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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第三章:日進月歩

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160:かえりみち1



 

 アラームが鳴って起きる。午前五時半。おはようございます、安村です。枕のおかげで快眠です。ダーククロウありがとう。毎回お礼を言っても足りないぐらいなので毎回言う事にする。


 早速テントの中の物を保管庫へ片付ける。バーナースキレットまな板椅子エアマット。そしてタオルを水に濡らし顔を拭き、身支度は完了だ。外に出てテントも片づけてしまおう。


 隣を見るとテントの中で影がごそごそしている。これは起きているな。声をかける必要はないだろう。バッグの中にあらかじめエコバッグを六個ぐらい出しておき、ドロップ品の詰め替え作業に備えておく。


 まだ冷えた水を一気飲みし、う~ん、と伸びをする。体調におかしなところは無さそうだ。テントを小さくしてしまいこむと、ボア革でパンパンになったバッグに押し込む。


 しばらくして文月さんは出てきた。水で濡らして身支度して乾かしたのか、タオル片手にご登場である。


「おはようございます」

「おはようございます。よく眠れた? 」

「枕の効果すごいね。もう手放せなくなるかも」

「メーカーが作ったらもっと気持ちいいかもしれないなぁ」

「いくらするんだろう? 今度調べてみる」


 結構なお値段すると思うぞ。枕一つで多分二万ぐらいするんじゃないかな。


「多分びっくりすると思うぞ。掛け布団を前に調べたら三十万した」

「そんなに!? 」

「それに羽毛布団にはなんかそれ用の詰め込み方があるらしい。素人が作ったのじゃ羽根に偏りが出るから、本式の物となると……」

「わたし、しばらくこれで我慢する」


 文月さんは枕をぎゅっと抱きしめて宣誓する。うん、それが良いと思うよ。あんまり高いと手放せなくなるし。と言っても現時点ですら手放したくない事にはなっているようだが。


 枕を受け取ろうとすると拒否された。どうやら家でも使いたいらしい。文月さんのエアマットとテントを片付け、バッグの中に仕舞う。


「ごまかして保管庫の中に入れるのも手慣れてきましたな」

「まぁ、コツをつかんだからこんなもんよ」


 片づけは済んだ。後は帰るだけだ。文月さんと持ち物を確認し、置き忘れがないかチェックする。


「忘れ物は無し、必要な物はバッグの中、ドロップ品は保管庫の中。完璧だな」

「じゃあとりあえず四層まで帰りましょー」


 シェルターを覗いてみるとまた敷き布団は何処かへ行っている。多分誰か使っているんだろう。あちこちで使われてご苦労なことである。


 六層側の階段へサクサク歩いていく。道中、魔結晶が一つ落ちていた。誰が落としたんだろう。


「落とし物、ですか」

「う~ん、名前が書いてあるわけでもないし、届ける宛てもないし、これは布団のレンタル代金として徴収しておこう」


 貰っておくことにした。ちょっと儲けた、多分五百円ぐらいにはなるだろう。良い事をすると良い事が返ってくるという話も有るし。


 臨時収入を得て六層へ戻る。六層の暴走族は今は大人しいようだ。そのほうが歩きやすくていい。早速戻り道がてらダーククロウの様子を見る。見慣れた繁り具合だ。五層側から数えて三本目の木は五、六羽ほど。


「練習する? 【水魔法】」

「する。出来るときにする」


 文月さんはやる気のようだ、全部任せてみよう。スッ……と気を籠めると目の前に五本の刃が現れる。それがダーククロウにそのまま吸い込まれて行き、木に止まっていたダーククロウは全て消え失せた。


「お見事。百点だな」

「よし、五羽なら行けるね」

「五羽行けば十分じゃないかな」

「もっと数を増やして行けば、一発で落ちない敵に同じところに二発ぶつければ倒せるようになるかもしれないじゃないですか」


 なるほど、そういう考え方も有りだな。ドロップを拾いに行くと、次の木が見える。茂り具合は抜群だ。これは俺の出番かな。


「じゃぁ、対多戦闘のお手本をお見せするとしますか」

「よっ、待ってました」


 文月さんが寄席で落語家が出てきたときのような声を掛ける。そういえば最近聞きに行ってないな、たまには行くか。でもあそこ一人で行くのは勇気居るんだよな。


 それはさておき、二本目の木に近づくまでに三匹のワイルドボアを処理し、後五十メートルという所まで近づく。ダーククロウの声が止む。警戒範囲に入った合図だ。


 動かず、落ち着いて何匹いるか数える。十……二十……三十……四十……四十五羽か。どの辺に止まっているかと匹数を数えたら、その把握するすべてに向けてバードショット弾を射出するイメージ。


 直径六ミリほどの小さな弾がシュッという音を立てて飛んでいく。それらはスパンッ、スパンッと小気味のいい音を立てて次々に着弾し、木に止まるダーククロウを一気に落としていく。


 木から三匹ほど飛び去った。外したのか、見えていなかったのか。どちらでもいい、飛び上がろうとするその予想位置に向けて更に三発向ける。雁首を上げて飛び去ろうとするダーククロウ全てに命中する。


「お見事にございまする」

「お粗末様です」


 木の根元まで行ってまとめて範囲収納する。こいつのおかげで羽根を拾うのが一気に楽になった。保管庫の中のダーククロウの羽根は現状二千グラムほど。羽毛布団なら一枚分は余裕にあるか。


「前回はこれやった後にスキルオーブ拾ってたことに気づいたんだよな……」

「範囲収納だと入った後でリスト確認して、どれだけ入ったか見る感じですか」

「それに近い。おかげで実際今ので何をどれだけ拾ったかは覚えておかないといけなくなる」

「知らない内に知らない物が保管庫に……」

「怖いこと言うなよ」


 そんなものはないよな? と保管庫を確認する。ざっと目を通すが、そんなことはないみたいだ。確認して一本目の木へ歩き出す。


「今のところ大丈夫らしい。がそういう事にも気を配る必要は出てくるか」

「魔結晶と羽根! って考えながら収納するのは? 」

「オーブ出てたら収納してくれないだろ、その場合」


 それに、相手によって出てくるドロップ品が変わるし、何なら知らないレアドロップを拾う可能性だってある。その場合配慮してくれないと思うんだが。


「知らないうちに持ち帰れるものを拾ってる可能性があるってのも面白いかもよ?」

「実は固定オブジェクトじゃなかったものがあった、とか」

「そういうのは注意深く見ないと気づかないからな」


 人差し指、三、二。文月さん頷く。さっさと片付けてドロップを拾ってまっすぐ木に向かって歩く。


「謎の種とか謎の卵とか拾ってたらどうします」

「種だったら育ててみる。卵だったら……拾ったところにリリースかな」

「育てないんですか? 」

「モンスターの卵拾って帰ったんで温めたら孵りました。懐いてくれてます、とか? 」


 試しにジャイアントアントに親だと思われてる自分を想像する。食われる気しかしない。


「例えばゴブリンでも同じこと言えるか? 」

「ゴブリンって卵生なんですかね」

「胎生ってイメージしか湧かないが、どっちにしろあまりいい気分にはなれないな。親だと思われ纏わりついてきたら、はいはいママですよーと言いたいか? 」

「全力でお断りします」


 人差し指、五、三。文月さんが頷く。左右からバラバラに突進してきたワイルドボアを冷静に捌く。ドロップの肉がまた増える。これで何個目だ。


「お肉また増えましたね。次回キャンプ用に残しておきますか? 」

「一部はそうしようかな。キリのいい数字だけ査定にかけるか」

「ちなみに今何個あります? 」


 そういって文月さんも肉を出す。そっちもか。


「これで百六個になった。肉だけで十万か」


 肉だけで十万と聞くと暫く食事に困らないレベルだが、そんなに冷蔵庫にも入らないだろう。完全真空無菌パックだと解っていても、その辺にほったらかしにする気にはなれない。


「ギルドはこの肉どうやって保存してるんだろうな……」

「そりゃ……どうしてるんでしょうね」

「律義に冷蔵庫に入れてるのか、常温放置なのか」

「解ってても冷蔵庫に入れててほしいですね」


 そういう設備も含めてダンジョンギルドなのかもしれない、そりゃ赤字にもなるわな。これは気合いれて赤字解消に向けて頑張らせてもらわないといけないな。


 やがてたどり着いた一本目の木にはダーククロウが止まっていなかった。空を見てみるが、そちらにもいない。居ないのは珍しいな。まぁそのまま行ってしまおう。


 五層への階段は目の前だ。後ろのリポップを気にしつつタラタラと歩く。だるまさんがころんだ。あ、一匹めっけ。遠いからこっちには来ないだろう。


 五層への階段へ着くまでに、それ以上は何も来なかった。今日は空いてるのか、それとも先に誰かが居るのか、それとも誰かが七層に入った後なのか。いずれにせよいつもより少ない戦闘回数で六層を通過することになった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 開封しなければ腐らないって鮮度抜群な長期保存食では? 軍用や災害用や救援用にめちゃくちゃ需要あると思う。 国が一定量は買い上げて備蓄したりしてそう。 ポーションも公共交通機関、電車や飛行機…
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