1380:進捗報告はこまめに
今日も寒い朝だが、体の奥底はなんだかほんわか温かい。先日行ったサウナのおかげで血行が良くなっているのだろうか。そうだとしたら汗をかいただけの成果はあったと言える。また今度行くことにしよう。
朝食を食べてニュースをつけるといつものダンジョン研究家である弦間さんが出ていた。どうやらもう間もなく三ダンジョンの内、早いうちからギルドの設備搬入が進んでいた聖蹟桜ヶ丘ダンジョンがオープンするようで、そのセレモニーの準備が整っているらしい。今日からだったのか。
現地では、普段高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンに潜っている探索者も新しい階層で新しいチャレンジが出来るということで今日ぐらいはこっちに……という探索者もそれなりにいるらしく、現地のアナウンサーも若干興奮気味に開場の様子を伝えている。
そしてしばらくして開場の時間を迎え、謎のテープカッターが用意されていた。そしてちゃっかり真ん中で参加している真中長官。新年からお疲れ様です。テープカットが終わり、列に並べられた探索者達が用意された一層の地図を基にしてダンジョンの奥へ向かっていく。
「今回のダンジョンは安全性を七層まで確認した後でこのダンジョンの難易度ならどのランクでも潜れるだろうという判断に基づいてFランクから潜れるように設定されているんですよね。つまり、新熊本第二ダンジョンのほうがかえって亜種みたいな形になっています。ほぼ同時に出来たほかの二ダンジョンについても同様で、この現象はどうなっているのかはまだよくわかってはいません。ただ、もしもこの三つのダンジョンのダンジョンマスターが三人話し合ってそれぞれ同じような作りのダンジョンでもいいので次のダンジョンをもっと早く作る理由みたいなものがあったんじゃないでしょうかね」
弦間さんは今日も舌の調子は絶好調だ。そして大体合っている。
「ではそれぞれのダンジョンマスターはお互いに面識がある、もしくは何処かのダンジョンで集まって話し合った、という可能性もあるということでしょうか」
「可能性としてはあるでしょうね。ただ、それが何処のダンジョンかを問い合わせることは難しいでしょうし、その為にボス撃破のご褒美をもらいに行くというのも難しい話でしょう。新しいダンジョンでもボスは出るでしょうから、ボスをどこのパーティーが最初に討伐するのかは今回一種のレースみたいなものになってます。十五層にボスがいるかどうかはわかりませんが、七層にセーフエリアが存在することは確認済みですので、七層と十五層の法則が生きているとすれば十五層にはボスがいると考えてもいいのではないでしょうか」
そういえば、ボスに関しては何も言わなかったな。置いたのかな、置かなかったのかな。結果は後でネットで聞くことにしよう。
さて、今日の昼食を作るか。今日はニュースを見ながら作っていたおかげで簡単おかずのサンドイッチになってしまった。最近作ったばかりだが、まあいいだろう。具材はいつものツナサンドとサラダサンドとウルフ肉の生姜焼きの三種のサンドイッチ。これもそろそろ何か真新しいネタがあればいいんだが、つい手軽だからこの三種類で済ませてしまうんだよな。
さて、新しいダンジョンが一つ解放されたことでしばらくはどこのパーティーが先陣を切っていくかとかで話が盛り上がってるうちに他のダンジョンも順次オープンしていく感じになるんだろう。のこりの二ダンジョンはその後になるのかな。何にせよ、新ダンジョン計画第一弾は無事に始動したということでいいだろう。
さて、出かけることにするか。スーツに着替えて出陣だ。
柄、ヨシ!
圧切、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
籠手、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
嗜好品、ヨシ!
車、ヨシ!
保管庫の中身……ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。さあ今日も日銭を稼ぐか。
◇◆◇◆◇◆◇
新春ダイヤももう終わり、いつもの時間、いつもの電車、いつものバス。年が変わったという雰囲気はもうなくなりつつあり、世の中は回っている。俺が一年二年引きこもってもきっと世の中は変わらないだろうというそんな雰囲気だ。
しかし、ダンジョン関連はこれからがまだまだ新時代。新しいダンジョンが出ると同時に、古くてアクセスの悪いダンジョンは順次閉鎖されていって、別の場所へ新規オープンする流れになっていくのかもしれない。
そうなった場合ダンジョンマスター側とダンジョン庁側のハブとして機能するのは俺か南城さんか巽君の三者しかいないので、一番事情が分かっている俺にそのしわ寄せが来るのは目に見えている。しばらくはまだ休めそうにないな。
諦めてバスから降りると気を引き締める。さて、今日も気合入れて稼ぐぞ。一人の時しか稼げないのが現状なのでその間に精々稼いで……と、そうだった。ギルマスに七十三層へ行ったことを報告しなければ。
支払いカウンターでギルマスがいるかどうかを確認する。支払いカウンターは支払いの列がないにもかかわらず、どうやら探索者の年間支払書の処理でかなり仕事が押されているようだ。
頑張れ、と心の中でエールは送っておく。自分もお願いして早々と処理を終えた側なので後はこれを税理士のところに持っていけば書類仕事はクリアのはずだ。また芽生さんと潜った後の休みの日にでも予約をすることにしよう。
二階へ上がりギルマスの部屋へノック三回して勝手知ったる入ったる。ギルマスは落ち着いていつものようにコーヒーを飲んでいた。
「やあおはよう安村さん。進捗報告かな? さすがにまだポーションの結果や治験に関する話は返ってきてないよ」
「今日は進捗報告ですね。七十三層以降が無事に完成したとのミルコの報告がありまして、早速潜ってきました。一昨日ですけど」
「データある? 一応共有できる感じ? 」
「撮影はしてきましたが参考になるかどうかは微妙な所ですね。一撃で屠ってしまっているデータが多いもので」
ギルマスのパソコンにデータを移し、出てきたモンスターのドロップ品を預ける。ドサッと十二枚のフレイムサラマンダーの革を机の上に出した。
「これが現状手元にあるドロップ品です。多分ですけど、耐熱素材である可能性が高いですね」
「ふむ……ちょっとライターで焙ってみるか」
ギルマスが机の引き出しからライターを取り出して革を焙って見せた。革にはすすも何もつかず、焼けることもなく、ひたすらライターで焙られ続けた。試しに反対側から触ってみるが、熱さは伝わってこない。完全に革によって遮断されているようなイメージがついた。
「熱い? 」
「全然。どうやら熱に強いのは確かみたいですね」
「この薄さで熱に負けないってことはかなりのポテンシャルを持ってるね。消防士の新しい服や装備なんかに応用できるといいね」
そういう方面にも使えるし、防火布としても純粋に利用できるだろうな。難燃素材……というか不燃素材としては中々に優秀な様子。後はギルドがどういうメーカーに回していくらの価格がつくかによるが、ここまで火に強い素材があるならば……と手を上げてくれる企業はあることだろう。
「階層の様子はどうなの、いけそうなの? 」
「まず、室温が非常に高いです。常時低温サウナに入っているような感じがしますね。これはスキルで軽減できるらしいので人数分スキルをそろえてから更に深く潜る方向性で行こうとは思ってますが、どのぐらいで出るかにもよりますね」
「まあ、急いで攻略する必要もないからゆっくりやってほしいところだね。それはそれとしてこの素材をある程度集めておいてもらえるかな。数が出るならその分だけ研究にも回せるし試作品を作るにも便利だろうし」
「そのつもりでは居ますが、収入面での問題が厳しいですね。あの若返り効果があるらしいポーションの値段が決まらないことには魔結晶しか収入源がないことになりますから、早めに結果が出てくれることを祈るだけですね」
そういうと、ギルマスは頭をポリポリ掻きながらどうにも返答に困っている様子。まあ、そりゃそうよな。
「そんなわけで、しばらくギルド税の納付のほうは著しく減ることになりますが、その分後でガバっとまとめてもらうことにしますよ。出来れば芽生さんが入庁する前までに答えが出てくれることに期待していますよ」
「私からは何とも言えないからなあ。実際にどのぐらい若返ってくれるのかとか、治験者のデータとかまとめるのにどれだけ時間がかかるかは解ったもんじゃない。そこは専門家に任せるしかないかな」
ズズズ……とコーヒーを飲んで落ち着くギルマス。これ以上進捗のある話は聞けそうにないな。
「そういえば聖蹟桜ヶ丘のダンジョン、今日オープンだったんですね。飯を作りながらニュース見てなかったら知らない所でしたよ」
「今頃大混雑でみんな必死に宝箱を探してる最中だろうね。何か出るかまでは安村さんは知ってるんだっけ? 」
「大まかには、ここでやってたイベントとあまり変わらないと思いますよ。後は……一品物のアイテムがどれだけ出るかと、その一品物でどれだけ世間が揺れるか、というところでしょうね。どんなアイテムが出て来るかどうかまでは何も聞いてませんから」
「ふむ、まあおかげでダンジョン庁も貴重なレアスキル所有者が一人増えたことだし、最悪彼を通してダンジョン庁とダンジョンマスターの間で連絡を取ることもできるから色々と今回のお礼は何かしらの形でしなきゃいけないとは思ってはいるし、今度の会議にでも話題に上がりそうではあるんだけど……何か欲しいものある? 現金以外で」
現金以外で、と真っ先に出る辺り、もうこちらに現金は必要ないということを理解してくれているんだろうな。正直金はある。出来ないことと言えばそれ以上に金がかかるようなどでかい事業を始めることだが、そっちに意識が向くほどまだダンジョンについて深く知れているわけでもないしな。
「うーん……本来なら素直にAランクが欲しい、という所なんでしょうが根拠がないですからね。名誉ランクであるAランクだからなんだ、という話にもなりかねませんし、そっちは機会があればってところでしょう。だとすると……今のところないですね。あえて言うなら、保管庫持ちであることを公表するタイミングをこっちで自由にさせてくれないか、というところでしょうかね」
「ふむ……まあ、それについては長官にも報告させてもらおうかな。安村さんがいずれどこかのタイミングで保管庫を入手していたことをばらすから、それについては納得してもらうしかない、と」
「ついでに、一部のレアスキル所持者についてはダンジョンマスターから自由に視界をジャックされる機能が付いている、ということについても公開することになると思います。そうすれば俺の周りにダンジョンマスターが集ってくる理由として確実なものになるでしょうからね」
ギルマスはコーヒーのカップの縁をコリコリをこすりながら俺の話を聞くと、膝を軽くたたいて俺の意見に応じた。
「なるほど。それらについてはまとめて真中長官に報告として上げておくよ。しかし、B+ランク探索者のほうがAランク探索者より情報も実力も兼ね備えてる、という現状は何とかしたほうが良いのだろうかね? 」
「せっかくダンジョンを踏破したのに何もないではそれこそ意味がないですからね。だから名誉ランクとしての権限としてプレゼントしておいていいんじゃないですかね。それこそ更に活躍すればA+ランクA++ランクと更に格上げする方法もあるんでしょうし、そのへんは何とでもなると思いますよ」
「今のところは考えなくていいってことか。しかし、その内不満は出てくるだろうから打開策を何か考えておく必要はあるってことだろうね」
「それこそ、今までのギルド税納付金額に応じてA+ランクを増設して、ダンジョン踏破してたらA+ランクにする、とかにすればいいんじゃないでしょうかね。そのほうが分かりやすくはなりますよ」
その場合、俺は確実にAランクになるんだろうな、という気はしないでもないが、その時が来たらそうするしかないということは確実なのであらかじめ釘を刺しておく必要はあるか。
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