140:飽きはそれなりに早い~ゴブリンにもイジメはあった~
毎度毎度の誤字報告ありがとうございます。マジ助かってます
警察官ごっこに飽きてきた。また新しいごっこ遊びを考えよう、そのほうが気がまぎれる。相棒が居ると雑談するにも事欠かなくて良いんだが。新しく来るゴブリンを千切って千切って黒い粒子に還しながら考え事をする。この一時間で狩った匹数八十六匹。
そういえばヒールポーションやキュアポーションってランクがあるというのは確認されているけど、俺はまだ両方ランク1しか確認したことはない。ランク2があるとすればどの辺の敵がドロップし始めるんだろう。八十七匹。
ゴブリンが三階層でジャイアントアントが九階層だから、ヒールポーションランク2は十五階層以降ってことはないよな。ランク4までは確認されてるって事なのだから、同じ法則で行けば三十九層まで潜ればあるとかそんなんか? いくらなんでも遠すぎる。八十九匹。
そもそも三十九層までダンジョンがあるという保証も無いのだ。もうちょっと手の届く範囲にあるに違いない。いやまぁ、切断されてくっつけなきゃいけない手足があるという訳ではないが、夢が広がるかどうかというあたりの話でそこんとこ気になるな。帰ったらちょっと調べてみるか。九十匹。
キュアポーションランク1のドロップ先もそうだが、若干ドロップ品とドロップするモンスターが妙にアバウトな気がする。これも何かの法則があるのだろうか。それとも、ダンジョン作成者の手抜きの産物なのだろうか。九十一匹。
何れ判っていく事だろうが、俺の攻略ペースから察するにそういった最先端の探索でしか手に入らないようなアイテムを拾う機会はまぁ暫くないと考えていいだろう。俺は俺のペースでゆっくり行けばいい。九十二匹。
とりあえず今日、そして明日、明後日とトントン拍子に進んでいくわけじゃない。たまには停滞する事だってあるしゆっくり休みたい日も有るはずだ。焦らず行こう、焦らず。
でも、もしスライムで埋め尽くされたエリアが発見されたとして、俺は正気を保っていられるであろうか。自信は全くないぞ。その為の最短距離を見つけ出してなんとかたどり着こうとするに違いない。九十五匹。
そんな日が来ることを夢見つつ、三層でグラディウスをひたすらに振るう。ゴブリンが現れては振るい、グレイウルフが現れては振るい、スライムが現れると笑顔で熊手に持ち替えて潮干がる。
ダンジョンに潜り始めて約一か月。密度の高い日々だったと思う。ひたすらスライムを狩り続けた日々は無駄ではなかったな。今では一番奥まで行けるところの九層を鼻歌交じりに攻略することも出来るようになってきた。その為にはそれなりの準備が必要だが、その準備も今整えている。九十七匹。
これだけ楽勝ならいくら狩ってもあまり身に付かないのでは? と思わなくもないが、スライム六千匹という実績がある以上、ゴブリンも六千匹狩ったら変化があるはずだ。
ゴブリンを六千匹ということは、そのあいだに魔結晶が……ざっと千八百個か。六十三万円分溜まる。ヒールポーションは三百六十本。合わせてざっくり四百二十万円(税込み)だ。それだけここで稼げばいいわけだな。百二匹。
行ける気がする。一日二百匹ずつ倒したとしても三十日か。休みや九層へ行く分も含めたら二か月だな。よし、当面の目標はゴブリン六千匹に決めてみよう。
ジャイアントアント六千匹も目標としてはかなり強気の設定だったが、あっちはもっとかかるかもしれないし、その前にランクが上がるかもしれない。百三匹。
しかし、探索者ランクがCに上がる条件って何なんだろうなぁ。風聞によると納税額と進捗という話だ。多分前に新浜さんが言っていた事もそれに該当するだろう。納税額なら、なおさらゴブリンとジャイアントアントを集中して狩る必要があるな……と、一時間経ったか。階段に戻って小休止しよう。百四匹。
午前八時。後一時間で開場時間だな。今から真っ直ぐ帰れば開場とともに家に帰ることになる。疲れは……多分それなりだな。動いた分は疲れているという感じだ。保管庫に残っていたカロリーゼリーを取り出し十秒でチャージする。これで二時間はキープできる。もう一時間戦ってから帰ろう。
しかし、階層を独り占めにすると中々の収入になるな。何処の世界でも夜勤は給料が高く設定されているのかな。夜勤手当にしては破格だ、もうちょっと頑張りますか。
本道から側道へ、側道からまた側道へ、細い道から太い道へ、縦横無尽に歩き回りながらゴブリンを片っ端から黒い粒子へ還していく。
ステータスブーストで聴覚を強化し、一番近そうなところへさっそうと近寄り、出合い頭に一発入れたり、後ろから気づかれないようにそっと首だけを落としたり、戦闘レパートリーも増えてきた。ともかく後一時間、くだらないことを考えながらゴブリンの相手をしよう。
しかし、ゴブリンについては不思議な事も有る。ゴブリンが持って出てくる棍棒、奪い取ってから倒しても棍棒も消えてしまうんだよな。これはソードゴブリンについても同様だった。
なのに、ソードゴブリンは鞘付きのゴブリンソードをドロップする。何なら持っている剣をそのままくれてもいいはずなのだが、どうやらソードゴブリンはソードも含めてゴブリンというオブジェクトであるという概念を持ち合わせているらしい。
これはジャイアントアントも同様で、牙をドロップするが牙だけへし折った後倒しても、牙は消えていく。代わりに必ず牙をドロップするという訳でもない。部位破壊で確定ドロップとはいかないようだ。
もしこれが部位破壊、つまりソードゴブリンの剣を確定で落とせる方法があるなら、それを狙えば俺の保管庫は今頃ゴブリンソードで満たされ、わざわざ四層で狩りに勤しむ理由も無くなってしまう事になる。
しかし、切り落とした腕まで同時に消えていくって事は、腕だけ切り落としてそのまま放置して他へ行った場合時間経過で消滅するんだろうか。やってみるか。
丁度目の前にいた一匹のゴブリンの片腕だけを切り落とすと、その片腕をもってダッシュで逃げ去る俺。その場で蹲って動けなくなるゴブリン。視界外から消え、そのまま放置しておく。
暫くうろうろしていると、とあるタイミングでゴブリンの腕が消滅した。どうやら死んだらしいな。次に棍棒だけ奪って逃げてみよう。
ゴブリンに峰打ちをすると棍棒だけ奪って逃げてみる。棍棒を奪われたのがショックなのか、慌てて追いかけてようとしてくるゴブリン。
やーい、返してほしかったらついてこーい。ステータスブースト全力のダッシュで一気に突き放し、相手の視界から消え去る。
俺の足にゴブリンが付いてこれるわけがなく、あっという間に撒かれるゴブリン。道中のゴブリンはスピードを落とさないまま処理していく。トップスピードの俺についてこれるゴブリンはおらず、おそらく気づかないうちに轢かれて死ぬようなものだろう。
棍棒はまだ残ったままだ。どうやら持ち主が消滅するまで武器は体の一部として認識されているらしい。このまま階層を移ったらどうなるのだろう。二層の階段のほうへダッシュする。
階段に着き、いざ上ろうとすると、棍棒だけ取り残され引っ張られる形で階段を上ることが出来ない。どうやら、この棍棒は持ち主からはるか離れてもモンスターの一部として認識されているらしい。
ゴブリンは二層にはいないから二層へ行くことは出来ない。つまり、ゴブリンの体の一部である棍棒も階段を上ることが出来ない。あくまでドロップ品として新しく生成されないとだめらしい。
うーん、つまりソードゴブリンから剣だけ奪って走って逃げるという事は同様にダメなんだろうという予測を立てる。やはり丁寧に一匹一匹たおして、地道に集めるしかないな。何かもっと簡単に集めてしまう策は……
……っと、ドロップ確定はもう詮索しないんだったな。うっかりしていた。後は運を天に任せて一つ一つこなしていこう。とりあえず目の前のゴブリンを狩ることに集中しておくか。
さて、帰ったら仮眠するのだしここで体力を大方使い切ってしまっても良いだろう。ゴブリンをいかに素早く切り捨てていくか。それに集中しよう。消える事のなさそうな棍棒をもう片手に持って三層をうろつく。
探し回るのは駆け足で、より早く近づいて気づかれる前に刺して切って落とす。スニーキングミッションの実績もこれで解除だな。実績なんてないけど。
しばらく三層をうろついていると、素手のゴブリンが複数のゴブリンに足蹴にされている状況に出会った。なんで棍棒持ってないんだろう。しかしいじめられているゴブリンにはなにやら覚えがあるな。
あ、お前さっきの棍棒俺にとられた奴か? ということはイジメられている原因は棍棒を持っていないからだろうか。どうやら棍棒を持っているかどうかはゴブリンにとって大事なことらしく、無くしたらイジメられるらしい。なんかお前ら人間臭いな。
棍棒の無いゴブリンは涙目でうずくまり必死に耐えている。さすがにこのまま放っておくのはかわいそうだ。周りのゴブリンは幸い俺に気づいてないらしい。
そっと近寄ると一匹ずつ一撃で葬っていく。いじめられていたゴブリンに近寄ると、肩をポンと叩いてやる。俺に気づいたゴブリンはポカポカ俺を殴りだした。棍棒でもないので痛くない。これはあれだな、いじめの元を作った俺が悪い。とはいえ、殴られ続ける理由も悪い。
俺は手を合わせ「ゴメン」と謝る。そして棍棒を返す。返ってきたのがよほどうれしかったのか、ゴブリンは棍棒に頬ずりし涙を流して喜んでいるように見えた。そのまま一撃で葬ってさしあげる。涙目ゴブリンは涙目のまま黒い粒子に変わっていった。
後味の悪い事件だったぜ……
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