156:度胸試し
ツイッターにも上げましたが無事一千万PVを超えることが出来ました、ありがとうございます。
八層に降り立つと、一本の木が見える。どれどれ……視界を凝らすと、あまり数は居ないみたいだ。ワイルドボアは相変わらず走り回っているが、数は少ない。これは短時間で通り抜けられそうだ。
もしかして、直前に誰か通り抜けたか? と思わなくもない少なさだ。まぁ、八層では長居する予定はないので好都合だな。
「じゃぁ、百メートルぐらいまで近づいてからダーククロウを狙撃してみようか。それが当たって倒せるかどうか見極めてみよう」
「よーし、まずはそこまでの掃除しましょう! 掃除! 」
ノリノリな文月さんに合わせて、ワイルドボアの掃除から始める。掃除と言ってもバードショット一発ぶつけてこっちにターゲットが向くように仕向けるだけだ。
大体こっちにリンクする範囲のワイルドボアはこっちを向き、バラバラと向かってくる。バラバラとした動きのおかげでこっちは順番に処理していくだけである。ささっと帰り道分の肉を一個だけ落としてワイルドボアは去っていった。せめて二個くれ。
「さぁ下処理は終わりましたからダーククロウへ向かってGOGO」
テンションが高い文月さんだ。大人しく後ろを静々とついていく。道中点在しているワイルドボアに一方的に喧嘩を売りながら、やがて木の足元までたどり着いた。
「このぐらいの距離ならいけるかも……いやもうちょい近いほうがいいかな」
急に落ち着いてきた。スキル使用に集中するらしい。とりあえず失敗した時のことを考えてカバーリングできるようにバードショット弾をいつでも放てるように待機。初撃は任せよう。
一つ深呼吸をすると、木に止まっているダーククロウに向かって横薙ぎの一撃を放つ。横に長く、薄く一筋の水刃が打ち放たれる。止まっている五羽を一撃で全部仕留める算段だったらしい。
探知範囲外からの攻撃に対応できず、ダーククロウはその場で真っ二つになる。五羽中四羽は攻撃範囲に入っていたようで、そのまま羽根をはらはらと散らせながら消え去っていく。
残り一匹は空中に飛び立つが、そこは俺の射程圏内だ。バードショット弾を発射するとみごとに命中し、こちらも羽根を飛び散らせながら消滅する。
「八十点かなぁ」
「五分の四だからですか」
「そんな感じ。初手としては上々じゃないかな」
ドロップを回収しに走る。うかうかしてると何処かからスライムが湧き出してきてドロップ品を溶かすかもしれない。そうなれば丸損だ。
「さ、階段へ急ごう。メインディッシュの九層はもう目の前だ」
「今日も頑張って稼ぎますよ。なんたって自分のできる仕事が増えましたから」
「後ろから打たないでね」
「それはもう気を付けますよ。遠間の敵だけ狙います」
間もなく階段へ着き、九層へ降り立った。九層はいつも通り威圧感のある森と、後ろにある断崖絶壁が俺たちを迎え入れてくれる。
降り立ったその場にモンスターは居ない。音を観察してみると、どうやら先客がいるらしい。
「先客がいるらしいな。逆側に向かおう」
「反対側で出会いそうですね」
「その時はその時で」
九層を南側、つまり森を左手に見て歩き始める。数分もしない間にジャイアントアント三匹の御登場だ。
「一匹牽制します。その間に一匹宜しく」
「了解。狙うなら奥ね」
「了解。そりゃ」
ウォーターカッターを最後衛に位置するジャイアントアントに向けて打つ。どうやらダメージは認められない。さすがにこいつは硬過ぎたか。
「効いてませんね」
「でも足は鈍った。牽制としては十分」
安心して一対一でジャイアントアントと向き合える。ステータスブーストを使って難なくジャイアントアントの首を落としにかかる。難なく対応できるようになったあたり、俺も成長もしているようだ。
文月さんも槍を思い切り叩き込み、ジャイアントアントの行動を鈍らせてから首を落とす。やっぱり首を落とすのが確実で、そのために横に立ち回れるだけの速力も十分だ。これは楽勝だな。
二匹処理したところで最初に牽制した一匹が遅れてやってくる。文月さんは今度は至近距離でウォーターカッターを打ち込んでみている。頭に亀裂が入る程度にはダメージを与えている。思ったよりも威力があるな。
「近づいてくれればダメージになりますが、それだと槍で戦うのとあまり変わりないですね」
「アリの頭それなりに硬いからな。それでも亀裂を入れるだけのパワーはあるって事で納得しておこう」
「そうですね、……よっと」
作ったジャイアントアントの頭の切れ目にそのまま槍を突き刺し、三匹目のジャイアントアントも無事に倒すことが出来た。ドロップは魔結晶二個。幸先は良いな。
「さぁじゃんじゃん狩っていくぞ。もうちょいペース上げても大丈夫そうだな」
「えぇ、どんどん行きましょう」
テンションが上がりっぱなしだ。多分アドレナリンが出まくっているんだろう。これは俺も楽できそうだな。
「電池切れだけは気を付けてね」
「まだまだ余裕ありそうだから大丈夫ですよ」
九層を周回する。横からは絶え間なく、とは言えないが、ちょくちょくモンスターが顔を見せに来てくれる。有り難い事だ、遠慮なく刀の錆にしてくれる。何も残らないけど。
トコトコとワイルドボアが目の前に現れる。九層では出会い頭に食肉をぶら下げたワイルドボアとぶつかりそうになるのはよくある事だ。そうなった場合、こっちから率先して攻撃を仕掛けることで何の苦労も無くワイルドボアを殲滅することが出来る。
ドロップも他の層と変わらない感じの割合の為、九層で肉集めというのも悪くない収穫になっている。その間革が出なければ、よりうれしい。あれはダーククロウの羽根の次に嵩張る。
一回潜ると十枚ぐらいでてくるからな。帰りに荷物整理するのが大変だ。その点で言えばジャイアントアントから出るキュアポーションは単価も高いし嵩張らないし、優秀である。
ドロップ率は大体革が十パーセントでキュアポーションが六パーセントぐらい。なので革のほうが多く出やすい。ジャイアントアントのほうが出会う回数は多い傾向があるので、数としては同じぐらい出る事になる。
「考え事をしてるって事はお金の計算ですか」
ジャイアントアントを軽く往なしながら文月さんが質問をしてくる。こっちの顔色を見つつ戦えるぐらいにはなれた、という事だろう。
「革を出来るだけ拾いたくないなぁと」
「正直邪魔ですからね。肉はいくらあっても困りませんが革は……革ってちゃんと世間で消費されてるんでしょうか」
「どうだろう。肉は間違いなく消費されてるし自分でも消費してるが、革がどのくらい産出されるか……あぁ、なんか新卒の入社試験に出てきそうな問題だな」
全国のマンホールの数を数えよ、みたいな。フェルミ推定だっけ?
「財布・バッグ・ジャケット・靴・ソファー……使おうと思えばいくらでも使用先は思い付きますね」
「余ってきたら買い取りが下がるなりするだろうから、現状需要はそこそこあるって事で良いのか」
「そう考えていいと思います。っと、キュアポーション出ましたよ」
早速回収する。この手に収まる小瓶一本で二万円だ。なんという密度。なんという手軽さ。これをあと千五百本集めれば文月さんの借金が返しきれる。
「よし、あと一万八千匹頑張っていこうか」
「なんです、その数字」
「文月さんの借金を返し終わるまでのジャイアントアント単体での数字」
「一m……毎分一匹狩っても三百時間。一日三時間狩って百日ですか。意外と早いですね」
「それにワイルドボアが加わればもうちょっと早いな」
再計算をしてみる。毎分一匹ずつを狩ったとして……
「毎分一匹ずつワイルドボアとジャイアントアントを狩ったとして、九千三百四十五分、百六十七時間。延べ五十五日あれば終わるな。週一で潜っても一年で返し終わるぞ」
「よし、目標が近づいた! 」
「ただ、全額俺に返す計算になるので、当然その日の分の稼ぎにはダンジョン税とその他もろもろの税金がかかる。実際には卒業までぐらいのスパンで見たほうが良さそうだな」
「それでも十分ですよ。卒業してから借金漬けでの新卒スタートだった予定に比べれば無担保無金利無期限でお金を借りる宛てが出来たほうが大きいんです」
「そういう考え方もありかぁ」
前向きだな。前向きなのはいい事だ。ただ、この階層では前より横を向いててほしいが。草陰からこそっと近寄ってきていたワイルドボアにパチンコ玉をぶつけてブヒッと泣かせる。
「前向きな考え中悪いが、横がお留守ですわよ」
「*おおっと*」
いそいで止めを刺す文月さん。そこで不必要に慌てないあたり落ち着いている。
「じゃぁ、何時ものタイムアタックやるか」
「やりますか。一時間で何匹狩れるか」
「今のドロップをメモっておいて……」
保管庫の中身を確認して、ドロップを書いておく。後で見合わせてドロップ率から倒した数をおおよそ算出するのだ。ジャイアントアントの魔結晶とワイルドボアの肉が主な見どころ。それぞれ五十パーセントと三十パーセントなのでこの二つの在庫量からかなり近い値を出せる。
タイムアタックをやっている間は完全に狩りに集中するので会話も減る。だが体を動かせば動かすだけ時間は経過していくので便利だ。いわゆるゾーンって奴だな。
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