだろう。挟まれてる具が何か気になる。
店員を呼び止め、クロックムッシュとは何か、勇気を出して聞いてみる。どうやらベシャメルソース、ハム、チーズを組み合わせたサンドイッチらしい。ベシャメルソースが何かはよく解らないが、ソースと名のつくものだからシチューのようなものだろうか。胃袋がぶるっと震える。これだな。
「すいません、クロックムッシュとホットコーヒー、それとチョコレートパフェをお願いします」
「はい、クロックムッシュとホットコーヒーとチョコレートパフェですね。パフェは食後のほうがよろしいでしょうか? 」
「コーヒーは先で、パフェは後でお願いします」
「かしこまりました、少々お待ちくださいませ」
注文が通った。後は早めに出されるであろうコーヒーを味わいつつ、クロックムッシュに思いをはせる事にする。
店内は有線放送か何かだろう、ラジオDJは居ないが古い洋楽がランダムに流れている。歌えないが聞いたことがあるメロディーが流れる。聞き覚えはあるけど歌えない、そういう奴だ。
コーヒーは五分ほどで出てきた。まず口の中を落ち着かせるために一口飲む。酸味の薄い、それでいてコクのある俺好みのコーヒーだ。正解を選べたな。心を落ち着かせながらも、クロックムッシュに期待をせざるを得ない。
更に十分ほどでクロックムッシュが届いた。なるほど、ベシャメルソースとはホワイトソースのようなものだった。一つ勉強になったぞ。
温かいうちに頂いてしまう事にする。温かいものを食べてその後冷たいパフェを頼むのはお腹に来そうではあるが、俺の胃袋はその辺は頑丈にできている。さぁ、食べるぞ。
早速かぶりつくと、チーズとベシャメルソースが口の中で溶け合う。ハムとチーズとホワイトソース。合わない訳がない。トーストも若干強めに焼かれており、カリカリ感を残したまま咀嚼されて行く。
良い組み合わせだ。トーストの食感とトロトロの具材が口の中でそれぞれの主張をしつつ、噛んでいるうちに一つになって柔らかな食感が口の中を覆う。チーズもほのかな甘みがあり、トーストにわずかに刻まれている焦げを包み込むように丸みを出してくれる。
今日の選択は正解だったな。しいて言えばお代わりが欲しくなってきたところか。しかしこの後パフェが待っている。その分の胃袋は空けておかないといけない。いざパフェを頼んでおいてその甘さと量でお残しをするのは俺にとって許されない暴挙だ。出された食事はきちんと食べる。
クロックムッシュを食べ終えたところで再度店員に声をかける。
「すいません、パフェもう持ってきちゃってください」
「かしこまりました、少々お待ちください」
食べ終わりの時間を見越していたのかは解らないが、パフェは思ったより早く届いた。そのタイミングで店内音楽がSKAに変わる。俺のウキウキ気分を反映したかのようだ。
チョコレートパフェを頼んだのはただ純粋に俺がチョコレート大好き人間だからだ。普通のパフェとチョコレートパフェが並んでいたら値段を気にせずチョコレートパフェを選ぶぐらいには好きだ。チョコレートは業務用スーパーなどでも売っている液体状のものをかけてあるんだろう。
とてもいい。パフェの一番底にコーンフレーク、その上にはチョコレートソースとチョコレートを混ぜ込んだカステラ状の何かが配置されている。その上にスポンジケーキ、さらに上にチョコレートアイス、更に上にソフトクリーム、チョコレートソースは一番上に垂らされていた。これぞチョコレートパフェ、といった感じだ。
さっそく細長いスプーンで一番上のチョコレートソースとソフトクリームをまとめて口の中に入れる。ソフトクリームのおかげで冷えてパリッと固まったチョコレートソースが何とも言えない食感を与えてくれる。
次にすこし形を崩して、ソフトクリームだけを味わう。甘い。だが甘すぎない甘さだ。口の中が一気に甘味に襲われるかと思ったがそこまで甘くない。おそらく、甘くし過ぎるとその下のチョコレートアイスの食感が失われてしまうからだろう。考えられているような気がする。
ソフトクリームをさっさと片付けてしまうと、チョコレートアイスに攻め込む。一番槍を口に入れると、カカオ成分が多めなのだろう。ビターな味わいが口の中の甘さを少しリセットさせてくれる。
このチョコアイスはとても俺好みだ。甘すぎず苦すぎず、チョコレートが存在感を大いに主張している。チョコレートを楽しみながら下のスポンジケーキも味わってみた。スポンジケーキは甘さが控えめで、チョコレートの怒涛の勢いを受け止めるような形で舌をリセットさせようと踏ん張っているかのようだ。
チョコレートアイスを堪能したところでスポンジケーキで舌を落ち着かせて、コーヒーを一口飲む。チョコレートの甘苦さをリセットするのだ。そしてスポンジケーキを食べきると最後に底に残ったコーンフレークをいただく。パフェの〆はやはりコーンフレークだな。早めに食べてしまったおかげで口の中をサクサクした食感がパフェの終わりを告げている。
最後にコーヒーを飲み干し、満足した。今日は正解を引き続ける事に成功したな。またほかの喫茶店を巡る楽しみも増えたかもしれない。
数分ほどゆっくりすると、勘定をお願いする。千八百四十円だった。昼食としては金を使った気がするが、財布には余裕がある。たまにはいいだろう。
気が付けばあっという間に食いきってしまった。良い店を見つけられたな。ネット上の情報に味に★五をつけておこう。コスパは★四。安さはそれほどでもないが、値段分の量はある。店の雰囲気は★四。これで店内音楽がもっとゆったりしたものだったら★五をつけていただろう。
満足して店を出たところで、一旦家に帰る。気分よく帰宅する事が出来そうだ。
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