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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第三章:日進月歩

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151:【水魔法】を使ってみる 練習編2

 


 十分に頭の疲れを取った。頭の上に冷水で濡らしたタオルを載せてしばらくすると文月さんの脳は再起動を始め、何時もの調子に戻った。


「もう大丈夫。さぁ二層行きますか」

「さて、グレイウルフ相手にどんな立ち回りを見せてくれるのでしょうか」

「一対一でお願いします。最初なんで」

「もちろん、露払いは任せとけ」


 二層を巡るとすぐさまグレイウルフが一体現れた。ちょうどいいな。


「じゃ、早速実践してみようか」

「なんか、私より楽しそうですね」

「そんな事はあるかもしれない」


 落ち着いて文月さんは頭にイメージを浮かべると、二秒ほどでさっきのウォーターカッターを作り出した。イメージトレーニングは上手くいっているようだ。


 グレイウルフへ真っ直ぐ飛んで行ったウォーターカッターはグレイウルフを真っ二つにはしないものの、かなり大きめの傷を負わせる。


「思ったより傷が浅かった! 」

「イメージは作れてる。後は速度と密度かな」


 すぐカバーできる位置にあらかじめついていた俺はグレイウルフの首を刎ね飛ばす。グレイウルフは黒い粒子に還った。


「速度と密度かぁ。密度はもっと大きい水を小さくするイメージであってるだろうから……」

「速度はあれよ。あそこまで一秒で届け! みたいな感じで多分うまくいく。相手の奥を狙う感じで」

「なるほど、そういう感じですか」

「そういう感じ」


 イメージの問題なのでふわっとした会話しかしてないが、それで伝わったらしい。


「次は上手くやります。さぁ次行ってみましょう」

「ノリノリじゃん」

「なんか段々楽しくなってきました」

「無理はしないでね」

「無理しないよう見ててね」


 次の標的を探しに三層へ向かって歩いていく。グレイウルフの二匹、三匹連れを確認すると俺が率先して残り一匹にし、最後の一匹が文月さんに向かうようにうまく立ち位置を調整する。


 その度に文月さんはウォーターカッターをグレイウルフに使い、手傷を負わせていく。最初は三発かかったり、俺が最終的解決を図ったりもした。


 段々とイメージと発動のタイミングが合うようになってきたのか、三発かかっていたのが二発に、二秒かかっていたのが一.五秒に、と処理の高速化が出来るようになってきた。


「もう面倒くさいからカッター! って念じれば発動するようにして見ましたがいかがでしょう」

「詠唱短縮ですな」

「安村さん複数打つ場合はどうやってるんです?」


 もう複数打ちを試そうとしているのか。単発威力を上げるよりも手数で勝負するって事だな。


「ターゲットマークみたいなのを想像して、それを相手に合わせて、モノと速度をイメージして射出、って感じかな」

「なるほど。次で試してみましょう」


 早速次を見繕うためにうろうろと階層を歩き回る。いつもと変わらない風景のはずだが、早く次と出会わないかと楽しみにしている。


 普段なら出会って三秒で即粒子のグレイウルフだが、今日は違う。貴重な実験体としての立派な役目がある。是非とも何回も出会って我々の今後の探索者生活の糧となっていただきたい。


 と、グレイウルフ二匹が現れた。


「一匹狩る? 」

「ううん、二匹同時に当ててみる」


 文月さんは二秒ほどで二枚の水の刃を打ち出した。二枚の水の刃はそれぞれのターゲットに向かって行き、二枚とも命中させることに成功した。


「ラッキーストライク」

「まだです」


 すると、すぐに次の二枚を作り出すと再び二匹に向かって打ち放つ。再び水の刃に襲われたグレイウルフは致命傷までダメージを蓄積したのか、黒い粒子に還った。


「二枚までは行けますね」

「実質四枚か。この短時間でよくここまで出来るようになったじゃないか」

「イメージの作り方を教わる先輩がいますもんで」

「さよか」


 威力はまだまだだが、精密性と数についてはここまでできれば合格点だと思う。まだ初日でしかも覚えて二時間でこれだ。まだまだ成長しそうだな。


 上手くいっている事も有ってか文月さんの機嫌はいい。顔色は……悪くないな、無理はしてない感じだ。急に顔を見られて何事?という感じの反応を示す。


「無理はしてないようで何より」

「誰かさんみたいに三百発一気に打ちだそうとか考えてないからじゃないですかね」


 誰の事だろう。思い返してみるが自分の顔しか思い浮かばない。


「まぁ、あれのおかげでスキルにも使用限界があるという事も解ったし必要な検証だったって事だ」

「ホントかなぁ」

「ホントホント」


 そういう事にしておこう。引き続きグレイウルフを探す旅に出る。グレイウルフ三匹が出たら一匹相手にし、残り二匹に気を使いながら文月さんに任せる、と言う流れでスキルを鍛え続ける。


「しかしあれですね、お腹空きますねスキル使い続けるの」

「カロリーバー要る? 今なら六種類味が選べるよ」

「じゃぁバナナ風味ください」


 保管庫からバナナバーを取り出して渡す。ついでに冷えた水も渡す。二層のど真ん中だが、カロリー補給のための休憩を取る。文月さんと背中合わせに座ることで三百六十度を監視できるため、ここではリポップしない。


「こんなど真ん中で休憩取ってていいんですかね」

「警戒はしてるし大丈夫大丈夫」


 実際聞き耳は立てたままなので何かが近づいてきてもいいし、そのために臨戦態勢は解いてない。俺は大丈夫だが、文月さんのステータスブーストが一時的に切れている可能性も考えての配置だ。


 俺もたまには二層でゆっくりとする。人の歩く音、グレイウルフの歩く音、スライムの跳ねる音、それぞれ違う音が聞こえる。最近ゆっくりしてないな。いや、昨日ゆっくりしたかな。


 やはりスライムを潮干狩っている時が一番心が落ち着いているような気がするな。大事な時間だ、頻繁に取ろう。


「そろそろ行きましょうか」

「お、整ったか」

「えぇ、整いました。またしばらく行けます」

「じゃぁ三層へ向かおうか」


 改めて三層へ向けて歩み始める。道中のグレイウルフは三匹編成以外は俺の出番は無い。全て文月さんの練習台になっていく。


 徐々に威力も上がり始めたのか、ついに一発でグレイウルフを仕留められるようになってきた。今日はここいらで十分だろう。


「さて、今日の練習はこのぐらいにしとこうか」

「まだ行けますが、あまり根を詰めるなと? 」

「もし根詰めて成長していくなら、俺は常に眩暈に苛まれていることになるが」

「なるほど」


 解ってもらえたようだ。そして三層の階段へ着いた。三層からは通常営業に戻ろう。さぁゴブリン狩りを張り切ってやっていきますか。文月さんも一呼吸おいて槍をブンブン振り回し始めた。


「頭の運動にいいかもしれませんね、【水魔法】のイメージトレーニングは。なんかこうちょっとすっきりしたような気がします」

「スキルを取得することで普段使わない脳の領域を使うのでより賢くなったりするのかもしれんな」


 スキルを覚えて君も賢くなれる! また怪しい宗教の勧誘みたいなうたい文句が出来たな。


 会話の間にゴブリンは狩られて行く。ドロップを拾いながら、いつものように通り魔のような形で存在が居なかったかのように見つける先から狩られて行く。


 ちょっと今日はゴブリンの数が多いな? 三層の探索者の数が少ないのだろうか。


「賢くなるために一千万超の出費か……本当に賢くなるなら出せない金額じゃないな」

「もしかしたら既にスキルを使える未成年が在野にいるかもしれませんね」


 ありうる話だ。天才高校生はダンジョンでも天才だった! みたいな。出合い頭に現れたゴブリンを何事もなくあっさりと倒してしまうと、ヒールポーションが出た。ようやくまともな収入を得たな。


「スキルって探索者じゃなくても覚えられるのかな」

「さぁ……どうなんでしょうね」

「さすがにそこまで高額な検証は出来ないな」

「検証も奥が深いですね」


 軽めの検証か。いくつかやったな。


「ゴブリンの棍棒を奪ってダッシュで逃げて、二層の階段を上がれるかどうか検証したことはある」

「それ只のイジメですね」

「結果をいうと、棍棒は二層に持っていけなかった。アレもゴブリンの一部と認識されるらしい。どうやら生息範囲からは出られないようだ」


 これは自分で試したので間違いない。


「あれ、ってことは出会った時にグレイウルフに囲まれてた時、一層に逃げてれば」

「苦戦しなかったかもね」

「でも、それ知ってたら安村さんと出会うこともなかったかもしれませんね」

「無知もたまには役に立つって事だな」


 まぁ、おかげで相棒が出来たのでこれはこれで良かった出来事だったのだろう。


「運命的な出会いだったって事ですか」

「そういう事にしておこう」



作者からのお願い


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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 詠唱破棄 詠唱短縮、の方が合ってるかと。
[気になる点] スキルは遺伝されるのか、異なるスキル持ちの親を持つ子どもはどのような能力を持つのか 私、気になります
[一言] とりあえず今は水魔法が楽しくて負い目を感じてないみたいだけど、家に帰って一人になったら冷静になるんじゃ無いかなぁ。
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