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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第三章:日進月歩

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153/1249

153:層を駆け抜けて

 

 休憩を終え、五層に降りた。相変わらず明るい。そして割と近くにワイルドボアが居る事に気づいた。


「あれ、狙えるかな? 」

「距離があるから威力が減衰すると思うよ」

「やるだけやってみる。出来るだけ速度を上げてみれば届くかも」

「まぁ物は試しじゃないかな」


 結局五層でも【水魔法】が通用するか試してみたいらしい。ここでうまく通用するなら威力をあげて九層十層でもうまく扱えるようになるかもしれないからな。試せるときに試しておかないと。


 文月さんはイメージングをするといつもより高速にウォーターカッターを射出する。が、さすがに距離がありすぎたのか、軽く傷をつけただけで致命傷にまで達することは出来なかった。


「ありゃ、期待ほどダメージは出ないですね」

「まぁ、五十メートルぐらいあるからなぁ。やるだけやってみたけど効果はまだ薄い、と」

「ぐぬぬ……いつか一発で倒せるようにしてみせます」


 攻撃されたワイルドボアはこっちに気づき、突進を仕掛けてくる。文月さんは二枚目のウォーターカッターを射出すると、今度はそこそこ大きい傷を与えることが出来た。とどめは俺が刺した。


「まぁ初日でここまで使い物になれば十分でしょ。戦闘と一緒であとは感覚と慣れじゃないかな」

「楽しみは後日にとっておけ、ですか、なるほど」

「とりあえず五、六層はササっと抜けてしまおう。ここで時間をあんまり使うのももったいない」

「そうですね、ここまでゆっくり来たのもありますしいつもより急ぎ足で行きましょう」


 ワイルドボアは視界内に居るだけで七匹。とりあえず食事用の肉も兼ねてこいつらは相手にしよう。お肉が有ると無いとでは満足度に差が出るからな。


 順番にこちらへ向かってくる食材を強制徴発し、調理前の食材と魔結晶をいくらか得た。もうちょっと食べたいな。六層に期待するか。


 ダーククロウは今日は五層も六層も出来るだけ無視だ。でも【水魔法】の練習台としては優秀かもしれないな。止まってるダーククロウをどれだけまとめて攻撃できるかのテストをするのには、適度に木に止まっていてくれたほうが良い。もちろん数は最初は少なめで。


 だが、そんな難しい注文をダンジョンにして果たしてオーダーが通るかと言えば答えはNOだと思うので、今のところは我慢である。


 真っ直ぐ抜けると決めてそのまま進むと、五層でも三十分ほどで通過できるようだ。何事も無く六層側の階段へたどり着く。


「意外と早く辿り着けましたね」

「若干急いでたからかな。それに本番はこっからだし」

「六層の二番目の木、練習台にします?」


 文月さんも同じことを考えてたようだ。俺がいつもバードショット弾を使って片っ端から撃ち落とす奴をやってみたいらしい。確かにあれは全部決まれば気持ちいいからな、よく解る。


「外した時大騒ぎになりそうだから今日のところはやめておこう」

「それもそうですね。まだまだ未熟者ですか私は」

「少なくともスキルに於いては俺に一日の長がある」


 外した後一斉に飛び立たれたら、数十羽に囲まれての大騒ぎだ。フンもくちばしも一斉に来るだろう。一対多の練習には良いかもしれないが。


「そうだなぁ。打ち漏らした後でフン濡れになって七層へたどり着いて、テントの中で水を出しながら汚れを落とす覚悟があるならいいかもなぁ」

「やめましょう、さぁさっさと行きますよ」


 フン濡れは御免被りたいらしい。俺も同じ気持ちだ。気持ちが一つになったところで六層への階段を降りる。


 六層はいつも通り、暴走族集団「倭威瑠怒暴亞」が感謝して進む荒れたオフロードだった。


「毎回このエリアに来ると思うんだが、こう広いと車で一緒に走りたい気分になる」

「やろうと思えばやれるのでは? 」

「うーん……ナンバー隠して車体ナンバー消して……あぁでもそうすると給油のために現実で走り回るときに問題になるか」

「見られる事前提なんですね」

「誰も見てない事が確定できるような状況ならまだしも、そういう状況とも言えなくなってきてるからなぁ小西ダンジョンも」


 もっと七層に行くような人が少なければそれも有りだったんだが……やはり自動車ぐらいのサイズになると誤魔化しがきかないな。


「あれだな、自転車ぐらいなら持ち込んでもまぁ不思議がられないかもな」

「じゃぁ今度自転車持ってきます? 」

「さて、ではここで文月さんに曲芸を見せて頂きましょう」


 俺はためらうこともなく自分の自転車を保管庫から出す。


「乗ったまま、あの集団へ、GO」

「GOじゃないですさすがに無理です」

「まぁ、そうなるよね」


 解ってた。予想はついていた。でも行かなくちゃいけない、行く先は七層だ。


「というわけで自転車でキコキコ行くことはなしという事で」

「安村さんならいけるんじゃ?」

「確かに。今度やってみるか」


 一人の時に六層と五層を移動する時にやってみるか……またやってみることリストが増えたな。


「そういえば文月さん用の自転車用意しておくのすっかり忘れてたな。七層に放置自転車代わりに置いといくことでチャラになる?」

「それこそ、その辺の駅に放置されてる奴で良くありません? 」

「うっかり通報されたらその時が問題なので。それなら自転車頑張って持ち込みました! みんな使ってどうぞ! ってこっそり提供したほうが怪しさは薄くなる」


 七層だったら駐輪場はどっちかの階段かシェルターの三か所に絞られるからな。把握もしやすい。三台ぐらい中古を買えば安く済むだろう。七層に置いとくか。スタンドもそれぞれの場所に台数分ぐらい用意して。


 やることリストにメモっておく。ママチャリより車輪の小さい折りたたみ式の自転車ならバッグに忍ばせておいてコッソリ持ってきました。も通用するかもしれない。


「何メモってるんです? 」

「やりたいいたずらリストに、七層に自転車を置いておくという項目を追加している最中」

「暴走族がこっちに来てますよ」

「おっと、忘れるところだった」


 そういえばここは名古屋周辺と変わらない危険運転地帯だった。暴走イノシシが突撃してくる。しっかりとグラディウスで受け止め、黒い粒子に還していく。毎回コレだな、楽だからいいけど。


「ワイルドボアはジャンプしてこないから楽でいいな」

「これでジャンプしてきたら……真正面から張り倒すだけなのであまり変わらないのでは? 」

「それもそうだな。でも腰にかかる負担はそのほうが小さそう」

「気にしますね、腰」


 この歳になればわかるよ、腰の大切さが。いや本当に。


 視界内の暴走族を一蹴したところで、今からの食事分の肉は十二分に確保できた。これで今夜は腹ペコじゃなくても済むな。でも七層では肉より野菜のほうが価値が高い気がする。新鮮なフルーツなんかもそうだろう。


 嵩張るけど必要な栄養素だし、まさか一日二日で壊血病にかかるようなギリギリ生活してるような人がダンジョンに潜ったりはしないだろうが。


 目的は達した。後は七層で食事兼仮眠を取ったら九層へ向かう予定だ。今日はどのくらい稼げるかな? 期待に胸が膨らむ。毎回のざっくりとした収入は二人で四十万ほどになる。


 三時間から四時間みっちり狩りをすることで九層までの移動時間分のロスを一気に追い上げるって寸法だ。


 六層を速足で駆け抜けていく。途中の木のダーククロウは無視だ。バードショット弾の在庫が無い訳ではないが、今はそれより飯が食いたいという気分のほうが大きい。


 移動中に襲い来る暴走族を狩り、更に肉と魔結晶を補充していく。肉はいくら多くても困らないからな。年は取ったが俺の胃袋はまだまだ現役だ。


 高い肉を少量食う事も、安い肉を大量に食う事も出来る。最もボア肉はどちらかというと高級肉に位置する食べ物なので、俺の胃袋にはなかなかマッチする。また肉肉野菜炒めを作るのだ。


 毎回コレなのでそろそろ飽きが来るかもしれない。何かレパートリーを増やすか。生姜焼きでも作ろうかとも思うが、細々とした調味料を今日は持ってきていない。生姜は刻んで保管庫に放り込んでおくことも考えておこう。


「ワイルドボアばかり相手にしてると食料がどんどん増えていきますね」

「食う分に困らない量があればいいが、これはこれで金になるからなぁ。あるに越したことはない。単価が高いし」

「その分査定にも負荷がかからないと? 」


 そうだな、ギルドの負担を減らすためでもあるな。


「それに、下層の素材を査定にかけるほうがCランクに近づくらしいからな。助言に信憑性はないが信じてみる価値はあると思う」

「問題は十層を突破できるかですね」

「まだ早いかな。ワイルドボアを一発で仕留められるようになったらまた違う景色が見えるかもしれない」


 一匹相手にするのと多数相手にするのじゃ頭の使い方が変わってくるからな。どういうイメージで【水魔法】を扱うようになるのか楽しみではある。


「ワイルドボアが問題なく殲滅できるようになったらいよいよダーククロウですか」

「気持ちいいぞー。一斉にバタバタ倒れていくのを観察するのは」

「でもドロップアイテム拾うの面倒くさくありません? 」

「そこは範囲指定して拾えるもの全部収納ってコマンドが使えるようになったので、割と使い勝手が良くなった」


 実際、一枚一枚羽根を拾うのは面倒くさかったので、これは良いスキル変化だと思う。


「じゃぁ、オーブも保管庫リスト見て気づいたら拾ってたと」

「そういう事だったんだな。ついでに一晩開けて朝取り出して確認して、スキルオーブの残り時間も保管庫の時間百分の一に対応してくれることが分かったぞ」

「それは便利になりましたね。スキル拾って保管し放題じゃないですか」

「それだけで莫大な利益が出ることになるな。それだけ一杯スキルが取れるなら」


 実質一か月近く潜ってスキルが三個。これが早いペースなのか遅いペースなのか解らないが、四十八時間しか持たないはずのスキルが適度なタイミングで提供・売却・使用できるようになったのはでかい。


 四十八時間しか持たない鮮度だからこその価値、というものもあるはずだ。


 こちらはいつでも新鮮なスキルオーブをご提供できますよ、という商売はなにやらスキルに胡坐をかいているような感じでなんともくすぐったいが、利用できる機会があれば利用しよう。そんなにスキル、でないだろうけどね。そもそもバレるからだめか。


 雑談しつつも六層を真っ直ぐ抜けていく。道中の暴走族はお肉と魔結晶にどんどん変わっていく。今日はドロップが多めだな? 運がいい。


 ダーククロウの止まっている木を避けながら暴走族を処理していく。二人ともスキル持ちで片方は攻撃も防御も出来る。優秀なスキルを拾わせてもらったもんだなぁ。もしかしたら保管庫に放り込んである大量の水分も必要なくなってしまうかもしれない。いや、ソロの時使うか。


 木の間を抜けていく間にも暴走族は襲い来る。正面から立ち向かい、たまには躱し、そして黒い粒子へ還していく。食い物と魔結晶が溜まっていく。


「ダーククロウを相手にしないとなると荷物が軽いな」

「羽根は結構な嵩ですからね」

「魔結晶はもう少し多めに出てくれてもいいかな。お肉は食べちゃうし」

「そういえば今日のご飯は何ですか」

「いつもの肉肉野菜炒め野菜心持ち多め」

「わーい」


 肉は十分足りるはずだ。野菜は前より持ってきた。二人で食べるにはちょっと多い量かもしれないが、その後よく運動するし仮眠もとるし、問題は無いだろう。


 後ろをみて、撒いたことを確認する。後は階段に直行すればお楽しみのキャンピングタイムだ。それまであと数百メートル。階段はもう目の前だ。


「これで一安心かな。さすがに腹減ったな」

「なんか今になって疲れてきたような気がします」

「スキル使ってきたからじゃないか? ちゃんと食ってゆっくり仮眠するといい」


 結構酷使してきたからな。本人の気づかないところで疲れが蓄積していたのが出たのかもしれんな。


「とっておきの安眠グッズがあるから今日はそれを貸そう」

「なんだろう? ダーククロウの羽根の枕とか? 」

「運が良ければ枕どころか敷き布団があるはず」


 残ってるといいな。まさかわざわざ上まで運んでうっぱらう奴は小西ダンジョンには居ないと思うが。



作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
風呂入ってない汗まみれの探索者が共用してる布団とか嫌すぎる
[一言] >こちらはいつでも新鮮なスキルオーブをご提供できますよ、という商売はなにやらスキルに胡坐をかいているような感じでなんともくすぐったいが、利用できる機会があれば利用しよう。そんなにスキル、でな…
[一言] もしかして水だけでなく、お湯もでるのでしょうか? だとしたら、便利すぎる…
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