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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第三章:日進月歩

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171:無理はしない・成長の代償?


 結局二時間ぶっ通しで戦い続ける事になった。九層を二周したところで二人とも集中が切れたようだ。戦果はジャイアントアント二百二十六匹、ワイルドボアが百二十八匹と言ったところだろう。ドロップから逆算するとそのぐらいになった。


「結構続きましたねえ。一時間ぐらいで電池切れするかと思ってましたが」


 タオルで体を拭きつつ文月さんがコーラとカロリーバーで一休憩入れている。俺もカロリーバーとコーラで一服しながら汗を拭く。


「思ったより長続きしたみたいだ。俺もちょっとびっくりしている」


 実際三十分続けば今のところ十分だろうと思っていた。これはステータスブーストできる幅が広がったと見ていいだろう。一つ位階が上がったという奴だな。なんだか今なら十層すら行けそうな気がしてきた。


「どう、まだいけそう? もう一周ぐらい出来そうだけど」

「まだいける。もう一時間ぐらい行ける。ケドそれ以上は解んない」


 スタミナが続く限りモンスター狩りというのが本当のところだが、帰り道分の体力は考えておく必要がある。それを見越して二時間かな。


「じゃあ一時間、もう一周して帰ろうか」

「賛成……ただもう五分ぐらい休憩してからね」


 休憩中警戒するのは大体俺の役目になっている。モンスターは休憩中だからといって休ませてくれないからな。本当に休みたかったらセーフエリアにいくか、階段にたむろするかのほうが安全に休むことが出来る。ここはどちらでもないので常に警戒が必要だ。


「今のところどんなくらいの稼ぎ? 」

「う~ん……ざっと二十四万ってとこかな。記録を更新するにはもう二時間必要かな」


 ドロップ品の数から計算する。ちゃんと税抜き価格にしてある。保管庫万歳。わざわざ一個一個数える必要が無い。


「じゃあもう一時間頑張りますか。私ももう少し頑張ればその何? もう一段階強くなるってのを体験できるかもしれない」


 やる気に満ち満ちている。良い事だ。さてお互い休憩も終わったところでもう一時間頑張りますか。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 九層をもう一周して八層側の階段へ戻ってきた。出来高はジャイアントアントが八十八匹、ワイルドボアが六十八匹というところだ。上々だ。


「さすがに疲れたね~」


 疲れた、といいつつ汗をかくだけでお互い被弾はゼロ。ペアハントなら、森の中へ行かない限りは問題ないだろう。成長したもんだ、これなら大丈夫だろう。


「さて、帰るか? それとも十層覗いていくか? 」


 文月さんに提案してみる。今の俺なら十層の物量にも勝てそうな気がする。


「え、もうちょっと訓練してからって言ってなかった? さすがにいまからは体力的に自信が無いんですけど」


 突然の俺の発言に文月さんは困惑している。さすがに無理なのか。でもなんか行けそうな気はしないでもないが、無理は良くないか。でもなんか変な感じだな。今なら行けそうな、妙な感覚がする。万能感とでもいうべきか。


「ん、そうだったな。……なんか頭が変な感じになってきたらしい。今なら飛べそうみたいな変な感情が入り混じり始めている。疲れてるのかな」

「七層に戻って、お腹に何か入れて、それから仮眠しましょう。コーヒーでも入れたら落ち着くかもしれません」

「若干ダンジョン酔い、みたいなものをしてるかもしれない。少しの間先導お願い」


 帰りの行程を文月さんに任せる。そういえば人に任せて行動をする、というのは最近無かったな。たまにはぶら下がって見るのも良いかもしれない。なんだろう、動きすぎてナチュラルハイにでもなっているんだろうか。


「解りました。とりあえず階段上って、八層へ行きましょう。行けますか? 」


 両手をブラブラさせて首をコキコキ鳴らしてその場で軽くジャンプ。


「OK、体は動く。多分頭だけが暴走してる感じだ。このまま七層へ行こう」


 状況を思い出す。今は八層への階段の手前だ。この階段を昇れば八層だ。まずそこへ行くんだな。よし。


「じゃあ、先導お願い」

「解りました……ってなんかいつもと逆で調子狂いますね」


 文月さんは落ち着いて先導を開始する。俺はついていく。今はこう、自分の中で何かがグルグルしているような、妙な感覚を味わい続けている。八層に上がっていつものサバンナを行く。


なんだかこう、サバンナが更に広くなったような感覚を覚える。そこまで広い範囲を見渡している、まるで俯瞰しているような感じだ。


人差し指、三、一。手を挙げる。


 全身に力を込めてワイルドボアへ駆けだす。文月さんを追い抜くスピードでワイルドボアに近づくとそのままグラディウスを一撃ぶっ刺してトドメとする。ドロップは……無し。


 文月さんは危なげなく二体を相手取り、奥に居る一体を【水魔法】で確実に仕留めた後で目の前に居るワイルドボアに一槍入れて対処している。戦っている様はまだ冷静に見れているようだ。


「う~ん、やっぱりなんかまだフワフワしてるな」

「多分あれですね……ステータスブーストを切ってみてください。それで落ち着くと思います」


 ステータスブーストを切る。途端に周りが素早く動き出したかのような感覚に陥る。いや、逆だ。今まで自分が加速していたのか。一瞬気持ち悪さが自分を襲うが、少しすると元に戻る。


「感覚酔いなのかな、これは。どうやらステータスブーストの使い過ぎだったみたいだ」

「きっと、ステータスブーストの感覚のまま思考も加速しちゃってたんですよ。それでへんな感じに浸ってしまったというか、多分そんなだと思います」

「だな。ようやく落ち着いた気がするけど、まだ危ないから文月さんに従うよ」


 念には念を入れておかないとな。お家に帰るまでがダンジョンだ。


「解りました。落ち着いた安村さんがそう判断するならきっとそれがマシな判断だと思います。ちゃんとついてきてくださいね」

「はーい、お姉さん」


 引率のお姉さんに連れられて八層から七層へ戻る。木を一本経由するが、文月さんの判断で木には手を出さず、相手の警戒範囲に入らないようにしてそのまま階段へ直行する。


人差し指、三、二。手を挙げる。ステータスブーストを体が当たる瞬間だけ使い、ワイルドボアを順番に処理していく。ドロップ肉と魔結晶。今はあまりステータスブーストを垂れ流さないほうが良いだろう。


 七層の階段を上ると、自転車が二台止まっていた。多分九層を回っていたパーティーが居たんだろうな。出会わなかったという事は同じ向きに回っていた可能性が高い。運が良かったのか、それとも向こうのパーティーの狩り分を取ってしまったか。


「自転車は乗れますか? 」


 文月さんが心配そうに聞いてくる。いくらなんでもそれぐらいは出来るぞ。


「とりあえずテントに戻って休憩しよう。間違いなく仮眠を取ったほうが良いと思う」

「大分冷静な判断が戻ってきましたね。良い感じです、そのままそのまま」


 自転車に乗ってシェルターの位置まで戻ってくる。自転車が置いてあった。今シェルター周りには自転車が三台とも停まっている形だ。


 自分のテントに戻ると、文月さんのテントを立て、そのまま放り込まれていたエアマットと枕をテントに入れ込む。バーナーとマグカップを取り出して火にかけて湯を沸かす。腹も減ったな。何か作ろうか。


 湯を沸かした後インスタントコーヒーを淹れて飲む。脳にカフェインが沁みわたるシュンッという音が聞こえる。


 そうだな……簡単にボア肉のタタキでも作るか。ボア肉を一パック開けてスキレットを取り出すと、塊のまま焼く。十分に焦げ目がついたところで火から下ろし、ナイフで切っていく。


「ボア肉のタタキ作ったけど食べる? 味付けしてないから醤油垂らすだけになるけど」

「食べる。慣れないことしてお腹空いた」


 紙皿にラップを敷いて薄めに切ったボア肉を乗せていくと、醤油を取り出し適量かける。生姜、残しておけばよかったな。


「表面焼くだけでも美味しいですねぇ。ちょっと胃袋に詰めるには良い量ですし」

「生でいくのは勇気が居るけどタタキなら一応熱は通ってるから」


 実際、ボア肉は生でも行ける。ウルフ肉が生でいけたんだからボア肉も生でいけるだろう。でも表面を焼くことでとりあえず熱は通っている。


 ボア肉の生の味が直接舌を叩く。ちょっと高級な豚肉って感じだったが、若干の鶏風味もある気がするな。表面が早めに熱されて閉じ込められていた脂が口の中で溶けだす。やっぱり中々いけるな。


 タタキを作るのは三度目だが、今回が一番うまくできたような気がする。


「小腹も満たされたし、コーヒーも飲んだし」

「寝ますか」


 にしても、この小一時間の感覚は何だったのか。メモっておいて後で調べるか。ダンジョン特有の感覚かもしれないし、何かの病気かもしれない。次に同じ症状が出た時に対処が解るだろう。


 後片付けをしていつもの「仮眠中 安村」の札を掲げてアラームを五時間後に設定する。いつものマイ枕を取り出すとさっそく横になる。体の使い過ぎ気の使い過ぎか、それとも単に歳のせいか。眠りにつくのにそう時間はかからなかった。




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― 新着の感想 ―
[一言] ルームランナーで走ったあとに、脳みそだけ進み続けて体がよろめくあれですね。 このあたりの違和感を解消できたら十層でしょうか。
[一言] おじさんダンジョン親和性が高いから適応したか浸食されたか あるいはダンジョンは人為的な動きが見られるというので、管理者から気に入られた?
[良い点] 長時間高速道路走った後に一般道降りたときとか似たようなことありますよね。 車の流れや車間や信号ストップに戸惑うような。 [気になる点] またはダンジョンに呼ばれてるとか… 「もっと下層に来…
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