1381:新ダンジョンと配信事業
「さて、安村さんはそろそろ仕事の時間かな。私も仕事をしないと」
「価格改定のほうは順調なんですかね。いつもならドタバタしてる時期だと思うんですけど、真中長官が新ダンジョンのテープカットに応じる時間がある程度に余裕はあることは目視で確認しましたが」
一月と七月は特に忙しいダンジョン庁である。それに加えて今日は新ダンジョンオープン日。忙しくないはずもなく、真中長官はとんぼ返りでダンジョン庁本庁に戻って仕事の続き……となっていそうな気もする。
「今回に関しては楽かな。品目の査定価格の上下が行われたものがほとんどなくてね。全体的に高止まり……という傾向で済みそうだよ。安村さんとしても、副業の羽根の売買の価格交渉をしなくていい分楽でいいんじゃないかな」
俺の副業と言われてしまっているが、副業と呼ばれるにはまあ間違っていないのでいいや。
「そうですね。一応言われるままに納品して代金受け取って……という関係ではありますが、世の中に快眠を振りまきたいという気持ちはありますから、それについてはちゃんと今年は納税もしますし準備もちゃんとやってますよ」
「なら安心だ。トップ探索者が脱税、なんて話になればおおごとだからね。その辺は綺麗にしてくれていると信じているよ」
「そうですね……と、じゃあお仕事に戻ります。革の査定のほう、よろしくお願いします」
「ちなみに、なんて名前のモンスターの革なの? これ」
「動画のタイトルにもつけてありますが、フレイムサラマンダーと仮称してます。ちなみにゴーレム型のほうはマグマゴーレムですね。解りやすく覚えやすくがモットーの仮称なので、もっといい名前があったら実際に名前を付ける時によろしくお願いしますよ」
そういえばサメもエイもグリフォンもまだ正式名称は決まってないんだろうか。まあわかったら教えてもらうことにしよう。
ギルマスの部屋を出て、いつもより三十分遅れで作業に入りだす。茂君は無事にまだ刈られずに茂っていてくれるだろうか。入ダン手続きを済ませてリヤカーを引き、いつもの流れへ。茂君はまだ茂っていてくれたのでしっかりと刈り取った後で七十層へ。
道中に探索・オブ・ザ・イヤーを読む。先月号だが、先月は色々とやることがあったのでまだ読んですらいなかった。やはり見出しは新ダンジョン同時に三つ、というものだ。それぞれのダンジョンが立った場所と周辺交交通網の様子、それから周辺地域が既存のダンジョンを参考にして今後どうなっていくのか……というのが主な内容らしい。
今日オープンした聖蹟桜ヶ丘は元々人口密集地であるから、ダンジョン拒絶派、ダンジョン反対派のデモが開かれる可能性もあるが、ダンジョンからモンスターは絶対出てこないというダンジョンマスターの説明もあり安全性は担保されているのでそれについては説明会などを開いて周辺住民への理解を促す必要があるだろうとのこと。
また、建物自体にまだ営業を続けている部分があるため、その営業の邪魔にならないような我々の配慮や、行き帰りの買い物にも便利なため使い続けることや、食料品店や雑貨店が新規にオープンすればダンジョン関連商品の売れ行きが見込めるのではないだろうか。その場合、周辺の活性化にも手を貸すことにもなりダンジョン景気というものを目の当たりにすることができると思われるとのこと。
大体みんな考えることは同じ……ってことだな。試しに月刊探索ライフの似たような記事も参照してみたが、エレベーターが付いているということは腹減ったからエレベーターで飯食って帰ってくる、ということができるようになるということで、飲食業の店舗が入れば気軽に出入りできる人気店として売り上げを伸ばすことができるようになるかもしれない、となっている。
通信ができるなら、気合の入った店員を雇えば二十一層ぐらいまでならピザの配達が可能になるのではなかろうか、というところまで踏み込んでいるが、Cランクでそこまで潜り込める探索者ならピザの配達をやるよりも普通に探索するほうが金になるような気がしないではないんだが……まあ、一案としては面白い提案だな。
それと、ダンジョンの営業時間と建物の営業時間を同一にすることで深夜の出入りも制限することはできるし建物内外に簡易ホテルができるかもしれない、という意見が出されている。ダンジョンの中で一泊するのもありだが、インフラがある程度整っているので電車で帰るもよし、駐車場を周辺で確保するのも問題ないらしい。
料金を気にするほど稼ぎは少なくないだろう? という煽り文句と共に周辺地図にホテルと駐車場、それから飲食施設にコンビニなんかを軽く載せた地図が同梱されている。
来月、つまり今月号には他のダンジョンも調べて情報をあげてくれるようだ。こういうのは地元の人が居ればもっと手早く済むんだろうが、調べるだけでも面倒だからな。行くかどうかはともかく、周辺にどんな施設があってどのぐらい通いやすいのか、というのが指標たりえる。
後はダンジョンの魅力次第だが、リーンがどんなダンジョンにしたのかまでは情報を仕入れてないからな。昼飯時にでも配信やってる奴を見かけたらそれをみることにしよう。
さて、七十層に到着したので車に乗り換えてリヤカーはしばらくここで一人でぽつんとしていてもらう。リヤカーはもう一台あったので、もしかしたら高橋さん達とすれ違うかもしれないし、六十九層なら会うことはないだろう。深く気にせずそのまま車を七十一層側まで走らせて収納。
さあ、今日も稼ぐぞ。お昼まで軽く流して、お昼はお手軽サンドイッチ片手に配信を見て胃袋を落ち着かせる作業だ。七十三層に比べたらなんとここは過ごしやすい気候なのか。汗をかかなくてジトッとしてないだけで、少し寒いぐらいのここが天国のように感じる。
七十一層に入り最初のサメを撃破し、いつもの運動開始だ。今日は三十分短いがみっちり探索をしていこう。
◇◆◇◆◇◆◇
三十分いつもより短かったが、しっかりとポーションをもらってほくほく顔でサメをぶっ飛ばして階段を上がる。階段の目の前でサンドイッチを取り出してかぶり付きつつ、スマホを取り出して早速配信サイトにアクセス、ダンジョン名で検索してライブ中の探索者の適当な奴を選んでクリック、早速配信を眺めることにする。
ダンジョンの形は……これは洞窟マップをそのまま持って来たな? という具合だ。まだ二層に入ったところらしいが、わりと人でごった返している。二層から先は地図が提供されてないからだろう。みんなマッピングしながらワイワイと人ごみの中を進んでいる感じだ。この調子だとモンスターはしばらく出会えない感じだろうな。
配信のほうも「変化がない」だの「人だらけ」だのでコメントが埋まっている。早く次の階層へ行けということだろうが、その為には地図をきっちり作っていかないといけないわけで、そこに言及するコメントもあった。
むしろ『いやー、人だらけだしどっち行けばいいかわかんねーしなかなか面倒だなこれ』と配信者自身がコメントしている。せめてダンジョン庁側も七層分ぐらいまでは地図を配っても良かったんではないだろうか。
もしくは、どこまで言っても同じ見た目の階層が続くことを隠すためにあえて配らなかった、もしくはここのポイントに宝箱が出やすい、等の話を自分の手で探し求めてもらうために、スライムしか湧かない一層で人が詰まらないように意識誘導している可能性もあるな。
確かに見ていて退屈ではあるが、ダンジョンマスター視点でダンジョンを見る、というのはこういうものなのかもしれない。俺の視界はこうやってジャックされているのか、と考えると中々に面白いものがあるな。
投げ銭は……さすがにやめとくか。頑張れという気持ちだけを送っておこう。もし配信を見てる間に宝箱の一つでも開封してたら話は別だが、この人の多さでは宝箱もびっくりして出てこれないんじゃないかな。
「何を見ているんだい、安村」
気が付くとミルコが転移してきていた。
「聖蹟桜ヶ丘……だからリーンのダンジョンか。今日オープンだったから、どんな感じに混んでいるかを観察してるところだ。君らで言う俺の視界から物を見るような仕組みだ」
「そのスマホにはそんな機能もあるのか。これは中々面白いね」
ミルコと並んでスマホを見る。相変わらず人が多いが、三層への階段を見つけたらしく早速三層方向へ移動するようだ。
「新しいダンジョンだからか、人口がそれなりに多いのか、こっちよりも混んでるね」
「まだ七層にもたどり着いてないだろうからな。一層から今のところ五層ぐらいまでは人でごった返してるんじゃないかな。リーンはどんなダンジョンを作ったんだろうと思って覗いてみたんだけど、洞窟マップが延々続く……と考えていいのかなこれは」
「詳しくは聞いてないから解らないけど、五層まで潜ればわかるんじゃないかな。五層までこの探索者が到着するのを見続けるつもりかい? 」
ミルコはずっと見ていたそうな顔をしているが、俺は首を横に振る。
「残念ながら俺には魔結晶を外に運び出すという仕事があるからな。その仕事の合間に見る……というならまあ有りかもしれないが。帰りにも顔を出すか? それならゆっくり見られるけど。その頃には他の配信者がもっと深くまで潜り込んで映像を提供してくれているかもしれないぞ」
「そのほうが良さそうだね。リーンに直接聞くって手もあるけどそれはそれで面白みはないしね」
確かに直接聞いて、返事が返ってくるのはイマイチ面白さに欠けるのは確か。こっそり覗いてるぞという風にしたほうが楽しみがいがあるんだろうな。
「そうか。まあ、まだまだ混雑してる状況だってことは理解したからとりあえず今はそれが分かっただけでもヨシとしとこう。後で見ることだってできるんだ、アーカイブを作ってくれる配信ならそっちを見るという手もある」
「アーカイブ……って何だい」
「履歴、かな。こんな動画を録画してましたっていう奴で、いつでもこの時間帯にこんなものがあった、ということを残せるようにした機能だ」
「ふむ……中々それも面白いね」
ミルコはこっちの技術に興味津々らしい。どうやら配信自体には驚いてはいない様子だが、ネットがあればだれでもできるという点については一定の理解と楽しみが得られたようだ。
「通信できれば……って言ってた理由の一つがこれだ。今後は新しいダンジョンではこうやって配信をして、配信のお礼として視聴者から小銭を稼いでそれも収入とする探索者が増えてくるだろうな」
「そういう稼ぎ方もあるのかい? ますます面白いね。安村はやらないのかい? 」
「俺は三つの理由でやらないかな。一つは小西ダンジョンが最深層到達ダンジョンだとはっきり示してしまうこと。もう一つは、そんなことまでしなくても充分稼げてることだ。そしてもう一つ、最深層探索者だと公にばらしたくない。大手を振って金を稼いで帰っている今の現状のほうがよほど収入になるからな」
「なるほどね。今自分の位置を晒すぐらいならさしたる収入にはならないってことだね」
ミルコは理由について納得してくれたらしい。
「それに、ダンジョンマスターの楽しみである俺の視界を更に多くの人が見ることになる。楽しみは出来るだけ独占した方がうれしくないか? 」
「それは……あるかもしれないね。安村の視界は僕らのものだ、みたいなものはあるかもしれない」
「だとしたら俺が配信者やるのはなしって方向性で良いな」
これで面倒ごとが一つ減ってくれた。それに、配信したところでダンジョンマスターはその配信を見ることはできないからな。アーカイブを作ったにしてもスマホを渡してこっから見てくれ、とやってもそれはリアルタイム性に欠けるので面白さという点ではやはりライブ感は欲しいところだろう。
「じゃあ、午後も頑張ってね。僕は今のうちに作った階層にバグがないか色々調べて回るから」
まだバグつぶしの最中、ということらしい。まあ先日通ってみた範囲ではそれらしいものはなかったが、もしかしたらデバッガー気質の探索者が潜り込んだらそういう怪しい個所も出てくるかもしれないからな。
「そっちも適当に頑張ってくれ。次に芽生さんと潜る際までに直しておいてくれればそれでいいから」
「まあ、大丈夫だとは思うんだけどねえ。一応念のためさ。頑張って二人で【熱変動耐性】を覚えてくれればもしまかり間違ってマグマが流れ込んでも大丈夫なようにはなってるはずだから」
恐ろしいことをさらっと発言してくれるなよ。
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