170:成長
ワクチン副反応、出ないなら出ないで不安になりますね。前回酷かったので今回何も起こらず???な感じになってます。
九層は相変わらず湿度が高い。森だからしょうがないという部分もあるが、そもそもこの湿気の元である水分は何処から出て来てるもんなんだろう。
ふと隣を見ると、自分の周りにだけ乾燥を使用して湿度を下げている文月さんが居た。なるほど、そういう使い方も有りか。
「乾燥かけたら逆に周りの湿度が上がるのでは? 」
「服は気化熱で涼しくなるみたいだし、一時的なものだからまぁ大目に見て」
「その分おれが蒸し暑くなるという訳でもないので、別にかまわない」
さて、どっちへ行こうかね。北回りか南回りか。グラディウスを地面に立てるとそのまま重力に任せて倒す。グラディウスはかろうじて北側を指した。
「よし、今日はこっちへ行こう。神様がそう言っている」
「信心があったんですか」
神でも仏でもなく餃子半分に誓いを立てたことを覚えているのか、文月さんが突っ込む。
「今できた。多分五分後には信心を無くす」
別にどっちでも良いのだ。どっちに行ってもモンスターは出てくる。ならその時の気分に任せてしまっても問題ないだろう。
北回りに、つまり森を右手に見ながら歩き始めると、早速森からモンスターがちょこちょこと姿を見せ始める。親指、三、二、手を振られる。メインディッシュのジャイアントアントのお出ましだ。
素早く近寄ると計六本ある足の内二本を落とし動きを鈍らせると、そのまま首を落として一匹目。二匹目が突撃してきたのでぶつかる想定場所をサイドステップで回避して、その首を落とす。ドロップは両方魔結晶。幸先は悪くないな。
そのまま道なりに一周ぐるっと回るお決まりのコースだ。食料を求めてかどうかは解らないが森から出てくるワイルドボアとジャイアントアントを狩りつつ散歩する。物足りなければ二十メートルほど森側に接近して歩けば探知してくるワイルドボアとジャイアントアントはぐっと増える。
人差し指、三、二、手を振る。森に近ければ近いほどエンカウントする回数も数も増えるので、自分の限界にチャレンジすることもできる。
以前一度森の木ギリギリまで近寄って戦った時は同時に八匹ぐらいエンカウントしたこともあったっけ。今なら余裕をもって対処できるようになったが、十層の最初の密度はもっと多かったか。
「今日はギリギリを攻めてみようかと思うんだけど」
「【水魔法】の出番ですか。いよいよ私の妄想の成果を見せるときが来たようですね」
「言い方。まぁいいけど。木の下をギリギリ回るぐらいの距離なら良い感じの数が出て来てくれると思うんだが……一対四ぐらいで出て来てくれるといい練習になるかな」
とりあえず森に近づき、早速お出ましたワイルドボアを力ずくで黒い粒子に変えた後、森の中に意識を向けながら森のそばを進む。マジマジと森の中を覗いてみると、まだ探知範囲ではないだろうジャイアントアントが忙しそうに散歩しているのを見かける。数は……三十ぐらいいるかな。
ここから狙撃できないこともないが、ドロップを取りに行く間に他のジャイアントアントが探知に引っかかって四方八方から追い立てられるのは目に見えている。こっちに来た奴だけを処理していこう。
親指、六、四。手を挙げる。そのほうが第一、楽でいい。一対多の練習をするのに楽でいい、というのも変な話か。まぁいいや、厳しすぎて怪我をするよりはほどほどのところを攻めて徐々に増やして行くということだと思っておこう。
今のところ、一対四ぐらいまでなら対応できるようになってきた。相手後方から酸が飛んでくるタイミングもつかめてきた。
どうやらワイルドボアも含めて、モンスターと密着してる状態だと酸を飛ばしてくる可能性はゼロに近い。いったん離れて距離を取るか、モンスターを倒した時に酸を飛ばしてくるという事が解りつつある。
なら、常にベタ足インファイトで戦う姿勢を見せれば遠距離攻撃に対応する必要性は徐々に低くなる。どうやらモンスターも同士討ちは好まないらしいな。
親指、六、三。手を挙げる。文月さんも戦い方が安定してきている。酸を飛ばすそぶりを見せた奴には容赦なくウォーターカッターを飛ばして牽制ないしそのまま尻部分を切り取っていく。どうやら尻は頭ほど固くないらしい。
十層に挑む目も見えてきた。あともう少しだ。あともう一匹余裕を持って対処できるなら、十層でも活動が出来る。そう思うと全身に涼しい感覚が巡る。高揚感にもよく似た、だけど頭は冷静に動いている妙な感覚を覚える。
さっき六層で味わった感覚に似ている。ステータスブーストを使っていてもなお、更にゆっくりと世界が動いていく。その動きの中で最速を目指して体を動かす。ジャイアントアントがゆっくりと俺の足に噛みつこうとしてくる。噛みつくであろう地点を予測しそこから足を引き抜く。
そしてそのまま足で頭を踏みつけるとグラディウスを差し込んですぐ引く。アリさんはまだお代わりがある。一匹にそこまで時間をかけるのはもったいない、自分から替え玉を取りに向かうとしよう。
こっちの取り分はあと二杯ある。食事はゆっくり消化したいところではあるだろうが手早く味わいに行こうと思う。
地面を数歩蹴り飛ばしてジャイアントアントに近づく。こちらを向いているものの、まだ俺の動きに体が付いてきていない。それだけの認識速度差があるということか。俺も速くなったもんだ。相手がこっちに完全に向き直る前に相手の横合いをグラディウスでひっぱたく。
ひっぱたかれたジャイアントアントが体勢を崩す。その間にこちらは首元へ回って首をはね落とす。ドロップが出た瞬間収納し、次の一杯へ向かう。
少し離れた最後の相手に全速力で近づき眉間に一閃。体重に速度が乗って一気に頭を貫いて終わりだ。出たドロップを収納する。
文月さんが最後の一匹を相手している。その間に範囲収納で文月さんの周りに落ちているドロップを拾う。おそらく十秒ぐらいだろう、その間に文月さんはジャイアントアントを処理し終わり、一息つく。
「なんか、更に速くなってません? 前借りしてないでしょうね」
「いや、あれ以来使ったことは無いよ。ほら、鼻血も充血もしてないだろ? どうもステータスブーストできる範囲がまた一段階上がったというか、ギアが上がったというか、力が出せるようになったというか」
「何日も九層で鍛え続けた甲斐があったという話ですか。私も後何体ぐらい倒せばそうなれるんですかね」
「そうだなぁ……よっと。こいつに気づけるようになったら、じゃないかな」
話しつつ、近づいていた七匹目をパチンコ玉で迎撃しつつ答える。ドロップは無かった。
「もう一匹いたのね。戦闘中に探知切らすなってことですか」
「追加が来る事も有るだろうからね。騒がしい事になるだろうけど、全部ブーストしながら戦うのに慣れたほうが良いかもしれない」
「結構疲れるというか、お腹に響くんですよね。カロリーバーください」
カロリーバーを渡すと味を確認してからサクサクと咀嚼し、指先から【水魔法】で水を出して自分で飲んでいる。便利だなあれ。俺も喉が渇いたので保管庫から水だけ取り出して飲む。水分補給は大切だ。口の中がカラカラで戦い続けるのは精神的にも負荷がかかる。お互いを見合って感想を告げる。
「「便利だね~そのスキル」」
声がハモる。親指、六、四、手を挙げられる。すぐさま戦闘に移る。ステータスブーストはかけたまま、さっきの感覚を忘れないように最大速度で近寄り、刺し、収納し、すぐ次へ。次の頭を落とすとその足で次へ。一匹目を倒した地点あたりを酸が通り過ぎる。判断が一匹分遅い。
残り二、一匹は酸を吐き出した体勢からまだ動いてない。もう一匹はこちらが二匹倒したことをようやく認識した。だが、それではもう遅い。俺は君のすぐ真横まで来ているぞ。
三匹目の首を落とすとドロップを拾い、最後は最後衛にいた酸を飛ばしてきた一匹だけだ。こちらへゆっくり走ってくる。こっちは倍以上の速さで近づいていく。そのまま眉間にグラディウスを差し込み、捩り、黒い粒子に還す。
戦闘サインを出してここまで十秒ほど。その間に文月さんは二匹を処理しドロップを拾い終えていた。
「この速さなら十層も行けるかな……? 」
「何とかなりそうではあるけど、その状態いつまで続けられるの? 」
「う~ん、なんとも。ただ、前より更にカロリーを消費している感はある」
お腹空いた。今度は俺がカロリーバーを食う番だ。もしゃもしゃ咀嚼して水飲んで終わり。これでしばらくは活動できるな。
「とりあえずこのまま密度の高いところで戦い続けますか。疲れたら休憩という事で」
せっかく上手く回っているときにテンポを崩すのはよろしくない。このままの調子で狩りを続けたい。
「そうしましょう。後二時間ぐらいはやれる気がします」
文月さんも乗り気だ。よし、俺は後何分この状態を維持できるか試してみよう。こっちも乗り気だ。これはタイムアタック記録を更新できる気がする。ここまでのドロップを全部メモっておこう。
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