159:一旦七層へ帰る
九層を巡り始めて三時間が経過した。順調に狩りは進んだ。順調すぎるぐらいなんだが、そろそろ保管庫から出した際の荷物の整理が両手では間に合わなくなっている気がする。
「荷物が重い」
「保管庫だから重さは無いのでは? 」
「今どれだけドロップ品拾ったと思う? 」
文月さんは自覚が無いようだ。まぁ、見てないからそうなんだろうけど。
「ジャイアントアントの魔結晶だけで二百近くある。さすがにこれ以上は取り出した時の重さが洒落にならないかな」
「じゃぁ今日はこのぐらいにしときます? ちょうど階段も近くですし」
「いったん戻って荷物整理をしよう。それから考えよう」
ちょっと荷物の大量さに自信がなくなってきた。帰り道には文月さんにも重さを体験してもらおう。
「じゃぁ、七層に戻りますよっと」
「そうしよう。それからちょっと仮眠取って、四層に戻るか再び九層に潜るか考えよう」
八層に戻ることにした。階段まで十分ほどでたどり着ける位置にあるので、道中狩りながら階段へ向かう。道中のモンスターはおまけだ。ここから多少増えた所で今更気にする量ではないだろう。
その十分間で二十匹ほど相手にすることになったが、それもドロップはきっちりと拾っていく。収入は何より大事だ。
八層の階段に上ったところで、一度見た光景を再び見る事になった。ダーククロウが階段に詰まっている。
「これは……清州でもあったな」
「どうなればこうなるんです? 」
「多分、八層から九層へダッシュで向かって道中のダーククロウを全部ひきつけながら九層へもぐりこんだ探索者が居るらしい」
「はた迷惑ですね、トレイン行為ですか」
「だが、俺にはこれが有る」
腰につけている万能熊手を誇らしげに掲げる。こいつは八層でも役に立つことは清州ダンジョンで証明済みだ。
「もしかして、階層の断絶を利用して全部潮干狩るつもりですか」
「そのつもりです。今回は前回ほど数は多くはなさそうだが、せっかくなのでドロップに変わってもらおう……あぁ、また荷物が増えるな」
「諦めてください。どうせこれを突破しないと帰れないですし」
早速ダーククロウに対して熊手を振り回し始める。耐久力皆無なダーククロウは一振りするだけで黒い粒子に次々に変わっていく。三十羽ぐらいいるだろうか。
三分ほどで潮干狩りは終わり、階段付近は綺麗に羽根に敷き詰められた。範囲収納でまとめて保管庫に放り込んでいく。
「相変わらずの速さと正確さですね」
「まぁ手慣れたもんよ、潮干狩りおじさんの面目躍如だな」
疲れはほとんどない。久しぶりに振るったことで俺のテンションも上がる。
「ここにこれだけ集まってるなら道中にはほとんど居ないはずだ。さっさと七層へ戻れるな」
「そうだといいですけど」
八層の階段を上がりきると確かにダーククロウは視界内に一羽も残っていなかった。これは楽に帰れるぞ。
「持ち場を離れたからと言って新たにリポップはしない、か」
「通常は階層ごとに上限があるって感じですかね」
「ワイルドボアも少ないしまっすぐ帰ろう」
道中ダーククロウが襲ってくることもなく、ワイルドボアを三、四匹退治するだけで七層に着いた。とても楽な行き来だった。毎回こうだとらくちんで良いんだが。
シェルターに戻ると布団が無い。どうやら誰かが早速使っているらしいな。また後日来た時、文月さんが洗濯を始めるんだろう。
自分のテントに戻ると、早速保管庫の中のドロップ品を整理し始める。まず魔結晶の類をどさー。その後肉と革をどさー。ポーション類をちょろっ、羽根は……羽根はいいや。
「これがざっと三時間の収穫なわけだが」
「ずいぶん頑張りましたね」
「さすがに一人では運びきれんだろ? この量は」
エコバッグに詰め分けたとしても四つ分ぐらいある。途中でバッグが破れないことを祈る他ないな。
「頑張りすぎても問題発生ですか。この際肉は中華屋さんに全部卸してそれ以外を持ち運ぶというのはどうでしょう」
「さすがに量が多すぎて爺さんも困ると思うぞ。それに爺さんへの卸しはほどほどにしておかないとな。向こうも在庫が増えて営業に支障が出るかもしれない気がする」
気がする、というより確実にそうなると思う。証拠を胃袋に隠したので脱税にあたるかどうかは検察も見つけようがないだろうけどな。
「確かに領収書も請求書も無いですし、あくまで渡して飯作ってもらう範疇ってならお目こぼしもされるでしょうけど……ちなみに何パックありましたか」
「百四パック。一パック百グラムだとしてもほぼ十一キロ」
「アウトでしょうね」
俺もアウトだと思う。
「それに革が二十四枚ある。これは目立つ分保管庫に入れて持ち歩けるものじゃないからな」
「狩りは三時間が限界ですか」
「今のところそんな感じかもしれん。他に卸さない予定のウルフ肉とダーククロウの羽根がおよそ一キログラム分ある」
二人して考え込む。まさか狩りすぎて持ち運びに問題が出てくるという状況になるとは思っていなかった。う~ん、このペースで狩れていれば十分と言えば十分なんだが、何かこうブレイクスルーが欲しい。
スキルのおかげでこれだけの狩りが出来ているが、今度はスキルのおかげでどうやって取り出すかに悩むことになるとは。
「とりあえずこの件は置いといて、ちょっと休んでもう一回九層へ行くか、それとも四層で狩りをするか、それとも素直に帰るか? 」
「そのうちどれかだな。午前一時半……後八時間あるからどのようにでもできるぞ」
「仮眠して帰ったらちょうどいい感じですかね」
「そうだな、そうするか」
さっそくバーナーで湯を沸かし始める。コーヒーの在庫はまだあるからもう一杯入れよう。その間にテントに入って服を脱ぐ。体をくまなく拭くとツナギを着直して身繕い完了。湯が沸くまでの間に体のストレッチでもしておくか。
グググッ……と背筋を伸ばし、手首と指の関節をぽきぽきと鳴らす。肩をグリグリと回す。うん、まだ四十肩にはなってないな。よしよし。
手を後ろに回して左手を下から、右手を上から回して握手。左右逆にしてもう一度握手。柔らかさに問題なし、と。膝を伸ばして地面に手を着ける。よし、柔軟運動終わり。
最後に首を左右にコキッと鳴らして終了。そろそろ沸いたかな。火からマグカップを下すとインスタントコーヒーを入れて飲む。
「仮眠前に良くコーヒー飲めますね」
「コーヒー飲んだすぐ後は眠気が来るから寝やすいらしいぞ」
「ほんとですか? 私は眼が冴えちゃうんですが」
「じゃぁこっちだな」
コーラを渡す。素直に受け取るとゴキュゴキュのみ始める。いい飲みっぷりだ。ぷっはぁと言わんばかりに全て飲み干すとゴミだけこっちによこす。
「あ~美味し」
「炭酸飲料よく一気に飲めるな」
「のど渇いてげふっ……渇いてたから」
「炭酸水は体の疲労を取るらしいけどゲップをして炭酸を逃すと効果が薄れるそうだ」
「もったいない事をしましたね」
コーヒーを飲み切ると細かい品々ゴミをすべて保管庫にしまい込む。文月さんもテントをポン投げして立てて、エアマット敷いて枕置いて仮眠の準備を終わらせる。
「さて、四時間ぐらい仮眠して帰る感じで良いだろうか」
「時間余ったら四層で狩りで。それじゃお休み~」
さぁ俺も寝るか。起きたら片づけして帰り支度だ。アラームをセットして目を閉じる。
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