147:通常業務 4/4
あっ
という間に三時間が経過した。どうやら同じ階層で狩りをしていた他の探索者は途中で三層に引き返していったらしく、実質一人で独占状態だった。
ドロップ品から察するに、三時間で四百匹ほど狩ったらしい。ゴブリンソードも二本手に入れることが出来た。結果は上々だ。やはり四層を巡るのは美味しい。完全に一日ここに居たらどれほどの収入になるのか。
ちょっと早めだが、今日はもう上がりにしよう。ギリギリまで狩りに時間を使う理由は今のところないので上がろうと思った時に上がる。それを自由に決めて自由に行動して良いのが探索者の良いところだな。
さて、そうと決めたらさっさと移動だ。考えるのは移動しながらでもできる。
帰る前に飲みかけのコーラを全て飲み干すとゴミを保管庫に入れ、保管庫に入れっぱなしのドロップ品をバッグに移す。ずっしりとした重さが今日の戦果を語ってくれている。
ボア肉は五つほど中華屋に卸すか。自前の分も含めて七つは確保しておこう。ダーククロウの羽根は予定より数は多いが、全部保管庫に入れておこう。
次回枕を詰め替える際にわざわざ六層へ取りに行く手間を省くためだ。在庫はあるに越したことはない。手持ちの量なら布団をもう一つ作る余裕ぐらいはある。とりあえず今回は枕二個分の在庫を持っていれば十分だ。それでも余るが。
四層から二層にかけて戦いながら一直線にゴールである出入り口を目指す。道中のモンスターは残さず狩り取っていく。ドロップ品がちょっとずつ増えていく。
三層に入ると他の探索者のおかげもあってエンカウントの数はぐっと減る。急いでいるわけではないが、すたすたと歩いているだけで済むのは楽でいい。
途中他の探索者に出会う。会釈をして通り過ぎる。人に会ったという事はここから先暫くモンスターのリポップは無いだろうな。
二層に入ってもその状態は続く。帰るのが目的なのでそれはそれでいいんだが、誰にも会わないというのもそれはそれで寂しいものがある。
人とすれ違う回数も三層よりさらに増えた。この人たちはスライム狩りのついでにウルフ狩りをしているのか、ウルフ狩りのついでにスライム狩りをしているのか。どっちも出てこないことを見ると、ウルフ狩りがメインである可能性は低そうだが。
う~ん、なにかこう、適度に出て来てくれるほうが精神的に楽だな。
そう考えているとグレイウルフ二匹とエンカウントした。やぁ、久しぶりだねえという浮かれた感覚を覚える。相対しなれた姿勢でグレイウルフと向かい合う。グレイウルフは牙をむき出しにしてこっちを威嚇してくる。
臆することなく悠々かつ堂々と歩みを進めていく。ある距離に近づくとグレイウルフはこっちに飛びついてきた。噛みつきか、首を狙ってきているな。ちゃんと急所を狙ってくるいい攻撃だ。
だが、こちらはその攻撃は予測済みだ。サイドステップで避けながら、噛みつかれる予定だったところにグラディウスを立てる。グレイウルフは自分の勢いを空中で殺すことは出来ず、グラディウスに自ら切り裂かれて行く。
二匹目のグレイウルフが間髪入れずにこちらへ向かってくる。今度は受け身じゃなくてこっちから行くぞ。グラディウスを構えるとグレイウルフの横をすり抜けるように移動しつつ、グレイウルフをそのまま横へ切り裂くように刃を滑らせる。
グレイウルフはその通りスッパリと二枚におろされると、黒い粒子に還った。
二層ともなるとざっとこんなもんだ。ドロップは無かったが、一時間ぶりぐらいに足以外を動かした気がする。やっぱり適度な運動は大事だな。
おっと、足元にスライムが居たか。今日もぽよぽよと丁寧に跳ねているな。丁寧に熊手で潮干狩ると魔結晶を残して黒い粒子に還った。
バニラバーをやったほうが良かったか? ちょっと可哀想なことをしたかもしれないが、あげたところで可哀想なことをしてたような気もする。どっちにしろ変わりはないか。
ここへ稼ぎに来たわけではなく帰り道だ。バニラバーをやらないといけないという法律もルールも無いはずなので気にせず行こう。
その後人とすれ違いながら一層へ戻る。一層は耳を澄ませただけでわかる。人が多い。時刻は午後五時半。閉場が近いからか、いそいそと出入り口へ向かっていく音が感じられる。
俺もそれに従おう。通り道にはスライムも居ない。俺より前を歩いている人が処理しているのか、人が歩きすぎてリポップしていないのか。どうやら出入り口まで戦闘する必要はなさそうだ。
何事も無く、道中で気が向いたスライムにバニラバーをあげたりあげなかったりしながらスライムのドロップを回収しては真っ直ぐ帰り道をたどる。
出口にたどり着いたときにはなんだかんだで十個ずつぐらいのドロップを得ていた。ちりつもちりつも。退ダン手続きを終え、査定カウンターに行く。スライムドロップが重さ換算に変更された影響で査定カウンターにも列が出来ることはなく、するすると俺の番になった。
「おや安村さん、今日は日帰りですか」
「えぇ、明日は宿泊かもしれませんが」
査定嬢と会話をしつつ、査定を待つ。五分ほどで査定は終わり、二十三万九千百三十円の報酬を得ることができた。やはり一人で狩れる時の四層は美味い。
今後もソロ活動の時は四層でやろうかな。ゴブリンソードの在庫は何本あっても良い。今日は二本手に入れた。家に帰ったら鞘から外して保管庫に戻そう。
支払いカウンターで振り込みを依頼し、それで本日の探索者活動は終了である。今日の夕食は家で取るが……その前にいつもの中華屋に寄っていこう。ボア肉の押し付けに行くのだ。
小西ダンジョンから徒歩十分、昔ながらという感じのなじみの中華屋ののれんをくぐる。
「お、兄ちゃんか。飯か? それとも買い取りか? 」
中華屋の店主である爺さんが奥から出てくる。
「今日は買い取りで。ボア肉が五パックあります」
「解った。六千円でいいか」
「それで」
短いやり取りの後、六千円が俺の手に入る。そういえばこれも脱税になるのかな。まぁあまり派手にやらかさない限り大丈夫だろう。領収書を渡しているわけでもないからな。
レジを閉めた爺さんから声がかかる。
「どうだい最近の景気は」
「お陰様で上々ですよ」
「そうか、それは何よりだな。今度は食っていってくれ」
ニシシ、という感じで笑うと、爺さんは奥へ引っ込んでいった。俺もそれ以上用事はないのでさっさと店を出る。今日は何喰おうかな。
別に中華屋でも良かったんだが、帰ったらスーパーに行って総菜でも買って食べるか。中華屋で注文したほうが豪華なのは間違いないんだが、俺の腹が中華を欲していない。何かもっと別の物を要求している。
その要求の謎を探るため、我々探索班はスーパーの奥地へ向かう事にした。急げないけど急ぎ家に帰ると車を出し、スーパーへ向かう。その間にも俺の腹は何かもっと別の物を求めるべくきゅうきゅうと鳴り響いている。あぁ、お前は一体何を食いたいんだ。
スーパーに着いたところで俺の腹はより要求を強くしていた。そして弁当・お総菜コーナーへたどり着くと、ある一品に向かって俺の視線は注がれる事になる。
親子丼。そうか、お前だったのか。腹が要求していたのは。
親子丼のご飯大盛を選ぶと、他に何か食いたそうなものは無いかとコーナーを物色する。すると、たこ焼きを発見したとたん俺の腹が脈動した。そういえば最近ご無沙汰だったな。たこ焼きも籠に入れていく。
保管庫にあるパックライスの在庫をみて、残り少ない事を確認するとパックライスをカートンで購入する。親子丼とたこ焼きだけでよくそれだけのご飯が食えるな? と言わんばかりの籠の中だ。これはおかずを追加購入してバランスを取るべきか。
コールスローを明日の朝食用にチョイス、そこにスモークサーモンのクリームチーズ添えの小袋を加える。これをトーストしたパンにはさんでちょっと贅沢にしよう。
満足な買い物と夕食を買い終えたところでスーパーの隣のホームセンターに寄り、枕カバーを二つ忘れずに購入し自宅に戻る。帰ったところで服を洗濯しその間に風呂に入り、風呂から出たところで洗濯の終わった服を干す。一晩あったら乾くよな。
さて今のうちに枕カバーにダーククロウの羽根を詰めておこう。これで自宅用・外出用・布教用の三つのダーククロウ枕が出来上がった。
寝巻に着替えたところで満足な夕食を取る。大盛ご飯を選択しておいてよかった。味が意外と濃く、ご飯に対してタレが多い。これが通常のご飯だったらタレがあまってもったいないことになってしまっていたかもしれない。
よし、お腹の要求も満たされた。後は寝る前にちょっとした調べものだ。せっかく拾った【水魔法】だ。公開されている範囲で、みんながどんな扱い方をしているか学習しておこう。
【水魔法】はかなり大雑把なスキルらしく、水に関する事なら大抵出来てしまう。水を無いところから作り出したり、加湿させたり、逆に乾燥させたり。つまり、七層で洗濯をして乾かすことが可能になるな。
それ以外にも水を高圧力で射出してモンスターを倒している動画なども公開されていた。分厚い水の膜を作って飛んできた拳銃弾の勢いを落としたり、本人の訓練次第では攻防両用の万能スキルとなるようだ。
これは価格が高いわけだ。仮に四千万でもお釣りがくるんじゃないか?
とりあえず【水魔法】の便利さについて理解を深めることは出来た。それによって、文月さんにより渡しづらくなったような気がする。
さて、どうやって納得してもらうか。話の持って行き方に悩みつつ寝る事にする。
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。





