166:いたずら再び ~タイミングを見計らえ~
誤字ぃ……
六層に降り立つ。土煙を上げることは物理的に不可能だが、きっと地上では土煙を上げているであろう、爆走するワイルドボア。いつもここのワイルドボアは元気だな。ちょっと分けてほしいぐらいだ。
さっそく六匹ほどがまとめてこっちへ向かってくる。俺にぶつかるタイミングと速さを考えて、立ち位置をちょっとずらす。よし、この位置なら順番に対処できるぞ。まず一匹目にグラディウスを差し込んで倒す、二匹目にグラディウスを差し込んで倒す、三匹目は回避だ、次が近すぎる。四匹目、五匹目を同様に倒す。
次に一旦回避した三匹目を倒し、最後に六匹目に止めを刺す。
うん、音ゲーみたいだが順番を間違えなければ一対一でぶつかり負ける相手じゃなくなった。むしろ同時に二匹ぶつかってきても耐える自信が今なら有る。
ドロップを拾うと次のリンクになるであろう七匹に向かって歩いていく。一対多の練習としてワイルドボアはちょうどいい相手だ。遠距離攻撃をせずにこっちへ一直線に向かってくる。酸を飛ばしてくるジャイアントアントと比べても御しやすい相手で、こっちの攻撃一発で倒すことが出来る。
十層の予行演習としては少し物足りないが、状況把握の練習にはなるだろう。これで空からダーククロウが同時に襲ってくるようならこれ以上のものはないが、上空には何もいない。ホッとしているが少し残念でもある。
六層一本目の木に近づきながら次の七匹の相手をする。まず一匹目、二匹目にグラディウスを正面から突き立て一撃で葬り去る。三匹目もそのまま同じ行動で良いだろう。四匹目、五匹目がほぼ同時に接触する形になるので、三匹目を倒した後四匹目にあたるワイルドボアに急接近し、その勢いを殺さぬまま刃を突き立てる。
五匹目の接触タイミングがずれたところで急反転し、五匹目を仕留めにかかる。ここで六匹目が俺の足元に到達した。六匹目に思い切り蹴りを入れて跳ね飛ばすと、そのまま五匹目の息の根を止める。
七匹目の眉間にグラディウスを突き立てたところで蹴り飛ばされた六匹目が戻ってくる。最後に六匹目に止めを刺して終わりだ。……ふぅ。
七匹相手でもなんとかなるな。これが十匹とかになれば、多分保管庫のお世話になっていた事だろう。
一本目の木に立ち寄り、何時ものロックオンからの発射で木に止まっていた十羽ほどのダーククロウを処理するとドロップを確かに回収し、二本目の木に向かう。道中にはワイルドボアが六匹見えている。
六匹のワイルドボアを危なげなく処理し、ドロップがまた増える。二本目の木はいつも通り茂っていた。また倉庫の肥やしが増えるな……でも狩っちゃう、くやしぃっ!
周りをよく確認した後、木に止まっていた四十二羽のダーククロウを丁寧に一羽ずつまとめてバードショット弾で打ち払い、ドロップを回収する。さすがにまたスキルが出たりは……しなかった。そうそう上手くでるもんでもないか。
三本目の木はここから見る限り茂っていない。前も茂ってなかったな、誰かちょっかいかけてるんだろうか。またも襲い来るワイルドボアをついで気分で蹴散らしながら前へ進んでいく。
三本目の木にたどり着いたが、やはりダーククロウはポップしていない。まぁ手間が省けたか。保管庫の中には分厚い羽毛布団が二枚作れるぐらいの羽根が溜まってしまっている。今度布団屋へ行くときに実物提示しつつ話をしてみようと強く心に刻む……とまた忘れそうなのでメモ帳に書いておこう。
残りの階段までの距離をやや速足で進む。ワイルドボアは三匹ほど向かってくるようだ。丁寧に一匹ずつお相手仕る。
そのまま階段を駆け下り、七層へ無事到着する。周りの視線が気になる。誰も見ていないな? 誰も居ないな? 見てないな? 周りを何重にも確認する。よし、今の内だ。自転車台と自転車を二台設置してしまおう。
六層側はこれでOKだ。後は七層中央に机と自転車台、八層側の階段に同じ自転車台を設置して今日のミッションその一を終わらせた。
自転車台の足元に「駐輪場」と印刷された密封したクリアファイルを置き、素知らぬ顔で七層中央へ向かう。
七層には最近テントが一つ二つ増えた気がする。ここへ達する人も増えたのか、元々七層へ来れる人材が小西へ移ってきたかは不明だが、人が増えるのは良い事だ。素直に喜ぼう。
歩いて七層中のシェルターへ向かう。布団は貸し出し中らしい。周りを見回し誰も見てないことを確認すると、まず自転車台を設置し駐輪場のクリアファイルと空気入れを置く。ミッションその二完了。
ミッションその三は後でやるとして、まず固定設置用に持ってきた大きなテントを組み立てよう。さすがに重量があるな。でもテントの中でグルグルと回転できる解放感はそれに勝るだろう。広いテントはなんだかんだで便利だ。
重さは小さいテントの二倍ほどあるが広さも二倍だ。こいつも自立式でペグが要らないタイプなので、組み立ても簡単だ。ただ、支柱を折らないようにだけ気を付けなければいけないな。
五分ほどしてテントが組みあがった。中に入って寝心地を確かめる。広いっていいなぁ。いつものキャンプセットをテントの中に広げてもまだ余裕がある。テントを固定しておくようにペットボトルの水を一つ二つ隅っこに設置しておく。
椅子とバーナーは外。購入した机も外。なんだかだんだんキャンプらしくなってきたな。ちょっと楽しいぞ。
ひとしきり新しい設備を堪能した後、小さいほうのテントを折りたたみ片付け、八層のほうへ歩いていく。八層階段のそばに同じく自転車台と駐輪場のクリアファイルをその辺に置く。そして自転車を一台取り出すと、自転車に乗って七層の中央まで来た。
駐車台に自転車を乗せて、満足した。俺が満足したのだからムダ金と言われようと何の意味がと言われようとも問題ない。そう、問題ないのだ。
ミッションを完遂したところでゆっくりと机の組み立てに入る。三つ折りの机はそこそこの重量があったが、たどり着いてしまえば何のそのだ。
組み立てておけばきっとみんな何かしらに使うだろう。少なくともシェルターの中に紙皿が散乱するようなことは無くなるはずだ。
カチャカチャと音を立てながら机を組み立てていると、テントから顔を出したあと、田中君がにじりよってきた。
「こんにちは安村さん、何やってるんです? 僕には机を組み立てて設置しているように見えるんですが」
「机がね……あると便利だと思ってね? 余ってたのを持ってきたのよ。置いとけば誰か使うかと思って」
「わざわざ外から持ってきたんですか? ……ってなんですかこれ、駐輪場? 」
田中君が見なれない物体が設置されていることに疑問を浮かべまくっている。そうだ、そういう反応が見たかったんだ。
「それはなんか私が来た時からありましたよ。六層側に三台置いてあったんで一台乗ってきてみました」
「僕が来て仮眠する前にはありませんでした……っていうかそもそも自転車なんてどうやって持ち込むんです? 簡単なパーツでバラして中で組み立てるとか……」
「さぁ……まさか自転車そのまま背負ってきたり自転車に乗ってきたりはしないと思いますが」
全力でとぼけておく。
「ちょっと六層のほう見てきます。自転車乗っても? 」
「別に私のじゃないんでどうぞ。六層側に三台、で自転車台も三台ということは、八層側には一台も無いって事でしょうかね? 」
全力でとぼけておく。
「じゃぁ犯人は今六層より上に居るって事かもしれません」
「三台一人で持ってくるのは難しいでしょうからどこかのパーティーの仕業でしょうか」
「解りません。が、もしかしたら後ろ姿ぐらいは見えるかもしれません」
行ってらっしゃい。多分誰も居ないけど。机を組み立て終わり、散乱していた紙皿を机の上にそろえておいておく。ついでに感想も読む。
「洗濯ありがとうございます どなたかは解りませんが 小寺」
「おいくらですか? 布団買いたいのですが 鈴木」
「どこの業者さんですか? 何点かご質問があります 大木」
知らない人からの質問もある。鈴木さんは出会ったことが無いな。どんな人だろう。
自分のテントに戻って一休憩しよう。時刻は午後四時。一時間ぐらい休んだらそろそろ文月さんを迎えに五層あたりへ移動してワイルドボアとキャッキャウフフしながら夕飯の主食を集めてもいい頃合いだろう。
田中君が帰ってきた。どうやら全力で漕いで戻って来たらしく、息が上がっている。
「田中君どう、誰かいた? 」
「いえ、誰も居ませんでした。僕が仮眠取ってる間に一体何が起きたんでしょう。頭がこんがらがってきました。安村さんがおちょくってるわけじゃないですよね? 」
田中君は混乱している。そんな田中君をなだめて落ち着かせる。
「そうだねえ。しいて言うならもう一台ぐらい自転車が増えても不都合は無さそうかなって」
「なんでそんなに冷静なんです? 」
「だって、何も損してないもの。むしろ七層が移動しやすくなった分便利になったし」
「なんだか訳がわかりません。とりあえず人為的ないたずらって事で良いんですよね」
「それは間違いないと思うよ。試しに八層側も見てきたらどうだい。俺の予想だとあっちにもあるんじゃないかな、自転車台」
田中君を八層側の階段へ誘導する。
「そうしてみます。歩くより早いですから! 」
田中君は息も整えずに自転車を走らせ去っていった。ごめんな田中君。今度何かでサービスするから。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。





