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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第三章:日進月歩

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154/1225

154:ご休憩(五時間)

ふぁっきんこーるど



 七層へやってきた。相変わらず殺風景な場所だが、ちゃんとポールは残っている。いたずらはされてないようだ。ん? いたずらをしたのは俺だからいたずらにいたずらを重ねられたりはしないようだ、が正しいな。


 階段の脇を見て、この辺に自転車停める奴があればいいなぁとか考え始める。それが六層側八層側両方にあれば、ここを行き来する間は自転車を使っても良いんだな、という目算が立てやすいだろう。あとはシェルター脇か。三台分あればいいかな。つまり自転車も三台。自転車台が九台分。八万円も有れば足りるかな。


「また変なことしようと企んでますね」


 文月さんに見抜かれる。オヌシ、どこからそう悟ったか。


「どの辺に自転車設置すれば便利になるかなって。とりあえずシェルターの所と階段の横で良いかなと」

「スライムに食われる心配も無いですし、移動手段としてはありでしょうね。歩くよりは楽ですし」

「なら自転車置き場を作らないとな。几帳面な人なら自転車置き場を置いておけばそこに停めるようにしてくれるはず」

「みんながみんなそうだといいんですが」


 きっとそう。俺もそう。だからみんなそう。大事に使おう七層の輪。


「さぁ、インスタントシェルターに向かって歩こう。それとも自転車で先に行く? 」

「一台しかないので歩きます。それに、誰かに見られると危ないのでは? 」

「そういえば誰かいるか確認してないな。その後にするか」


 いたずらで大事なことは、誰がやったかを悟らせない事だ。シェルターの件は自分からばらしたけど。そのいたずらの一環として立てたポールを目印にまず歩き、ポールに着いたら大き目のシェルターが見えるので今度はそっちへ歩く。


 そうして到着したシェルターが六層行きの階段と八層行きの階段のちょうど中間、いわゆる七層の中心部にあたる。中心の目印なだけであって本当に中心と言えるかどうかは定かではないが、導線を意識するとここが中心となるはずだ。


 以前とテントの数は変わらないが、やはりちょっとずつ中心側へずれてきている。何か目星のつくものがあるほうが人間は安心するのだろうか。


「なんかにじり寄ってきてますね、テント」

「気づいた? やっぱり存在するだけの効果はあるって事だな」

「ところでなんです? この布団。これも安村さんの仕掛けですか」


 文月さんが足元に綺麗に折りたたまれている布団を指さし言う。


「中身はダーククロウの羽根で埋めてあるからきっと快眠できるぞ」

「でも、誰が使ったか解らないやつですよね」

「そこでほら、【水魔法】が生きてくるわけだ。これを水で濡らして洗って乾燥させれば」

「なるほど、綺麗になります。練習がてら挑戦してみます」

「ごゆっくり。俺はテントのところで飯の支度してるから」


 文月さんが布団をもってシェルターから離れたところで【水魔法】の特訓がてら、洗濯をしようと試みている。とりあえず盛大に水を出すことは出来たようなので、そのまま様子を見つつこっちは肉肉野菜炒めの準備をしよう。


 周りの気配を見つつ、テントの周りにバーナーとスキレットと椅子を設置、椅子に座って素早くまな板をとりだす。


 ボア肉のパックを開けるとササっとまな板で細切れにし、スキレットで軽く焼いて脂を出させる。紙皿にラップを敷いて軽く焼いた肉を取り除けると、保管庫から野菜を取り出す。


 野菜はもう切ってあるので焼くだけだ。肉の脂と野菜を混ぜ合わせながら少量の醤油・酒で味付けし、塩を足す。適当にしんなりしたところでカレー粉をまぶしてもう一焼き。野菜炒めの完成だ。残った水分と脂でボア肉のパックをさらに二つほど開ける。


 ボア肉を細切れにするとスキレットに追加していく。焼き色がしっかりついたところで紙皿に盛っていく。これで今日の一品は出来上がりだ。


 後はパックライスを温めるために一旦スキレットで軽く焼く。まだ肉の脂と調味料が残っているので下味はそれでOKだ。これで飯の準備は出来た、と。いつも同じメニューで済まないね。


 文月さんの様子を見に行くと、乾燥の途中らしい。地面に濡れた後が残り、そこから少し移動した位置で文月さんが何かと格闘している。おそらくイメージを布団全体に通しているんだろう。一回中身出してからやれば早いのに。


「ご飯できたわよー」

「お母さんちょっとまってーもう少しだからー」

「早く来ないと冷めちゃうわよー」


 寸劇する程度には余裕はあるらしい。その間に冷えたコーラと割り箸の準備をしておく。あれだな、ちゃんとしたテーブルが欲しい。今度持ってこよう。二人分ぐらいのちゃんとした奴を。


 文月さんはたしかに数分後ちゃんと来た。若干袖口が濡れているが、たっぷり水を出し過ぎたんだろうとは思う。袖口が濡れていることに気づくと、自前で乾燥を始めた。便利そうで良いなぁ。


「ふーお待たせー。ちょっと手間取っちゃって」

「一回中身出してから少しずつ乾燥させても良かったんでは? 」

「その手があったかー。全体にどう意識を巡らせるかなかなか難しかった」

「次に活かそう。ではいただきます」

「いただきまーす」


 二人して早速肉肉野菜炒めにかぶりつく。カレー粉を少なめに振ったのが良い感じに味のバリエーションを増やしてくれているようだ。これは今日はいい具合に決まったな。


 無言でひたすら食べ続ける。文月さんも無言。俺も無言。ただひたすらに飯を掻き込む音、肉を咀嚼する音、野菜を食む音、途中で喉がつかえそうになって水分を取る音でその場が埋め尽くされる。


 数分して二人同時に食べ終わり、ふぅ……と同時に呼吸が漏れる。そして文月さんが唐突に聞く。


「本日のご飯……自己採点は? 」

「うーん、八十七点! 」


 不可なく、だが良とも言えない自己採点だ。


「具体的には」

「ボア肉はやっぱり美味しい。野菜も脂をきちんと吸わせて味付けがちょうどいい感じになっていた。カレー粉の分量が多すぎず少なすぎず俺にとっては程よい感じであった」

「不満点は? 」

「さすがに野菜炒めに飽きてきた。何かレパートリーを増やしたい。後はパックライスの付け合わせも欲しくなってきた」

「自分で作ったキャンプ飯の癖に贅沢言いますねぇ」


 文月さんはそれなりに気に入っていたようだ。


「そちらの採点は? 」

「え、百点だけど」

「何点満点で? 」

「百点。だって私何も手伝ってないし、作ってもらったご飯に文句付ける筋合いないじゃん。美味しかったし、だから百点」

「ええ娘や……おじさんちょっと感動しちゃったよ」


 ただ、俺は好みの味付けを聞いておきたいだけだったんだが……まぁいいや。これはこれで素直に受け取っておこう。次回は生姜焼きにチャレンジすることでレシピを色々調べておこう。コッペパンにはさんでもいい。


「それではごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした」


 ラップを取り丸めてペーパーで包んでゴミ袋へ小さくまとめると食事は終了だ。割りばしも横に割って小さくしてしまう。ゴミの片づけは以上である。


 スキレットを洗浄するために軽く火であぶってから水で濡らし、キッチンペーパーでふき取る。これで油汚れも多少マシになっただろう。


 食事と片づけを終えると、ふかふかになった敷布団を文月さんが持ってきた。


「これ使っていいの? 」

「誰が使ってもいいようにここに置いたから、汚れが気にならないぐらいになったなら使って感想をきかせて」

「これ手作りよね? 」

「そう、だから中身が結構偏るし、敷き布団だけで寝ると多分背中がムズムズすると思う。エアマットの上に敷いたり工夫してみて」


 やはり本格的に作るならプロに任せたい。これはダンジョン素材のプロモーション活動の一環だ。無償だが、快適に眠れるならそのほうが良いし、自分達だけそんな快適な時間を過ごすのはなんとなく悪い気がする。


 オーダーメイドで作れる布団が無いか今度調べて、問い合わせてみるか。素材はこちらで持っていきますので、という感じで。話によっては聞いてくれるかもしれない。


 テントの中で文月さんがごそごそし始めた。早速寝る準備をするようだ。


「今から仮眠で良いの? 今えっと……午後四時か。五時間ぐらい取ったほうが良さそうだから午後九時ぐらいに起きて準備するって事で」

「じゃぁそれぐらいで。熟睡してたらテント無理やり揺すってでも起こして」

「そうする」


 さて、俺も仮眠中の札を表に出して横になるか。


「あ、枕」


 そういえば枕あるんだった。せっかくだしセットで使ってもらうか。


「文月さんや。効果保証済みの枕もあるんだが」

「安村さんの分はいいの? 」

「予備を持ってきた」

「つまり、使わせるように持ってきてくれてたのね。有り難く使わせてもらいます」


 素直に受け取り、テントに引っ込む。引っ込んだテントに「仮眠中 安村」のいつもの紙皿をぺたりと貼っておく。さて、今度こそ横になるか……



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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
いつも思うのですが、食事に飲み物はコーラなんですね。 食事にはお茶類しか飲まない人間から言ったら異次元。 あうのかな?
[一言] あれだけ快眠満喫してて何故おじさんは今まで文月さんに枕を作らなかったのか…
[一言] 安村さんは尽くし体質なのね、一緒にいる人に居心地よくいてほしい。みたいな。 一緒にいやすい文月さんと、長くおつきあいできますように。 年の差あるから適度に距離感作れる別居婚とか良さそう。
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